Back Stage Of Gunpla

ガンプラの裏側

All photos by KODAKA AKIRA (NIKKEI)
Editing by NITTA YUJI.
Filming Locations:THE GUNDAM BASE TOKYO,Tokyo,Japan.
BANDAI HOBBY CENTER,Shizuoka,Japan.

言ってしまえば、
プラスチックの玩具

言ってしまえば、プラスチックの玩具。遊び方はいたって単純で、ランナー(枠)から切り離したパーツを説明書通りにただ組み上げるだけ。ただ、それだけだ。

そんなアナログ玩具がいま、売れに売れている。それも世界中で。累計販売はついに5億個を突破した。製造現場は年中無休、24時間稼働のフル回転。発売40周年を迎える2020年には新工場棟をオープンさせる。

遊びがあふれる現代でもファンの心をつかみ続ける「ガンプラ」。その源流をたどる旅路は、ガンプラ専門店「ガンダムベース東京」(東京・江東)から始まる。

いざ、
ガンプラ世界へ。

1/144シャア専用ザク(マイスター関田氏作)

ガンプラに正解はない。この世に実物がないモビルスーツの「リアル」にどこまで迫れるか。宇宙を切り裂く「赤い彗星(すいせい)」の輝きも人それぞれだ。

ガンダムベース東京のSDガンダム売り場

ガンプラが買いたくて東京に来たんだ」。香港から訪れたMarcus Leung(8)は目を輝かせた。学校の休み時間はクラスメイトとガンダム話で盛り上がる。

HG 1/144 RX-78-2ガンダム

ガンプラは完成までの道のりを楽しむ遊び。プラスチックの破片にすぎなかったパーツが組み合わさり、少しずつ本当の姿を見せ始める。パーツ数が1000を超える商品もある。

2019年08月発売のRG 1/144 νガンダム

あなたの想像力がプラスチックの塊に命を吹き込む。


旧キット 1/144 RX-78-2ガンダムの金型

その美しさに、思わず息をのむ。一つ一つのパーツを丹念に彫り込んだ金型。200℃超のプラスチックが流れる鉄の回廊だ。ガンプラはここから生まれる。

これまでに2000を超える金型を製造

金型の重さは1トンを超える場合も。床下の収納スペースからクレーンで吊り上げ、成形機まで運ぶ。

TOPIC

1980年発売の1/144 RX-78-2ガンダム。発売当初から300円

使用した金型は1つを除いてすべて保管している。だから、ガンプラ第1号はいまも現役商品。償却済みの金型は利益を生み続ける隠れた資産だ。

ペレットは白だけで50色。全部で200色を超える

原料のプラスチック粒はペレットと呼ばれる。ポリスチレン、アクリル、ABS――。素材によって硬さや光沢、手触りはさまざま。ガンプラ専用のプラスチックもある。

成形機は油圧式の1台を含む17台

ザク」や「ドム」などモビルスーツ仕様の成形機。最大4色のプラスチックで1枚のランナーをつくる多色成形はプラモデルに革命を起こした。

TOPIC

メーカーから取り寄せた原料を何度も試し、最適な素材を探し出す

ペレットを200℃以上の高温で溶かし、約150トンの圧力で金型に充塡。ランナー1枚を15~20秒で成形する。シミュレーターが成形不可と判断する複雑な金型も。成形機を操る技術者が頼りだ。

アームの力加減を微調整して、高温のランナーを取り外す

TOPIC

旧キット 1/60 Gガンダムの4色成形ランナー

4色のプラスチックを同時に固める多色成形はバンダイの特殊技術。成形機は東芝機械と開発した。

成形時間をどう短縮するか。技術者の腕の見せ所だ

仕上がりを検査するのは人の目。プラスチックは隅々まで流れたか、狙い通りの形に固まっているか。温度や時間の微調整を繰り返して、少しずつ理想に近づける。納得がいくまで何度も、何度も。

