シリーズ:解剖 経済安保 沸騰AI、米国が寡占する未来

生成AI(人工知能)の出現は経済の行方を左右し、国家間のパワーバランスを変える変革の瞬間を意味する――。米ゴールドマン・サックスは2023年末に公表したリポートでこう指摘した。経済安全保障上、AIは国益を左右する存在となった。世界はAIに沸き立つが、冷静に目をこらすと、AIのテクノロジーが米国に寡占される未来が見えてきた。ビジュアルデータでAIのリアルに迫る。

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各国首脳も無視できないAI

「発展途上国における(AIの)能力の構築も重要だ」「すべての関係者の間で技術の共有を促進し、どの国も後れを取ることなくギャップを埋めるよう努力する」。中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相は3月7日の記者会見でAIに関する質問に対してこう答え、「適当な時期」に国連総会に「AIの能力構築における国際協力の強化」に関する決議案を提出する考えを明らかにした。米国が主導するAIの進化と技術の囲い込みをけん制する。

AIは今や一部の企業や研究者の手の中にとどまる技術ではない。「Chat(チャット)GPT」の登場を機に生成AIは世界に急速に浸透し、国家間の力学にも影響を及ぼす存在となった。うまく活用できれば繁栄をもたらし、失敗すれば衰退を招きかねない。各国・地域の政治指導者にとってその手綱さばきは重要な課題となっている。

各国・地域の首脳がAIの光と影に言及

発言者

光の発言

影の発言

バイデン米大統領

AP

AIは現代で最も強力なツールの1つ

チャンスをつかむにはまずリスクの軽減が必要

スナク英首相

ロイター

AIは新たな経済成長の機会、
人間の能力の進歩をもたらす

新たな危険や脅威も生み出す

フォンデアライエン欧州委員長

AP

AIが市民や経済にもたらす
潜在的な利益は巨大

AIが正確で信頼性が高く、
安全で差別的ではないことを望む

岸田文雄首相

生成AIが次の時代の科学技術の大衆化をもたらし、
さらに便利な世の中が実現することを期待

フェイク情報、
プライバシーや著作権の保護に対する懸念も

01

AIは社会や経済をどう変える?

生成AIは文章の作成や要約、翻訳をはじめ、資料づくりやプログラミング作業の補助を通じて幅広い領域で業務の効率化や生産性向上を実現する可能性がある。画像や映像の制作への応用もこれから広がる。人の作業を代替する潜在力を秘めるAIが、経済や産業にどれほどの影響を与えるのだろうか。

2.6兆~4.4兆ドルの価値を創出

生成AIが生み出す経済的価値はすさまじい。米マッキンゼー・アンド・カンパニーの推計では世界で年間2.6兆~4.4兆ドル(約390兆~約660兆円)にも及ぶ。英国の国内総生産(GDP)が3.1兆ドルであることを考えてもその大きさがわかる。

うまくインパクトを引き出せばソフトウエア開発のスピードや効率を高められ、個人に適したマーケティングの実現や顧客対応の充実、省力化が可能になる。こうした業務での活用余地が大きいハイテク業界の価値創出額は少なく見積もって2400億ドル、最大で4600億ドルにのぼり、小売業界は2400億~3900億ドルに達する見通しだ。恩恵を最大化できれば産業の活性化につながり、企業の競争力にも影響を及ぼす。

産業別の経済価値の金額
  • 最大値
  • 最小値
  • 最小値と最大値の中間の値
マッキンゼー・アンド・カンパニーの分析をもとに作成
業務内容別の経済価値の金額
  • 最大値
  • 最小値
  • 最小値と最大値の中間の値
マッキンゼー・アンド・カンパニーの分析をもとに作成

始まった「使い道」の探索

業界ごとにみて生成AIはさまざまな使い道がある。化学などの業界では論文や特許の膨大な文書から情報を効率的に収集して新素材開発に役立てるといった試みが進む。小売りや消費財の領域ではSNSなどから消費者のニーズやトレンドをつかむ際に生成AIが威力を発揮する見通しだ。

