山県100メートル「9秒997」 あと80センチの壁
- 山県亮太
- 蘇炳添(中国)
アジア最速を決める陸上男子100メートル決勝。8月26日、山県亮太(セイコー)は3位に入り、銅メダルを獲得した。着差判定のために示された記録は9秒997だったが、公式記録では1千分の1秒が切り上がり、自己記録に並ぶ10秒00となった。ほんのわずかだけ踏み入れた9秒台。五輪のファイナリストへの道を着実に歩んでいる。
低く、鋭く。山県の速さを支える源はスタートにある。足を直線的に運び、つま先がトラックを擦るように飛び出す。体が浮いてしまうと地面に力をうまく伝えられないため、序盤の30メートルは頭を下げて加速していくイメージ。例えて言うなら「数メートル先のゴミを拾いに行くような感覚」だ。4コースの山県はスタート直後に、9秒92で優勝した蘇炳添(中国)の存在を感じ、「結構(先に)行かれた」と思ったが、反応は0秒01速かった。
昨秋の全日本実業団対抗で10秒00を出したとき、中盤でスピードに乗る感覚を覚えた。今季国内で日本人に負けなしだったのも、ここでの強さがあったから。2次加速をどこまで維持できるかはタイムにも大きく関わる。決勝では蘇炳添にリードを許して「一方的なレースになるかも」と覚悟したが、思った以上に並走し、離されなかった。軸がぶれない走りを追求した成果を大舞台で表現できたことは「自信につながる」。
最後はライバルの背中を見る形でフィニッシュした。0秒08差は距離に換算すると約80センチ。「9秒92の世界はそんなに遠くない」が、そのわずかを縮めるのが難しい。2016年リオデジャネイロ五輪での決勝進出ラインは10秒01。東京五輪での決勝進出を目標に掲げるスプリンターは「もっと地力をつけないと。多少調子が悪くても10秒0台でまとめられる力をつけないといけない」。過去、世界選手権で決勝進出を経験しているアジア王者との距離を肌で感じ、気持ち新たにしていた。
- 取材・制作
- 渡辺岳史、鎌田健一郎、清水明、久能弘嗣、伊藤岳
- 写真
- 石井理恵