Key illustration

中国で先鋭化
ネット愛国主義

SNS義勇兵の影響力、
政府を逆転

中国で個人の SNS(交流サイト)を発信源にしたナショナリズムが先鋭化している。日本経済新聞の分析では、 SNS上での愛国的な個人インフルエンサーの発信力は、官製メディアの14倍超に達している。自発的に過激な投稿を繰り返す「義勇兵」らによる市民発の「炎上」が多発し、政府の統制が利かないリスクが高まっている。

ネット愛国者がキレた
抗議デモとペロシ訪台

中国の習近平(シー・ジンピン)指導部による新型コロナウイルスを抑え込む「ゼロコロナ」政策に対する11月の抗議活動は、中国共産党による統治に公然と異を唱えて世界的に注目された。

デモ参加者の中には習氏の退陣を求める人もおり、経済と生活に打撃を与えた長期間の厳格な新型コロナ対策への不満を示した。

北京での「白紙デモ」。新疆ウイグル自治区ウルムチでの火災の犠牲者追悼集会に白い紙を手にした人々が集まり、コロナ規制に抗議した=2022年11月27日、写真はロイター
北京での抗議活動。新疆ウイグル自治区ウルムチでの火災の犠牲者追悼集会に白い紙を手にした人々が集まり、コロナ規制に抗議した=2022年11月27日、写真はロイター

しかし、中国のSNSで活動する著名評論家の中には、まったく異なる見方をする人もいた。愛国主義的なインフルエンサーは、「外国勢力」がこの怒りをあおっていると非難した。これは共産党が自らと主張が異なる人々を「外国勢力と結託している」とおとしめる陰謀論的な考え方だ。

「外国反中勢力の目的は何か。もちろん、我々の内部対立を悪化させるためであり、我々の疫病予防政策を完全に政治化するためだ」と、「ウサギ主席(Chairman Rabbit)」と名乗るユーザーは、中国版ツイッターの微博(ウェイボ)の180万人のフォロワーに向けて投稿した。投稿者の本名は任意。ハーバード大学出身の投資銀行家で、広東省元トップを務めた故・任仲夷氏の孫だ。

共産党の青年組織、中国共産主義青年団(共青団)で働いていたことがあるインフルエンサーの孤烟暮蝉は、650万人の微博フォロワーに向け、「抗議参加者は、隠れた意図を持つ者に利用されてはならない」と警告した。彼女の投稿は、中国外務省の趙立堅副報道局長の妻によってリツイート(他人の投稿を転載)された。

この抗議活動への反発は、中国のオンライン・ナショナリズムが権力や国際的ブランドを屈服させられる力を持つようになった決定的な変化を示している。こうした超愛国的なキャンペーンは、かつては官製メディアが公然と主導し、指揮していた。だが、日本経済新聞のデータ分析によると、現在では個人がより重要な役割を担っていることがわかった。

こうしたネット愛国者は自らを国の威信、さらには共産党への忠誠という「世論の源泉」だと表明している。しかし、懐疑的な人の中には、個人のSNSのアカウントによる超愛国的な力は、中国当局の関連組織が裏で指揮しているのではないかとの見方もある。これにより、本能的な忠誠心のように見える雰囲気が醸成されるからだ。政府のプロパガンダのようにも見えにくい。

いずれにしろ、多くのフォロワーを抱える個人のネット愛国者の存在感の高まりは、中国共産党の支配者にとって恩恵だけでなくリスクももたらす。ときにはSNS上のネット愛国者は当局よりも攻撃的な姿勢をとる。

ナンシー・ペロシ米下院議長が8月に台湾を訪れた時、ネットユーザーらは彼女の搭乗機を撃墜すべきだとさえ主張した。ペロシ氏は中国が自国の一部だと主張する台湾を訪問し、中国を挑発したため、罰を与えるべきだというのがその理由だった。

ペロシ氏が無事に着陸すると、好戦的なSNSユーザーからはさらなる批判が巻き起こり、その矛先は中国当局にも向けられた。

「チャン・シャオヤン」とのニックネームを持つユーザーは、微博に「非常にがっかりだ。多くの中国人と同じく、我が国がペロシに罰を与えると信じていたのに。ペロシを撃墜する戦闘機は一体どこにいたのか。この国はなぜこんなに腰抜けなのか」と書き込んだ。

