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国土地理院と静岡県の提供画像より作成

国土地理院と静岡県の提供画像より作成

3Dで見る 熱海土石流の爪痕
全国に潜むリスク

日本経済新聞は、7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流の被災現場の立体モデルを、国土地理院が公表した航空写真などのデータを基に作成した。山肌をえぐり、市街を貫いて海にまで至った「山津波」の爪痕がくっきりと浮かび上がった。

以下のブラウザの最新版では3Dモデルをご覧いただけます。

土石流の起点、造成地が崩落

標高約400メートル、土石流の最上部にあった階段状の造成地はごっそり崩れ落ち、ほぼ消失した。露出した地盤の表面は、元の土壌とみられる茶色い部分と、他から運び込まれた盛り土とみられる黒い部分に分かれている。崩れ残った箇所があり、今後も土石流が発生する恐れがある。

5.6万立方メートル、砂防ダム越える

山中の沢には砂防ダムがあり、土石流発生後、上流側に約7500立方メートルの土砂がたまっていた。一定の効果はあったとみられるが、崩れた土砂の総量は約5万6000立方メートルに上るとされ、下流の被害を食い止めることはできなかった。

黒い奔流、市街を襲う

土石流は山中の谷に沿って1キロメートル下り、勢いを保ったまま傾斜地の市街に襲いかかった。高さ数メートルの黒い奔流が住宅を押し流し、バラバラに破壊してのみ込んだ。土石流は複数回押し寄せたとみられ、分厚い泥の帯の中に押しつぶされ、傾いた建物が残された。

新幹線の線路に迫る

土石流は東海道新幹線、東海道本線の高架下をくぐり、海岸側に流れ出た。住宅の残骸などと共に下ってきた土砂は線路近くまで迫ったが、当時、新幹線は雨の影響で運転を見合わせており、線路への土砂の流入もなかった。

泥流、道路覆い海へ

泥流は海岸近くの道路を経て、海に流れ込んだ。国道135号線では路線バスが泥につかってかたむき、道路脇の建物に取り残されていた住民が救出された。伊豆山港周辺の海は褐色に濁り、一部の犠牲者は海で発見された。

破壊された斜面の街

大規模な土石流が発生した現場(3日)=共同
土石流の現場で捜索活動を見守る男性(5日)=共同
現場で捜索活動に当たる警察官ら(4日)=共同
伊豆山港付近で捜索する海上保安官(4日)=第3管区海上保安本部提供・共同

東海や関東で梅雨前線の停滞に伴う長雨が続いていた7月3日午前10時半ごろ、静岡県熱海市伊豆山地区の2級河川、逢初川上流を起点に土石流が発生した。

水と混じり合った土砂は山中の谷を下って市街を襲い、住宅や車をのみ込んで流れ落ちた。泥土は海岸近くの道路を覆い、海にまで流れ込んだ。

土石流の全長は約2キロメートル。熱海市によると、幅は最大で約120メートルに達し、土砂に覆われた面積は約12万平方メートルに及んだ。

「避難指示」は災害発生後

降水量は72時間で400ミリ超
気象庁のデータを基に作成

静岡県の南の海上に停滞した梅雨前線の影響で、同県では6月30日から断続的に雨が降り続いていた。

熱海市伊豆山地区から南に約8キロ離れた同市網代地区の観測点では、1~3日の72時間の降水量が411.5ミリに上り、観測史上最多を更新。3日間で平年7月の1カ月分の降水量(242.5ミリ)の1.7倍の雨が一気に降った。

気象庁は2日午後0時半、熱海市を含む静岡県内広域に土砂災害警戒情報を出していた。熱海市は2日午前に高齢者等避難情報(警戒レベル3)を出した後、避難指示(レベル4)には踏み切らず、緊急安全確保(レベル5)を出したのは土石流の発生後、3日午前11時過ぎだった。

厚い泥土、捜索はばむ

不明者の捜索が再開され、土砂で埋まった車を調べる警察官ら(4日)=共同

静岡県によると、9日午後7時半時点で死者は9人。依然20人の安否が分かっていない。被災した市街や泥流が流れ込んだ伊豆山港周辺で、警察や消防、自衛隊、海上保安庁が捜索活動を続けている。

被災した建物は131棟で、うち44棟が流失した。熱海市によると、被害地域には住民基本台帳ベースで128世帯216人が住んでいる。全国有数の保養地である同市では季節によって空いている家屋も多く、所在・安否の確認は難航した。

造成地の盛土、大半が崩落

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出所 国土地理院

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静岡県によると、土石流最上部の造成地にあった盛り土の量は約5万4000立方メートルと推定され、その大半が崩落したとみられている。

最初の崩落が起きた地点は現時点で不明だが、複数の専門家は、谷筋を埋め立てた盛り土が長雨による大量の水を蓄えきれずに崩れ落ちた可能性があるとの見方を示す。

県によると、造成地には神奈川県小田原市の不動産会社(清算)が建設残土を搬入したとされる。2007年に熱海市に届け出た総量は3万6000立方メートルとしていた。10年ごろには産業廃棄物の混入が発覚し、静岡県や熱海市が再三指導していた。

豪雨頻発、リスクは全国に

土砂災害警戒区域
出所 国土交通省

今回、土石流に襲われた地域は2012年に土砂災害警戒区域に指定されていた。21年3月末時点で、土石流や崖崩れなど土砂災害の警戒区域は全国で約66万カ所に上る。

国土交通省によると、「大規模盛土造成地」(面積3000平方メートル以上など)は全国999市区町村に約5万カ所あり、21年3月時点で安全性の調査が完了したのは39市区町村にとどまる。今回のような規模の小さい盛り土の規制は自治体ごとの条例任せとなっており、安全確保の基準すら定められていない。

気候変動の影響とみられる豪雨が頻発し、国内では毎年のように土砂災害で人命が失われている。開発の進んだ国土に潜んでいるリスクに向き合い、命を守る対策を急ぐ必要がある。