世界の相続税事情は?
「増税ニッポン」と比較

ロイター

 相続税への関心が高まっている。今年1月の税制改正では最高税率が50%から55%に引き上げられ、非課税枠の基礎控除が4割縮小したことで課税対象も広がった。相続税は今年で誕生から110周年。その歴史を振り返りつつ、海外諸国と比較してみる。

相続税 ある国、ない国

 相続税がある国を「赤」、ない国を「青」で示した。新興国や北欧諸国には相続税がない国も目立つ。

日本は1905年に導入、海外では廃止の国も

 相続税は1905年(明治38年)4月、前年に始まった日露戦争の戦費調達を目的に導入された。当時の大蔵省は酒税や所得税、地租(固定資産税)を相次いで増税。それでも足りず、欧米にならって臨時で導入したのが相続税だったとされる。日露戦争後、ロシアから賠償金が支払われず、財政が逼迫した政府は相続税を存続させ、現在まで110年も続く恒久税制となった。

 一方、海外では相続税を廃止したり、そもそも存在しなかったりする国が少なくない。カナダとオーストラリアは1970年代に廃止。1992年にはニュージーランドが続き、高福祉高負担で知られるスウェーデンも2004年に相続税をなくした。アジアでもマレーシアやシンガポール、中国には相続税がない。

主要国の税率比較

相続税の課税のしくみは国によってさまざま。「最高税率」「最低税率」のボタンを押すと、各国の税率の違いがわかる。

最高税率、日本は55%に改正

 日本の相続税の転換点は第2次世界大戦後。GHQ(連合国軍総司令部)の下で出された「シャウプ勧告」により抜本的に見直された。財閥など一部の富裕層に富が集中するのを防ぐため、最高税率は1950年に90%に引き上げられ、遺産が長男に集中しないよう制度も改められた。

 その後、最高税率は75%→70%と段階的に引き下げられ、2003年の税制改正では50%になったが、今年1月の改正で55%に引き上げられた。

税率の刻みの比較

国名の左横のボタンで税率の段階の細かさがわかる。日本は相続による取得金額によって、税率が8段階に分かれている。米国はさらに多い12段階。英国は一律40%だった。

課税最低限の比較

課税最低限の金額も国によって異なる。米国は日本円にして6億円超の超富裕層だけが相続税の対象となっている。

注1)日本は法定相続人が1人、フランスは尊属及び子、ドイツは子の場合
注2)1ドル=120円、1ポンド=187円、1ユーロ=135円で計算

課税対象は亡くなった人の6%台

 2015年の改正では課税対象も広がった。非課税枠の基礎控除も従来の「5000万円+1000万円×法定相続人の数」から「3000万円+600万円×法定相続人の数」に4割縮小。財務省の試算では、亡くなった人全体に占める課税割合は4%台から6%台に上がる見込みだ。

 相続税の土地評価額の算定基準となる2015年分の路線価は、東京で前年比2.1%上昇するなど大都市圏を中心に上昇傾向にあり、課税対象はさらに増えそうだ。

配偶者の相続税免税

夫もしくは妻が亡くなった場合、相続税が免除される「配偶者控除」も国によって対応が異なる。

「相続税なし」を売りにする国も

 田辺国際税務事務所の田辺政行税理士は「一部の国には相続税が存在しないことを売りに海外の富裕層を自国に招き入れたいとの思惑がある」と指摘する。新興国には政治的な理由に加えて徴税制度がきちんと整備されておらず、個人の資産を把握しきれないため、導入していない国もあるという。

 「持つモノから取る」方向にかじを切った日本と、「優れた人材」を取り込むため税を軽くし成長を急ぐ諸外国。税を巡る国家間の攻防は厳しさを増している。

取材・制作
高岡 憲人、鎌田 健一郎
協力
PwC税理士法人

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