コロナワクチン接種始まる 開発レースと3つの課題 CORONAVIRUS-VACCINE

コロナワクチン接種始まる 開発レースと3つの課題 CORONAVIRUS-VACCINE

新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるカギとなる予防ワクチン。英国や米国で接種が始まった製薬大手ファイザー製に続き、米モデルナと英アストラゼネカ製も緊急承認され、コロナワクチンは実用段階に入った。通常は10年近くかかる開発期間が大幅に短縮され、有効性や安全性について不明な点も多い。英国などで猛威を振るう変異種に効果はあるのか。今後日本にはいつ届き、どうやって接種できるようになるのか。開発中のワクチンの動きや、予防効果や安全性などの課題を見る。

2021/1/25 更新
Read in English 世界のワクチン接種状況を見る

ワクチン、
治験から実用段階に

1-1
1月5日時点のWHOデータなどから作成、治験第1/2は第1と第2、治験2/3は第2と第3を一緒に手掛けているケース

米ファイザーのワクチンは2020年12月、規制当局の緊急承認を受け、英国や米国で接種が始まった。欧州連合(EU)なども承認し、世界40カ国以上で使用が可能になった。ファイザーは日本でも製造販売承認を申請している。米製薬新興企業のモデルナと製薬大手アストラゼネカのワクチンもそれぞれ米国や英国などの規制当局に緊急承認され、接種が始まった。中国の製薬企業シノバックとシノファーム、ロシアのガマレヤ研究所のワクチンはすでに国内で接種が始まっている。

これら以外にも世界では多くのワクチンが開発中だ。世界保健機関(WHO)によると、臨床試験(治験)中のワクチン候補は2021年1月5日時点で63種類。そのうち、最終の第3段階に至っているのは15種類で、第2段階と合わせて実施しているケースを含めると21種類ある。ワクチンのタイプもRNA、ウイルスベクター、DNA、不活化など様々だ。ワクチンの成功例が相次ぎ、世界に供給が広がれば接種できる機会も増すため、感染拡大を抑える可能性がある。

2-2 2-3 2-4 2-5 2-6

実用段階に入った先頭集団

ファイザー

当面の生産計画

2020年内に世界で最大5000万回分、21年末までに最大13億回分。1人2回の接種を想定。

開発過程

ドイツの製薬企業ビオンテックとmRNAワクチンを共同開発。2020年5月から治験に入り、11月に緊急使用許可を申請。12月に英国や米国、EUなどが承認。日本でも製造販売承認を申請。

ファイザーとは

1849年に創業し、米ニューヨーク州に本拠を置く製薬大手。男性の性機能改善薬「バイアグラ」などを開発した。

モデルナ

当面の生産計画

2020年内に米国向けに2000万回分、21年には5億から10億回分を世界に。

開発過程

RNAワクチンを開発。2020年春から治験入りし、11月末に緊急使用許可を米当局に申請。12月に承認。

モデルナとは

2010年に創業し、米マサチューセッツ州に本拠を置く製薬新興企業。mRNAを用いて作る医薬品の研究開発を手がけている。

アストラゼネカ

当面の生産計画

2021年に30億回分を生産する体制を整備。

開発過程

英オックスフォード大とウイルスベクターワクチンを開発。2020年4月から治験入りし、12月に英当局が承認。

アストラゼネカとは

英ケンブリッジに本社を置く製薬企業。1999年に英化学大手の医薬品部門が分離したゼネカと、スウェーデンの医薬品メーカーのアストラが合併して誕生した。

シノバック

当面の生産計画

6億回分。

開発過程

不活化ワクチンを開発。2020年4月から臨床試験を開始した。夏から国内で緊急投与を始めた。

シノバックとは

中国の製薬会社。

シノファーム

当面の生産計画

3億回分。21年に10億回分に拡大。

開発過程

不活化ワクチンを開発。2020年4月から臨床試験を始めた。夏から国内で緊急投与に乗り出し、100万人に達した。11月に中国当局に販売許可を申請。

シノファームとは

中国の製薬会社。

ガマレヤ研究所

当面の生産計画

医療従事者らに加え、一般市民向けの接種も予定。

開発過程

ウイルスベクターワクチンをロシアの国防省と開発。2020年8月、治験段階にもかかわらずプーチン政権が世界で初めて承認した。

ガマレヤ研究所とは

ロシアの国立研究機関。

RNAワクチンとは

3-1

コロナウイルスの遺伝子のデータを基にmRNAと呼ぶ物質を人工的に作る。体内に投与すると、ウイルスが持つたんぱく質(抗原)が作られ、免疫システムが反応して抗体が作られる仕組み。ヒトへの使用実績はない。

ウイルスベクターワクチンとは

3-2

コロナの遺伝情報を持った別のウイルスを「運び屋」として体内に投与し、免疫反応を促す。

DNAワクチンとは

3-3

コロナウイルスの遺伝情報の一部を取り込んだ成分を体内に送り込み、事前に免疫を作る。ヒトへの使用実績はない。

不活化ワクチンとは

3-4

開発例がある既存の技術を使い、化学処理などで病原性をなくしたウイルスを利用する。生み出される免疫力が弱いため、免疫の獲得には複数回の接種が必要という。

ワクチン、変異種への効果は?

