分かる 教えたくなる コロナワクチン開発 CORONAVIRUS-VACCINE

分かる 教えたくなる コロナワクチン開発 CORONAVIRUS-VACCINE

世界で猛威を振るう新型コロナウイルス。感染拡大を抑え込むカギは予防ワクチンの開発だ。世界では160を超すワクチン候補の開発が進んでおり、一部は臨床試験の最終段階に入った。実用化に向けた開発大競争をビジュアルデータで解説する。

TOPIC 1

開発レース、
先頭集団は?

開発レースをリード
注目の27/167

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世界保健機関(WHO)によると、開発中のコロナワクチン候補は810日時点で167種類に上り、そのうち臨床試験を始めたのは27種類ある。この中には2020年秋以降の実用化を目指すものもある。ワクチン開発はウイルスを培養して作る方法が主流だが、開発期間を短くするため、遺伝子を使った新しい手法も登場している。コロナワクチンはこれまでに、日本や米国、中国、英国、ドイツなどの企業や研究機関が開発を進めている。臨床試験中の主な候補を見てみよう。

スピード優先、
前例なき開発

新しいワクチンタイプと開発者

ワクチン
タイプ
開発者(国・地域)
RNAワクチン モデルナ(米)/米国立アレルギー感染症研究所
ビオンテック(独)/上海復星医薬(中国)/米ファイザー(米)
インペリアル・カレッジ・ロンドン(英)
キュアバック(独)
中国人民解放軍・軍事医学研究院/ワルバックス(中国)
DNAワクチン イノビオ・ファーマシューティカルズ(米)
ジェネクシン(韓国)
アンジェス/大阪大学/タカラバイオ(日本)
カディラ・ヘルスケア(インド)
ウイルス
ベクター
ワクチン
アストラゼネカ/オックスフォード大学(英)
カンシノ・バイオロジクス(中国)
国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所(ロシア)
※WHO調べ

RNAなど遺伝子を使って作るワクチンは、従来型のワクチンより開発期間を短くできるのが特徴だ。ウイルスを培養するなどの手間がかからないためだ。ただ、ヒトに実用化された例はまだなく、有効性や安全性の検証などハードルは高い。ウイルスのたんぱく質の基になるRNAやDNAの断片を使うRNA・DNAワクチンのほか、コロナウイルスの遺伝情報を組み込んだ別のウイルスを使うウイルスベクターワクチンがある。

RNAワクチンとは

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コロナウイルスの遺伝子のデータを基に「メッセンジャーRNA(mRNA)」と呼ぶ遺伝物質を人工的に作る。脂質などのナノ粒子に組み込みワクチンにする。体内に投与すると、ウイルスが持つたんぱく質(抗原)が作られ、免疫システムが反応して抗体が作られる仕組み。

既存手法を活用、
堅実路線

既存手法のワクチンタイプと開発者

ワクチン
タイプ
開発者(国・地域)
不活化
ワクチン
中国医学科学院医学生物学研究所(中国)
シノファーマ/武漢生物製品研究所(中国)
シノファーマ/北京生物製品研究所(中国)
シノバック・バイオテック(中国)
バーラト・バイオテック(インド)
サブユニット ノババックス(米)
クローバー・バイオファーマシューティカルズ(中国)/グラクソ・スミスクライン(英)
重慶智飛生物製品子会社/中国科学院微生物研究所(中国)
バクシン(オーストラリア)/メディトックス(韓国)
ケンタッキー・バイオプロセッシング(米)
クイーンズランド大学/CSL(オーストラリア)/セキーラス(英)
ウイルス
様中空粒子
メディカゴ(田辺三菱製薬のカナダ子会社)
※WHO調べ

従来型のワクチンはウイルスを細胞などで培養して感染する能力を失わせたり、ウイルスの一部を取り出したりして作る。ヒトに接種することで体の免疫反応を引き出し、ウイルスの感染を阻む。開発例がある既存の仕組みを使い、堅実に開発を進めているともいえる。感染する能力を失わせた不活化ワクチンのほか、ウイルスの一部を使うサブユニットやウイルスに似た構造を持つ粒子を使うウイルス様中空粒子がある。

不活化ワクチンとは

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化学処理などで病原性をなくしたウイルスを利用する。生み出される免疫力が弱いため、免疫の獲得には複数回の接種が必要という。

