京急事故

踏切の危険性を探る

共同

5日午前、京浜急行電鉄の神奈川新町ー仲木戸駅間(横浜市)の踏切で電車とトラックの衝突事故が起きました。詳しい事故原因は神奈川県警などが調べています。首都圏は世界的な踏切の密集地帯で、東京23区には約600カ所とパリの90倍もの踏切があります。事故件数が通常の踏切の約4倍とされる「開かずの踏切」も多く残ります。踏切の安全対策がのぞまれます。

写真と映像で見る踏切事故現場

京浜急行電鉄の説明を元に、事故現場の状況を動画で再現しました(写真は共同から)。事故現場は横浜市神奈川区の京浜急行電鉄「神奈川新町第1踏切道」です。踏切は神奈川新町駅と仲木戸駅の間にあり、神奈川新町駅のすぐ近く。周辺には商店や企業の事務所、工場、住宅などがあります。京急の線路には、並行してJRの線路や国道が走っています。

運転を再開した京急神奈川新町駅のホーム(7日、横浜市神奈川区)

トラックと電車が衝突した事故現場の踏み切り(7日、横浜市神奈川区)

車両撤去後、復旧作業が続く事故現場(7日午前、横浜市神奈川区)

脱線した車両をつり上げ復旧作業が進む事故現場(6日、横浜市神奈川区)

京浜急行の電車がトラックと衝突、脱線した事故現場。日没後も復旧作業が続けられた(6日夕、横浜市神奈川区)=共同

京浜急行の電車がトラックと衝突、脱線した事故現場。日没後も復旧作業が続けられた(6日夕、横浜市神奈川区)=共同

6日午前、京急川崎駅の改札前で、運転の見合わせを伝える掲示板と駅員=共同

6日午前、京浜急行の神奈川新町―仲木戸間で電車がトラックと衝突、脱線した事故現場。復旧作業が続けられる(横浜市神奈川区)=共同

京浜急行の車両がトラックと衝突した踏切付近で、散乱したものを片付ける神奈川県警の捜査員ら(5日午後、横浜市神奈川区)=共同

京浜急行の電車とトラックが衝突し、黒煙が上がる事故現場(5日、横浜市神奈川区)=住民提供・共同

京浜急行の電車とトラックが衝突した踏切(5日、横浜市神奈川区)

京浜急行の電車とトラックが衝突した現場に集まる作業員ら(5日午後、横浜市神奈川区)

開かずの踏切の定義

開かずの踏切の定義は待ち時間40分以上

国土交通省は40分以上の待ち時間がある踏切を開かずの踏切とみなし、2016年に全国532カ所を指定しています。事故が起きた「神奈川新町第1踏切道」もそのひとつ。ピークで48分もの待ち時間がある「緊急に対策の検討が必要な踏切」でした。カラー舗装で車道と歩道を分けて事故防止に配慮はしていましたが、立体交差などの対策は打てていませんでした。「交通量が少ない踏切のため優先度は低かった」(京急)としています。

開かずの踏切データ

開かずの踏切は全国532カ所のうち、7割の371カ所が首都圏に集中

国土交通省は2016年6月に「緊急に対策の検討が必要な踏切」として全国の1479カ所を指定しました。このうち、長時間遮断機の降りた状態が続く「開かずの踏切」は全国で532あり、7割にあたる371カ所は首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に集中しています。最多は東京都の245で、今回事故の起きた神奈川県が73で続きます。一方、関西圏は130カ所とそれほど多くありません。

全国的にみて、交通の集中する首都圏は踏切事故のリスクにさらされやすいといえます。

踏切の安全対策

踏切の安全対策には莫大な費用がかかります。線路と道路を分離する立体交差化には1カ所だけでも億単位の工事費が必要で、鉄道会社には負担が重くのし掛かります。そこで国土交通省などが「当面の対策」と位置づけるのが、自動車道と歩道を見分けやすくするカラー舗装です。100万円程度で済むため、多くの踏切で採用されています。ただ、開かずの踏切などで起こる事故防止の観点からは、抜本的解決になっていないのは言うまでもありません。

全国の踏切事故件数

これまでの主な踏切事故

発生日鉄道会社場所死亡者数負傷者数
1989/1/29秩父鉄道秩父線 西羽生駅〜新郷駅間60
踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突して脱線した
1990/1/7JR北海道室蘭線 白老駅〜社台駅間50
踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突した
1991/6/25JR西日本福知山線 丹後竹田駅〜福知山駅間0333
踏切道の高さ制限用固定ビームに荷台のパワーショベルが接触して踏切道内に停止していたトラックに列車が衝突した
1991/10/11阪急電鉄京都線 正雀駅〜南茨木駅間50
踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突して脱線した
1992/9/14JR東日本成田線 久住駅〜滑河駅間190
踏切道に進入してきた自動車に列車が衝突して脱線した
2007/3/1JR北海道石北線 美幌駅〜緋牛内駅間051
踏切道に進入した大型トレーラーに列車が衝突して脱線した

内閣府の交通安全白書によると、踏切事故の件数はこの20年で半減しました。2018年の事故件数は247件と、500件近かった2000年前後からは大きく減りました。国土交通省が鉄道各社に対して踏切の安全対策を求めてきた成果が出ているといえます。踏切に関連する重大事故は51人が負傷した2007年のJR北海道の事故以来、起こっていませんでした。

今回の事故は比較的乗客の少ないお昼の時間帯で起こりましたが、通勤や帰宅の時間帯などに重なっていた場合にはより大きな影響が出ていた可能性があります。これまでの踏切の安全対策だけでは十分だったとは言えず、対策の見直しが必要になりそうです。

主な鉄道各社の開かずの踏切数

(注)国土交通省資料より作成、2016年6月時点

2016年6月時点で鉄道各社の開かずの踏切の数を調べると、京浜急行電鉄は7カ所と多くはありません。上位を見ると、西武鉄道が81で最多で、東日本旅客鉄道(JR東日本)が76で続きます。各社とも安全対策を施していますが、踏切がある限りは事故のリスクは残ります。

海外と比べて日本の都市部は踏切が多い
東京23区はパリの90倍

東京23区ニューヨークロンドンベルリンパリ(注)
踏切数カ所6204813467
人口万人914841831338225
面積km262312141572892620

(出所)国土交通省資料(2014年度末時点)

(注)パリは周辺3県を含む

海外と比較すると、日本の都市部は踏切の多さが目立ちます。例えば、フランスのパリは周辺3県を含めて踏切は7カ所しかありません。東京都は23区だけでパリの90倍の踏切があります。その他の主要都市と比べても多く、日本の鉄道に特有の問題と言えそうです。

取材・記事
黄田和宏、新田祐司、佐藤信博
制作
清水明、清水正行、斎藤健二、安田翔平、大島裕子、鎌田健一郎

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