全国の保育園で入園シーズンを迎えた。2018年4月の全国の待機児童数は4年ぶりに減少し、2万人を下回った。都道府県別で待機児童が最も多い東京都でも5414人となり、10年ぶりに5000人台まで減った。近年、保育園整備を急ピッチで進め、保育定員を拡大した成果がようやく表れた形だが、政府が01年から目標に掲げる待機児童「ゼロ」は達成できていない。今春も一部の自治体では入園が「狭き門」となった。ゼロはなぜ遠いのか。
東京では定員を増やしても待機児童ゼロは遠い
募集増と申込増が
追いかけっこ
受け皿を広げると転入が増えることも
注目したのは未就学児(0-5歳)の増加数(2016年度)がトップ3の港、中央、品川の湾岸3区。この3区は、4年間で合計約6300人分の定員を拡大、募集人数も約1900人分増やしたが、まだ保育需要に追いついていない。待機児童数が減ると、「自分も子どもを預けて働きたい」と思う親が増えて潜在需要を掘り起こしたり、近隣からの転入が増えたりして、翌年の申し込みがさらに増えることもある。
「年齢」と「場所」の
ミスマッチ
足りない1歳児枠、余る5歳児枠
空きはあるのに待機児童が発生
待機児童が思うように減らない背景には、「年齢」と「場所」のミスマッチも大きい。新設保育園では、4歳児や5歳児を募集しても申込者は少ない。開設後しばらくは定員割れすることが多く、年齢ごとの募集枠と申込者数のミスマッチが起きている。保育需要の高い地域は、駅から近かったり、人気の住宅地だったりすることが多く、保育園をつくる用地がみつけにくいという場所のミスマッチもある。
少子化でも都心は
未就学児が増
未就学児は5年間で2ケタの伸び
少子化に歯止めがかからない全国とは対照的に、湾岸3区では未就学児が大幅に増えている。1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)でも23区中トップは中央区と港区で1.42(17年)。急激な人口増に悩む中央区は1990年代の都心空洞化で始めた住宅を増やす政策を約20年ぶりに転換、マンションなどの住宅建設に対する容積率の緩和制度を廃止する方針。3区と同じ湾岸エリアに位置する江東区も保育園不足などに備え、マンション内でファミリー向けの住戸を約8割に抑えるよう義務付ける条例を定めた。
共働き世帯の
保育需要が急上昇
保育園を利用する児童割合が増えている
出産後も働き続ける人が増え、保育園の利用割合が急増している。都心部では、保育園を希望しても入れないことが多いため、保育需要はさらに高くなる。実際、中央区では、1-2歳児の保育需要が52.3%に上ると独自に試算している(17年度)。また、全国でも傾向は同様だ。厚生労働省によると、全国の保育園利用割合は13年4月に35%だったのが、18年4月に44.1%まで上昇した。
足りない保育士、
奪い合い続く
保育士の有効求人倍率、東京は6倍超
待機児童を減らすには、受け皿を増やすのが近道だ。だが、保育士や用地の不足が足かせとなっている。東京での保育士の有効求人倍率は全国の約2倍。19年1月、ハローワーク品川(品川区、港区)では31.55倍、同飯田橋(千代田区、中央区など)では66.69倍となった。両ハローワークには本社・本部を置く企業などが多く、有効求人倍率が特に高く出る傾向がある。保育園の用地不足も深刻で、都心への人口回帰や地価の高騰などにより、東京でまとまった用地を見つけることが年々難しくなっている。
- 取材・制作
- 山内菜穂子、森田優里