TOPIC 2

ワクチン、
国家の
主導権争いに

米中対決、
ワクチンが最前線

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臨床試験に入っているワクチン候補は中国勢と米国勢が過半数を占める。米国は自国への供給・備蓄を優先しており、中国は途上国にも供給し外交的な影響力拡大を狙う。ワクチン開発競争は米中の主導権争いの一端を映している。

大盤振る舞いの開発支援

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ワクチン開発にあたり、各国は大規模な資金支援を打ち出している。中でも米中は群を抜く。米国は官民を挙げてワクチン開発や供給を支援する「ワープ・スピード作戦」を推進する。3月下旬にまとめた追加予算のうち100億ドル(1700億円)を投入する。中国は2020年に感染症対策として15兆円(約1兆元)の特別国債を発行し、ワクチンや治療薬の研究開発をてこ入れする。日本は2次補正予算にワクチン開発や体制整備などに総額2000億円強を盛り込んだ。

論文SARS100倍、
しのぎ削るアカデミア

コロナ関連の論文数、
SARS100

米中争いの構図は論文数にも表れている。2002年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)と比較してみる。厚生労働省の調べでは、SARS関連の世界の論文数は発生7カ月時点で100本程度だったのに対し、新型コロナ関連は発生4カ月時点でおよそ100倍の約1万本に達した。

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※文部科学省 科学技術・学術政策研究所調べ、20204月時点

国別の論文数比較

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※文部科学省 科学技術・学術政策研究所調べ、20204月時点、WHOデータから

WHOが公開する論文データを国別で比較しても、20204月時点で米中がそれぞれ1000本超と他国を圧倒した。日本は56本にとどまった。

TOPIC 3

ワクチンは
巨大ビジネス

2027年に6.9兆円予測、
コロナで加速する市場成長

ワクチン市場規模

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※注:1ドル=107円換算
※出所:PHARMACEUTICAL PROCESSING WORLD

ワクチン市場の企業別シェア

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※出所:各社決算などを元に日経推定

世界のワクチン市場は拡大している。資本力がある英グラクソ・スミスクラインなど巨大製薬企業が市場を席巻し、欧米4社が約8割のシェアを握る。2027年には、18年と比べ1.7倍の645億ドル(約6.9兆円)に成長するとの予測がある。ワクチンは通常の医薬品とは違い、特許だけでなく安定した供給能力が重要だ。世界で猛威を振るう新型コロナのワクチンが普及すれば、市場はさらに拡大する。

開発期間は10年前後、
総費用1000億円超えも

開発プロセス

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ワクチン開発は一筋縄ではいかない世界だ。一般的に創薬から臨床試験、承認・実用化に至るまで510年かかり、1000億円以上のコストがかかる例もある。有効性や安全性の検証はハードルが高く、臨床試験に進んでも承認されないケースもある。それでも早期承認を視野に、英製薬大手アストラゼネカなどは2020年中の供給を目指し、量産体制を整備する。海外で使用された医薬品は、日本で臨床試験をしなくても厚労相の権限で緊急承認できる「特例承認」がある。早ければ2021年春にも日本国内でコロナワクチンを接種できる可能性がある。

先端技術を活用、
開発新景

ワクチン開発に
人工知能(AI)を活用

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ワクチンや治療薬開発の風景が変わってきた。人工知能(AI)などの最先端技術を活用することで、必要な遺伝子情報を得るのにかかっていた膨大な時間を短縮する。NECは独自のAIで新型コロナの数千種類の遺伝子情報を解析し、ワクチン開発を後押しする。

スパコンを使って
治療薬候補を選ぶ

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スーパーコンピューターの計算速度で世界一となった理化学研究所・富士通の国産スパコン「富岳」では、高度なシミュレーション能力を使って治療薬候補を効率的に探索する研究が進む。

コロナ克服の決め手に

ワクチンは新型コロナ克服の決め手になる。ワクチン接種などで免疫を持つ人が一定の割合に達すると、感染拡大にブレーキがかかるからだ。ただ、実用化を急いで「効果の検証が不十分なワクチンが出回るのはむしろ危険」といった専門家の指摘もある。ワクチン開発には効果と安全性の確認が欠かせない。