STORY

実習・バイトが主流?
外国人材100万人の素顔

日本で働く外国人が初めて100万人を超えた。
この5年間で6割近く増え、工場で、オフィスで、店頭で、
戦力として存在感を示し始めた。
一方、日本で働く外国人の急増は新たな課題も生んでいる。
光と影をデータで探った。
SECTION 1

「留学生バイト」急増
5年で2.3倍

 日本で働く外国人は108万3769人――。厚生労働省は1月、16年10月末時点の外国人雇用状況を発表した。5年前と比べると全体が1.6倍だったのに対し、留学生のアルバイトは同じ期間に2.3倍となり、伸びが著しい。

全体は1.6倍 
在留資格別に見ると…

(出所)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」より。2011年、16年とも10月末時点
専門的・技術的分野の在留資格とは
 日本で働くことを目的とする外国人に認める在留資格。分野ごとに定められた範囲で仕事ができる。グラフの数字は次の14の在留資格の合計。「教授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「高度専門職1号・2号」(職歴や年収などで一定の基準に達した高度外国人材)、「経営・管理」(会社社長など)、「法律・会計業務」「医療」「研究」「教育」「技術・人文知識・国際業務」(IT技術者、通訳、デザイナーなど)、「企業内転勤」(同一企業の日本支店に転勤する人など)、「興行」(俳優、ダンサーなど)、「技能」(外国料理の調理師など)。
身分に基づく在留資格とは
 グラフの数字は次の4つの在留資格の合計。「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」(日系3世など)。これらの在留資格は仕事の分野に制限がない。

「技能実習+留学生バイト」が
多数派

(出所)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」。2016年10月末時点
 日本で働く外国人のうち、就労目的の在留資格(専門的・技術的分野の在留資格)を持つ外国人は、16年10月末時点で約20万人。一方、就労が主目的ではない技能実習生と留学生アルバイトの合計は約42万人で、就労目的の在留資格を持つ外国人材の2倍の規模になる。技能実習は開発途上国などへの技術移転、留学生は学業が主目的だが、人手不足の職場では貴重な戦力として雇用されている。特に、日本に来る技能実習生と留学生が増えているのがベトナムだ。

EPISODE 1
訓練校で日本のルール学ぶ

 「くず入れ」「水飲み場」「消火器」――。教室には日本の標識がずらり。ここは、技能実習の候補生が日本語を学ぶベトナムの訓練校。2月から勉強を始めたクラスだ。全体では約100人が寮生活を送る。日本の技能実習で得る月給は、ベトナムの大卒初任給に比べ数倍になるといい、ベトナム人技能実習生の増加につながっている。
訓練学校の教室には、仕事に必要な様々な標識が張られている(ベトナム・ハノイ)

EPISODE 2
ベトナム人留学生、
介護施設で戦力に

 広島県福山市の介護施設では5人のベトナム人留学生が働く。ファム・ヴァン・ミンさん(24)は「仕事は楽しい。将来も日本の介護施設で働きたい」と話し、帰国後は技能実習生として再来日を目指すという。日本ではこうした介護施設や飲食業など、人手不足の現場で活躍する留学生アルバイトが増えている。

ベトナムから日本に留学し、介護施設でアルバイトとして働くファム・ヴァン・ミンさん(24)=中央と、ホティ・トゥ・ハインさん(34)=左(広島県福山市の「ゆうゆう神谷川」)

「宿泊・飲食サービス」は
56%が留学生バイト

(出所)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」。2016年10月末時点

「建設業」は67%が技能実習生

(出所)厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況」。2016年10月末時点
 統計データを探ると「技能実習生が多い業種」や「留学生バイトが多い業種」があることがわかる。建設業で働く外国人のうち技能実習生が67%を占め、宿泊・飲食サービス業では留学生アルバイトが56%を占める。一方、情報通信業では、この業種で働く外国人の77%が「専門的・技術的分野の在留資格」を持ち、実習生や留学生の比率が少ない。
SECTION 2

