第168回 候補作発表
あなたへの一冊 芥川賞・直木賞

共同

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1月19日に第168回芥川賞・直木賞が発表されました。候補作にはおのずと世相が表れ、時代を映す鏡といえます。果たしてどんな小説なのか、気になるけれど何から読めばいいのか……。そんな方はぜひ日経ビジュアルデータ「あなたへの一冊」をお試しあれ。質問に回答するとおすすめの作品が選び出されます。また、気になるキーワードからご自身で候補作を選び出す「直感で選ぶ」も用意しました。

芥川賞

「群像」7月号(単行本発売済み)

この世の喜びよ

ショッピングセンターの喪服売り場で働く「あなた」を主人公に、フードコートにいる少女とのささやかな交流や、親離れした娘たちとのできごとを記してゆく。端正な文章で日常生活のなかにあるかけがえのなさを見つめた。

著者:井戸川 射子

87年兵庫県生まれ。詩人としても活動。著書に『ここはとても速い川』(野間文芸新人賞)など。芥川賞は初めての候補。

芥川賞

「新潮」12月号(単行本発売済み)

荒地の家族

造園業のひとり親方として働く祐治は津波で仕事道具を失い、その2年後には病気で妻を亡くした。震災から10年以上を経た宮城県亘理町を舞台に、喪失感と諦念を抱えて生きる人の姿を海辺の情景と重ねてつづった。

著者:佐藤 厚志

82年仙台市生まれ。書店員として働きながら小説を執筆。著書に『象の皮膚』。芥川賞は初めての候補。

直木賞

集英社

地図と拳

舞台は満州(現中国東北部)の架空の都市。日本人密偵やロシア人神父、「孫悟空」を名乗る指導者まで、この地に呼び寄せられた人物の思惑が交錯し、謀略と殺戮(さつりく)が繰り返される。史実を織り交ぜた群像劇のなかで戦争の構造に迫った。

著者:小川 哲

86年生まれ。著書に『ゲームの王国』(山本周五郎賞)など。本作で山田風太郎賞を受賞。直木賞は2回目の候補。

直木賞

新潮社

しろがねの葉

戦国末期の石見銀山を舞台とした時代小説。少女・ウメは山師の喜兵衛に拾われ坑道で働き出す。やがて女としての生き方を強いられるウメの葛藤と、短命な銀掘(かねほり)の男たちの姿を、坑道の深い闇に重ねて表現する。

著者:千早 茜

79年生まれ。著書に『魚神(いおがみ)』(泉鏡花文学賞)、『男ともだち』など。直木賞は3回目の候補。

おすすめの作品が分かる!
あなたへの一冊

候補10作からまず1冊読むなら――。「あなたへの一冊」を選び出す2つの方法を用意しました。質問に答えていく「運命の3題」、画像で作品のキーワードを見る「直感で選ぶ」。あなたはどちらを試しますか。

芥川賞

雑誌(同人雑誌を含む)に発表された、新進作家による純文学の中・短編作品のなかから選ばれる(日本文学振興会ウェブサイトより)

著者名の横の数字は選考会(2023年1月19日)時点の年齢

「文芸」冬季号(単行本発売済み)

ジャクソンひとり

主人公は「アフリカ系のルーツを持ちゲイらしい」と職場で噂されているジャクソン。過激動画の当事者と決めつけられ、似た外見の男性たちと共謀して復讐(ふくしゅう)をはかる。人種やセクシュアリティーを理由にした差別を軽妙に告発し、抑圧にあらがう姿を描き出す。

作品のテイスト

今どき感=5,強烈なキャラ=5,読後の余韻=3,ドラマ性=4,疾走感=5

著者

安堂あんどう ホセ

(28)

94年東京都生まれ。22年「ジャクソンひとり」で文芸賞を受賞。デビュー作で芥川賞候補になった。

「群像」7月号(単行本発売済み)

この世の喜びよ

ショッピングセンターの喪服売り場で働く「あなた」を主人公に、フードコートにいる少女とのささやかな交流や、親離れした娘たちとのできごとを記してゆく。端正な文章で日常生活のなかにあるかけがえのなさを見つめた。

作品のテイスト

今どき感=3,強烈なキャラ=3,読後の余韻=5,ドラマ性=4,疾走感=3

著者

井戸川いどがわ 射子いこ

(35)

87年兵庫県生まれ。詩人としても活動。著書に『ここはとても速い川』(野間文芸新人賞)など。芥川賞は初めての候補。

「群像」11月号

開墾地

東京で日本文学を学ぶ大学院生・ラッセルは父が暮らす米国南部の生まれ故郷に帰省した。イラン出身の父が持つペルシャ語の世界、英語の優位性、自ら習得した日本語。3つの言語と向き合い、母語と外国語の隙間に生じる自由を探る。

作品のテイスト

今どき感=5,強烈なキャラ=4,読後の余韻=4,ドラマ性=3,疾走感=3

著者

グレゴリー・ケズナジャット

(39)