業界別の生成AIの主な用途
小売り、消費財消費者のニーズやトレンドの分析
新商品や販売促進のアイデア創出
素材、化学大量の論文や特許から情報を収集・分析
新素材の開発や自社商材の用途の探索
教育生徒にあわせたきめ細かな学習指導
受験などの面接対策支援
金融個別の投資戦略やポートフォリオ作成
顧客対応サービスの拡充や効率化
医療、製薬規制やルールへの対応の効率化
医療関連文書の作成支援
広告、娯楽低コストで高品質のコンテンツ作成
個人に最適化したマーケティング

働き方の変化も不可避

生成AIの導入で人々の働き方も大きく変わる。文章の作成や要約に関わる作業が劇的に効率化し、教育や法律、科学、工学の専門家は「生成AI導入あり」の場合に業務の自動化の割合が大きく高まる可能性がある。画像生成AIの進化などで創作の領域にも変化が起きる見込みだ。

職種別の潜在的な自動化の割合
  • 生成AI導入なし
  • 生成AI導入あり
マッキンゼー・アンド・カンパニーの分析をもとに作成

知的作業の自動化が加速へ

20世紀後半から工場のさまざまな工程で自動化が進んだが、生成AIはオフィスで働くホワイトカラーの作業を代替すると見込まれている。これまで人間が担ってきた知的作業を自動化するとみられ、大学院修了者や大学卒業者など高学歴の職種ほどその影響を受ける可能性が高い。

学歴別にみた潜在的な自動化の割合
  • 生成AI導入なし
  • 生成AI導入あり
マッキンゼー・アンド・カンパニーの分析をもとに作成。対象は米国
02

AIを制する4つのテクノロジー

急速に成長する生成AI関連の市場で、すでに圧倒的な競争力を握るのが米国だ。インターネットやスマートフォンの普及で開花したデジタル時代に勝者となった米国は、「AI時代」も支配的地位を固めつつある。

米国の市場規模、中国の3倍

生成AIの開発、導入で先行した米国はまず市場規模で他国を圧倒する。2023年時点ですでに161億ドルと、2位の中国の3倍だ。30年には650億ドル超に達し、一国で世界の3分の1を占めるとみられる。

国別の生成AIの市場規模
スタティスタのデータをもとに作成

生成AI、根幹は半導体

生成AI関連のビジネスは大きく4つの階層に分けられる。最も消費者に近いのがさまざまな用途に対応するアプリケーションだ。それを支えるのが生成AIの中核技術である大規模言語モデルなどの基盤技術で、その下にはクラウドインフラの階層がある。階層が下がるごとにプレーヤーの数は減る傾向があり、開発や運用の根幹となるハードウエア(半導体)は極めて参入障壁の高い市場となっている。

生成AIのビジネスは主に4つの階層に分かれる
参入企業数で上からアプリケーション、基盤技術(大規模言語モデルなど)、クラウドインフラ、ハードウエア(半導体)
逆三角形は階層ごとの参入企業数のイメージを表す
アプリケーション

文章も画像も「米国発」

アプリケーションは多種多様で手がける企業も無数にのぼるため単純にシェアを算出するのは難しいが、ここでは最も基本的な文章生成と画像生成のAIツールを取り上げる。文章生成ではチャットGPT、画像生成ではMidjourneyという米国発のサービスが高いシェアを握っている。

文章生成AI、画像生成AIの利用者シェア
  • 米国
  • ドイツ
出所はスタティスタ。23年11月時点。Googleの「Bard」は現在は「Gemini」に変更
基盤技術(大規模言語モデルなど)

オープンAIとマイクロソフト、際立つ存在感

生成AIの発展の中核は、大規模言語モデルの技術だ。大規模言語モデルは言葉を操る優れた能力を持ち、チャットGPTなどのサービスの基盤になっている。この基盤技術では米オープンAIと、同社と提携する米マイクロソフトが圧倒的な存在感を放ち、アマゾン・ドット・コムやグーグルという米国勢が追いかける構図となっている。

基盤となる技術やサービスのシェア
Open AIが39%、Microsoftが30%、Amazonが8%、Googleが7%を占める
2023年、IoT Analyticsが推定
クラウドインフラ

米3強で世界シェア3分の2、生成AI需要吸い込むクラウド

AIサービスを提供するのが「ハイパースケーラー」と呼ばれるクラウド大手。アマゾン・ドット・コムや大規模言語モデル「GPT-4」で知られる米オープンAIと提携するマイクロソフト、グーグルなど大手3社で世界シェアの3分の2を占める。AIを利用したデジタルトランスフォーメーション(DX)が進むほど米企業に富が集中する構図となっている。

