発言と写真で振り返る
「ゴーン統治」の20年

日産自動車のカルロス・ゴーン会長が逮捕された。鳴り物入りでルノーから日産自動車に迎えられたのは1999年。系列破壊、必ず達成すべき目標を意味する「コミットメント」、容赦なき合理化――ゴーン氏の一挙手一投足は、日本企業がグローバル企業へと脱皮する軌跡にも重なる。一時はカリスマ経営者の名をほしいままにしたゴーン氏だが、最近では不正検査問題や業績低迷など足元は揺らいでいた。発言と写真で「ゴーン統治」の20年を振り返った。

2012/6「高額報酬は恥ではない」

「日産の報酬は同規模の会社と比較しても低い水準。高額報酬を恥だと思う必要はない」 2012年6月19日、慶大での講演で

「日産の経営陣はグローバル競合他社からの採用のターゲットになっている。競争力のある水準の報酬を提供しないといけない」 「世界の自動車メーカーの最高経営責任者(CEO)の平均報酬は2870万ドル」 いずれも2015年6月23日の株主総会で

日本の上場企業が年間報酬1億円以上の役員の氏名と報酬額の開示を義務付けられたのは10年3月期から。ゴーン氏は10年度以降、7年連続で高額報酬の上位10人に入り、10年度と12年度は1位になった。17年度の報酬額は日産、ルノー、三菱自動車の3社合計で約19億円。もらいすぎとの批判に対し、ゴーン氏はかつて「高額報酬は恥ではない」などと述べていた。

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株主総会後の懇親会で株主と記念写真に納まる日産自動車のカルロス・ゴーン社長(2015年6月、肩書は当時)

上場企業の役員報酬ランキング

2012年度

順位氏名会社名報酬
(百万円)
1カルロス・ゴーン日産自動車988
2デボラ・ダンサイア武田薬品工業776
3フランク・モリッヒ武田薬品工業762
4山田忠孝武田薬品工業712
5三津原博日本調剤590
6稲葉善治ファナック590
7里見治セガサミーホールディングス583
8トッド・ジェイ・カーターGCA535
9東光博フォーカスシステムズ480
10田邊耕二ユーシン465
11金川千尋信越化学工業460
12山田惠グラファイトデザイン460
13松浦勝人エイベックス451
14毒島秀行三共420
15古森重隆富士フイルムホールディングス417

2017年度

順位氏名会社名報酬(百万円)
1平井一夫ソニー2,713
2ロナルド・フィッシャーソフトバンクグループ2,015
3マルセロ・クラウレソフトバンクグループ1,382
4ラジーブ・ミスラソフトバンクグループ1,234
5クリストフ・ウェバー武田薬品工業1,217
6瀬戸欣哉LIXILグループ1,127
7赤澤良太扶桑化学工業1,034
8ディディエ・ルロワトヨタ自動車1,026
9吉田憲一郎ソニー898
10宮内謙ソフトバンクグループ868
11三津原博日本調剤820
12カーティス・フリーズプロスペクト770
13河合利樹東京エレクトロン763
14カルロス・ゴーン日産自動車735
15金川千尋信越化学工業671

(注)敬称略、東京商工リサーチ

1999/10「どれだけの犠牲が必要か、痛いほど分かっている」

「私はルノーのためではなく、日産のために来た。再建のために全力をつくす」 1999年6月25日の株主総会で

「どれだけ多くの努力や痛み、犠牲が必要となるか、私にも痛いほどよくわかっている。でもほかに選択肢はない」 1999年10月18日の「日産リバイバルプラン」発表会で

「これはまだ始まりにすぎない」 2000年10月30日、9月中間期業績の急回復見通し発表会で

「日産はまだ救急救命室から一般病棟に移る前の回復室に移ったところにすぎない。もし社員が私についてこないなら、利益をあげることなどできはしない」 2001年5月17日、3月期の決算発表会で

「Zは日産の財産。Z復活で日産の再生を具現化する」 2002年7月30日、「フェアレディZ」の発表会で

1999年6月に日産の最高執行責任者(COO)に就任したゴーン氏はおよそ4カ月後に再生計画の「日産リバイバルプラン」を発表する。村山工場など完成車工場3カ所の閉鎖や、グループ人員2万1000人の削減。どれもが痛みを伴う再建案だった。ゴーン氏は発表会で2000年度の連結黒字化などを目標に掲げ「未達に終われば全役員が辞める」と発言。一方で「どれだけの犠牲が必要か、痛いほど分かっている」とも述べた。