台湾を訪問し会談に向かうナンシー・ペロシ米下院議長(左)と蔡英文(ツァイ・インウェン)総統(右)=2022年8月3日、写真はAP
台湾を訪問し会談に向かうナンシー・ペロシ米下院議長(左)と蔡英文(ツァイ・インウェン)総統(右)=2022年8月3日、写真はAP

いずれにしても、オンライン・ナショナリズムの広がりは中国国内だけでなく、外国の政府や国際的な企業がこの国とどのように付き合うかにも影響を与えている。習指導部が3期目に突入したなかで、SNSの台頭とその規制は超愛国主義者の過激な主張を増幅させ、現実世界の政策形成への影響力を増している。

北京外国語大学の展江教授(ジャーナリズム)は「10年前には、ナショナリズムにこれほどの勢いはなかった。SNS上で反論される可能性があったからだ」と指摘する。「だが当局による反体制派のコメントの検閲や投稿の削除、ネット上のコメンテーターの組織化などの支援により、この10年でナショナリズムの発言力が高まった」

辱華、中国のネット愛国者の合言葉

中国のネットではここ数年、「辱華(ルーフア)」や「中国への侮辱」という言葉による非難が強力な「呪文」となってきた。SNSのユーザーは文化的に侮辱された場合や、共産党体制を守るためにこれを用いる。ネットユーザーだけでなく、海外の大手ブランドさえもが、これまでの評判をおとしめる威力を思い知っている。

微博は2021年、不透明だった「微博ホット検索」(トレンドの話題を特定するための機能)の運営体制を公開した
微博は2021年、不透明だった「微博ホット検索」(トレンドの話題を特定するための機能)の運営体制を公開した(小原雄輝撮影)

日経は、微博の投稿での「辱華」という言葉の使用状況について分析した。習指導部が発足した2012年以降の24万件に及ぶ投稿データを取得して調査した結果、オンライン・ナショナリズムの台頭という全体像が浮かび上がった。「辱華」を含む投稿の急増を招いた出来事や、その原因となった人物、こうした投稿を拡散した人物らを調べた。

22年10月の共産党大会の前には微博の検索エンジンで「辱華」に関するデータをつかめたが、少なくとも11月に入って以降は大部分のデータが消えた。その理由は不明だが、当局が規制を課した可能性がある。今回の分析は、データチームが以前に検索し、保存していた結果に基づいている。

辱華という言葉が中国メディアに初めて登場したのは2000年代初めだった。SNSでの増幅により、この10年で社会に広く浸透した。

辱華(ルーフア、中国を侮辱している)投稿は2018年後半から爆発的に増えている
2013-11-11 224 posts
2018-11-22 7110 posts
2020-01-28 2520 posts
2021-03-25 5036 posts
(出所)日本経済新聞が中国のSNS「微博(ウェイボ)」のウェブサイトから24万件の投稿の原文を分析した

2013-11-11

2013年後半、米ABCテレビの司会者であるジミー・キンメル氏を批判するため、「辱華」という言葉が使われた。キンメル氏はテレビのトークショーで、米政府の債務削減策について子どもたちと話した。多くが中国向けであることから、ある子どもが「中国人を皆殺しにするべきだ」と話すと、キンメル氏は「面白い考えだ」と述べた。同氏は後に謝罪し、「私がその発言に同意していないことは(視聴者にとって)明白だと思った」と述べた。

辱華の投稿は14年半ばに再び現れた。「中国人とイヌお断り」と書かれた貼り紙のあるスペインのバーで中国人が追い出される映像が、同国のテレビ局で放映された。この問題は、微博上で謝罪を求める投稿が数百に上るほどの反発を招いた。

2018-11-22

「辱華ナショナリズム」の投稿数が過去最高を更新したのは、2018年11月のことだった。イタリアの有名ブランド「ドルチェ&ガッバーナ(D&G)」がSNSで、中国人モデルが箸を使ってイタリア料理を食べようとして苦戦する動画広告を公開した。この結果、「中国への侮辱」という言葉を含む投稿が急増し、1日で7000件に達した。

