2011.3.11 牙をむいた海

宮城県荒浜海岸の朝方の静かな海

2011年3月11日、海は突如として牙をむいた。宮城県の沖、太平洋の海底で発生した巨大地震は東北や関東を強く揺らし、押し上げられた海水は津波となって沿岸の街や集落をのみ込んだ。自然災害として戦後最悪の被害をもたらした東日本大震災から10年。海底の地殻変動は今も続く。「地震国」日本は、いずれまた襲い来る災厄に備えなければならない。

2021.2.13
よみがえる
記憶

福島県桑折町、2月13日深夜の地震の影響で倒れた門
地震の影響で倒れた門(2021年2月14日、福島県桑折町)=共同

震災10年、再び大きな揺れ

2021年2月13日深夜、震度6強の揺れが福島県や宮城県を襲った。地鳴りが迫り、家ごと揺さぶられ、食器の割れる音が響く。住民の胸には10年前の恐怖がよみがえった。

今なお続く東日本大震災の余震

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緯度 000.0000

経度 000.0000

M

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合計

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気象庁の観測データに基づき作成

2月13日に起きた地震の震源は福島県沖。気象庁は東日本大震災の余震とみられると発表した。大震災の余震とみられる有感地震は1万4000件を超え、今なお続いている。

2011.3.11
巨大地震が
発生

東日本大震災の震源地を示す地図。北緯38度、東経142度、深さ24km、日時2011年3月11日14時46分18秒
気象庁気象研究所のデータをもとに作成した震源域の広さを示す地図。震源域とは、地震が発生した時の岩盤のズレ(断層)が生じた領域のこと

出典:気象庁気象研究所

  • 7
  • 6強
  • 6弱
  • 5強
  • 5弱
  • 4
  • 3
  • 2
  • 1
全国の震度を示した地図。宮城県栗原市で震度7、福島、栃木、茨城で震度6強、岩手、群馬、埼玉、千葉で震度6弱を観測。

スクロール

海底で岩盤が崩壊

2011年3月11日午後2時46分、宮城県牡鹿半島の東南東約130キロ、深さ24キロの海底でプレート境界の岩盤が崩壊した。崩壊は拡大し、震源域は南北に長さ約450キロ、東西の幅は約200キロに及んだ。

膨大なエネルギーが放出された

地震の規模はマグニチュード(M)9.0。震源域から放出されたエネルギーは阪神大震災の約1400倍に相当する。日本の観測史上最大の地震だった。

激しい揺れが列島を襲う

観測された最大震度は宮城県栗原市の震度7。福島、栃木、茨城で震度6強、岩手、群馬、埼玉、千葉で震度6弱を観測し、東京都心でも震度5強の強い揺れに襲われた。

そして
津波が襲来

岩手県宮古市の海岸を黒い津波が襲う様子を写した写真
岩手県宮古市提供

激しい揺れの後、海のかなたから壁のような大津波が迫ってきた。防潮堤を乗り越え、松林をなぎ倒し、民家や車を押し流す。高台や建物に逃れた人々は、街をのみ込む濁流に言葉を失った。

波打つ大洋、押し寄せる海水

東北大学災害科学国際研究所は、観測された地震の強さや津波の高さに基づいて津波の発生と広がりをシミュレーションし、CG(コンピューターグラフィックス)動画を作成した。地震によって海水が海溝に沿って持ち上げられ、日本列島に繰り返し押し寄せた状況が分かる。
(動画中の津波は、分かりやすいように高さを誇張して表現しているため、陸地の実際の標高とは対応していません)

大津波、海抜40メートル地点にも

津波の第1波は地震発生の2分後に岩手県釜石市の沖で観測され、約30分後には各地の海岸に大津波が押し寄せた。高さが10メートルを超えたところもあり、同県宮古市では海抜40メートルを超えて遡上した。押し波と引き波が繰り返し続き、気象庁が津波に関する警報・注意報をすべて解除したのは翌々日の13日午後6時前だった。

津波は太平洋を渡り、米西海岸や南米のチリなどでも観測された。

推定される津波の遡上高

  • 40m以上
  • 30~40m未満
  • 20~30m未満
  • 10~20m未満
  • 10m未満
3.11の津波の高さを示す地図。岩手県全域及び宮城県北部の海岸線に10m以上の津波が襲った。宮城県南部、福島県の海岸線でも海抜10メートル以上20メートル未満の津波が押し寄せた。岩手県宮古市では海抜40メートル以上を観測している。