クラウドインフラのシェア
出所は米シナジー・リサーチ・グループ、四半期ごとのクラウドインフラシェア。アリババのみ中国企業
ハードウエア(半導体)

クラウドの「頭脳」 米国勢が独占

AIがデータを学び、推論をする工程は、データセンターにあるサーバーが担う。膨大な計算量が必要なため、これまでのサーバーの能力だけでは対応しきれない。そこで脚光を浴びたのがGPU(画像処理半導体)だ。もともとゲームの3D処理などに向け開発されたが、高速・大量の演算処理がAI向けにも適していた。市場投入で先行してきた米エヌビディアが、データセンター向けでも圧倒的なシェアを持つ。

データセンター向けGPUのシェア
NVIDIAが92%、AMDが3%を占める
2023年、IoT Analyticsが推定
03

独走するエヌビディア

生成AIに関連するビジネスをかつての「ゴールドラッシュ」に例えれば、エヌビディアのGPUは金を採掘する「ツルハシ」だ。いつ、どれだけの金が生み出されるかは未知数だが、ツルハシは間違いなく売れていく。その実力を見てみよう。

データセンター向け急拡大

生成AIの処理を担うデータセンターに向けた半導体ビジネスは急拡大している。突出するのがGPUで圧倒的なシェアを持つエヌビディアだ。直近、データセンター向け事業の売上高は23年5~7月期に急速にアクセルがかかり、23年11月~24年1月期には前年同期と比べ5倍まで膨らんだ。

データセンター向け売上高の推移(四半期ごと)
AMDは12月期、エヌビディアは1月期決算のため、四半期の範囲が1カ月ずれる

強さの源泉はソフトに

半導体単体の性能で見れば消費電力の少なさや演算能力でアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)を圧倒するわけではない。際立つのは半導体を動かすソフト群や開発環境において、早くから高度な計算に応用されてきたエヌビディアの強さだ。

例えば、09年には長崎大学がエヌビディアのゲーム用GPUを使い天文学などの応用計算に成功している。10年代のAI開発にも多く利用されてきた。

広がりを支えたのが06年に公開されたエヌビディアの開発基盤「CUDA」だ。当時の主要な用途だったゲームだけでなく、汎用的な開発環境に使える。利用者が増える中で、ツールやプログラム群も広がっていった。現在では400万人以上の開発者が利用している。

3月18日、エヌビディアが米国で開催したイベントには1万人超が詰めかけ、オンラインを含む登録者数は30万人を超えた。ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は「今日はコンサートでなく開発者会議だよ」と笑う。プレゼンテーションの画面にはITからソフト、自動車、医療など産業を代表する企業の名前が一杯に連なった。「これは出席者ではなく発表者たちのリストだ。100兆ドル規模の世界の産業が、今日ここに集まった」。エコシステム(生態系)の強さにファンCEOは自信を見せる。

ハードとソフトの両輪で盤石な顧客基盤を築いたビジネスモデルこそ、エヌビディアの独走を支えている。

開発環境「CUDA」が広く浸透
開発者が400万人、累計ダウンロード数が4000万、アプリケーションが3000
講演などでの公表値から作成

時価総額、10年で180倍

株式市場からの評価も加速度的に高まった。米国株をけん引する「マグニフィセントセブン(壮大な7銘柄、神7)」の2月末の時価総額を、14年末と比べてみよう。アップルが4倍、テスラが23倍なのに対して、エヌビディアは181倍だ。23年末からの2カ月だけで6割増と急伸している。

CUDAの公開から18年。他に高性能な半導体が開発されても、使い慣れた「ツルハシ」はなかなか手放されないと見られているようだ。

米国株「神7」の時価総額
出所はQUICK・ファクトセット
04

強まる「デジタル地主」の支配力

AIの学習に不可欠なGPUで独走するエヌビディアの最大顧客は米巨大テック企業だ。消費者や企業によるAI利用が米国プラットフォーマーのクラウドやデジタルサービスの収益源となり、再投資につながる自己強化が進行する。日本の存在感は皆無に等しい。「デジタル地主」にこつこつと料金を貢ぐ「デジタル小作人」に甘んじる懸念が強まっている。

