公示地価、 経済活動の正常化映す
3月22日に発表した公示地価(2023年1月1日時点)は全用途の全国平均が2年連続で上昇した。上昇率は1.6%で、前年より1ポイント拡大した。新型コロナウイルス禍からの経済社会活動の正常化が進み、都市部を中心にオフィスや店舗の需要が回復。働き方の変化もあり、郊外での住宅需要は拡大を続ける。足元では米欧の金融システム不安などを背景に、海外マネー流入の鈍化は懸念材料となっている。
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三大都市圏、オフィスなど都心回帰三大都市圏、
オフィスなど都心回帰
東京、大阪、名古屋の三大都市圏の地価はコロナ禍からの回復を映し出した。全用途平均は2.1%上がり、全国平均の1.6%上昇を上回った。商業地で東京、名古屋が2年連続で上昇し、前年に横ばい止まりだった大阪が3年ぶりにプラスに転じた。人の動きが活発になり、オフィス街や繁華街で地価の回復が目立つ。
東京 都心3区で3年ぶり商業地上昇 都心3区で3年ぶり商業地上昇
中央区八重洲1-5-20(八重洲1丁目105番53)
東京23区の商業地は3.6%上昇した。千代田・中央・港の都心3区が3年ぶりにプラスに転じるなど都心回帰の動きがみられる。前年はマイナスが顕著だった東京駅周辺も横ばい、または上昇した地点が目立つ。商業地で全国最高価格の中央区銀座4-5-6(山野楽器銀座本店)は1平方メートルあたり5380万円で前年から1.5%上昇した。
大阪 中心部駅前店舗の収益性改善 中心部駅前店舗の収益性改善
大阪市北区大深町4-20(大深町207番外)
大阪府の商業地は2.5%上昇、3年ぶりに回復に転じた。府内最高値は3年連続でJR大阪駅の「グランフロント大阪南館」で、前年の3.5%のマイナスから1.4%のプラスになった。新型コロナウイルスの重症者数がピークを下回る状況が続くなど落ち着きを徐々に取り戻し、店舗の収益性が改善。JR大阪駅北側の再開発への期待感も強い。
名古屋 栄エリアの再開発がけん引 栄エリアの再開発がけん引
名古屋市東区泉1-13-34(泉1丁目1317番)
名古屋市の商業地は5%上昇した。全16区で上昇幅が拡大し、回復基調が鮮明だ。上昇率が最も大きかったのは13.8%上昇した「シティコーポ久屋・建設会館」。ほど近い栄エリアは近年再開発が活発で、地価上昇のけん引役となっている。名古屋市外の愛知県や三重県の一部を含む名古屋圏の商業地は東京・大阪圏と比べ上昇率が高かった。名古屋圏はインバウンドの需要が比較的少なく、新型コロナウイルス禍からの回復も早かったとみられる。
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鉄道新線開通・計画、効果及ばぬ地域も鉄道新線開通・計画、
効果及ばぬ地域も
鉄道新線の開通、計画は地域住民にとって通勤、通学が便利になるため計画段階から地価が上昇する傾向が強い。横浜市の新横浜線開通では新駅周辺の地価が上昇した。一方で西九州新幹線が開業した佐賀県武雄市では店舗などの進出機運が乏しく、地価への効果は限定的だった。
綱島
(神奈川県)
新横浜線開業、都心アクセス向上
新横浜線開業、
都心アクセス向上
横浜市港北区綱島東1-16-18(綱島東1丁目1227番2)
3月18日に開業した相模鉄道と東急電鉄の直通線「新横浜線」により、沿線住民の東海道新幹線新横浜駅、都心へのアクセスが大きく向上した。沿線の駅周辺では高層マンションを含む複合施設の建設など再開発が進み、好調なマンション需要が地価にも波及している。新しく誕生した新綱島駅に加え、新横浜駅などがある横浜市港北区の住宅地は2.6%上昇したほか、羽沢横浜国大駅(同市神奈川区)近くの地点では5.3%上昇となった。