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日産の株主総会で発言する最高執行責任者に就任したゴーン氏=1999年6月(日産自動車提供)、肩書は当時=共同

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日産の再生計画を発表するゴーンCOO(1999年10月、肩書は当時)

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新型フェアレディZと発表式に臨む日産のゴーン社長(2002年7月、肩書は当時)

日産の純損益は01年3月期にV字回復

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2018/4「3社連合は22年までに年1400万台販売する」

「生産性向上、ルノーブランドの個性重視、国際化の推進が三つの優先課題だ」 「工場閉鎖や人員削減は考えていない」 2005年4月29日、仏ルノーのCEO交代を承認した株主総会で

「世界一の自動車グループとなりました」 18年1月30日、ルノー・日産自動車・三菱自動車の17年の世界販売が1,060万台となったと発表したプレスリリースでのコメント

「グループ戦略を語る場で個別企業については回答しない。私はもう日産の最高経営責任者ではない」 18年1月9日の米ラスベガスで開幕した世界最大の家電見本市「CES」での記者会見で

「ルノー、日産、三菱自動車の3社連合は2022年までに年1400万台を販売します。コスト削減を進めてほしい」 18年4月、3社連合が世界の有力自動車メーカー幹部をパリに集めた取引先総会で

2017年に日産、ルノー、三菱自動車の3社アライアンスを発足させ、自ら頂点に君臨したゴーン氏。3社合わせた同年の販売実績は、1,060万台と大型トラックを除いた統計では世界一となった。3社連合が発足して初めて開いた世界的イベントが、自動車部品メーカー幹部を一同に集めた取引先総会。集まった700人対し、「22年までに年1400万台販売する」とぶち上げ、巨大自動車連合の威容を見せつけた。

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ゴーン氏は2005年にルノーの社長兼CEOに就任した(写真は2018年10月1日、パリ国際自動車ショーで、中国向けのルノー製電気自動車を発表する同氏)

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記者会見で握手する日産のゴーン社長(左)と三菱自動車の益子修会長(2016年5月、横浜市、肩書は当時)

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三菱自動車岡崎製作所の視察後、記者の質問に答える三菱のゴーン会長(2017年5月、愛知県岡崎市)

3社連合の販売台数は1000万台を突破

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(注)17年のみ三菱自含む
(出所)フォーイン、17年は各社公表数字

2018/6「CEOの西川氏が日産のトップだ」

「CEOだけが会社のボス。今の日産のトップは西川氏だけだ」 6月26日の定時株主総会で、検査不正問題の責任を追及する株主に対して

世界的な自動車連合の形成に突き進む一方で、足元の日産では17年秋に国内工場で無資格者が品質検査に従事していた不祥事が発覚。日産は国内新車販売の停止や大量のリコールに追い込まれた。翌年の株主総会では、責任を問う株主の質問に対して「CEOの西川氏が日産のトップだ」と自らの責任を否定するとも取れる発言。さらに7月に新たな不正検査問題が発覚した時には、陣頭指揮を取ることなく西日本の島で親族と余暇を楽しんでいたという。

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ゴーン氏は2018年4月のインタビューで、日産と仏ルノーの関係見直しに「22年までに新しい体制を整える」と語っていた

日産の株価は三菱自出資後、伸び悩む

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2018/11西川社長「長年の負の側面だ」

「ガバナンスという観点では課題が多い。あまりにもひとりに権限が集中しすぎていた。これだけが原因ではないが、誘因であると考えている。事業運営についてもその部分をより明らかにして、時間をおかずに明確な手を打っていきたい。最後に一点だけ、こういう場でいうことかわからないが、ゴーン主導の不正、長年にわたるゴーン統治の負の側面だ」 18年11月19日、西川広人社長、ゴーン容疑者逮捕を受けて記者会見で

ゴーン氏が逮捕された11月19日の日産の記者会見で、西川(さいかわ)広人社長は「あまりにも1人に権限が集中し過ぎていた。長年のゴーン統制の負の側面だ」と語り、カリスマ体制の弊害に悔しさをにじませた。

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19日の記者会見に臨む日産の西川広人社長

制作
メディア戦略部

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