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復興の街が問う未来
阪神大震災から25年
6434人が犠牲となった阪神大震災は2020年1月17日で発生から25年。最大震度7の大地震が神戸市などを襲い、都市部に集中して大きな被害をもたらした。インフラ、企業などが復興を遂げてきた一方で、歳月の流れとともに震災の記憶の風化が進む。当時の惨状をとらえた写真と直面する課題や復興を示すデータで、四半世紀の歩みを追う。
発生
1995年(平成7年)
1月17日5時46分
震源
兵庫県淡路島北部沖合の
明石海峡
犠牲者6434人、被害額9.9兆円
震災の直接被害額は約9.9兆円に上る。復旧・復興事業費は約16.3兆円。阪神大震災では津波による溺死が多かった東日本大震災と違い、建物の倒壊による窒息死や圧死が目立った。高速道路や新幹線などが大打撃を受け、重要インフラの「安全神話」が崩壊。耐震基準や地震予知などが見直された大きな転換点となった。
写真でみる神戸周辺の
1995年当時と今
1995年
2019年
1995年
2019年
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2019年
1995年
2019年
震災の爪痕なお
暮らしの再建難しく
現在、神戸の人口は約152万人。震災前の151万人から震災後に一時は142万人まで減少。震災により神戸を支えてきた重工業、酒造や靴といった分野の活力は、落ち込んだ。
災害公営住宅 高齢化率53%
復興住宅の高齢者の割合
%
兵庫県では住まいを失った被災者らが暮らす「災害復興公営住宅」の高齢化が深刻だ。人口に占める65歳以上の人の割合を示す高齢化率は約53%(19年11月末時点)。全国平均の高齢化率約28%と比べて高い。背景には我が家の自力再建がかなわない一人暮らしのお年寄りが多く入居したことがある。現在まで暮らしの再建はままならない。東日本大震災の被災地、岩手県の災害公営住宅でも高齢化率は約44%。被災地の高齢化は全国に重くのしかかる課題といえ、孤立を防ぐ取り組みは急務だ。兵庫県立大大学院の室崎益輝教授(防災学)は「高齢者の見回りやコミュニティーづくりを支援する仕組みが必要」と提言する。
日本酒の出荷量、震災前の3割
灘五郷清酒の出荷量
万キロリットル
神戸は日本を代表する酒どころだ。「白鶴」や「大関」などが集まる兵庫県西宮市から神戸市にかけての灘五郷も大打撃を受けた。若者の日本酒離れが進む中、廃業も相次ぎ、日本酒の出荷量は18年に震災前の3割ほどに。大きな被害を受けた神戸市長田区で生産が盛んなケミカルシューズも生産額は震災前の6割に届かない。
ケミカルシューズの生産額
億円
医療産業都市へ脱皮、
神戸の復興をけん引
震災を機に、神戸は重厚長大産業への依存から脱し、医療やIT(情報技術)といった分野にシフトしている。「神戸医療産業都市」には関連する368社・団体(19年12月末時点)が集まり、日本最大級の医療クラスター(集積地)に成長。神戸の復興のけん引役となっている。
復活した神戸港
コンテナ貨物取扱量は
過去最高
神戸港のコンテナ取扱数
万個
日本を代表する港、神戸港は商業港としての機能を奪われ、復旧に長い年月を要した。それでも着実な復興を遂げ、コンテナ貨物取扱量(20フィートコンテナ換算)は17年に292万4000個と過去最高を更新し、18年は294万4000個に達した。輸出入総額も震災前の7兆1000億円を上回り、18年に9兆2600億円と過去最高を更新。国際コンテナ戦略港湾に指定されるなど、神戸港の復活を印象づけた。
問われる都市の実力、
人口減での持続可能な
まちづくりへ
震災復興に追われた神戸は都市間競争で守勢に回った。神戸と同じく人口150万人規模の福岡市や川崎市などと比べ、人口やGDPなど基礎的な都市の実力がいずれも伸び悩んでいる。持続可能な都市経営をめざして市中心部でのタワーマンション規制と郊外ニュータウンの再生、米有力ベンチャーキャピタルと連携したスタートアップ支援と市内への拠点誘致などに取り組み、神戸の魅力の再構築に力を入れている。
震災の記憶や教訓
次世代に
四半世紀の歳月の流れとともに震災後に生まれた世代が増えてきた。風化への危機感は強く、震災の経験や備えの大切さを次世代にどう伝えていくのか。阪神大震災以降、東日本大震災など自然災害が相次ぐ日本社会における共通の課題でもある。
世界118の国・
地域に発信 JICA関西
震災の経験や備えの大切さを、兵庫から国内外に積極的に発信している。国際協力機構(JICA)関西(神戸市)では2007年度から、海外の行政官らに震災の教訓などを学んでもらう「防災研修」をスタート。研修はアジアやアフリカなどを中心に世界118カ国・地域に及ぶ。各国の状況に応じて防災支援する狙いがある。20年の東京五輪・パラリンピックや25年の大阪・関西万博などでインバウンド増が見込まれる中、海外に記憶や教訓をさらに発信していく好機となる。
止まらぬ世代交代、
震災経験の神戸市職員41%
神戸市では震災を経験している職員は41%にまで減少している。市全体では96年以降に生まれた世代が5人に1人を占めており、時の流れを感じる。震災を経験した市職員の減少には、当時、震災業務に従事した職員が定年で退職していくことが大きい。記憶が風化していくことへの危機感は強く、市担当者は「当時の教訓をどう引き継ぐか重要な課題」と話す。
死者予想、首都直下は2万人超
南海トラフなら32万人超
問われる「備え」
2019年に日本周辺で起きた
マグニチュード2.5以上の地震
首都直下地震と南海トラフ巨大地震が起きれば、甚大な被害が予想される。前者の被害想定では首都圏全体で最大2万3千人が死亡。後者も東海から九州までを揺れが襲う。死者は最大32万人、経済被害は220兆円超に膨らみ、東日本大震災を上回る被害が出る可能性がある。
政府が提言するのは、耐震化や業務継続計画(BCP)などの減災対策だ。停電や断水、交通機関のマヒなどインフラが長期間にわたり寸断される可能性があり、日ごろから水や食料などの備蓄が求められる。米地質調査所によれば日本周辺でM2.5以上の地震が19年の1年間で800回以上発生した。自然災害のリスクにさらされる中、日本全体での「備え」が問われている。