東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ

日常は
跡形もなく

東日本大震災で被災した宮城県気仙沼市の様子を写した写真。瓦礫の中で行方不明者を捜す消防隊員。

建物は崩れ、車はひっくり返り、至る所にがれきが折り重なる。津波が引いた後には、破壊し尽くされ、変わり果てた街の光景が広がっていた。

当時の宮城県石巻市の様子を写した写真。津波で押し流された漁船が街中に横たわる。
岩手県大槌町。津波で流された観光船が建物の屋上に乗る
福島県新知町。津波で破壊された鉄道

海岸の街、爪痕深く

リアス式海岸の湾奥、平野の海沿いにある街や集落の多くが、津波によって壊滅的な被害を受けた。上空からの写真は津波の恐ろしい力を物語る。

南三陸町・志津川地区
宮城県)

震災前 2001/5

震災後 2011/4/17

震災前 2001/5

震災前の宮城県南三陸町・志津川地区の航空写真

震災後 2011/4/17

震災後の宮城県南三陸町・志津川地区の航空写真

宮城県南三陸町の市街や集落は大津波で壊滅的な被害を受けた。中心部の志津川地区にあった3階建ての防災対策庁舎も津波にのまれ、防災無線で住民に避難を呼びかけていた町職員らが犠牲になった

石巻市・日和大橋周辺
宮城県)

震災前 1999/11

震災後 2011/3/28

震災前 1999/11

震災前の宮城県石巻市・日和大橋周辺の航空写真

震災後 2011/3/28

震災後の宮城県石巻市・日和大橋周辺の航空写真

宮城県北東部の都市、石巻市では中心部だけでも2000人を超す犠牲者が出た。日和山公園に逃れた人々の眼下で津波は漁港や市街をのみ込んだ。

名取市・閖上地区
宮城県)

震災前 2001/9/24

震災後 2011/3/27

震災前 2001/9/24

震災前の宮城県名取市・閖上地区の航空写真

震災後 2011/3/27

震災後の宮城県名取市・閖上地区の航空写真

宮城県南部の平野に位置する名取市では内陸深くまで津波が遡上し、広範囲が浸水。海沿いに住宅が密集していた閖上地区で甚大な被害が出た。

仙台空港

震災前 1999/9

震災後 2011/3/27

震災前 1999/9

震災前の宮城県仙台空港の航空写真

震災後 2011/3/27

震災後の宮城県仙台空港の航空写真

海岸から約1キロメートルの位置にある仙台空港宮城県名取市)はほぼ全域が水につかり、約1700人がターミナルビル内で孤立した。

大槌町・中心市街
岩手県)

震災前 2010/3

震災後 2011/3/28

震災前 2010/3

震災前の岩手県大槌町・中心市街の航空写真

震災後 2011/3/28

震災後の岩手県大槌町・中心市街の航空写真

岩手県大槌町を襲った津波によって町役場は2階まで浸水。町長と職員39人が犠牲になり、町の行政機能が停止状態に陥った。

陸前高田市・中心市街
岩手県)

震災前 2002/8

震災後 2011/6/19

震災前 2002/8

震災前の岩手県陸前高田市・中心市街

震災後 2011/6/19

震災後の岩手県陸前高田市・中心市街

岩手県陸前高田市の犠牲者は1700人を超え、県内最大の被害となった。海岸の景勝地「高田松原」に生えていた約7万本の松はわずか1本を残してなぎ倒された。

写真:東北地域づくり協会提供

戦後最悪の自然災害に

死者・不明者数

単位:人

  • 2000~
  • 1000~1999
  • 100~999
  • 50~99
  • 1~49
  • 0
東日本大震災の死者・不明者数を市区町村ごとに示した地図。宮城県石巻市では2000人以上。宮城県東松島市・気仙沼市、福島県南相馬市、岩手県大槌町・釜石市・陸前高田市では1000人以上2000人未満の死者・不明者が出た。
全壊・半壊建物家屋数

単位:戸

  • 50000~
  • 10000~49999
  • 1000~9999
  • 100~999
  • 1~99
  • 0
東日本大震災の全壊・半壊建物家屋数を市区町村ごとに示した地図。宮城県仙台市では5万戸を超え、宮城県気仙沼市・石巻市・東松島市、福島県いわき市・郡山市では1万戸を超える建物家屋に被害が出た

警察庁によると、東日本大震災による死者は12都道県の1万5899人、行方不明者は6県の2527人(2020年12月10日時点)。住宅被害は北海道から関東まで広がり、12万1992戸が全壊、28万2920戸が半壊した。