その間、官製ニュースサイト「中国新聞網」によるD&Gを非難する投稿は、少なくとも3万3000回も転載され、15万以上の「いいね」が押された。この年には、「辱華」というキーワードを含む579件の投稿が、微博上で100回以上リツイートされた。このうち15%は、官製メディア、つまり長らく「(中国共産党の)喉と舌」として活動するメディアが投稿したものだった。

ドルチェ&ガッバーナは、中国人モデルが箸でイタリア料理を食べようとする姿をSNS広告で流した
ドルチェ&ガッバーナは、中国人モデルが箸でイタリア料理を食べようとする姿をSNS広告で流した(小林健撮影)

2020-1-28

「辱華ナショナリズム」の転機となったのが、新型コロナウイルスの世界的な流行が始まった2020年前半だ。デンマーク紙が、中国国旗にある5つの黄色い五芒(ぼう)星をコロナウイルスに見立てた風刺画を掲載。これをきっかけに「辱華」投稿がSNSで急増した。この動きを主導したのは中国共産党の機関紙である人民日報だった。ただ日経の分析によると、この頃から個人アカウントがより影響力を持ち始めた。

デンマーク紙ユランズ・ポステンが掲載した中国国旗をモチーフにした風刺画がSNSで炎上し、「辱華」投稿が急増した
デンマーク紙ユランズ・ポステンが掲載した中国国旗をモチーフにした風刺画がSNSで炎上し、「辱華」投稿が急増した(写真:EPA時事)

2021-3-25

2021年、ネット上の愛国主義者がスウェーデンのへネス・アンド・マウリッツ(H&M)や独アディダス、米ナイキといった外資系大手のアパレル企業に対する不買運動を呼びかけた。こうした企業は新疆ウイグル自治区で強制労働が行われているとして、衣料品に新疆綿を使わないことを決めた。これがネット上で中国政府を支持する人たちの怒りを買い、微博では一時、1日に5,000件を超える投稿があった。中国の著名人もこうした企業とビジネスを行わないことを相次ぎ公表した。

ネット上で台頭する愛国義勇兵

中国のネット上で「辱華」とのレッテルを貼られれば、個人や企業は社会的地位を失う恐れがある。一方、こうした個人や企業のつるし上げを主導したネットユーザーは、多くのファンを獲得し、多額の資金を手にする好機になる。

個人アカウントの活動はこの2年でさらに顕著になっている。19年には辱華を含んだリツイートが100回超に上った投稿299件のうち、官製メディアのアカウントによる投稿は26件と約9%を占めていた。だが21年には、この割合は2%(517件中8件)に下がった。

彼らは少なくとも表面上は自発的にSNSで愛国的な言動を繰り返す「義勇兵」たちだ。「上帝之鹰_5zn」「帝吧官微」「地瓜熊老六」などの個人アカウントに特にこうした投稿の件数が多い。それぞれに独自の特徴がある。例えば、地瓜熊老六はニュースになる出来事への頻繁なコメントで有名なナショナリストの漫画家だ。こうしたユーザーは微博に数百万のフォロワーがおり、中国のネット上で愛国主義のインフルエンサーになっている。彼らは企業や人を「辱華」していると批判する主張を投稿し、その頻度は高まっている。

菓子メーカー「三只松鼠」へのSNS上での批判は、上帝之鹰_5znや帝吧官微などの個人のアカウントが牽引役となった
「上帝之鹰_5zn」「帝吧官微」「地瓜熊老六」 など個人アカウントが頻繁に「辱華」に関する投稿をしている(小原雄輝撮影)

牛弾琴という名で活動する著名なネットナショナリストの代理人を務めるシーバー・タオ氏は「今や最もアクセス数を稼げるのはナショナリズムだ。既存メディアは国に対する自信を生み、この誇りの感情をあおっている」と指摘した。国営新華社のシニア記者だった牛弾琴は微博で400万人超のフォロワーを持つ。

中国のSNS「微博(ウェイボ)」上で50回以上リツイートされた主な「辱華」投稿
  • 官製メディア
  • 地方メディア
  • 個人

2012

2013

2012~13年
中国共産党の正統性を押し上げるツールとしてのナショナリズム

日経の分析によると、2020年以降SNS上で「辱華」に関連する記事が1000件以上投稿されたのは15日あった。13~19年では、3日にとどまる。

中国当局は長年にわたり、愛国教育やメディアによる宣伝活動を通じて、国民の自尊心を高めてきた。習指導部が2012年に発足した後、こうした取り組みはエスカレートした。インターネット空間は、中国人の心や感情をつかむ重要な「戦場」とみなされるようになった。

