部下が
「保育園落ちた」
上司が知らない?
ホカツの常識
この春に保育園に入園できるかどうか、自治体の通知が保護者に届き始めた。2019年4月の待機児童数は1万6772人と前年と比べ3123人減ったが、「保育園落ちた」と嘆く親はいまだに多い。保育園に入れるかどうかは、育児休業中の社員の仕事復帰を左右するだけでなく、復帰を待つ職場にとっても人員配置に関わる問題だ。育休中の部下と上司がコミュニケーションを円滑にするポイントとは。
1月某日、
育休中の部下に上司がメール
4月に入園できるか、
判明は直前
保育園に入るまで
準備 | 情報収集や園の見学など |
---|---|
秋〜冬 | 自治体に申し込み |
1〜3月 | 自治体が入園の可否を通知 |
4月 | 保育園に入園 |
2月初旬、
待ちきれない上司が部下につい電話
保育園は地域によって
激戦
待機児童とは、「認可」保育園に入れなかった子どものこと
(注)定員には認定こども園など含む (出所)厚生労働省
認可保育園に人気が集中
自治体を通じて申し込む認可保育園は、保育士の数や子ども1人当たりの面積など国の基準があり、保育料も比較的安いために人気が高い。「特定の園を希望」など様々な理由で待機児童にカウントされない「隠れ待機児童」は、実際の待機児童数の何倍にも上るとされる。
「認可」保育園と「認可外」の違いをおさらい
認可保育園 | 認可外保育園 | |
---|---|---|
知事などが設置を認可。面積や人員配置など細かい基準がある | 特徴 | 原則として自由に設置し、保育内容を決めることができる |
保護者の所得に応じて自治体が決める(3~5歳は無料) | 保育料 | 自由に設定(3~5歳は月額3.7万円が無償化)。認可保育園よりも高額になる傾向 |
自治体に申し込み、自治体が入園者を決定 | 入園方法 | 施設に申し込み、施設が入園者を決定 |
あり(運営費の大部分を公費負担) | 税金の投入 | なし(運営費の公費補助を受ける施設もある) |
保育園が足りない3つの背景
1.共働きの急増
1〜2歳児の認可保育園等の利用率
(注)1〜2歳 (出所)厚生労働省
2.都市部で子どもが増加
合計特殊出生率
(出所)厚生労働省
さらに大型マンションが建つと…
3.保育士不足が
保育園開設の「足かせ」に
保育士の有効求人倍率
常用、パート含む (出所)厚生労働省
2月初旬、
電話でのやりとりで
「保活」のリアル
厳しい現実
保活とは
情報収集や職場との調整など、
保育園入園を勝ちとるためにする活動のこと
こんなことまで…
- 入園しやすい地域に引っ越し
- 入りやすい4月入園から逆算して妊娠時期を決定
- 第1子出産後、間をあけずに第2子を妊娠
- 「0歳」入園のため育休切り上げ
入りやすい0歳クラス
4月に定員分が空く0歳児クラスは、前年度から在園している子が進級して定員が埋まりやすい1~2歳クラスに比べて入りやすいといわれる。保護者にとってはキャリアの中断が最小限になるなどのメリットもある。ただ、保育園運営費は高額(東京都23区の区立保育園の場合、0歳児1人当たり月40〜50万円程度かかる)になる。子どもや母親にとって体調面などでの負担も大きい。
都内のある認可保育園の例
保活の狙いはポイントゲット
ポイントゲットが必要なわけ
- 自治体は保護者の就労や家庭の状況に応じてポイント化
- ポイントが高い順に入園決定
- 共働き世帯はほぼ横並び
- 1ポイント差が入園可否を分ける
ポイントのルール
加点される家庭
例えば…
- フルタイム勤務
- 認可外保育園などに子どもを預け、すでに仕事復帰
- ひとり親、または保護者が単身赴任
- 希望する園に兄弟が在園中、兄弟が同時申し込み
減点される家庭
例えば…
- 無職の祖父母が同居、または近くに在住
- 自治体内に勤務先はあるが、住んでいない
- 自宅で自営
- 求職中
同点でも「優先」規定あり
例えば…
- 所得が低い
- 「待機児童」歴が長い
- 居住歴が長い
- 保護者が保育士、看護師
※実際の規定は自治体によって異なる
ポイント制の基準は複雑
ポイント制の基準は自治体によって細かく決められている。例えば東京都港区では入園案内書類で4ページにわたって説明している。「加点」や「優先」の基準は毎年、変更があるので注意が必要だ。「保護者になぜ入園できなかったかを納得してもらうため、基準がどんどん細かくなっている」(都内自治体の保育担当者)
2月末、
部下が電話で報告
「保育園落ちた」ら
翌年4月まで復帰できない
場合も
4月以外は入園が難しい
- 定員が埋まる保育園では、誰かが退園しない限り、年度途中には入れない
- 在園児が一斉に進級する4月、年齢が上がるとクラスの定員が増え、若干の空きが出る
部下から
「保育園落ちた」
と言われた上司は
まずやるべきこと
- 認可外保育園などの保活状況を確認
- 本人の希望を踏まえて社内の支援制度の活用を助言
- 当面復帰できない場合に備え、職場の人員調整 など
こんな支援制度がある
(企業の導入例)
- 企業の利用枠がある認可外保育園
- ベビーシッター費用の補助
- 短時間勤務、在宅勤務
- 保育園に入れない場合の育休の延長 など
保育園に落ちて
しまった部下は
まずやるべきこと
- 認可外保育園やベビーシッター、一時保育施設などを改めて探す
- 地域の範囲を広げて、認可保育園の2次募集に応募
- 時短などの支援制度を使って復帰できないか検討
- 仕事の復帰を延期する など
4月入園できるか判明は直前
保育園は地域によって激戦
「保活」のリアル 厳しい現実
「保育園落ちた」ら翌4月まで復帰できない場合も
待機児童「ゼロ」は遠く
政府が初めて「待機児童ゼロ」の目標を掲げたのは2001年。目標年は先送りされ続け、現在は「2020年度末」だが、実現への道筋はついていない。さらに19年10月から始まった幼児教育・保育の無償化によって保育園入園申し込みが増え、20年4月の待機児童数は増える可能性もある。
共働き世帯にとって、安心して子どもを預けられる保育園は欠かせないインフラだ。ただ、保育園に入園できたとしても、仕事と子育てのバランスを維持できなければ働き続けることはできない。保育問題に詳しい日本総研の池本美香主任研究員は「保育園に入ったその後の生活のためにも企業が働き方の選択肢を増やすことは重要。社員の生活の質を高めることは、生産性の向上につながる」と話す。
- 取材・制作
- 山内菜穂子、森田優里
郵送で結果を通知
2月上旬に多くの自治体では、子どもが入園できるかどうか、結果を郵送で通知する(入園できない場合は「保育所入所保留通知書」が届く)。2016年に話題になった「保育園落ちた日本死ね」と題した匿名ブログが投稿されたのも2月だった。