共同

共同


7月20日に第167回芥川賞・直木賞が発表されました。今回は芥川賞の90年近い歴史で初めて、全ての候補作が女性作家の作品となりました。果たしてどんな小説なのか、気になるけれど何から読めばいいのか……そんな方はぜひ日経ビジュアルデータ「あなたへの一冊」をお試しください。質問に回答するとおすすめの作品が選び出されます。「データで知る芥川賞・直木賞」では、近年の受賞者の年齢にフォーカスしました。

芥川賞

「群像」1月号(単行本発売済み)

おいしいごはんが食べられますように

舞台は、とある会社の支店。可憐で無理がきかない「芦川さん」の仕事を肩代わりする後輩女性「押尾」、そして芦川さんに鬱屈した好意を持つ男性社員「二谷」。三者の働き方を切り口に、現代社会が抱える矛盾をあぶり出す

著者:高瀬 隼子

88年愛媛県生まれ。19年「犬のかたちをしているもの」ですばる文学賞を受賞しデビュー。芥川賞は2回目の候補

直木賞

文芸春秋

夜に星を放つ

人生におけるさまざまな別れをつづった短編集。信頼していた相手の裏切りや肉親との離死別、実らぬ恋などを5人の主人公を通じて丁寧に描く。いずれも星にまつわるエピソードを背景に持ち、物語に静謐(せいひつ)な余韻を与えた

著者:窪 美澄

65年東京都生まれ。11年『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞。『トリニティ』など著書多数。直木賞は3回目の候補

おすすめの作品が分かる!
あなたへの一冊

質問に答えていくと、「あなたへの一冊」が分かります。両賞の候補全10作を読み込んだ日経の文芸記者が、小説の内容・時代設定・登場人物の造形や細部のモチーフをもとに質問と選択肢をつくりました。一見心理ゲームのようですが実は作品にちなんでおり、「あなた」と「一冊」を結びつけます。

芥川賞

雑誌(同人雑誌を含む)に発表された、新進作家による純文学の中・短編作品のなかから選ばれる(日本文学振興会ウェブサイトより)

著者名の横の数字は選考会(2022年7月20日)時点の年齢

「群像」6月号(単行本発売済み)

家庭用安心坑夫

主人公の主婦・小波は、廃坑を使ったテーマパークにあるマネキン「ツトム」が父親だと言い聞かされて育った。夫とのかみ合わない生活を送る彼女の前に、突如ツトムが姿を現す。妄想と現実を織り交ぜて家庭に潜む不穏に迫る

作品のテイスト

著者

小砂川こさがわ チト

(32)

90年岩手県生まれ。22年「家庭用安心坑夫」で群像新人文学賞を受賞。デビュー作で芥川賞候補に

「文学界」6月号(単行本発売済み)

ギフテッド

歓楽街のそばで暮らす20代後半の「私」の部屋を、余命いくばくもない母親が訪れる。男性に値踏みされることを拒絶し続けた母と、ホステスとして働く娘。確執と互いへの愛情を看取(みと)りの日々のなかで丁寧に描いた

作品のテイスト

著者

鈴木すずき 涼美すずみ

(39)

83年東京都生まれ。神奈川県鎌倉市育ち。著書に『ニッポンのおじさん』『JJとその時代』など。芥川賞は初めての候補

「群像」1月号(単行本発売済み)

おいしいごはんが食べられますように

舞台は、とある会社の支店。可憐で無理がきかない「芦川さん」の仕事を肩代わりする後輩女性「押尾」、そして芦川さんに鬱屈した好意を持つ男性社員「二谷」。三者の働き方を切り口に、現代社会が抱える矛盾をあぶり出す

作品のテイスト

著者

高瀬たかせ 隼子じゅんこ

(34)

88年愛媛県生まれ。19年「犬のかたちをしているもの」ですばる文学賞を受賞しデビュー。芥川賞は2回目の候補

「文学界」5月号(単行本発売済み)

N/A

痩身の高校生、まどかが語り手。生理を止めたくて体型を保てば拒食症を心配され、女性とためしに付きあってみると、「LGBTの人」と認識される。配慮とカテゴライズが交錯する社会への違和感に鋭く切り込んだ

作品のテイスト

著者

年森としもり あきら

(27)

94年横浜市生まれ。22年「N/A」で文学界新人賞を受賞しデビュー。デビュー作で芥川賞候補に

「文芸」夏号(単行本発売済み)

あくてえ

憎まれ口ばかりたたく90歳の「ばばあ」、彼女に不思議なほど尽くす母親の「きいちゃん」、そして小説家志望の「あたし」。逼迫する3人の暮らしを生々しく活写し、切り捨てられない関係への愛憎を力強く記した

