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世界、分断を超えて データで探るグローバリゼーション

グローバリゼーションが
試練に直面している

グローバリゼーションは国境を越えてヒト、モノ、カネを網の目のように世界につなげてきた。価値の交換を通じて世界に豊かさをもたらしてきた半面、富の偏在を生み、文化や価値観の違いによる対立も表面化した。ロシアがウクライナに侵攻し、米中対立が激しくなるなか、分断の試練に直面する。分断の先にある次の世界とは。ビジュアルデータで探る。

Next World 分断の先にNext World 分断の先に

01世界は
つながることで成長

グローバリゼーションは一進一退の歴史を繰り返しながら広がってきた。国際通貨基金(IMF)によると、世界の貿易額はこの50年で70倍と、国内総生産(GDP)の30倍を大きく上回るペースで膨らんだ。拡大の契機となったのは、1970年代に主要国で変動相場制への移行や資本移動の自由化が進み、国をまたぐ資本の移動が加速したことだ。貿易の急拡大はときに摩擦を生んだが、冷戦終結による東西融合や中国の経済成長、デジタル革命によって世界の結びつきは強まり続けた。反グローバリゼーションのうねりや米中の対立など試練に直面する現在も、世界経済はつながることで成長している。

1970年代

国境を越えた
資本移動が加速

1980年代

グローバリゼーションの拡大
日米貿易摩擦は激しく

1990年代

冷戦終結と
東西融合

2000年代

新興国の台頭と
世界金融危機の激震

2010年代

貿易量の伸びが停滞

2020年代

反グローバリゼーションの
うねりと分断の痛み

米国、貿易赤字の拡大で
保護主義的な通商政策にかじ

米国の貿易赤字額

(出所)国際通貨基金(IMF)の輸出入貿易統計(DOTS)

米国のモノの貿易総額は2021年時点で約4.6兆ドルと中国(6兆ドル)に次ぐ世界2番目の大きさだ。最も貿易が盛んな相手はカナダ(約6646億ドル)とメキシコ(約6611億ドル)で、中国(約6574億ドル)が次ぐ。半面、米国の貿易赤字は拡大し続け、2021年には1兆ドルを超えた。最大の相手国は中国で、貿易赤字全体の3割(3553億ドル)に達する。国際収支の不均衡や雇用の流出を問題視した米トランプ前政権は中国との対立を先鋭化。米中の覇権争いが激しくなるなか、バイデン現政権も保護主義的な政策を引き継いでいる。

中国、
独自の経済圏で勢力拡大

中国一帯一路参加国への累計投資額

(出所)アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)。2022年は上半期までのデータ

中国は「世界の工場」としての地位を確立し、GDPで米国に次ぐ世界2位に躍進するなど、経済のグローバル化で最大の恩恵を受けたといえる。中国はさらなる成長に向けて勢力の拡大に動く。2013年に巨大経済圏構想「一帯一路」を掲げ、足元の参加国は世界で約150の国・地域にのぼる。中国は一帯一路の参加国がインフラ整備に向けた資金を調達できるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立も主導した。2022年上半期までに一帯一路参加国への投資額は累計で約9000億ドルにのぼった。

欧州・ロシア間でつながり深く
エネルギー依存で打撃

ロシア産ガスへの依存度

(出所)欧州連合(EU)のエネルギー規制協調機関(ACER)

グローバリゼーションを通じた経済のつながりの深さは時には痛みももたらす。欧州各国は冷戦後にロシアとの貿易を急拡大し、特に天然ガスなどのエネルギーの大部分を依存することとなった。天然ガスの依存度はロシアによるウクライナ侵攻前の2021年時点でドイツやポーランドで50%前後、オーストリアでは8割を超す。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻によりロシアからの供給が滞りエネルギー価格が高騰した。各国政府はエネルギー政策の変更など対応に追われている。

02米中、
「分断」の難しさ

グローバリゼーションは試練に直面している。冷戦終結後の成長をけん引してきた米中は経済的な相互依存を深めながらも対立し、世界は2つの大国のはざまで揺れる。国家間の利害関係は複雑に絡み合い、一方向の「分断」は難しい。