GPUを爆買い、みせつけた巨大テックの資本力

生成AIの学習に欠かせないGPUは世界的に価格が上昇し、調達が困難になっている。世界シェア9割を握るエヌビディアからGPUを爆買いしているのは資本力で他を圧倒する米国企業だ。英オムディアによると、エヌビディアが開発する「H100」の23年の調達量はメタとマイクロソフトが15万基ずつ。アマゾン・ドット・コムやグーグルなども5万基の規模で購入している。調達力のない日本は最新のGPUを利用することが難しく、旧世代の機種しか使えない状況だ。

エヌビディアの「H100」は米国プラットフォーマーが買い占める
  • 米国
  • 中国
出所は英オムディア、2023年の企業別調達見込み数

データセンター米国に集中、5000カ所超え中国の12倍

AIサービスをクラウド経由で提供する米国プラットフォーマーの影響力はデータセンターの立地を見ても明らかだ。主要国別のデータセンター立地では米国が24年に5381カ所と、ドイツの10倍、中国の12倍に上る。三菱総合研究所の今村圭主任研究員は「AIの利用者が増え、クラウド大手がデータセンターへの投資を加速させる循環が出来上がっている」と指摘する。

AIサービスをクラウド経由で提供する米国にデータセンターが集中する
出所はクラウドシーン、24年の主要国別データセンター立地

国内でも外資が攻勢、24年に勢力図逆転

日本国内においても勢力図に変化が生じている。頭角を現しているのが米デジタル・リアルティ・トラストと三菱商事が共同出資するMCデジタル・リアルティや米エクイニクスなどデータセンターに特化したビジネスを展開する企業。外資のクラウド大手と組んでサービスを提供する。「クラウド大手の攻勢を前に、日本企業はデータセンターを縮小させる傾向が強まっている」とデジタルインフラに詳しい日本政策投資銀行の山内遼調査役は指摘する。

外資クラウドと組むデータセンター特化型企業が国内旧来勢力を上回る
出所は富士キメラ総研、業態別のサーバールーム面積

生成AIが電力「爆食」

Chat GPTの1問答2.9ワット時
Google検索0.3ワット時

生成AIの利用拡大で懸念されるのが電力問題だ。国際エネルギー機関(IEA)によると「Chat(チャット)GPT」の1問答に必要な消費電力は「Google検索」の10倍に相当する。

IEAの推定では26年にデータセンターが消費する電力量は620〜1050テラ(テラは1兆)ワット時。日本の22年の発電量の2~7割分が追加で必要になる。

AI強国を築くためには、安価で環境に優しい安定した電力供給力が重要になってくる。

世界のデータセンターによる電力消費量
将来推定はIEA、日本の発電量は経産省

脱デジタル小作人へ、国産クラウドの勝算は

進行するデジタル小作人化に歯止めをかけることはできるか。国産クラウドへの投資を加速させるのがさくらインターネットだ。経済産業省の支援を受け、北海道の石狩データセンターに130億円超を投じてGPUを整備し、1月から生成AI向けクラウドサービスの提供を始めた。今後5年ほどで500億~1000億円規模の能力増強も視野に入れている。舘野正明副社長は「生成AIでも敗戦すれば日本の国力はさらに縮小する。クラウドインフラを持てるかどうかが今後のカギになる」と話す。

さくらインターネットはGPUに投資し国産クラウド基盤の整備を急ぐ
さくらインターネットはGPUに投資を急ぐ
生成AIを学習させる基盤を国内で確保できるかが課題に
05

追撃する中国、日本の活路は?

「AI時代」の先頭を走る米国だが、中国も黙ってはいない。公開情報が限られる中でその実力に迫ると、中国の虚実と日本の活路が見えてきた。

公開前に安全評価、各国は規制強化へ

偽情報の拡散や偏見の助長への懸念が高まる中、各国はAIへの規制を強化している。欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会は3月13日、AIの開発や利用を巡る世界初の包括規制の最終案を可決した。生成AIの提供企業に、AI製であることを明示させるなど透明性の担保を求める。違反企業には制裁金を科す。

米国は23年10月に大統領令を発令した。開発企業にはサービスの開始前に、政府の安全性評価が義務付けられる。中国では生成AIアルゴリズムのデータ内容とアウトプット結果の状況などの届出が義務となっている。