作品のテイスト

著者

山下やました 紘加ひろか

(28)

94年生まれ。東京都出身。15年「ドール」で文芸賞を受賞しデビュー。著書に『クロス』『エラー』など。芥川賞は初めての候補

直木賞

新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本(長編小説もしくは短編集)のなかから選ばれる(日本文学振興会ウェブサイトより)

著者名の横の数字は選考会(2022年7月20日)時点の年齢

小学館

絞め殺しの樹

舞台は昭和期、北海道の根室。下働きとして凄惨な幼少期を送ったミサエは長じて保健婦になり地域のために尽力するが、大きな悲劇に見舞われる。過酷な人生を生き抜いた女性の姿を、息子の視点を交差させて書き表した

作品のテイスト

著者

河﨑かわさき 秋子あきこ

(42)

79年北海道生まれ。大学卒業後ニュージーランドで綿羊飼育を学び、帰国後酪農を営む実家で羊飼いをしながら執筆開始。直木賞は初めての候補

文芸春秋

夜に星を放つ

人生におけるさまざまな別れをつづった短編集。信頼していた相手の裏切りや肉親との離死別、実らぬ恋などを5人の主人公を通じて丁寧に描く。いずれも星にまつわるエピソードを背景に持ち、物語に静謐(せいひつ)な余韻を与えた

作品のテイスト

著者

くぼ 美澄みすみ

(56)

65年東京都生まれ。11年『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞。『トリニティ』など著書多数。直木賞は3回目の候補

講談社

爆弾

無差別テロを巡る警察小説。小さな傷害事件の容疑者、スズキタゴサクの「予知」通り最初の爆発事件が勃発する。彼が出す奇妙なクイズに翻弄される刑事たち。取調室でのやりとりを通じて人間の心に潜む悪意や弱さ、そして正義に迫った

作品のテイスト

著者

勝浩かつひろ

(40)

81年青森県生まれ。著書に『スワン』『おれたちの歌をうたえ』など。直木賞は3回目の候補

中央公論新社

女人入眼(にょにんじゅげん)

源頼朝と北条政子の娘、大姫の入内(じゅだい)に材を取った歴史小説。鎌倉初期、幕府と朝廷の駆け引きの渦中で女性たちは自ら策を練り、権力を握らんとした。京の六条殿に仕える女房・周子(ちかこ)を語り手に女たちの野望と哀切を描いた

作品のテイスト

著者

永井ながい 紗耶子さやこ

(45)

77年生まれ。横浜市出身。『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』(新田次郎文学賞)など著書多数。直木賞は初めての候補

文芸春秋

スタッフロール

1980年代、ハリウッドの特殊造形師として活躍しながらその名をクレジットされることのなかったマチルダ。現代ロンドンのCGクリエーター・ヴィヴィアン。映画を創造するふたつの「科学」に着目し、奮闘する女性を活写した

作品のテイスト

著者

深緑ふかみどり 野分のわき

(38)

83年生まれ。神奈川県出身。著書に『戦場のコックたち』『ベルリンは晴れているか』など。直木賞は3回目の候補

データで知る芥川賞・直木賞
受賞時の年齢
いったい何歳?

芥川賞・直木賞の受賞者はいったい何歳で賞を射止めたのでしょうか。2010年上期から前回の21年下期(第166回)まで、受賞者の年代と男女比を調べてみました。

芥川賞、平均38.4歳
30代が圧倒的多数

芥川賞受賞者の世代別男女数(人)

  • 男性
  • 女性

直木賞、平均47.7歳
60代はみな男性

直木賞受賞者の世代別男女数(人)

  • 男性
  • 女性

芥川賞・直木賞の受賞者はいったい何歳で賞を射止めているのか。2010年上期から前回21年下期まで、近年の受賞者の年代とその男女比をひとつのグラフィックスにまとめた。
芥川賞は平均38.4歳、直木賞は47.7歳で受賞しており、10歳近い差がある。芥川賞は「新進作家」、直木賞は「新進・中堅作家」の作品を対象としていることを考えると納得の結果だ。
とはいえキャリアと年齢が必ずしも一致しないのが文学の面白いところ。芥川賞は60代、70代の受賞がひとりずついる。デビュー作で受賞した若竹千佐子(受賞時63)と、公にする予定のないまま小説を書き継いでいた黒田夏子(同75)、ともに女性で「異色の新人」だった。対して直木賞では、60代で受賞した5人がすべて男性。黒川博行(同65)、荻原浩(同60)らベテランが目立ち、満を持しての栄冠といえる。