違法の技能実習が増加
年に3700件

 外国人技能実習生の増加に伴い、実習生を不当な待遇で働かせる事業所も増えている。厚生労働省の調査によると、外国人技能実習生が働く事業所のうち、2015年は3695事業所で労働基準法などの法令違反があった。外国人技能実習生の受け入れを拡大する事業所の中には、人手不足を背景に、安価な労働力として採用を増やす事業所も目立つ。

2013年→15年 
違反事例が急増

(出所)厚生労働省

「労働時間」違反は1000件超す

(出所)厚生労働省

事例1
月169時間の時間外労働

 最長で月169時間の違法な時間外労働をさせたうえ、深夜労働に対する割増賃金の支払いも不適切。業務に粉じん作業があるにもかかわらず、定められた健康診断を受けさせていなかった。

事例2
月2回を超える休日労働

 最低賃金法で定められた金額を下回る賃金を支払っていた上、労使の協定の回数(月2回)を超える休日労働をさせていた。同じ所在地にあるグループ会社でも同様の実態があった。

実習生、16年は
5000人以上が失踪

(出所)法務省
 法務省によると、16年の技能実習生の失踪者数は5058人。15年よりやや減少したものの、5年前と比べれば3倍以上の水準だ。国籍別では、中国1987人、ベトナム2025人、ミャンマー216人、インドネシア200人、ネパール109人の順。時間外労働などの不当な待遇、希望職種とのミスマッチ、生活習慣の違いがもとになる日常のトラブルなどが要因とみられる。
SECTION 3

高度人材はどこにいる?
茨城にいた

 日本政府は、単純労働に従事する外国人を「原則として受け入れない」という立場。技能実習は途上国への技術移転が主な目的だ。一方、専門的な知識や技術を持つ「高度人材」の受け入れには積極的で、15年に「高度専門職」と呼ぶ在留資格を新設した。高度専門職の在留資格は、学歴や職歴、研究実績などの項目ごとにポイントを設定し、一定の水準に達した外国人に認められ、永住許可などで優遇される。16年6月末時点で高度専門職の資格で日本に滞在しているのは2688人。日本で働く外国人総数の1%にも満たない。

高度専門職の外国人は今、
2688人

(出所)法務省「在留外国人統計」。2016年6月末時点
  • 高度専門職1号イ
    公的機関や企業で研究や研究指導をする専門職。在留期間は5年。
  • 高度専門職1号ロ
    公的機関や企業で自然科学や人文科学の知識・技術を使う専門職。在留期間は5年。
  • 高度専門職1号ハ
    公的機関や民間企業で事業の経営や管理に従事する専門職。在留期間は5年。
  • 高度専門職2号
    「1号」の在留資格で3年以上活動し、一定の基準に達した外国人に認められる。高度人材として働く限り在留期間は無期限。

国籍は中国トップ、
インドと米国が続く

1中国1756人
2インド144人
米国144人
4韓国86人
5台湾71人
6フランス50人
7英国42人
8ベトナム38人
9オーストラリア29人
10カナダ23人
11ドイツ17人
ロシア17人
13フィリピン15人
14インドネシア13人
バングラディシュ13人
16マレーシア12人
エジプト12人
18シンガポール11人
19パキスタン10人
タイ10人
(出所)法務省「在留外国人統計」。2016年6月末時点

意外に多い茨城 
都道府県ランキング

1東京1334人
2神奈川417人
3千葉156人
4埼玉155人
5大阪85人
6愛知78人
7茨城72人
8京都56人
9福岡47人
10沖縄37人
兵庫37人
(出所)法務省「在留外国人統計」。2016年6月末時点

EPISODE 3
ドイツから来日、
産総研でナノテクを研究

 在留外国人統計で「高度専門職」の在留資格を持つ人を都道府県別に調べてみた。東京や神奈川など大都市圏に続き、7位に入ったのは茨城県。さらに、茨城県にいる高度専門職72人のうち「7割がつくば市にいる」(茨城県庁)ことがわかった。取材に応じてくれたのは、同市にある産業技術総合研究所の研究員、マリウス・ビュークルさん(36)。専門は「ナノテクノロジー(超微細技術)の再生エネルギーへの応用」だ。
 ドイツ生まれで、工学系では同国最高峰のカールスルーエ大学を卒業した。博士号を取得した2012年に初来日。自らの研究分野で定評のあった産総研での人材募集を知り、同年末から研究員として働き始めた。高度専門職の在留資格を取得したのは3年後。ビュークル氏は最近、産総研で働くタイ人研究者と結婚した。「ドイツより映画館やスポーツ施設が豊富で、コンビニエンスストアも便利」と話し、つくば市に住み続ける予定だという。  
分子構造を描いたパソコン画面をじっとみつめるマリウス・ビュークルさん(茨城県つくば市)
SECTION 4