製造現場は3交代勤務で365日24時間フル稼働中
ザク仕様の搬送機が黙々と商品を積み上げる

行き先は東京か、韓国か、それともアメリカか。静かに出荷のときを待つ

TOPIC

設立2006年。従業員数120人

フル稼働が続くバンダイスピリッツの「バンダイホビーセンター」(静岡市)。2020年には新工場棟が完成し、生産能力を1.4倍に増やす。ガンダム熱が高まる米国や中国への供給を増やす。

3Dデータ(左)と設計図(2019年8月発売のRG 1/144 νガンダム)

アニメ資料を読み込んでガンプラの設計図をつくる。モビルスーツは宇宙を駆け巡り、命をやりとりする兵器。航空力学や機械力学の観点からも違和感のない構造に仕上げる。外部の専門家に意見を求める場合も。妥協のない「リアル」の追求がガンプラのブランドを築き上げてきた。

技術革新を幾度も繰り返して進化してきた

アニメさながらの躍動感を演出するハンドパーツ。サーベルを差し込む穴が開くだけだったガンダムの手は1つ、2つと関節を増やし、ついに五指が自在に動くまで進化した。最近はランナーから切り離すと関節付きの手が完成する商品もある。異なるプラスチックの溶ける温度や固まるスピードを熟知。金型に流すタイミングを微調整して、成形時に関節部分を作り込んでいる。

オレンジ色に黒色を重ねて2段成形したランナー。不要部を切り落とせば完成品になる(RG1/144ストライクフリーダムガンダムのランナー)

1枚のランナーを3段階の成形工程で作り込む技術も。複数のパーツを組み合わせた状態に仕上げ、遊び手の負担を減らせる。設計、金型、そして成形。各セクションのプロたちが知識と情熱を注ぎ込んでアイデアを具現化していく。

TOPIC

RG1/144ストライクフリーダムガンダムの内部フレーム

しゃがむ、のけぞる、振りかぶる。一部商品では内部フレーム(写真)に外装を取り付ける仕組みでさまざまなポーズが可能に。

バンダイホビーセンターの金型職場

繊細なガンプラ作りでは、金型のわずかな変化がプラスチックの目詰まりや仕上がりの悪化につながる。金型職場には不具合のあった金型が次々に届く。立ち向かうのは、アニメに登場する「地球連邦軍」の制服に身を包んだ技術者たちだ。問題箇所を特定し、金型をミクロン単位で削ったり、盛ったり。不具合を解消して成形現場に送り返す。「発売当初は生産が追いつかなくて、夜中までみっちり働いたよ」。栗田明弘さん(62、写真右)は振り返る。1980年に入社してから金型一筋。ガンプラの歴史の生き字引で「40年も売れるなんて想像もしなかった」と目を丸くする。好きなモビルスーツは「やっぱり『ナナハチ』(RX-78)」。

使い込まれた道具がにび色に輝く
一人前には最低10年。中野さんは道半ばだ

テレビで見た金型作業が格好良くて。『これやりたい』って直感的に思ったんです」。中野博貴さん(26)は憧れの職場に飛び込んだ。

道具は使い手と一緒に育つ

中野さんが手にする大小さまざまな道具たち。「既製品ではできない作業があるため、自分で作った道具もたくさんあります」。名前もない道具のひとつひとつに存在する理由がある。

旧キット 1/144 RX-78-2ガンダムの金型

呼吸を整え、顕微鏡をのぞく。一瞬の静寂。金型の内壁にはわせたヤスリの突端だけが小刻みに動いた。「最初は削りすぎや盛りすぎでダメ出しを食らってばかり、ようやく一発で決まるようになってきました」。それでも、一人前にはほど遠いのだとか。「金型を一目見て、必要な作業の道筋を正確に見通せるかが大事。栗田さんはその力がすごい」。技術を極める仕事に終わりはない。

地球連邦軍」仕様のユニホーム
宇宙世紀シリーズをそろえた商品棚

もっと格好良く、
もっと美しく、もっとしく。

技術と経験とを注ぎ込み、プラスチックの表現力をひたすらに究める。
その熱意が時代と国境を超え、人々を惹きつける。

ロングセラーには理由がある。


写真
小高 顕
記事
新田 祐司
デザイン
森田 優里
ディレクション
清水 明
プログラム
宮下 啓之、森川 将平

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