米デンバー大学ジョセフ・コーベル国際研究大学院米中協力センターの赵穗生(スイシャン・ジャオ)教授は、「中国共産党の正当性は、同国の支配者にとって常に最優先事項である」と話す。ナショナリズムは国内の勢力を結束させ、中国の絶対的指導者である党の価値を再確認するための有効なツールとなっている。

同氏は「習氏が権力を握った際、彼が手掛けた最も重要な取り組みの一つが、ネットを含む中国国内の情報をコントロールしたことだ」と話す。

そのうえで「習氏は愛国教育を強めただけでなく、論調も変えた。習氏の就任時は中国経済が減速し、経済での功績を当てにしにくくなっていた。このため、彼は党の正当性を誇示するには、より愛国心に訴えるしかなかった」とも述べた。

2014

2015

2014年~
ネット上の「戦狼」

習指導部の発足以来、中国の大使らは自らの主張に従わない相手国を威嚇する「戦狼外交」を展開してきた。ネット上のナショナリズムが加速したのも、この時期と一致する。

2016

2017

ただ、周辺国との関係にきしみが増すと、制御不能に陥る危険性はある。米シートンホール大平和・衝突研究センターの汪錚(ワン・ジョン)教授は、「超愛国主義」をあおった結末を、「騎虎の勢い(一度虎に乗ったら、降りられない)」という中国の故事成語を使って説明する。

「ナショナリズムを利用すると、政府は別の方策をより選びにくくなる」。現代中国のナショナリズムにおける歴史的なルーツについて書いた『中国の歴史認識はどう作られたのか』の著者であるワン氏はこう話す。「国民の多くが(現在の)方向性が中国にとって(最善の)国益ではないと分かっていたとしても、ナショナリズムの存在は政府が外交政策を変えることを極めて難しくする」

2018

2019

2018~19年
草の根か、人工芝か

中国のネット上における愛国主義的な投稿の急増は、米欧との地政学的な緊張によってより加速してきた。2018年に始まった米中貿易戦争も、それに拍車をかけた。米国は通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を含む中国の大手企業に制裁を科してきた。

「米国がファーウェイに制裁を科した時は、中国人は特に不公平感を抱いた。中国はいじめられており、我々はそうあるべきではないと感じた」。愛国主義的インフルエンサー、牛弾琴の代理人のタオ氏はこう話す。「人々の感情が高ぶり、愛国的な言動がはやるようになった」

ネット上の愛国インフルエンサーたちは、米中の争いに乗じて、草の根世論を駆り立てることで知名度を上げていった。

ただ、筋金入りの愛国主義的な見解が本当に中国国民の考えを代表しているのか。当局による検閲があるだけに正確には分からない。批評家らは、一見すると本物の世論(草の根)によって動かされたような社会的な運動も、実は(意図的につくられた)「アストロターフィング」(人工芝)であることが多いと指摘する。自発的な行動や本物であることを装う組織的な動きであることが多いのだという。

微博に投稿される内容が、操作されている可能性は懸念の一つである。21年、微博はトレンドとなった話題を示す「微博ホット検索」の仕組みを公開した。それによると、中国当局が「ポジティブなエネルギー」を持つと判断した話題が奨励され、ネガティブだと判断した話題は弾かれたり削除されたりする。

個人がホット検索をうまく操作することも可能だという。マーケティング会社が複数のアカウントから、同一、またはよく似た内容の投稿を同時に発信することで、特定のキーワードが検索上位に表示されるようになる、といった具合だ。

香港中文大学(社会科学院ジャーナリズム・コミュニケーション学科)の方可成(ファン・ケチェン)助教は、ホット検索はブラックボックスのようなもので、簡単に操作が可能だと指摘する。

ファン氏は「トレンドリストにある投稿が、政府の要求に従ったものなのか、それとも商業的な目的のためにあるのか。部外者には知る由もない」と話す。

日経は微博の運営会社にコメントを求めたが、回答はなかった。

ファン氏は、5億7000万人いる月間アクティブユーザーのうち、頻繁に投稿する人は極めて少ないと話す。その割合は1%にも満たないのでは、と推定する。

「ナショナリズムのレベルを測るために、微博の投稿を使うのは正確ではないだろう。より頻繁に発言する人や、より過激な思想を持っている人は(投稿より)話すことを望んでいる。(政府による)検閲やプロパガンダという要因も考慮しなければならない」としている。