魅力ない?
世界の頭脳、日本素通り

 日本で働く外国人は年々増えているが、世界に目を向けると、優秀な人材の多くが日本を素通りしている。世界の高度人材が見た日本の魅力度は低く、各国の高等教育修了者が日本を目指す割合も低い。一方、日本の高学歴女性は海外移住を目指す傾向がある。

「高度人材」から見た
労働市場の魅力度
ランキング

順位国・地域スコア
(満点は10)
1スイス9.16
2米国8.95
3シンガポール8.58
4英国8.32
5UAE8.24
6香港8.08
7ルクセンブルグ7.90
8アイルランド7.53
9カタール7.52
10ニュージーランド7.48
24中国5.63
46韓国3.94
52日本3.56
(出所)IMD World Talent Report 2016
 スイスのビジネススクール、IMDの「World Talent Report 2016」によると、外国の高度人材が見たビジネス環境の魅力度ランキングで、日本は61カ国・地域の中で52位。欧米各国のほか、アジアの中でも中国(24位)や韓国(46位)を下回る。

高等教育修了者、
日本への流入は低水準

(出所)経済産業省「通商白書2016」
 経済産業省の「通商白書2016」では、主要国の高等教育修了程度の人材が、他の主要国にどれだけ流入しているかに注目している。人口比で見た場合、英語圏の国で流入が高いほか、ドイツやフランスといった非英語圏でも流入率が増えている。一方、日本は低水準にとどまり、高度人材が定着していない。

日本からOECD諸国への
移住、目立つ高学歴女性

(出所)OECD
 OECD(経済協力開発機構)によると、2014年に日本から他のOECD諸国へ移住したのは約3万4000人。他国に比べ海外移住率は低いものの、内訳をみると、海外移住者の6割以上が女性だった。また、高等教育修了者(大卒以上)に限った場合、女性の海外移住率(1.1%)が男性の移住率(0.6%)を上回った。

EPISODE 4
日本を飛び出しNYへ 
飲食アプリで起業

 木村仁美さん(37)は慶応大を卒業後、JPモルガン証券に入社。2010年に同社の駐在でニューヨークへ。在職中にコロンビア大で経営工学を学ぶ。その後、転職した銀行を辞職後、レストラン選びや予約サービスのビジネスを起業した。
 「日本は銀行に入行した後も『何年入社』『何大学卒業』というくくりがずっと続き、上下関係も年齢で決まりがち」と木村さんは話す。米国人と結婚し、今は一児の母。日本のことは大好きだ。だが、米国での生活を通じて、日本の窮屈さも感じるようになった。「コロンビア大に通っていた時は、仕事の都合で授業にいけないと伝えた場合、必修単位の内容を他の学科の似た授業に変更してくれた。テストの日も都合が悪ければ変更してくれるし、ほかの学生から文句も出ない。日本は平等にこだわりすぎているような気がする」。継続と変化に対する日米の意識の差も痛感した。「日本は一筋でいることが重要視される。離婚を『バツ1』と呼ぶのが典型。転職を決めた人を『やり通せない人間』と見なす感覚もある。米国は転学も転職も離婚ももう少し自由で、一度の間違った決断にいつまでも拘束されない」。

ニューヨークに渡り、現地で飲食店アプリ事業を立ち上げた木村仁美さん(写真は本人提供)
取材・制作
板津直快、川手伊織、大酒丈典、村田篤史、木寺もも子、上間孝司、久能弘嗣

朝刊1面連載(全5回) 外国人材と拓く

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