84年米国生まれ。法政大グローバル教養学部准教授。著書に『鴨川ランナー』。芥川賞は初めての候補。

「新潮」12月号(単行本発売済み)

荒地の家族

造園業のひとり親方として働く祐治は津波で仕事道具を失い、その2年後には病気で妻を亡くした。震災から10年以上を経た宮城県亘理町を舞台に、喪失感と諦念を抱えて生きる人の姿を海辺の情景と重ねてつづった。

作品のテイスト

今どき感=4,強烈なキャラ=4,読後の余韻=5,ドラマ性=4,疾走感=3

著者

佐藤さとう 厚志あつし

(40)

82年仙台市生まれ。書店員として働きながら小説を執筆。著書に『象の皮膚』。芥川賞は初めての候補。

「文学界」11月号(単行本発売済み)

グレイスレス

ポルノ女優の化粧師として働く「私」は、森の中の邸宅で祖母とふたりで暮らしている。猥雑(わいざつ)な撮影現場と浮世離れした生活のはざまに身を置く「私」の姿を通じて、倫理や規範を静かに見つめ直す。

作品のテイスト

今どき感=4,強烈なキャラ=3,読後の余韻=4,ドラマ性=5,疾走感=4

著者

鈴木すずき 涼美すずみ

(39)

83年東京都生まれ。神奈川県鎌倉市育ち。著書に『ニッポンのおじさん』『JJとその時代』など。芥川賞は2回目の候補。

直木賞

新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本(長編小説もしくは短編集)のなかから選ばれる(日本文学振興会ウェブサイトより)

著者名の横の数字は選考会(2023年1月19日)時点の年齢

文芸春秋

光のとこにいてね

異なる環境で育つふたりの女性が主人公。7歳で出会い、別れと再会を繰り返すなかで、互いがかけがえのない存在となってゆく。抑圧的な母親との衝突をはじめ人間関係の苦難を描きながら、友情がもたらす強さを打ち出した。

作品のテイスト

今どき感=3,強烈なキャラ=4,読後の余韻=5,ドラマ性=5,疾走感=3

著者

一穂いちほ ミチ

(45)

78年生まれ。大阪市出身。著書に『イエスかノーか半分か』『スモールワールズ』など。直木賞は2回目の候補。

集英社

地図と拳

舞台は満州(現中国東北部)の架空の都市。日本人密偵やロシア人神父、「孫悟空」を名乗る指導者まで、この地に呼び寄せられた人物の思惑が交錯し、謀略と殺戮(さつりく)が繰り返される。史実を織り交ぜた群像劇のなかで戦争の構造に迫った。

作品のテイスト

今どき感=3,強烈なキャラ=5,読後の余韻=4,ドラマ性=5,疾走感=4

著者

小川おがわ さとし

(36)

86年生まれ。著書に『ゲームの王国』(山本周五郎賞)など。本作で山田風太郎賞を受賞。直木賞は2回目の候補。

文芸春秋

クロコダイル・ティアーズ

老舗陶磁器店を営む夫婦の跡取り息子が殺害された。逮捕されたのは息子の妻の元交際相手。彼女に頼まれてやったと男が口走ったことから、家族の間に疑念が広がってゆく。人間関係のきしみをサスペンスとして描き出した。

作品のテイスト

今どき感=3,強烈なキャラ=5,読後の余韻=4,ドラマ性=4,疾走感=3

著者

雫井しずくい 脩介しゅうすけ

(54)

68年愛知県生まれ。『犯人に告ぐ』『ビター・ブラッド』など著書多数。直木賞は初めての候補。

新潮社

しろがねの葉

戦国末期の石見銀山を舞台とした時代小説。少女・ウメは山師の喜兵衛に拾われ坑道で働き出す。やがて女としての生き方を強いられるウメの葛藤と、短命な銀掘(かねほり)の男たちの姿を、坑道の深い闇に重ねて表現する。

作品のテイスト

今どき感=4,強烈なキャラ=4,読後の余韻=4,ドラマ性=4,疾走感=5

著者

千早ちはや あかね

(43)

79年生まれ。著書に『魚神(いおがみ)』(泉鏡花文学賞)、『男ともだち』など。直木賞は3回目の候補。

講談社

汝、星のごとく

高校生のときに瀬戸内の島で出会った男女の恋愛小説。ふたりが過ごした15年の月日を追うなかで、女性の自立やいびつな親子関係といった人生の課題が浮き彫りとなってゆく。自分の生き方を貫く困難と希望を清廉に表現した。

作品のテイスト

今どき感=4,強烈なキャラ=3,読後の余韻=5,ドラマ性=5,疾走感=3

著者

凪良なぎら ゆう

(49)

滋賀県生まれ。著書に『美しい彼』『滅びの前のシャングリラ』など。20年『流浪の月』で本屋大賞。直木賞は初めての候補。