2020

2021

2020~22年
より無作為に、人種差別はより少なく

もう一つの重要なトレンドは、中国を侮辱したとされる内容がネット上で炎上するケースがより広い範囲でみられるようになったことだ。もはや外国人による人種差別だけでなく、国内のブランドを攻撃するものさえある。

中国への侮辱(辱華)と受け止められたネット上の怒りは、国内企業さえも標的になり始めた
中国への侮辱(辱華)と受け止めたネットユーザーの怒りの矛先は国内企業にも向き始めた(小原雄輝撮影)

21年、中国を侮辱したとして中国菓子大手である三只松鼠の広告が非難を浴びたことは、分かりやすい事例だ。一重まぶたでいわゆる「つり目」をした女性モデルを起用したことが、ステレオタイプな中国人への偏見に基づく表現であり、米欧の偏見に踊らされていると、一部のネットユーザーから批判されたのだ。

日経の調査によると、三只松鼠への追及は「上帝之鹰_5zn」や「淑芬大大N」などの個人アカウントが主導した。彼らは不買運動の先頭に立ち、リツイート数では官製メディアのアカウントを上回った。三只松鼠は後に謝罪し、広告を取り下げた。

2022

(注)官製メディアは、中国共産党中央委員会または政府系機関の直接指導下にあり、通常は中国共産党の広報機関となっているメディアを指す。地方メディアは、地方政府によって直接管理されているか、民間所有だが地方の中国共産党委員会によって監督されているメディアを指す
(出所)日本経済新聞が微博上の投稿の原文24万件を分析した

中国のスポーツウェアブランド「李寧(リーニン)」は一部商品が旧日本軍の軍服に似ていると避難された
中国のスポーツブランド「李寧(リーニン)」は一部商品が旧日本軍の軍服に似ていると非難された(写真=共同)

22年10月、中国スポーツブランド大手の李寧(リーニン)は、愛国主義者によってSNS上で試練に見舞われた。最新ウェアのデザインの一部が、第2次世界大戦時の日本の軍服に似ているとネットユーザーから非難を浴びて炎上した。同社は謝罪し、該当する商品の販売を取りやめた。

「辱華」関連の主な投稿者は官製メディアから個人へと移り変わった
「辱華」関連の主な投稿者は官製メディアから個人へと移り変わった
(出所)微博上の投稿を日経分析

50回以上リツイートされた辱華に関する投稿を主な発信者の属性で分類すると、18年は全385件中、官製メディアが126件と約3分の1を占め、個人は46件だった。21年~22年9月は全325件中、官製メディアが17件に急減する一方、個人が244件に拡大し、個人が政府の14倍超に膨らみ、逆転した。愛国的なインフルエンサーが世論に与える影響力が強まっている。

微博効果

これらの出来事はすべて、いかに微博が愛国心を発信する重要な場所になっているかを物語る。このプラットフォームは2009年に開設され、22年には平均日間利用者数が2億5200万人に増加した。そのため、特に特定の企業や個人、国の排斥を呼びかける場合、中国で最も強力な愛国主義のプラットフォームとなっている。

各年末時点の微博のアクティブユーザー数(百万人)
  • 月間平均
  • 1日平均
各年末時点の微博のアクティブユーザー数(百万人)
(出所)微博の年次報告書

微博はますます若いユーザーの増加を誘引している。運営企業の21年の年次報告書によると、全ユーザーの約8割は1990年代以降生まれだ。特に若年層では女性が多く、00年以降に生まれたユーザーの6割は女性だという。

微博ファンの多くは中国の大都市以外の出身だ。政治的地位や経済発展度で定義されるいわゆる「四線」の都市の出身者は、18年末時点でユーザーの3割超を占めた。一方、北京や上海などの「一線」の都市出身者は16%にとどまった。

