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数の米国、攻める中国
AI特許6万件を解剖

 先んずればAIを制す――。2005年以降、世界の主要国で出願された人工知能(AI)関連の特許は6万件を超える。特に2010年から2014年にかけて出願数は7割も増えた。世界中の企業や大学、研究機関が開発を急ぎ、激しさを増す先陣争いをデータで追う。

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世界のAI特許、
2010年と比べ7割増

世界のAI関連特許の出願数

10カ国・地域(日本、米国、中国、韓国、インド、シンガポール、オーストラリア、ブラジル、イスラエル、欧州)の特許庁へのAI関連の特許出願総数。特許協力条約(PCT)に基づく国際出願、および各国の特許庁に出願された情報をもとに、英文公報を対象として集計。アスタミューゼ調べ

 主要10カ国・地域の特許庁に出されたAI関連の特許の出願数を調べた。集計したのは特許や論文のデータ分析やコンサルティングを手がけるアスタミューゼ(東京・中央)。直近で最も正確なデータが取れる2014年に出願されたAI関連の特許数の合計は8205件。これは10年の4792件より約7割増と大きな伸びだ。AIの開発は今、1950年代、1980年代に続く第3次ブームにあるといわれ、アスタミューゼの川口伸明テクノロジーインテリジェンス部部長は「15、16年の出願数は14年を上回り過去最高を更新するだろう」と話す。

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伸び率断トツは中国
日本はブームに乗れず?

5年単位で見たAI特許出願数の伸び

6カ国・地域の特許庁に出願されたAI関連の特許数。2005~09年の5年間と10~14年の5年間を比べた。アスタミューゼ調べ

 「AI特許出願の大幅な増加には中国の影がある」――。世界的な出願数の伸びの原因を経済産業省傘下の研究機関、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の新領域・融合ユニットユニット長の平井成興氏はこう指摘する。実際、各国の特許庁ベースで出願数の伸びを見ると、中国の特許庁に出願されたAI関連の特許の数は2010年から2014年の累計で8410件。2005年から2009年の累計2934件から約2.9倍に拡大した。今年1月17日、世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)に出席した中国の習近平国家主席は「AIなどのイノベーションで経済成長をけん引する」と主張。国を挙げてAIの研究開発に力を入れる。一方、米国は同時期に1万2147件から1万5317件へと増加。量では依然として大きく中国を上回った。日本の特許庁への出願は同時期2134件から2071件へと減少し、勢いがない。

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トップ3はIBM、マイクロソフト、グーグル

米・中・日のAI特許出願数(2006~16年の合計)

米・中・日のAI特許出願数(2006~16年の合計)

米・中・日のAI特許出願数(2006~16年の合計)

米・中・日のAI特許出願数
(2006~16年の合計)

米国、中国、日本の各特許庁に出願されたAI関連の特許数。特許庁がある国の企業や大学、研究機関などが対象。アスタミューゼ調べ

米・中・日のAI特許出願数トップ5(2006~16年の合計)

米・中・日のAI特許出願数トップ5(2006~16年の合計)

米・中・日のAI特許出願数トップ5(2006~16年の合計)

米・中・日のAI特許出願数トップ5
(2006~16年の合計)

米国、中国、日本の各特許庁で、出願数の多い出願人トップ5。面積が大きいほど出願数が多い。アスタミューゼ調べ

 各国の特許庁に出願した主体別にデータを見ると、米国ではビッグ3が出願数に大きく寄与している。2006年から2016年の間、米国の特許庁にAI関連の特許を最も出したのはIBMで、3049件。マイクロソフト(出願数1866)、グーグル(出願数979)と続いた。アスタミューゼの川口部長は「戦略的に細かな特許を多く出し、他社の出願を防いでいる面もある」と指摘する。

AI特許出願数の国別ランキング(2006~16年の合計)

米国、中国、日本の各特許庁で、特許庁がある国の企業や大学、研究機関などの出願数順に並べた。グループ会社を含む。一部の社名は略称で表記。米国は出願人の英語表記、中国は可能な限り日本語でわかる表記にした。アスタミューゼ調べ

米国
老舗から新興メディアまで

 出願数トップのIBMは、AIを使うコンピューター「ワトソン」を開発し、医療分野などでの活用を進めている。こうした老舗企業の出願が目立つ一方、フェイスブックやアドビなど、1980年代以降に設立された新興メディアやネット企業もAI関連で100件以上の特許を出願している。

中国
国営企業と大学が上位に

 北京大学や南京大学など、中国の特許庁にAI関連の特許を出願した主体の多くが大学や研究機関だった。NEDOの平井成興氏は「深層学習などいまホットな分野でも中国の躍進が著しい。『中国は量だけ』との批判はただしくない」と指摘する。

日本
出願数多いNTTとNEC

 日本で出願数が多いのはNTTやNECなどの老舗企業。米国企業に比べ日本企業の出願数は少ないが、NECの山田昭雄データサイエンス研究所所長は、「米国企業の強みは、検索エンジンやSNS(交流サイト)の運営会社が持つBtoC関連の情報量をベースにした人工知能。日本企業はBtoB領域の情報量では負けていない」と話す。

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文献データから見える
「米中タッグ」

米国
1中国12.7%
2英国5.1%
3ドイツ4.1%
日本1.8%
中国
1米国10.6%
2オーストラリア3.7%
3英国3.2%
日本1.5%
英国
1米国17.2%
2中国13.0%
3ドイツ9.7%
日本3.3%
ドイツ
1米国17.2%
2英国11.6%
3フランス8.1%
日本3.7%

論文の「共著相手国」ランキング

2011年から2015年にかけて執筆されたAI関連の論文に占める国際共著率の割合。対象は世界の主な論文誌に掲載されたAI関連の論文約9万3千件。例えば、米国は米国に本拠を持つ研究機関や個人などが執筆したAI関連の論文のうち、12.7%が中国に本拠地を持つ機関、個人などとの共著だった。NEDO調べ

 南シナ海を巡る対立や為替、ダンピングなど経済面の確執や対立が目立つ米中。ただ、AI関連の論文での「国際共著率」を見てみると米中の蜜月ぶりが鮮明だ。NEDOがみずほ情報総研に委託して2016年5月にまとめた調査では、2011年から2015年にかけて、米国のAI関連の論文のうち、中国との共著率は12.7%でトップ。2番目に多かった英国との共著率は5.1%と差が開く。中国のAI関連の論文をみても共著相手国は米国がトップだった。米国、中国ともに、AI論文の共著相手国として日本と組んだ割合は1%台と低い。

取材・制作
飯島圭太郎、板津直快、森園泰寛、安田翔平、清水正行

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