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気候変動リーダー
企業200社

日経・FT・独社共同調査 温暖化ガスを大幅削減

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気候変動リーダー企業200社

日経・FT・独社共同調査 温暖化ガスを大幅削減

欧米企業と比べて遅れがちだったアジア企業の環境対応が進んでいる。日本経済新聞社が実施した調査で、日本、インド、台湾などの有力企業が、温暖化ガスの排出量を大幅に削減したことが分かった。

新型コロナ禍や昨年開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を機に、環境保護に対する投資家や消費者の視線は厳しくなっており、アジア企業はいっそう取り組みを加速する必要が出ている。

日本経済新聞社の英語媒体Nikkei Asiaは、英フィナンシャル・タイムズ、独調査会社スタティスタと共同で、アジア太平洋地域に本社を置く企業の2015年から20年にかけての温暖化ガスの削減度合いを調べる「アジア太平洋地域気候変動リーダー企業」調査を実施した。 規模や業種が異なる企業を比較するため、各社の売上高に対する排出量(原単位)の増減を、調査に参加した企業から提供されたデータに基づいて調べた。自社が直接排出する「スコープ1」と、電力・ガスなどエネルギー利用相当分の「スコープ2」の排出分を対象とし、取引先などの排出量を示す「スコープ3」は考慮していない。

日本の86社、オーストラリアの47社、インドの20社を含む12カ国・地域の企業が上位200社に入った。このほか台湾から15社、韓国から10社、タイから6社が入った。中国本土の企業は統一基準での比較が難しく、調査対象から外した。

日本、豪企業が先行

山形県酒田市の発電所向け石炭置き場

日本とオーストラリアに拠点を置く企業が、上位200社のうち約3分の2を占めた。日本では、丸紅や近鉄グループホールディングスなどが入った。丸紅は石炭火力事業の縮小を進め、近鉄は環境負荷の低い車両を導入するなどの取り組みを進めている。オーストラリアからは鉱業のMMGなどが入った。

インド企業も存在感

インド・グジャラート州の太陽光発電所=ロイター

次いで多かったのがインド企業だ。例えば、製薬会社ジュビラント・ファーモバは年平均で35.9%の原単位を削減した。同社の年次報告書によると、同社は工場での水処理を効率化し、太陽光、バイオガスなど排出量の少ないエネルギー源を導入している。インドからは電気通信会社のマインドツリー、ムンバイを拠点とするHDFC銀行、タタ・コンサルタンシー・サービシズなども上位に入った。

アジアを代表するハイテクブランドの取り組みも目立つ

電子機器関連企業は製造過程で排出される温暖化ガスの削減を進めている

台湾のパソコン大手のエイスース(華碩電脳)は2030年までに世界で二酸化炭素排出量を20年比で半減させると表明している。また、30年までに台湾で100%再生可能エネルギーを使用し、35年にはこれを全世界に広げる目標だ。

このほか、香港に本社を置くパソコン大手の聯想集団(レノボ)、台湾の電子部品メーカー、デルタ電子など、知名度の高いハイテク企業が名を連ねた。テクノロジー・エレクトロニクス部門からは29社がトップ200に入り、業界別でも最多だった。

物流と建設業でも成果

もともと排出量が多い建設や物流などの企業でも、排出の絶対量の削減で改善が目立った。韓国の物流会社、現代グロービスは、5年間で排出量を45%減らした。車両や船舶の制御システムの更新、輸送ルートの最適化などで省エネを進めた。

調査に参加した企業のなかには、原単位が減っても、事業拡大により排出量そのものは増えた企業もあった。インドの製鉄会社JSWスチールの排出量は17%増加し、フィリピンの携帯通信大手グローブ・テレコムは83%増加した。両社とも原単位は減少した。

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気候変動リーダー企業

脚注

(1) スコープ1と2の排出量の合計に基づき、2015年から2020年の売上高成長率で調整した年間平均削減率(CARR)

(2) 2020年

(3) 間接的な排出量を示すスコープ3は、大きくばらつきがあるため、本調査では絶対的な数値は省いた

(4) CDP(Carbon Disclosure Project)は、2000年に設立された、排出量の報告と削減に関する非営利の「格付け機関」

(5)SBTiとはCDP、国連グローバル・コンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)による取り組みで、企業に対して温暖化防止のための目標を設定し、気温上昇が2℃未満、1.5℃未満を目標とすることを推進している

調査方法

「アジア太平洋地域気候変動リーダー企業」調査は、温暖化ガス(GHG)排出原単位の削減が最も進んでいる企業200社をリストアップした。 具体的には、2015年から2020年の間にGHG排出原単位(売上高100万ドルあたりのScope1およびScope2のCO2換算排出量トン数)が最も低下した企業を取り上げた。2015年と2020年の数値をもとに削減度合いを年率で算出した。 調査対象はアジア太平洋の14カ国・地域(オーストラリア、香港、インド、インドネシア、日本、マカオ、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ、ベトナム)のいずれかに本社を置き、2020年の売上高が5000万ドル以上だった企業。

調査への参加希望を募り、2015年から2020年までのGHG排出量と同期間の売上高(銀行などについては売上高に相当する指標)について回答を求めた。報告期間が暦年と一致しない場合は、最も期間が重なる報告期間のデータを使った。

応募期間は2021年11月から2022年2月まで。これに加えてスタティスタは同地域の2000社以上の公開データも調べた。数値を公表していない企業や参加していない企業もあるため、同リストが完全なものとは言えない。調査手法のより詳細な情報についてはスタティスタが資料を公開している。スタティスタは世界の170以上の業界について幅広いビジネス関連データを提供している。