急増するタワマン住民 都市防災の死角に
都市圏を中心に建設ラッシュが続くタワーマンション(タワマン)。一般的に地震の揺れに強く倒壊しにくいが、地震後にライフラインが途絶する中で在宅避難をする場合にはその高さが大きな壁となりそうだ。物資の補給やごみや排せつ物の処理は困難で、ライフラインの復旧を待つ間は〝難民〟化する恐れがある。都市災害の死角をビジュアルで解説する。
1
タワマン住民
天井知らず
この10年でタワマン人口
どれくらい増加?
東京23区の増加率
金沢市の人口に
匹敵する規模に
※タワマンは国勢調査から抽出した階数15階以上の建物で一般世帯が入居している住宅と定義。1~14階に入居する一般世帯も住民に含める。企業の単身寮や寄宿舎は含まない。
全国の増加率
群馬県の人口に
匹敵する規模に
タワマンラッシュに火をつけたのは1997年の建築基準法の改正。容積率(敷地面積に対する延べ床面積の割合である)を巡る規制が大幅に緩和されたり、高層建築物によって日陰ができることを防止する規制がタワマンには適用除外になったりした。規制緩和の流れを受けた建設は今も続く。
19年以降も入居続々
不動産経済研究所(東京・新宿)によると、2019年以降もタワマンの建設計画は目白押しで入居者は増える見込み。
2
タワマンは
揺れに強い
タワマンの免震構造
建築基準法では震度6強から7で建物が倒壊しない水準の耐震性が求められている。高さ60メートルを超える高層マンションを建てるには、さらに地震時の揺れ方を検証するなどして国土交通大臣の認定を受ける必要があり、他の建物よりも地震に強いとされる。耐震や免震、揺れをエネルギーに転換して吸収する制震の機能を備えている物件も多い。
地震が発生しても...
タワマンだったら
在宅避難ができる
建物自体の損傷の恐れが少ないタワマンでは、地震そのものによる被害は受けにくいとされる。
3
大規模地震で
"難民"に
電気も水もない暮らし
東京都が想定する首都直下型地震では
(東京湾岸北部地震、マグニチュード7.3、最大震度7)
被災地で
孤立の恐れ
「居住の継続が出来る状況であれば、在宅避難をしましょう」(東京都)、「自宅に被害がなければ自宅で生活を続ける『在宅避難』が原則」(同港区)とする自治体の考え方からすれば、地震に強いとされるタワマン住民はまずは在宅避難を考えることになる。東京都品川区は高層マンション防災対策の手引きで「ライフライン停止で高層階の住民が難民に」と警鐘を鳴らす。
もっともライフラインが途絶した際、「家が倒壊していないからといってその住民を避難所が受け入れないことはない」(東京都)。ただ避難所ではプライバシーの確保が難しく、健康を損なうリスクもある環境での生活を強いられることから都などは在宅避難のできる備えを呼びかけている。
在宅避難の住民、
タワマンの高さ足かせに
エレベーターが止まれば階段の上り下りは住民にとって多大な負担となる。
エレベーターは、
電源復旧しても動かせない?
全面復旧まで
4日以上かかる可能性
法律の義務付けはないが、電気が復旧してもエレベーターの再稼働にはエレベーター保守会社による目視での安全確認や場合によっては修理が必要に。エレベーターの復旧の順番は日本エレベーター協会が優先順位を設けている。最優先は閉じ込められた人の救出、ついで病院、市役所など公共施設の順番になる。その結果、タワマンエレベーターの再稼働には時間がかかる恐れがある。
4
行き場失う
ごみ、し尿
高層階でごみ出しは困難に
23区タワマン
1日のごみの量は?
10トントラック
約42台分
1日に1人が出す
ごみの量は920グラム
エレベーターが止まったままだと、ごみの排出にも階段の上り下りが必要になり部屋にたまることも。
トイレの水が流せない
23区タワマン
1日のし尿の量は?
2ℓペットボトル
約39万本分
1人1日あたり
1.7リットル排出
浴槽などにためた水も排水に使えない。タワマンの場合、排水管に水を流すことが被害の拡大につながる恐れ。東日本大震災では上層階の住民が流した汚水が下層階で逆流、あふれ出す被害が多発した。
5
備えあれば
憂いなし
船から燃料 自家発電に
17棟1万1630世帯分
1週間分の電力を
まかなえる
(1日8時間利用)
東京湾沿岸部のマンション17棟の管理組合でつくる一般社団法人「湾岸防災ネットワーク」は大規模地震発生時、東京湾に停泊する燃料供給用タンカーから燃料を一括購入できる協定を結んでいる。緊急時に融通してもらうことで自家発電の燃料として活用、マンション設備の早期復旧につなげる。
防災力高めれば
住宅ローン金利の優遇も
大阪市や兵庫県西宮市では...
防災強化マンションに
認定されると
住宅ローン金利の引き下げなど
優遇措置が受けられる
11階以上の共用部に食料や飲料水を備蓄する防災倉庫を設置したり、高層階の住民向けに低層階で避難生活ができるスペースを設けたりすれば、大阪市や兵庫県西宮市などは「防災力強化マンション」と認定。銀行の住宅ローン金利の引き下げや自治体の広報誌でPRなどのメリットを受けられる。
SUMMARY
災害時、タワマンは
一長一短がある
タワマン住民自ら
対策に乗り出すことが大切
タワマンは地震の揺れには強いものの、在宅避難となれば住民が孤立してしまう。避難所と比べ行政からの支援も届きにくくなるなか、マンション管理組合などが中心となり住民自ら対策に乗り出すことがカギを握る。
23区外の都市圏でも
タワマン住民が急増中
国交省によると、最大震度6弱だった大阪府北部地震では、府内のエレベーター約6万7千台の55.8%が運転を休止し、うち95%の復旧に2日かかった。協会によると、東京都内の台数は14万6千台。同様の被害の場合には単純計算で約8万1千台が動かなくなり、全面復旧に4日以上かかることになる。
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