Brexit
英国自動車産業の
たそがれ
12月12日の英国下院総選挙で与党・保守党が過半数の議席を確保、2020年1月末のEU離脱(Brexit)に道筋がついた。
もっとも離脱を決めた国民投票から3年以上迷走を続けたうえ、離脱に伴うEUとの貿易交渉も難航が予想されるなか、主力産業の1つである自動車業界は英国と距離を置き始めている。離脱後のシナリオも踏まえ業界の動向をビジュアルに解説する。
見え始めた
「終わりの始まり」
12日投開票の総選挙で離脱の民意が示され、2020年1月末にBrexitが実行される見通しとなった。
離脱を決めた国民投票から3年以上たってようやくメドがついたが、その間自動車メーカーは英国離れを加速。政治の迷走を横目に生産移管や人員削減を公表し、投資を大きく減らした。
英国の自動車セクターへの投資額
億ポンド

英自動車工業会(SMMT)まとめ
Brexitを決めた国民投票の翌年から落ち込んでおり、今年1~10月の生産台数は8年ぶりの低水準に沈んでいる。
英国の自動車生産台数
万台

英自動車工業会(SMMT)まとめ
自動車メーカー各社の動き
主な工場の所在地







関税復活の
可能性は消えず
英国が実質的にEUを離脱する期限は2020年12月末で、1年間の移行期間がある。EU離脱で関税なしの協定から外れるため、移行期間中にEU各国と自由貿易協定(FTA)を結ぶ必要がある。だが、1年という短期間でFTAを結べるか予断を許さず、難航を予想する声がある。FTA交渉に失敗すれば関税が復活し、自動車産業に打撃を与える。

エンジンなど自動車の主要部品は英国と欧州大陸を何度も往来、複雑なサプライチェーンに組み込まれている。

MINIのエンジンを巡る
サプライチェーンだと…





英国と欧州大陸をまたぐサプライチェーン全体で出荷の遅延がドミノ倒しで起こる可能性も
その業務手続きには一定時間がかかるので物流が停滞することに



すべて
通関業務の
対象に
英仏を結ぶドーバー海峡トンネルでは、トラック1台につき通関手続きに2分かかる。手続きは雪だるま式に膨らみ…
27キロの渋滞が慢性的に発生
完成車メーカーはこれまで欲しいときに欲しい部品が届いている「ジャスト・イン・タイム」で部品を調達していた。
だが、物流停滞でジャスト・イン・タイムでなくなると生産性が落ちるほか、部品在庫のため物流施設の確保を迫られる。
Brexitへの移行期間中にEU各国との
FTA交渉が不調に終われば
突如関税が復活するリスクがある。
その場合、関税や追加コストの増大で
英自動車業界は
1日あたり
最大約7000万ポンド
(100億円)
の損失が発生
英自動車工業会(SMMT)推計
今や外資傘下
かつて多くの高級車ブランドを抱え一世を風靡した英自動車業界だが90年代以降、海外メーカーが次々とブランドを買収した。
主な自動車ブランドの買収
1994年 | 独BMWがローバー(ミニ)を買収 |
1998年 | 独フォルクスワーゲンがロールス・ロイス・モーターズ(その後BMWが経営権取得)とベントレーを買収 |
2008年 | 印タタ自動車がジャガー、ランドローバーを買収 |
2017年 | 中国・吉利汽車の親会社がロータスを買収 |
生産台数も1972年に記録した過去最高を一度も更新していない。
英国の自動車生産台数
万台

英自動車工業会(SMMT)まとめ
ブランド買収に加え、今や英国の生産台数の半分を日本勢が占める。
自動車生産台数のメーカー別割合

2018年、英国自動車工業会(SMMT)まとめ
産業を外資が支える構図だが、今後英国内の政治の混乱や対EUとの交渉に失敗すれば撤退モードが強まる可能性も。
英国の自動車産業が競争力を保てるかどうかは、実質的なBrexitの期限となる20年12月までの1年間が焦点になる。
国民投票後の3年間の〝決められない政治〟に一部の自動車メーカーは見切りをつけ始めているだけに英国離れに歯止めをかけられるか、ジョンソン英首相の手腕にかかっている。