世界の国・地域は米中のはざまで揺れる

米国主導の自由貿易とグローバル資本主義は国境をまたぐ競争を促し、金融危機が起きた2008年には世界の貿易総額はGDPのほぼ半分の規模に達していた。当時、米国を最大の貿易相手としていた国や地域は約50にのぼった。メキシコやカナダでは貿易額全体の6〜7割、日本や韓国では1割前後を対米貿易が占めていた。

金融危機後に冷え込んだ世界の需要を支えたのが、中国経済の成長だった。4兆元(約76兆円)の景気対策を皮切りにインフラ整備による内需拡大を図り、「世界の工場」としてだけでなく「世界の市場」としても存在感を増した。中国を最大の貿易相手とする国・地域は2021年時点で60と米国(34カ国・地域)のほぼ倍。日本にとっても米国を大幅に上回る最大の相手国となっている。

各国の対中貿易依存度が高まっている
米国の方が多い
半々
中国の方が多い

米国との貿易と中国との貿易を比べた比率

IMFのデータをもとに作成。各国・地域の対米・対中の貿易総額(輸出と輸入の合計)の比率に応じて米中間に配置した。対米・対中の貿易総額がちょうど同じ額ならば米中の真ん中に位置する。円の大きさはGDPの規模を示す

米中の分断、実効性は二極化

米国は貿易不均衡の是正を求めて対中国のデカップリング(分断)政策を掲げる。米ピーターソン国際経済研究所の分析によると、米国が中国からの輸入品に対して最初に関税を引き上げた2018年以降に中国以外の国や地域からの輸入額は40%近く増えたのに対し、中国からの輸入は7%増にとどまる。

もっとも、分断政策の実効性は二極化している。ハイテク製品や家電など25%の関税引き上げの対象となった品目では中国からの輸入が22%減と大きく落ち込んだ半面、パソコンや玩具など関税引き上げが見送られた品目では50%増とその他の国(38%増)よりも伸びが大きい。

中国からの輸入は貿易戦争前のトレンドを下回る
米国の輸入額(全品目)

2018年6月=100として指数化

  • 中国から
  • 中国以外の国・地域
関税引き上げ対象の品目の落ち込みは大きい
米国の輸入額(関税引き上げ対象の品目)

2018年6月=100として指数化

  • 中国から
  • 中国以外の国・地域
関税引き上げ対象外の品目は回復
米国の輸入額(関税引き上げ対象外の品目)

2018年6月=100として指数化

  • 中国から
  • 中国以外の国・地域

米ピーターソン国際経済研究所のデータから作成。輸入額は過去12カ月間の移動平均を2018年6月=100として指数化

03分断の対価、
痛みは世界に

複雑に絡み合う世界では、分断や対立の対価も大きい。米中対立やロシアのウクライナ侵攻によって食料やエネルギーの安全保障は脅かされ、各国は歴史的な高インフレに直面した。

それぞれの指標が1998年1月以降の平均からどの程度乖離(かいり)しているかをスコア化し、ヒートマップとして表示した。色が濃いほど平均より上昇(増加)、薄いほど平均より下落(減少)していることを示す。商品価格はリフィニティブ、FRED、国連食糧農業機関(FAO)、ニューヨーク連銀、消費者物価はIMFの消費者物価指数(CPI)、軍事費・防衛費はストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータをもとに計算している。一部の項目では代表的な指標の年間平均(2022年は12月中旬まで)からスコアを算出した

エネルギーや食品価格、
軒並み高騰

リフィニティブ、FRED、国連食糧農業機関(FAO)、ニューヨーク連銀

モノの流通が停滞し、商品価格は軒並み急上昇した。エネルギー価格や食品価格の推移をヒートマップでみると、インフレ圧力の強さがうかがえる。ヒートマップでは価格が上昇するほど色が濃くなる。欧州の原油価格の代表的な指標である北海ブレント原油先物は一時約14年ぶりの水準まで上昇。世界の食料価格の動向をまとめた国連食糧農業機関(FAO)の指数は最高値を付けた。

