相続税バブルを追う

消費増税の反動をようやく抜け出しつつある住宅業界。その中でひときわ盛り上がっているのが、タワーマンションの建設ラッシュだ。きっかけは1月の相続増税。高層マンションや賃貸併用住宅の課税評価額が低い点に着目し、節税目的で買う人が増えているのだ。平成の相続バブルが起きつつあるのか――。

首都圏や関西圏など都市部で、「タワマン」の建設がさながらラッシュになっている。不動産経済研究所の予想によると、2015年以降、20階以上の超高層マンションの建設戸数は毎年2万戸前後に上る見通し。この5年間で10万戸をこえるとみている。全国、首都圏、近畿圏のタワマン建設・竣工予定戸数は下記の通りだ。

2015年以降も超高層マンションの竣工が続く

全国、首都圏、関西圏のグラフをボタンで切り替えられます

うち6~8割と建設が集中しそうなのが首都圏だ。目黒や品川、湾岸地域など都内のあちこちで超高層マンションの建設計画が持ち上がっている。近畿でも大阪市内で高層マンション建設の槌音が響く。

タワマン建設ラッシュの裏に、見逃せない動きがある。相続税の節税対策として使われるケースが増えている。課税ベースの算出には様々な特例措置がある。高層マンションは1戸あたりの土地が小さく、評価額が低くなりやすい。賃貸に回せば、課税資産の評価額は下がる。相続や贈与にかかる税金を少なくしたいという個人の行動が住宅需要をかさ上げしている可能性がある。

第一生命経済研究所の星野卓也エコノミストは「相続税バブル」の発生を懸念する。

貸家の需要はどうか。消費者物価指数(CPI)ベースでみた家賃は15年3月まで76カ月連続で前年同月を割り込んだ。賃料相場の下落基調に歯止めはかかっていない。

だが賃料は下落傾向

日本の総人口はすでに減り始めている。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、住宅需要を左右する世帯数も19年の5306万世帯をピークに減少に転じる。住宅の実需はいずれ縮小する。

世帯数も減少する見通し

注)2020年以降は予測 

住宅市場全体でみれば、気になる兆候はもう一つある。総務省によると全国の空き家は13年時点で820万戸で、住宅に占める空き家率は13.5%と過去最高を記録した。日本経済研究センターは28年の空き家率が16.8%に高まると予測する。都市部に建つタワマンが周辺の住宅需要を吸収した結果、郊外の空き家が増えるという事態も考えられる。

空き家の増加は止まらない

新築の住宅供給が増えること自体は悪い話ばかりではない。最新の設備を備え、耐震性にも優れた物件が増えれば、生活環境の改善や暮らしの安全につながる。駅周辺など利便性の高い地域にタワーマンションが建ち、多くの人が住むようになれば、人口減社会への対策となる「コンパクトシティー」づくりにつながるとの声もある。

対論:「節税」が呼ぶ住宅投資の功罪

活発なタワマン、賃貸併用住宅の建設ラッシュは実需の裏打ちのない相続バブルの一端なのか。小峰隆夫法政大大学院教授と、リクルートの宗健住まい研究所所長に聞いた。

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