新型コロナウイルスの変異種が世界で拡大している。英国を中心に感染者が急増しており、日本や米国、南アフリカなどの国でも感染例が報告されている。変異種は人の細胞に感染する際にウイルスの遺伝子の一部が変異し、感染力が高まった可能性がある。英国の研究では従来に比べて感染力は最大7割増したとしている。

専門家によると、現段階で変異種に感染しても重症化のリスクは従来と変わらず、接種が始まったワクチンの効果にも問題はないとしている。ただ新型コロナウイルスは2週間に1回の頻度で変異を繰り返しているとみられ、今後感染力が高い新たな変異種が生まれる恐れはある。引き続き警戒が必要だ。

ワクチン接種、中国・ロシアが先行

ワクチンの接種を巡っては、中国とロシアが欧米より先行している。

4-1

中国のシノバックとシノファームは2020年夏に治験段階にもかかわらずワクチンを国内で緊急投与、11月にはシノファームが国に販売許可を申請した。ロシアも8月、治験段階のガマレヤ研究所のワクチンを世界で初めて承認し、10月にも2例目を承認した。ロシアのワクチンはベラルーシやアルゼンチンで承認されたほか、シノバックなどはインドネシアやブラジルなど10以上の国で治験を実施。開発に成功すればこれらの国に供給し、影響力の拡大を狙う。

ワクチン、
いつ日本に?

日本政府との契約は

菅義偉首相は1月4日、国内のワクチン接種を2月下旬に開始すると表明したワクチンは日本にいつ届くのか。日本政府と主な海外企業との契約を見てみる。

5-1

日本政府は1人当たり2回の接種を想定する。日本で承認申請したファイザーとは2021年内に7200万人分(1.44億回分)の供給で合意し、2月下旬から接種が始まる見通しだ。モデルナは21年6月までに2000万人分(4000万回分)の供給する計画だ。その後、9月までに1000万回分(500万人分)を追加する。RNAワクチンは長期間性能を保つにはセ氏マイナス20~70度での保管が必要で、日本には低温輸送で運ばれる方向だ。ワクチンは期日までに日本に届く見込みで、実際の接種はそれから始まる予定だ。日本でワクチンを使えるようにするには、ファイザーやモデルナ側が厚生労働省にワクチンの有効性や安全性を示す治験のデータを提出し、製造販売の承認を受ける必要がある。モデルナのワクチンは武田薬品工業が国内での治験や流通を請け負う。

6-1

一方、ウイルスベクターワクチンを開発する英アストラゼネカとは6000万人分(1.2億回分)の供給を受けることで契約、まず1500万人分(3000万回分)を3月までに調達する計画だ。同社製のワクチンは通常の冷蔵庫で保管できるため、供給しやすい利点がある。同社はワクチン原液の製造などで関西の中堅製薬JCRファーマなどと提携している。

ワクチンの確保を巡っては、日本や米国などは全人口分以上の調達にメドを付けた半面、新興国のインドやブラジルなどは全人口の30%に満たない分しかなく、国家間で格差が広がる可能性があるとの分析もある。

接種までの流れは?

日本にワクチンが届いた場合、日本国民に接種されるまでの流れを見てみる。

7-1

日本政府は2021年前半までに全国民分の確保をめざしている。ファイザーのほか、モデルナとアストラゼネカ製も実用化され、日本への供給が順調に進めば全国民分は確保できる見通し。

8-1

希望者の接種の流れ

9-1

接種を希望する人は全員無料で、重症化リスクの高い高齢者や持病のある人、医療従事者らを優先する考えだ。自治体が住民に接種券を個別に届け、接種を案内することが想定されている。

課題①
ワクチン保管・物流は低温で

10-1

ワクチンの接種に向けて、課題の一つとされているのがワクチンの保管と物流だ。ファイザー製はセ氏マイナス70度で保管が必要。モデルナ製は6カ月ならセ氏マイナス20度で保管しなければならない。大量の保冷ボックスや保冷庫が必要になる。厚労省は保冷庫を3000個確保するなど準備を進めている。厳格に温度管理したワクチンの物流網の整備も課題だ。運搬されたワクチンについて、低温で保管する設備がない病院やクリニックでの接種は難しいとの指摘もある。

課題②
予防効果は続くのか

ファイザー製、
最終治験で95%の予防効果が出たが…

11-1

ワクチンの実用化を巡っては、予防効果の持続も課題だ。ファイザーは最終治験で予防効果が95%に達したと発表したが、効果の持続期間は接種から1~2週間程度しか確認しておらず、長期間持続するかは明らかになっていない。効果の期間が短いようなら、1年間に何度も接種する必要もある。

課題③
安全性、
慎重な対応が必要

12-1

ワクチンの接種で、思わぬ健康被害をもたらす副作用も心配される。ファイザーやモデルナはこれまでの治験で頭痛や発熱、筋肉痛、倦怠(けんたい)感などを起こした人がいたとしている。安全上問題になるような重大な事例は報告されていないという。仏調査会社がオンラインで実施した世論調査では、米国民の4割が「副作用が心配」などとして接種しないと回答した。

日本政府は健康被害が生じた場合の救済措置を設けた。医療費の自己負担分や入院通院に必要な経費を公費で支給することなどが想定される。今後、接種を受けた人が増えると新たな副作用が起きる恐れもあり、安全性について慎重な対応が必要だ。