特集
3大死因と医療費の地域格差

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06

Medical now and future
Health expenditures / Mortality ratio

「老衰」の地域格差

データでみる あなたの市区町村は?

「老衰死」神奈川県茅ヶ崎市は全国の2.1倍
医療費は安く

 全市区町村マップで人口20万人以上の約130市区を比較すると、男性で老衰死の割合が最も高いのは神奈川県茅ヶ崎市だ。全国平均の基準値を「100」とした老衰の死亡率は210.2で、2.1倍多い。1人当たり医療費でみると35万5074円で、全国平均より約5万円低い。

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 逆に老衰の死亡率が最も低いのは大阪府茨木市の男性の30.9で、全国平均より7割少ないことになる。1人当たり医療費では41万6759円で全国平均を上回る。健康長寿社会を実現して老衰死が増えれば、穏やかに最期を迎えられるだけでなく、国が目指す医療・介護費の適正化にもつながる可能性がある。

神奈川県茅ヶ崎市

判例

  • 男性
  • 老衰

神奈川県

茅ヶ崎

人口(2015年国勢調査)

239,348

一人当たり医療費(円)

355,074

医療費全国平均

404,056

老衰死亡率男性女性
210.2172.1

老衰死は2000年以降増加 5番目の死因

 死因としての老衰は、厚生労働省の「死亡診断書記入マニュアル」で「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死」と定義している。医師が医学的な因果関係から直接の死因かどうか判断して記入している。

 老衰死は1950年から90年代にかけて減少。高齢者の増加に伴い、2000年には約2万1千人だったが、15年は約8万4千人と4倍に増え、がん、心疾患、肺炎、脳血管疾患に次ぐ5番目の死因になっている。

  • 老衰
  • 悪性新生物
  • 心疾患(高血圧性を除く)
  • 肺炎
  • 脳血管疾患
  • 不慮の事故
  • 結核
  • 自殺

日本人の主要死因の年次推移
(厚生労働省「人口動態統計」を基に作成)

「老衰死」多いほど医療費低く

 老衰は年齢の規定はないものの、ほぼ75歳以上の後期高齢者だ。このためより正確に老衰死と医療費の関係を調べるために、全市区町村マップをつくる際に独自に入手した後期高齢者の1人当たり医療費と、老衰死の死亡率を比較してみよう。老衰死の死亡率は厚生労働省が年齢調整して2008〜12年の5年間の死亡数から算出している。医療費は2008年度から後期高齢者医療保険制度が始まり、データを入手できたが、初年度は11か月で算出している自治体もあり、2009年度から12年度までの4年間の平均を算出して比較すると、男性も女性も老衰死で亡くなる人の割合が多いほど、医療費が低くなることが分かる。

後期高齢者1人当たり医療費×老衰の死亡率(男性)

後期高齢者1人当たり医療費×老衰の死亡率(男性)

後期高齢者1人当たり医療費×老衰の死亡率(女性)

後期高齢者1人当たり医療費×老衰の死亡率(女性)

死亡率格差は男性6.8倍、女性4.3倍
医療費2兆3千億円減る可能性

 老衰死の市区間の格差は男性で最大6.8倍、女性で4.3倍に上った。老衰死の割合は75歳以上の高齢者の割合とは関係性がなかったが、全体として男性の老衰死の死亡率が高い市区では女性も高い相関があり、多くは男女とも市区で同じ傾向だった。健康な高齢者の割合の多さや周辺の医療機関の対応の違いが影響している可能性がある。

老衰死の高い市区(男性)

老衰死の高い市区(男性)

老衰死の高い市区(女性)

老衰死の高い市区(女性)

 人口20万人以上の市区で、男性で老衰死が最も高かった神奈川県茅ケ崎市は、女性も171.1と2番目の高い。同市の病死は、がんと脳梗塞が全国平均より1割少なく、心筋梗塞が3~4割低く、老衰の割合を押し上げていた。75歳以上(後期高齢者)の1人当たり医療費は4年間平均では約79万2千円で、国全体の平均(約93万2千円)より14万円低い。老衰では終末期を迎えても病気ではないため積極的な治療が抑えられているとみられる。もし全国約1740の市区町村が茅ケ崎市と同じ医療費ならば国全体で2兆3千億円の医療費が減る計算になる。

「老衰死」増えても介護費は増えず

 老衰で亡くなる人が多いと、介護費が増える可能性がある。このため調査では市区別の死亡比と、同じ5年間の1人当たり介護給付費の平均額で比べたが関係性はなかった。介護費は最も高い愛媛県松山市の約28万9千円から最も低い埼玉県越谷市の約14万2千円までばらついていたが、全体として介護費が増える傾向はなかった。

1人当たり介護費×老衰の死亡率(男性)

1人当たり介護費×老衰の死亡率(男性)

1人当たり介護費×老衰の死亡率(女性)

1人当たり介護費×老衰の死亡率(女性)

増え続ける1人当たり医療費
健康長寿で老衰死増えれば抑制も

 国全体の医療費は30年前の1985年は約16兆円だったが、膨張し続けており、2015年度は約42兆4千億円に達した。この間に人口はほぼ横ばいだったため1人当たりの医療費は2.5倍に増えたことになる。増加した要因を分析した慶応大学の印南一路教授らの試算によると、増加分の半分は高齢化の影響だったが、残りは医療技術の進歩によるコストの上昇などが影響しているという。この間に国内総生産(GDP)は1.6倍しか増えておらず、保険料のほか、税金を投入しているため国の財政を圧迫している。

国民医療費(兆円)

国民医療費(兆円)

1人当たり医療費と総人口・GDPの伸び率(%)

1人当たり医療費と総人口・GDPの伸び率(%)

 ただこれまで分析したように健康長寿で老衰死が増えれば、医療費の伸びを抑えられ、介護費も増加しない可能性がある。現在、日本の財政の3分の1は将来世代への借金で支えられている。市区町村別に1人当たりの医療費と、「がん」「心臓病」、「脳卒中」、そして「老衰」の死亡率の格差が生じている分析をして医療や介護のコストを抑える政策こそが将来世代に借金のツケを回さないために不可欠だ。

取材・制作
前村聡、鎌田健一郎、清水正行、安田翔平

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