共同

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1月19日に第166回芥川賞・直木賞選考会が行われ、受賞作3作が決まりました。候補作にはおのずと世相が表れ、時代を映す鏡といえます。果たしてどんな小説なのか、気になるけれど何から読めばいいのか……そんな方はぜひ日経ビジュアルデータ「あなたへの一冊」をお試しあれ。質問に回答するとおすすめの作品が選び出されます。「データで知る芥川賞・直木賞」では、受賞者の男女比をテーマに考察しました

芥川賞

群像8月号
(単行本は1月26日発売)
真鍋淑郎

ブラックボックス

自転車のメッセンジャーとして働くサクマは仕事を転々としてきた。体一つで稼げてしがらみのない「今が一番いい」が、衝動的な性格が災いしある事件を起こしてしまう。若者が抱く先の見えない不安や焦燥をリアルに写し取った

著者:砂川 文次

90年大阪府生まれ。作品に「小隊」「戦場のレビヤタン」など。芥川賞は3回目の候補で受賞が決まった

直木賞

集英社

塞王の楯

時は戦国、「最強の楯」となる石垣を築く穴太(あのう)衆の匡介は、鉄砲作りの国友衆を率いる彦九郎と、大津城の攻防で相まみえる。職人集団の激闘を活写し、乱世を生き抜き、泰平をもたらすものは何かに迫った

著者:今村 翔吾

84年京都府生まれ。「羽州ぼろ鳶組」シリーズで吉川英治文庫賞。直木賞は3回目の候補で受賞が決まった

直木賞

KADOKAWA

黒牢城

織田信長にそむいた荒木村重による籠城戦「有岡城の戦い」に材を取る歴史ミステリー。城内で起きる奇異な事件の真相を、地下牢(ろう)に幽閉された黒田官兵衛が見抜いていく。史実と絡めつつ緊密な文章で戦国大名の機微を描いた

著者:米澤 穂信

78年岐阜県生まれ。21年『黒牢城』で山田風太郎賞受賞。著書に『満願』など。直木賞は3回目の候補で受賞が決まった

おすすめの作品がわかる!
あなたへの一冊

質問に答えていくと、「あなたへの一冊」が分かります。両賞の候補全10作を読み込んだ日経の文芸記者が、小説の内容・時代設定・登場人物の造形や細部のモチーフをもとに質問と選択肢をつくりました。一見心理ゲームのようですが実は作品にちなんでおり、「あなた」と「一冊」を結びつけます

芥川賞

雑誌(同人雑誌を含む)に発表された、新進作家による純文学の中・短編作品のなかから選ばれる(日本文学振興会ウェブサイトより)

著者名の横の数字は選考会(2022年1月19日)時点の年齢

すばる11月号(単行本は1月19日発売)

我が友、スミス

筋トレに励む20代の女性が主人公。ボディ・ビル大会に向けて鍛錬するなかで、勝つためには「女性らしい美しさ」も重要だと知れてくる。トレーニングの緻密な描写に独白を織り込み、世の「決まり事」をユーモアたっぷりにあぶり出す

著者

石田いしだ 夏穂かほ

(30)

91年埼玉県生まれ。21年「我が友、スミス」ですばる文学賞佳作。デビュー作で芥川賞の候補に

文学界12月号(単行本は1月17日発売)

Schoolgirl

14歳の娘との関係に悩む母親が語り手。環境保護意識が高い娘は母を侮蔑し、YouTubeでの動画配信に夢中だ。母の語りと娘の動画を接続させ、ふたりの関係が太宰治の「女生徒」を媒介に変化するまでを追った

著者

九段くだん 理江りえ

(31)

90年埼玉県生まれ。21年「悪い音楽」で文学界新人賞を受賞。芥川賞は初めての候補

群像12月号(単行本は1月14日発売)

オン・ザ・プラネット

4人の若者が映画を撮るために車で鳥取砂丘へ向かう、その道中を描くロードノベル。車内でのやりとりに映画のシーンを差し挟む凝った構成のなかで、生と死、世界の終わりといった話題を繰り広げ、虚実を巧みに交錯させた

著者

島口しまぐち 大樹だいき

(23)

98年埼玉県生まれ。21年「鳥がぼくらは祈り、」で群像新人文学賞。芥川賞は初めての候補

群像8月号(単行本は1月26日発売)

ブラックボックス

自転車のメッセンジャーとして働くサクマは仕事を転々としてきた。体一つで稼げてしがらみのない「今が一番いい」が、衝動的な性格が災いしある事件を起こしてしまう。若者が抱く先の見えない不安や焦燥をリアルに写し取った

著者

砂川すなかわ 文次ぶんじ

(31)

90年大阪府生まれ。作品に「小隊」「戦場のレビヤタン」など。芥川賞は3回目の候補で受賞が決まった

新潮10月号(単行本は2021年12月22日発売)

