アベノミクス・東京五輪招致
安倍元首相の軌跡を振り返る
自民党の安倍晋三元首相が8日死去した。67歳だった。奈良市内で参院選の街頭演説中に銃で撃たれた。通算の首相在職日数は3188日と歴代最長を記録。アベノミクスや東京五輪招致など、安倍元首相の軌跡を振り返る。
1993年初当選、
2006年首相に就任
安倍元首相は1954年、後に外相となる父、晋太郎氏の次男として生まれた。衆院選に初当選したのは93年。2006年に党総裁選に初出馬し、第21代総裁に選出された。戦後生まれ初、52歳で第90代首相に上りつめた。07年7月の参院選で自民党は歴史的惨敗を喫し、与党が過半数割れに追い込まれると、同年9月に首相を辞任した。
第2次内閣以降の安倍元首相の連続在職日数は歴代最長だった。7年8カ月の軌跡を日経平均株価や内閣支持率の推移とともに振り返る。(肩書は当時)
安倍内閣支持率
- 支持
- 不支持
1回目
2回目
2012年12月
第2次安倍内閣が発足
安倍内閣支持率
2012年12月の衆院選で自民党は圧勝し、政権に返り咲いた。安倍首相にとっては約5年ぶりの再登板だった。
目玉は「アベノミクス」
大胆な金融政策、機動的な財政政策、投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」を打ち出した。
2013年3月
日銀総裁に黒田氏
日銀批判を掲げて衆院選に圧勝した首相が主導した人事で、デフレ脱却に向けた金融緩和に布石を打った。
2013年7月
参院選で与党が勝利、ねじれ解消
安倍内閣支持率
政権奪還後、初の大型国政選挙で「アベノミクス」をかかげて自民党が圧勝。衆参両院で与党が多数を占め「衆参ねじれ」は解消した。
2013年9月
2020年の東京五輪開催を決定
安倍内閣支持率
首相は2020年の五輪・パラリンピックの招致に立候補した。アルゼンチンでの国際オリンピック委員会(IOC)総会で開催が決まった。新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪は1年延長されることになった。
2013年12月
首相が靖国神社を参拝
安倍内閣支持率
首相は靖国神社を参拝した。安倍氏の首相としての参拝は第1次政権も含めて初めてだった。中国と韓国は反発し、関係は冷え込んだ。
2014年4月
消費税率8%に
安倍内閣支持率
消費税率を5%から8%に引き上げた。安倍氏はもともと消費増税に慎重だったが、8%への引き上げは野田内閣時代の2012年8月に民主、自民、公明の3党が合意したものだった。駆け込み需要の反動減は予想以上だった。
2014年5月
日朝がストックホルム合意。北朝鮮は拉致被害者の再調査を約束
安倍内閣支持率
首相は北朝鮮による拉致問題の解決をめざし、日朝関係の打開へ動いた。スウェーデンのストックホルムで開いた外務省の局長級協議で、北朝鮮は日本人拉致被害者らの再調査と特別調査委員会の設置を約束。しかしその後に北朝鮮は核実験や弾道ミサイル発射を繰り返し、日本は独自制裁を決め、日朝関係は冷え込んだ。
2014年7月
集団的自衛権の行使を認める憲法解釈を閣議決定
安倍内閣支持率
集団的自衛権を使えるようにするため、憲法解釈の変更を決めた。「専守防衛」の基本理念のもとで自衛隊の活動を制限してきた戦後の安全保障政策の転換点となった。
2014年11月
第2次政権以降、首相が初めて中国の習近平国家主席と会談
安倍内閣支持率
首相は北京で中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談した。本格的な日中首脳会談は2011年12月の野田佳彦首相と胡錦濤国家主席以来、約3年ぶり。日中関係は改善に向けて動き出していった。
消費増税は延期
10%への消費税率引き上げの1年半延期と衆院解散を表明。
2014年12月
衆院選で与党が勝利、第3次安倍内閣発足
安倍内閣支持率
首相は消費税率引き上げ延期の是非を問うとして衆院を突如解散した。「アベノミクス」継続の是非を最大の争点に掲げて圧勝した。
2015年8月
戦後70年の首相談話を閣議決定
安倍内閣支持率
戦後70年にあたり首相談話を出した。過去の首相談話でキーワードだった「植民地支配」「侵略」「反省」「おわび」の文言自体はすべて盛り込む一方、「謝罪外交」に区切りをつけたい意向をにじませた。
2015年9月
安全保障関連法が成立
安倍内閣支持率
安全保障法制の成立で、自衛隊の活動の幅を広げた。米軍の艦艇や航空機を守る任務もできるようになり、日米同盟の強化につなげた。
アベノミクスは第2ステージに
「新3本の矢」として「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を打ち出した。
2015年12月
慰安婦問題で日韓合意
安倍内閣支持率
日韓合意で、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決をうたった。しかし朴槿恵(パク・クネ)政権の後の文在寅(ムン・ジェイン)政権は合意の柱である財団を解散。戦時中、日本企業に動員された朝鮮半島出身の元徴用工を含めた賠償請求問題もあり、日韓関係は悪化していった。