微博の利用者の大半は大都市圏外の居住者だ
微博の利用者の大半は大都市圏外の居住者だ
(出所)微博データセンター、2018年12月時点

中国の若い世代のナショナリストたちは、既に十分に著名で、愛称を持っている。彼らは「小粉紅」として知られる。これは60年代の文化大革命初期、最高指導者だった毛沢東に忠誠を示そうと、破壊活動を展開した学生組織「紅衛兵」を意識したネーミングだ。

微博の内容は、過去10年間で強化された検閲によって形づくられてきた。17年、世界的に著名な北京大学法学部の賀衛方教授が、微博で投稿を何度もブロックされた末に沈黙を貫くと決めたケースは話題を集めた。微博は、賀氏が普遍的価値や法の支配を推進したとして、108日間の投稿禁止を言い渡したこともある。17年に同氏の微博アカウントが閉鎖されたとき、フォロワー数は約190万人に達していた。

その翌年、検閲はさらに強化された。中国は「英雄烈士保護法」と呼ばれる新法を制定した。共産党は制定の理由として、「学問の自由」の名の下に「歴史をねじ曲げ」、共産主義の英雄に疑問を呈する向きがあるためだと説明した。

当局の圧力は、SNSプラットフォームに科される罰金に表れている。中国の国家インターネット情報弁公室(CAC)は21年、微博が「違法」な情報を繰り返し掲載したとして45件、総額1730万元の罰金を科した。

CACはさらに、ネット上のすべてのコメントの公開前審査を義務付けることも提案している。ニュースサイト「中国数字時代」にリークされた文書によると、CACはロシアによるウクライナ侵攻が勃発した際、SNSのプラットフォームに対し、この話題に関するネット世論調査や新たな議論を認めないよう命じた。また、戦場から動画を生配信することも禁じた。

22年12月15日からは、中国のオンラインプラットフォーム上のすべてのニュース関連のコメントは、公開前に検閲によって確認されることになったようだ。CACはコメントの要請に応じなかった。

共産党のお気に入り

これほど厳しく管理された環境で活躍するオンライン上の超愛国主義者たちは、当然ながら共産党からの覚えはめでたい。

時事解説や国家安全保障問題を扱う微博の上位アカウントの多くは、そうした愛国的なインフルエンサーが所有している。中国共産党系メディアの環球時報の元編集長である胡錫進や、国際的なイベントについてよく評論するインフルエンサーの孤烟暮蝉、反米論で知られる司馬南などが挙げられる。

彼らは国防や軍事の専門知識を提供するわけではないものの、微博のページでは「時事解説者」や「国家安全保障専門家」を自称することが多い。むしろ頻繁に飛びつく話題と言えば、米国の新型コロナウイルスの死者数や、中国のインターネットに及ぶ「外国の影響」、米政府がウクライナに生物兵器研究所を建設したという根拠のない主張などだ。

日経は微博で愛国的な投稿を繰り返す約90のアカウントのデータを抽出し、メディアのアカウントとの過去数年間のやりとりを分析した。

  • 官製メディア
  • 地方メディア
  • 個人

分析では、愛国的なインフルエンサーらは、官製メディアや政府機関、国家主義的な民間メディアのアカウントと頻繁にやりとりしていることが判明した。

彼らは中国中央テレビ(CCTV)や新華社といった官製メディアの投稿を頻繁にリツイートし、人民日報の報道の拡散には最も力を入れている。

人民日報は中国最大の新聞社グループで、微博のフォロワー数は1億5000万人にのぼる。共産党中央委員会の機関紙だ。

人民日報が他のアカウントの内容を再投稿したり、タグ付けしたりすることはめったにないが、知名度の高いインフルエンサーはその数少ない例外だ。これにはタカ派で知られる中国人民大学の金燦栄教授と、ラップグループの「天府事変」というナショナリストの両巨頭が含まれる。

ウクライナ侵攻は、中国のネット愛国者たちをさらに勢いづけている。人民日報は4月、同戦争について金燦栄教授にインタビューし、同氏をタグ付けして微博に投稿した。金燦栄教授は戦争の責任は米国にあるとし、米国はウクライナを「チェスの駒」として使っていると主張した。