米国や欧州がリスク回避に動く
AI規制の厳しい順に上から、中国は「政府主導。国家安全や治安維持にデジタル技術を活用」、EUは「ユーザーの権利保護に軸足。一般データ保護規則(GDPR)の流れ」、米国は「経済成長を重視。安保リスクは警戒」、日本は「既存の法令などを活用。さらなるAI規制を検討」

AI研究、数で圧倒する中国

技術革新の種となる学術研究分野では中国の存在感が増している。論文データベースのスコーパスを分析すると、23年のAI関連の国際共著数は中国がトップの9000件超だった。16年に米国を逆転して以降、その差は広がる。

中国狙うAI革新、学術研究で存在感
出所はスコーパス

激化する米中競争、日本は劣後

世界最大の海外留学生を送り出す中国は、数の力で国際共同研究の輪を広げる。ただ「論文の質」では米国優位の構図は崩れていない。スコーパスの被引用数に基づく指標では、中国は平均の1を下回る一方、米国は1.5前後だ。

経済協力開発機構(OECD)によると、米国におけるベンチャーキャピタル(VC)投資の累計額は中国の2倍を誇る。豊富な資金や集合知を背景に、各国はAI研究の果実を狙う。だがここでも、日本の存在感は薄い。

  • 米国
  • 中国
  • 日本
AI分野の国際共著数

出所はスコーパス

論文の質

出所はスコーパスのデータに基づく被引用数の指数(1が平均)

VC投資

出所はOECD、2012年以降の累計

ギットハブ上のAIプロジェクト

出所はOECD

日本の活路はどこに?

生成AIの基盤となる大規模言語モデルなどの開発で後れを取った日本。巻き返しは容易ではないが、国内でも反攻の動きが出始めた。

世界と真っ向勝負
ソフトバンクパラメーター数が1兆にのぼる大規模言語モデルの開発を計画

オープンAIをはじめとする海外勢と競う技術の開発をめざすのがソフトバンクだ。GPUで構成する計算基盤を自前で整備し、性能を示すパラメーター数が1兆にのぼる大規模言語モデルの開発を計画する。

省エネ性やセキュリティー面に強み
NTT小規模で高性能の言語モデルを提供
データセンターの省電力化につながる光半導体を開発
NECセキュリティーに敏感な金融業界などの需要を開拓

パラメーター数が多い大規模言語モデルは高い性能が期待できる半面、開発の際などに膨大な電力を消費し、コストがかかる。この点に着目するのがNTTやNECだ。NTTはチャットGPTのベースになった大規模言語モデルに比べて学習コストを約300分の1に抑えたモデルなどを提供し、海外勢とは異なる土俵で勝負する。同社はデータセンターの省電力化につながる光半導体なども開発中だ。省エネ性などに配慮した「持続可能な生成AI」は日本勢が活路を見いだす一つの方向性となる。

独自戦略を描く新興企業も
サカナAI小規模な言語モデルを多数組み合わせ高い知能を実現
イライザメタの技術をベースに海外の高性能モデルに匹敵する日本語対応のモデルを開発

23年に米グーグルの研究者らが日本で創業したサカナAI(東京・港)も注目の存在だ。魚が群れを形成するように小規模な言語モデルを組み合わせ、より効率的に高度な知能の実現をめざす。規模の拡大を追求してきた従来の大規模言語モデルとは一線を画し、新たなイノベーションを生み出す可能性を秘める。米メタの技術をベースに高性能の日本語モデルを開発するイライザ(東京・文京)など国内でも注目のスタートアップが台頭しつつある。3月18日にはKDDIがイライザを連結子会社化すると発表し、強力な後ろ盾を得て事業の拡大をめざす。

豊かな未来へ AIに戦略的に関与を

映画「ターミネーター」が公開された1984年から今年で40年。映画では自我に目覚めたAIコンピューターが2029年の未来から殺人サイボーグを過去に送り込む設定だった。現在、AIの研究者の間では人知を超える高度汎用人工知能(AGI)の議論が盛り上がる。SFで描かれた未来に現実味が帯びてきた。現代世界のAIは米国主導で急速にイノベーションが進みつつある。日本はAIにどのように関与し、豊かな未来を築いていくべきか。AIを構成するテクノロジーを解剖し、日本が強みを発揮できる領域を戦略的に切り開くことが経済安保の観点で要となる。