2016年5月
主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を開催
安倍内閣支持率
安倍内閣支持率
伊勢志摩サミットで首相は議長を務めた。世界経済が最大のテーマで、減速阻止策を柱とした首脳宣言を採択した。
2016年5月
オバマ米大統領が広島訪問
安倍内閣支持率
安倍内閣支持率
オバマ米大統領は現職の米国大統領として初めて被爆地、広島を訪れた。演説で核廃絶への決意を訴えた。首相は同行し、日米の和解をアピールする歴史的な場面となった。
2016年6月
消費増税を再び延期
10%への消費税率引き上げの2年半延期を表明し、参院選で国民の信を問うとした。
2016年7月
参院選で与党が勝利
安倍内閣支持率
首相がめざす憲法改正を掲げる勢力で、非改選も含めて全議員の3分の2を超えた。憲法改正の国会発議ができる環境になった。
2016年12月
首相が米ハワイの真珠湾訪問
安倍内閣支持率
首相とオバマ米大統領は日米開戦の地となった米ハワイの真珠湾を訪問した。旧日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者を慰霊するアリゾナ記念館をともに訪れた。
2017年5月
首相が2020年に新憲法を施行する意向表明
安倍内閣支持率
憲法改正について「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と語った。9条を改正し自衛隊の存在を明記する改憲案を挙げた。だがその後、国会での改憲論議は進まず、宿願の改憲は実現できなかった。
2017年10月
衆院選で与党が勝利
安倍内閣支持率
首相は「国難突破」を目指して衆院を電撃的に解散した。自民党が公明党と合わせて全議席の3分の2を超える議席を維持した。
2018年6月
森友問題で財務省が文書改ざんの調査報告書
安倍内閣支持率
学校法人「森友学園」への国有地売却の問題が安倍政権をゆさぶった。財務省は決裁文書の改ざん問題を巡る調査報告書を公表し、当時の理財局長が文書の改ざんや破棄の「方向性を決定づけた」とした。野党は「首相への忖度(そんたく)があったのではないか」と追及した。
2018年9月
党総裁選で首相が石破元幹事長に勝って連続3選
安倍内閣支持率
総裁選で石破茂元幹事長を破り、3選を決めた。記者会見で「憲法改正にいよいよ挑戦し、平成の先の時代に向かって新しい国造りに挑む」と訴えた。
2018年10月
首相が約7年ぶり中国公式訪問
安倍内閣支持率
安倍内閣支持率
首相は「戦後日本外交の総決算」を掲げ、ロシアとの平和条約締結、北朝鮮による日本人拉致問題の解決、中国との本格的な関係改善を目指した。中国の習近平国家主席とは新たな時代の日中関係について「競争から協調へ」などの3原則を確認した。
2018年11月
日ロ首脳会談。日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉へ
安倍内閣支持率
ロシアとの関係強化に注力した。プーチン大統領との会談で、平和条約締結後に北方四島のうち歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約交渉を加速させることで合意した。
2019年5月
皇太子さまが新天皇に即位。「令和」に改元
安倍内閣支持率
新元号を「令和」と決めるのは首相が主導した。歴代続いてきた中国古典(漢籍)を出典とせず、日本の古典から採用した。
2019年6月
20カ国・地域(G20)首脳会議を大阪で開催
安倍内閣支持率
日米欧や新興国のリーダーが一堂に会する20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の日本開催は初めてだった。議長を務めた首相は「自由、公正、無差別な貿易体制を維持・発展できる共通点を見いだすことができた」と総括した。
2019年7月
参院選で与党が勝利
安倍内閣支持率
首相は2012年12月の衆院選から国政選挙で6連勝。ただ憲法改正に前向きな「改憲勢力」は非改選と合わせて3分の2を割り込んだ。
2019年10月
消費税率10%に、軽減税率導入
安倍内閣支持率
消費税率を8%から10%に引き上げた。在任中に2度、消費税率を上げた首相は安倍氏しかいない。
2019年10月
菅原経済産業相、河井法相が相次ぎ辞任
安倍内閣支持率
菅原一秀経済産業相は地元選挙区で秘書が有権者に香典を配った問題で辞任。河井克行法相は妻の選挙事務所での公職選挙法違反の疑いで辞めた。長期政権の緩みが背景にあったとの見方は多い。
2019年11月
通算在任日数が桂太郎を抜いて歴代最長に
安倍内閣支持率
通算在任日数が戦前の桂太郎を超えて憲政史上最長となった。長期政権が続いた背景は選挙に強いことで、自民党総裁の4選を可能にする案も自民党内で取り沙汰されるほど政権は安定していた。
2020年4月
新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言
安倍内閣支持率
新型コロナウイルスの感染抑止が最大の課題になった。緊急事態宣言を出し、外出自粛で景気にもブレーキがかかった。政府の取り組みへの不満が出て、安倍内閣の支持率は低下した。