津波に襲われる福島第一原発の様子を写した写真
東京電力提供

原発事故の衝撃、16万人が避難

東京電力福島第1原子力発電所は津波による浸水で電源喪失に陥った。核燃料の冷却が不能となり、炉心溶融(メルトダウン)が発生。翌12日には1号機で、14日には3号機で水素爆発も起こり、原子炉建屋の屋根が吹き飛んだ。事故によって放射性物質が大気中に放出され、16万人を超す住民が避難を余儀なくされた。

東日本大震災当時の首都圏、人でごった返したバスターミナルの写真。

首都機能停止、515万人が帰宅困難

東京電力管内では最大約405万戸が停電し、鉄道網も広い範囲でストップした。首都圏では内閣府の推計で約515万人に上る帰宅困難者が発生し、都心から郊外へ向かう幹線道路の歩道には何時間もかけて徒歩で帰宅する人が列を作った。ターミナル駅は行き場を失った人々でごった返した。

岩手県陸前高田市の避難所、ストーブを囲む人々の写真。

雪降る被災地、身を寄せ合う避難者

震災当日、東北の被災地では雪が降った。水道や電気などのライフラインが停止するなか、体育館や公民館に多くの人が身を寄せ、励まし合った。震災直後の避難者数は全国で推計約47万人。避難生活の疲労やストレスの中で命を落とし、震災関連死と認定された人も少なくない。

2021〜
地震列島
終わりなき
備え

被災地の巨大防潮堤の写真。

日本列島周辺では、地球の表面を覆うプレートが接し合い、動き続けている。列島はこれまで繰り返し震災に襲われてきたし、これからも地震・津波の発生に備え続ける必要がある。

全国各地で相次ぐ地震被害

2016年の熊本地震、18年の大阪府北部地震、北海道胆振東部地震など、国内では人的被害を伴う大きな地震がその後も相次いでいる。東日本大震災の震源域では今なお余震が続いている。

東日本大震災以降に
発生した主な地震


2011/04/07

東日本大震災の余震

M 7.2

震度 6強

被害

死者
4人

総務省消防庁

余震で再び断水し、給水所に並ぶ人たちの写真

2016/04/16

熊本地震

M 7.3

震度 7

被害

死者
273人
全壊・半壊
43386戸

総務省消防庁

地震で石垣が崩れた熊本城の写真。

2018/06/18

大阪府北部地震

M 6.1

震度 6弱

被害

死者
6人
全壊・半壊
504戸

総務省消防庁

線路を歩いてJR大阪駅に向かう人たちの写真。

2018/09/06

北海道胆振東部地震

M 6.7

震度 7

被害

死者
43人
全壊・半壊
2129戸

総務省消防庁

北海道厚真町の土砂災害現場の写真。

今後、想定される巨大地震は

政府は北海道沖の千島海溝や、関東沖から東北沖にかけての日本海溝、東海沖から九州沖にかけての南海トラフなどでの地震発生を想定する。巨大地震がひとたび起これば被害は大きく、自治体などに防災対策を促している。

想定される巨大地震の位置と今後30年以内に発生する確率を示した地図。根室沖ではマグニチュード7.8〜8.5の地震が80%、青森県東方沖〜岩手県沖北部ではマグニチュード7〜7.5の地震が90%以上、宮城県沖ではマグニチュード7〜7.5の地震が90%、茨城県沖ではマグニチュード7〜7.5の地震が80%、相模トラフ沿いではマグニチュード7の地震が70%、南海トラフではマグニチュード8〜9の地震が70〜80%の確率で発生。
注)政府の長期評価に基づく。
数字は地震の規模と今後30年以内の発生確率

南海トラフ地震、たまるひずみ

近い将来に南海トラフで発生する恐れがある地震は最大でマグニチュード(M)9級、津波の高さは最大30メートルを超すと想定されている。政府が19年5月に公表した最新の試算では、最悪のケースで死者23万1千人、建物や資産の直接被害額は171兆6千億円に上ると見込まれている。

想定される津波の高さ
  • 35m以上
  • 25~30m未満
  • 20~25m未満
  • 15~20m未満
  • 10~15m未満
  • 5~10m未満
  • 0~5m未満
南海トラフ地震発生時に想定される津波の高さを示した地図。関東から九州までの広い範囲で5メートル以上の津波が予想され、特に静岡県下田市・南伊豆市、三重県鳥羽市・志摩市、高知県須崎市・四万十町・宿毛市・土佐清水市・黒瀬町・大月町では海抜25メートルを超える津波が予想される。

出典:中央防災会議

遠い海の底に広がるプレート境界で、次の巨大地震を引き起こすひずみはたまり続けている。いずれまた海は牙をむき、大津波が海沿いの街や集落を襲う。未来の犠牲を防ぐために、我々は東日本大震災の教訓をつないでいかなければならない。