消費者物価、各国で急上昇

IMFのCPI

モノの値段の上昇は世界の消費者の生活を圧迫する。日本や米国、中国、欧州など10カ国のCPIのヒートマップでは、2022年はすべての国が過去25年間で最も濃い色を示した。深刻なインフレで米連邦準備理事会(FRB)をはじめとする主要中銀は急ピッチの利上げを余儀なくされ、世界経済の減速懸念もくすぶる。

軍事費や防衛費、拡大続く

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)

国際情勢が不安定さを増すなか、多くの国が軍事支出の拡大に動いている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2021年の世界各国の軍事・防衛費は合計で2兆1130億ドルと過去最多に膨らんだ。冷戦終結直後の1990年よりも4割以上拡大している。ロシアは原油価格の上昇による収入を軍事費拡大に振り向け、中国も南シナ海を含む地域一帯で「強軍建設」を掲げる。2022年には欧州各国も軍事支出を増やすと表明。日本の岸田文雄政権は防衛費増額のための増税を掲げる。

04グローバリゼーション、この先

グローバリゼーションはこの先どうなるのか。取材班は多くの識者に尋ね、考えた。そのうち約50人のインタビューについて、キーワードの登場頻度や特異性などを文字の大きさで示す「ワードクラウド」の手法で可視化した。頻度が高かったのは「中国」で346回出てきた。ロシアがウクライナに侵攻し、台湾有事が現実味を帯びてきた。権威主義国家への警戒が強まり「民主主義」「戦争」も目立った。「信頼」「インターネット」も頻出した。グローバリゼーションをつなぎとめるための考え方や手段として挙がった。

ロシアのウクライナ侵攻によりグローバリゼーションは分裂し、夢物語になった。東西、あるいは東西南北のような分裂が今後10年は常態になるだろう。再び、世界中で価値を自由に交換していくために最も大事なのは国家間の政治的信頼の回復だ。平和が保たれなければ、グローバリゼーションの回復は難しい。
御手洗 冨士夫
キヤノン会長兼社長最高経営責任者(CEO)
グローバリゼーションが終わるとは思っていないが、パラダイムは変化している。歴史はまったく同じように繰り返されることはない。人間の文明を振り返ると、常に繰り返し変化が起きてきたことを歴史は示している。重要なのはどのような変化の波が起きているかということだ。私たちが今後もグローバリゼーションの恩恵を受けることは変わらない。
タン・フイリン
グラブ共同創業者
インドネシア、ベトナム、インドなどは米国や中国、欧州が主導するグローバリゼーションの新たな姿を見据えている。今の「反グローバリゼーション」の流れは特定の国で起きている現象だ。中立を維持し、グローバリゼーションを推進する国は繁栄を享受するだろう。その一例がメキシコだ。中国からメキシコに生産拠点を移す動きが加速している。
レイ・ダリオ
ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者
一部でグローバリゼーションが終わったという主張があるが、ばかばかしい話だ。例えば、ロシアがウクライナを侵攻して数週間後、私は「エアビーアンドビー」でウクライナの宿泊施設を借り、個人として寄付をできた。世界中の個人が密接につながり、新たな事が起きているのに、グローバル化が止まってしまったと主張するのはナンセンスだ。
トーマス・フリードマン
米コラムニスト
許しがたいロシアのウクライナ侵攻など、地上では政治・外交で様々な問題がある。とはいえ、グローバリゼーションが進む世界で極端(な分断)に陥らないよう、宇宙や文化など多様な軸で意思疎通を図るべきだ。それぞれの国が文化や体制を持つこと自体は大切だ。実現まで時間はかかるものの「地球市民」の一人ひとりが共通の意識を持てば互いに尊重し合えると期待したい。
山崎 直子
元JAXA宇宙飛行士
Next World 分断の先にNext World 分断の先に 図解 グローバリゼーション図解 グローバリゼーション