2020年8月
慶応病院で検査
安倍内閣支持率
持病との闘いが続いていた。潰瘍性大腸炎の再発が8月上旬に確認された。新しい薬の投与により、24日の検診で効果が見られたが、同日中に辞任を決断した。
2020年8月
連続在任日数が佐藤栄作元首相のもつ最長記録を超えトップに
安倍内閣支持率
首相は官邸で記者会見し、辞任する意向を表明した。辞任表明直後の内閣支持率は55%で、政権末期としては異例の高さになった。「安倍1強」と呼ばれた政権は7年8カ月で幕を閉じる。
2020年8月
辞意を表明
安倍内閣支持率
首相は官邸で記者会見し、辞任する意向を表明した。辞任表明直後の内閣支持率は55%で、政権末期としては異例の高さになった。「安倍1強」と呼ばれた政権は7年8カ月で幕を閉じる。
2020年9月
安倍内閣総辞職
安倍内閣支持率
安倍内閣は9月16日に総辞職した。
歴代政権の経済指標の変化
在任日数 (8月28日時点) | 就業者数 | 日経平均株価 | 鉱工業生産 | 実質GDP | 経常利益 | |
---|---|---|---|---|---|---|
安倍晋三 (第2次以降) | 2803日 | 1.060倍 | 2.332倍 | 0.832倍 | 0.974倍 | 1.344倍 |
佐藤栄作 | 2798日 | 1.102倍 | 3.109倍 | 2.264倍 | 1.995倍 | 3.731倍 |
小泉純一郎 | 1980日 | 0.997倍 | 1.188倍 | 1.094倍 | 1.062倍 | 1.551倍 |
中曽根康弘 | 1806日 | 1.051倍 | 2.935倍 | 1.254倍 | 1.255倍 | 2.026倍 |
池田勇人 | 1575日 | 1.050倍 | 1.099倍 | 1.695倍 | 1.494倍 | 1.672倍 |
橋本龍太郎 | 932日 | 1.011倍 | 0.799倍 | 0.982倍 | 1.009倍 | 0.852倍 |
田中角栄 | 886日 | 1.010倍 | 1.035倍 | 1.025倍 | 1.063倍 | 0.732倍 |
鈴木善幸 | 864日 | 1.021倍 | 1.132倍 | 1.011倍 | 1.089倍 | 0.851倍 |
海部俊樹 | 818日 | 1.041倍 | 0.684倍 | 1.044倍 | 1.095倍 | 0.801倍 |
三木武夫 | 747日 | 1.020倍 | 1.221倍 | 1.119倍 | 1.077倍 | 2.136倍 |
福田赳夫 | 714日 | 1.025倍 | 1.262倍 | 1.108倍 | 1.110倍 | 1.568倍 |
宮沢喜一 | 644日 | 1.009倍 | 0.867倍 | 0.906倍 | 0.990倍 | 0.641倍 |
小渕恵三 | 616日 | 0.988倍 | 1.192倍 | 1.060倍 | 1.026倍 | 1.427倍 |
竹下登 | 576日 | 1.030倍 | 1.475倍 | 1.127倍 | 1.064倍 | 1.117倍 |
村山富市 | 561日 | 0.998倍 | 0.975倍 | 1.032倍 | 1.053倍 | 1.347倍 |
大平正芳 | 554日 | 1.019倍 | 1.136倍 | 1.091倍 | 1.050倍 | 1.353倍 |
野田佳彦 | 482日 | 0.996倍 | 1.129倍 | 0.952倍 | 1.002倍 | 1.067倍 |
菅直人 | 452日 | 1.001倍 | 0.889倍 | 1.003倍 | 1.014倍 | 0.939倍 |
森喜朗 | 387日 | 0.998倍 | 0.687倍 | 0.972倍 | 1.011倍 | 1.004倍 |
安倍晋三 (第1次) | 366日 | 1.000倍 | 1.019倍 | 1.027倍 | 1.017倍 | 0.993倍 |
福田康夫 | 365日 | 0.997倍 | 0.747倍 | 0.956倍 | 0.991倍 | 0.803倍 |
麻生太郎 | 358日 | 0.986倍 | 0.850倍 | 0.827倍 | 0.949倍 | 0.725倍 |
鳩山由紀夫 | 266日 | 0.997倍 | 0.950倍 | 1.091倍 | 1.036倍 | 1.441倍 |
細川護煕 | 263日 | 1.002倍 | 0.960倍 | 1.003倍 | 1.010倍 | 1.139倍 |
宇野宗佑 | 69日 | 1.002倍 | 1.043倍 | 0.997倍 | 1.015倍 | 1.167倍 |
羽田孜 | 64日 | 0.997倍 | 1.061倍 | 1.009倍 | 1.000倍 | 1.000倍 |
1960年以降の26政権で、日経平均株価や実質国内総生産(GDP)など5指標の変化を調べた。各政権が発足した月と退陣した月で各指標が何倍になったかを算出。数値が1を超えれば政権期間中に指標が改善し、1を割り込めば悪化したことを意味する。
第2次安倍政権発足後、辞意を表明した2020年8月28日までの指標をみると、日経平均は2.33倍、企業の経常利益は1.34倍になった。