人民日報は天府事変の宣伝も手がけている。2016年の楽曲「This is China」がヒットすると、同グループは人民日報が発行する雑誌「環球人物」の表紙を飾った。21年に発表した「Hey Democracy」は、中国政府の香港弾圧を非難する米国を「偽善者」とする内容で、国家機関が微博で大々的に宣伝した。CCTV、人民日報、共青団、環球時報、新華社はいずれも楽曲を絶賛した。今年は天府事変と新華社がタッグを組み、北京冬季五輪のプロモーション曲「Join Us in Winter」を制作した。

新華社に次ぐ第2の国営通信社である「中国新聞社」も同様に、胡錫進や、親中派で知られる台湾のテレビコメンテーターの黃智賢といったナショナリストの記事を再投稿している。

日経は、孤烟暮蝉、上帝之鹰_5zn、天府事変、金燦栄の4つのナショナリストアカウントにコメントを求めたが回答がなかった。

さらに、ナショナリストたちは共青団とネット上で親密な関係を築いている。共青団は微博で活発に発信する数少ない党組織のひとつで、1700万人超のフォロワーを擁する。投稿は主に司馬南、孤烟暮蝉、帝吧官微、金燦栄、沈逸をはじめとする愛国的なオピニオンリーダーにリツイートされている。

情報の流れは逆の場合もある。共青団は17年、上帝之鹰_5znが4人の中国人が日本式の軍服を着て写真を撮影したことを公開すると、投稿をリツイートした。共青団は影響力のあるナショナリストを招いてネットで経験談を語ってもらうことも多い。

ナショナリズムを使った火遊び

20年、微博はインフルエンサー向けにさらなる機能を用意した。投稿にハッシュタグ「#V光计划#」や「#V光深评#」(大まかに訳せば「注目の論説」という意味)をつける仕組みだ。その意図は、影響力を持つアカウントに注目のトレンドをつくり続けてもらうことにある。

北京の中国人民革命軍事博物館に習近平主席を映し出す巨大スクリーンが展示された
北京の中国人民革命軍事博物館に習近平国家主席を映し出す巨大スクリーンが展示された(10月8日、比奈田悠佑撮影)

微博で600万人以上のフォロワーを持つ孤烟暮蝉は22年7月と8月、このハッシュタグ付きの一連の記事を投稿した。内容は、ウクライナ侵攻に関連して米国と北大西洋条約機構(NATO)、そしてペロシ氏の台湾訪問を非難するものだった。

牛弾琴の代理人、シーバー・タオ氏は、微博は「注目の論説」の仕組みを使って「私たちのようなアカウントを優遇する」と語る。微博はそうしたハッシュタグ付きのコンテンツにより多くのユーザーをアクセスさせ、クリエーター側は視聴数に応じて利益の分け前を得る。

だが、ネットナショナリストの喧伝(けんでん)は、中国当局にとって好都合であると同時に危険をはらむ。ペロシ氏の台湾訪問で示されたように、感情は制御不能に陥り、中国当局ですら準備できていない行動の背後で揺れ動く可能性がある。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)、ウクライナ侵攻、米中貿易戦争はいずれも、中国の基本的な反欧米感情を助長し、愛国的なインフルエンサーらがその炎をあおり立てている。

習指導部は11月のデモの後、ゼロコロナ政策を劇的に緩和した。その結果、すでに始まっていた感染者の増加を加速させるリスクにさらされている。しかし、当局とネット愛国者たちは、中国が欧米諸国よりもうまくパンデミックに対処してきたという主張を守り通そうとしている。

現在オーストラリアに住む中国人作家の慕容雪村氏は、ネットナショナリズムは「山火事のように燃え広がれば、共産党自体を危険にさらす可能性がある」と指摘する。同氏は13年、大学教員が学生と議論できる内容に制限があることを批判すると、微博アカウントが削除された。

慕容氏は日経の取材中、数週間後にペロシ氏の搭乗機を墜落させようとネットで呼びかけが起きることを不気味に暗示しているようだった。慕容氏の発言は、公式にお墨付きを得れば過激主義が独り歩きしてしまう危険性をまざまざと思い出させる。

ネット上の何百万人もの「小粉紅」たちが、台湾を巡る戦争、それも中国政府が望む以上に強硬な行動を声高に求めてきた場合、中国の統治者はどうするのか、と慕容氏は問いかける。

「共産党が戦争を始めなかったらどうなるのだろう。『小粉紅』たちはいずれ狂信的な過激派になるのだろうか。その答えは大いにイエスだと思う」