皆のあらばしり

主人公は歴史研究部に所属する高校生の「ぼく」。栃木市の皆川城址で関西弁を話す中年男性と出会い、幻の古文書の調査に乗り出した。怪しげだが博識な男と「ぼく」の軽妙な会話文から、歴史を探究する面白さを描き出す

著者

乗代のりしろ 雄介ゆうすけ

(35)

86年北海道生まれ。21年『旅する練習』で三島由紀夫賞。芥川賞は3度目の候補

直木賞

新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本(長編小説もしくは短編集)のなかから選ばれる(日本文学振興会ウェブサイトより)

著者名の横の数字は選考会(2022年1月19日)時点の年齢

早川書房

同志少女よ、敵を撃て

第2次世界大戦の独ソ戦を舞台にした群像劇。少女セラフィマはドイツ軍の急襲で故郷と家族を失い、ソ連軍の女性狙撃手部隊の一員として前線に身を投じる。実際の歴史を背景に、極限状態での絆や衝突を臨場感あふれる筆致で描いた

著者

逢坂あいさか 冬馬とうま

(36)

85年埼玉県生まれ。21年、本作でアガサ・クリスティー賞を受賞。デビュー作で直木賞候補に

文芸春秋

新しい星

大学時代の合気道部同期4人が交互に語り手となる連作短編集。8つの物語を通して、彼ら彼女らの30代から40代までを描く。病や別離、職場での理不尽など人生における困難を、静かに続く友情の姿とともに丁寧に記した

著者

彩瀬あやせ まる

(35)

86年千葉県生まれ。『くちなし』『森があふれる』など著書多数。直木賞は2回目の候補

集英社

塞王の楯

時は戦国、「最強の楯」となる石垣を築く穴太(あのう)衆の匡介は、鉄砲作りの国友衆を率いる彦九郎と、大津城の攻防で相まみえる。職人集団の激闘を活写し、乱世を生き抜き、泰平をもたらすものは何かに迫った

著者

今村いまむら 翔吾しょうご

(37)

84年京都府生まれ。「羽州ぼろ鳶組」シリーズで吉川英治文庫賞。直木賞は3回目の候補で受賞が決まった

文芸春秋

ミカエルの鼓動

医療現場を舞台にしたミステリー。手術支援ロボ「ミカエル」の扱いにたけた心臓外科医の西條と、ロボットを使わない手術で成果を上げる真木。2人のつばぜり合いを軸に、ミカエルに秘められた謎へと迫り医療のあり方を問う

著者

柚月ゆづき 裕子ゆうこ

(53)

68年岩手県生まれ。『慈雨』『盤上の向日葵』『暴虎の牙』など著書多数。直木賞は2回目の候補

KADOKAWA

黒牢城

織田信長にそむいた荒木村重による籠城戦「有岡城の戦い」に材を取る歴史ミステリー。城内で起きる奇異な事件の真相を、地下牢(ろう)に幽閉された黒田官兵衛が見抜いていく。史実と絡めつつ緊密な文章で戦国大名の機微を描いた

著者

米澤よねざわ 穂信ほのぶ

(43)

78年岐阜県生まれ。21年『黒牢城』で山田風太郎賞受賞。著書に『満願』など。直木賞は3回目の候補で受賞が決まった

データで知る芥川賞・直木賞
ジェンダー
バランスでみる

かつて男性中心だった文壇。近年では表現の現場におけるジェンダーバランスへの意識が高まっています。芥川賞・直木賞の受賞者はどのように推移しているのでしょうか。戦前の第1回(1935年上半期)から、10年ごとの男女比を調べてみました(第161~165回は直近の5回、2年半)

芥川賞、1970年代までは「男の世界」

芥川賞受賞者の男女比率(%)

  • 男性
  • 女性

グラフからは、戦前の第1回から高度経済成長期にかけての文壇が圧倒的に「男の世界」だったことが見て取れる。男女比率が拮抗するようになったのは1979~88年。高樹のぶ子、村田喜代子といった今も第一線で活躍する女性作家が受賞した時期だ。男女雇用機会均等法施行(86年)など、女性の社会進出が進んだ時代とも重なる。
当時19歳の綿矢りさと20歳の金原ひとみのダブル受賞が注目されたのは第130回(2003年下半期)だった。女性作家の躍進を印象づけたが、データを見ると平成の30年に受賞した作家は男性が過半を占めていた。

直木賞、2019年上半期は候補全員が女性

直木賞受賞者の男女比率(%)

  • 男性
  • 女性

男性が常に5割以上だった。それでも女性の比率が伸び始めたのは芥川賞と同じく1979~88年だ。直近の5回はちょうど半々で、第161回の2019年上半期には史上初めて候補者全員を女性が占めた。当時の報道を振り返ると、選考委員の桐野夏生は「女性作家の実力がそれだけ高かった。この状況が珍しいと思われないようになってほしい」と話していた。ちなみに直木賞の選考委員は19年下半期から女性が過半数を超え、現在は9人中6人が女性作家だ。「評価する側」の男性偏重がジェンダーバランスにおいて問題視されるなか、先駆的な事例といえそうだ。