敦賀 (福井県) 24年春の新幹線延伸に期待 24年春の新幹線延伸に期待
敦賀市本町2-12-3(本町2丁目12番5)
福井県敦賀市の商業地が1992年以来、31年ぶりに上昇に転じた。2024年春に予定される北陸新幹線の延伸では敦賀駅が当面の終着駅となる。敦賀駅西口の再開発は22年秋に完成し、敦賀市が丸善雄松堂などと組んだ大型書店「ちえなみき」などがにぎわう。福井県内の伸び率では北陸新幹線が停車する芦原温泉駅の東側が住宅地で、福井駅の東側が商業地でそれぞれ首位となっており、新幹線効果に期待が高まる。
武雄 (佐賀県) 西九州新幹線の恩恵少なく 西九州新幹線の恩恵少なく
武雄市武雄町大字富岡字内町7642番7
佐賀県武雄市の商業地は下落した。西九州新幹線が武雄温泉(同市)ー長崎(長崎市)間で2022年9月に開業し、観光客らの増加を当て込んだ商業施設や飲食店の出店が期待されたが、大型のテナントを開設するなどの動きは鈍かった。不動産鑑定士の樋口隆弘氏は「今のところ、新幹線の開業後に土地の需要が逼迫している動きはない」と説明する。
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外資・インバウンド、地価を揺らす外資・インバウンド、
地価を揺らす
海外からの資金、人の流入が引き続き地価を左右している。台湾の半導体メーカーが工場を建設する熊本県菊陽町周辺では地価が大きく上昇し、効果はしばらく続くとの予測もある。スノーリゾートとして外国人に人気のある北海道倶知安町はすでに短期間で地価が急上昇していたうえ、新型コロナウイルス禍で商業施設が休業し、地価上昇に急ブレーキがかかった。
熊本 TSMC工場の波及効果大きく TSMC工場の波及効果大きく
菊池郡菊陽町大字津久礼字石坂2172番25
半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)進出に沸く熊本県。TSMCが工場建設を進める周辺エリアを中心に住宅地、商業地、工業地いずれも大きく上昇した。住宅地は1.9%、商業地は1.9%、工業地は3.8%それぞれ上昇し、全用途で見ると2.0%上がった。用地需要の波及効果が工場周辺エリアで強い地価上昇を招いている構図が浮かび上がった。不動産鑑定士によると、さらなる地価上昇を期待する地主や不動産所有者もいて「姿勢が強気で売り渋りの動きも見られる。アパートやホテル、物流倉庫の用地などは今後も継続して価格上昇を予測する」という。
倶知安 (北海道) インバウンドによる急上昇一服 インバウンドによる急上昇一服
虻田郡倶知安町南3条東1丁目16番9外
国際的なスノーリゾート・ニセコを抱え高い地価上昇率が続いた北海道倶知安町では伸び率が鈍化した。倶知安駅に近い住宅地の地価は2015年から3倍と急上昇したが、23年は前年比で0.4%増と伸びが止まった。新型コロナウイルス禍で外国人観光客が激減しリゾート施設は休業に追い込まれた。施設の従業員は雇い止めとなってアパート需要が停滞したほか、外国人富裕層による高額の土地取引も減った。
浅草 (東京都) 東京商業地上昇率トップ10に3地点 東京商業地上昇率トップ10に3地点
台東区西浅草2-13-10(西浅草2丁目66番2)
首都圏ではインバウンド(訪日外国人)回復への期待から地価が大きく上昇したのは外国人に人気の地域だった。東京都の商業地の上昇率上位10地点のうち台東区浅草地区が3地点を占めた。首位の台東区西浅草2-13-10はつくばエクスプレス(TX)浅草駅前の立地で浅草寺雷門、仲見世商店街に比較的近い。割安感も手伝って8.8%上昇した。