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3Dビジュアル解説 原発処理水を海洋放出へ
福島第一、廃炉へ新段階

政府は24日、東京電力福島第1原子力発電所で貯蔵する処理水の海洋放出を始めた。放出計画について国際原子力機関(IAEA)は「国際的な安全基準に合致」すると認め、政府は地元や周辺国に理解を求めてきた。海洋放出は廃炉に向けた重要な一歩となる。廃炉にかかる期間は事故から30~40年と長く、さらなる難関が待ち構えるものの、福島第1原発は新たな段階へと踏み出す。

01

原発敷地内めぐる1km超の配管、海底に1kmのトンネル

日本経済新聞は福島第1原発の現況を再現するため、6月中旬に原発から半径3キロメートル(km)離れた場所の上空をヘリコプターで周回して約4000枚の写真を撮影し、立体画像を制作した。原発処理水の海洋放出のメカニズムを3Dモデルをもとに解説する。

02

プール500杯超分の処理水、段階的に放出へ

毎月の汚染水発生量(1日あたり)

(出所)東京電力

汚染水は絶えず発生

11年の原発事故以降、汚染水は絶えず発生し、いまでも1日あたり約60m3(23年4月実績)が出ている。

原発処理水の貯蔵量

(出所) 東京電力(放出後は推定値。事故時点のトリチウムが全量存在している場合)

貯蔵量ゼロへ遠い道のり

汚染水を浄化した処理水も増加してきた。事故から12年が経過し、現在の約134万m3はオリンピックプールに換算して530杯分ほどに膨れ上がっている。

東電は21年に処理水の段階的な海洋放出により51年度に貯蔵量をゼロにするシミュレーションを策定した。放出完了までは30年近い道のりだ。

跡地を燃料デブリなどの保管施設に転用へ

「デブリ取り出しなど今後の廃炉作業に向け、保管タンクの敷地を空ける必要がある」と東電の担当者は話す。処理水の海洋放出で空になる保管タンクの跡地は、廃炉の過程で取り出す使用済み燃料や燃料デブリの一時保管施設などに使う。国立競技場1.1個分に相当する約8万1000平方メートル(m2)の敷地が必要と試算されている。

03

トリチウムは低濃度で海洋拡散、東電は「影響軽微」と説明

トリチウムは水素と似た性質を持ち、海水や雨水など自然界に存在している。東電が19年の気象・海象条件を基に算出した海洋拡散シミュレーションによると、港湾やトンネル出口周辺ではトリチウムの濃度が1リットルあたり1ベクレルを上回る地点があるものの、その範囲は局所的にとどまる。処理水放出による「⼈および環境への影響は極めて軽微である」とした。

処理水の放出に向けて周辺海域を調査する福島大学環境放射能研究所の高田兵衛准教授は「今回の放出は過去に青森県の再処理施設で流れたトリチウム量よりも低い」と説明した上で、「放出口付近では濃度は上がるだろうが、20km離れた場所では変化はみられないだろう。トリチウムは魚の体内に蓄積されにくく、回遊もするので濃度は下がりやすいのでは」と話す。

一方、風評被害を懸念する声はやまない。福島県漁業協同組合連合会の担当者は6月、「国や東電は安全性について説明しているが、まだ消費者には安心だと認識されていない」と不安を口にしていた。

東京電力が2019年の気象・海象条件を基に算出した処理水の海洋拡散シミュレーション

04

海洋放出への反応、欧米とアジアで割れる

原発からトリチウムを含む液体を排出する主な国・地域

(出所)経済産業省まとめ

トリチウムを含む液体は世界の原発や再処理施設で日常的に発生し、海や川に流れている。例えば、フランスの再処理施設では21年に年間1京ベクレル(京は兆の1万倍)が排出された。福島第1原発から放出されるトリチウムの年間上限量と比べて約450倍になる。

日本周辺におけるトリチウム排出量

(出所)経済産業省まとめ、海外原発は2020年または21年のデータ

アジアでは処理水放出に反対する中国の原発からも福島第1原発の上限量と比べて数倍の量が出ている。

食品の輸入規制、米国や欧州で撤廃の動き

欧米では日本産食品の輸入規制撤廃の動きが進む。欧州連合(EU)は原発事故を受けて設けた輸入規制を8月に完全撤廃した。これまで一部の食品輸入に義務付けてきた放射性物質の検査証明が不要になる。米国は21年に米食品医薬品局(FDA)が輸入規制を撤廃している。

一方、中国は福島第1原発の処理水放出について反対の姿勢だ。韓国政府は科学的評価に基づいて判断する立場だが、現地紙によると野党は7月上旬に処理水を「汚染水」と呼ぶなどして批判した。

中国がSNSで情報工作との指摘

SNS上では根拠のない臆測を拡散する動きがある。

部分の日本語訳

「日本は福島第1原発の汚染水を太平洋に流すことを決めた。世界の人々が被害を受けている。ひどい日本政府」

オーストラリアの戦略政策研究所(ASPI)は6月、中国共産党寄りとみられるツイッターのアカウントが情報工作に関与している可能性を指摘した。ASPIが指摘するアカウントはいずれもフォロワーがほとんどおらず、情報工作用アカウントとみられる。投稿画像には中国メディアからの転載もあった。

05

廃炉への最難関、始まる燃料デブリの取り出し

福島第1原発は東日本大震災による津波で全電源を失い、1〜3号機で炉心溶融(メルトダウン)が発生した。溶け落ちたデブリの取り出しは計画より遅れているものの、ようやく今年度後半にも2号機で始まる。

(2号機建屋・原子炉格納容器3Dモデル監修: 日本原子力学会廃炉検討委員会の宮野広委員長、東京大学の岡本孝司教授)

「まだ1gすら取り出せていない」

事故から30〜40年で廃炉を完了する計画には遅れが出ている。日本原子力学会廃炉検討委員会の宮野広委員長は「事故から12年でやっと内部の状況が分かってきた。ただ燃料デブリはまだ1グラム(g)すら取り出せていない。これから先が長い」と話す。

今後長くて険しい、世界でも例がない最難関が待ち構えている。

廃炉への歩み

2011年3月

東日本大震災発生

福島第1原発1〜3号機で炉心溶融事故

2012年1月

2号機の原子炉格納容器内を初めて撮影

2013年3月

汚染水からトリチウム以外の62種類の放射性物質を除去できる浄化装置ALPSが稼働

2014年6月

建屋まわりの土壌を凍結して汚染水増加を防ぐ「凍土壁」の着工

2017年7月

3号機の格納容器に水中ロボットを投入し、内部を撮影

2018年1月

2号機の格納容器底部で燃料デブリと見られる堆積物を撮影

2019年2月

2号機格納容器底部で小石状の堆積物をつかみ、動かせることを確認

2020年2月

政府の有識者会議が処理水の海洋放出が「より確実」との報告書

2021年3月

事故から10年

2021年4月

政府が処理水の海洋放出を決定

2022年8月

海洋放出に使う海底トンネルの掘削開始

2023年7月

IAEAが処理水放出について「国際安全基準に合致」との報告書公表

2023年8月

海洋放出を開始

2023年度後半

2号機の燃料デブリの試験的取り出しに着手

2028年度末

汚染水発生量を1日あたり50〜70m3に抑制

2031年内

1〜6号機の燃料取り出し完了

~2051年

事故から30〜40年で廃炉完了

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