最年少三冠王 村上宗隆 どれだけすごい?

プロ野球界に18年ぶりの三冠王が誕生した。ヤクルトの村上宗隆である。22歳での戴冠は史上最年少、56本塁打は日本人選手の最多記録だ。セ・リーグMVPに輝いた昨季から一段と進化を遂げた無敵の打棒が、球史に残るシーズンを生んだ。

敬称略。大谷翔平の写真はゲッティ共同、ほか王貞治ソフトバンク球団会長の写真を除きすべて共同。

01 ホームラン56本  日本選手シーズン最多記録

選手名を押すとその選手の2022年シーズンの全本塁打が見られます(大谷のみ日本ハム在籍時の2016年)。平均飛距離は推定。

広角に打ち分ける

56本塁打を放ち、1964年に王貞治(巨人)が打ち立てた日本選手のシーズン最多本塁打記録を更新した村上。「聖域」ともいえる大記録を破った背景には、本塁打を広角に打ち分ける高い技術がある。左打者の村上が今季に放った本塁打の打球方向を見ると、右方向が25本、中堅方向が13本、左方向が18本。55%を中堅から左方向が占めた。着弾点を見てもグラウンドを90度目いっぱい使って本塁打を打ったことが分かる。

村上と同じように広角に本塁打を打つタイプといえるのが右打者の岡本和真(巨人)。30本塁打のうち47%にあたる14本を中堅から右方向へ運んだ。投打の二刀流でメジャーリーグを沸かせる大谷翔平(エンゼルス)も広角に本塁打を打ち分ける技術の高さが際立つ。左打者の大谷は、日本ハム時代の2016年に放った22本塁打のうち68%を中堅から左方向が占めた。

村上とは対照的に、打球を引っ張る傾向の強い「プルヒッター」の代表格といえるのが今季パ・リーグの本塁打王に輝いた山川穂高(西武)。右打者の山川は41本塁打のうち7割を超える30本が左方向に集中した。村上と同学年で左打者の清宮幸太郎(日本ハム)はその傾向がより顕著で、今季は18本塁打全てを右方向へ運んだ。

球界の反応は…

通算868本塁打の ソフトバンク・王貞治球団会長

投手が分業制のいまの時代に本塁打を量産するのは我々の時代よりも難しい。 彼の技術がいかにずぬけているか。 飛距離を含め、テレビではなく実物を見たいと思わせる選手。 50本、60本と何回も打てると期待している。

9月13日の55号を受けて

パ・リーグ本塁打王の 西武・山川穂高内野手

すごいという言葉の領域を超えている。エグいです。 もう、リーグが違うので、どんどん打ってください。今年の数字でいうと 「村上に勝ちたい!」と途中までは思っていたけど、もう諦めました。 いちファンとして応援しています。

8月2日の5打席連続本塁打を受けて

ヤクルト・高津臣吾監督

18歳の時はかわいい少年だったが、素晴らしく大きく成長してくれた。(50本塁打を打った2002年の巨人・松井秀喜選手は) 打席に立っているだけで(投手が)ゾクッとすることがあった。 ムネ(村上)に対して、 相手投手はそう感じているかもしれない。

50号を放った9月2日の試合後

02 134打点 6月に35打点「荒稼ぎ」

2022年シーズンの打点

今季あげた134打点は、リーグ2位の牧秀悟(DeNA)と大山悠輔(阪神)に40点以上の差をつける圧倒的な数字だ。月別で最も多かった6月は23試合で35打点を荒稼ぎ。11日のソフトバンク戦では五回に2ラン、六回に満塁弾と2打席連発で計6打点。23日の中日戦でも初回に満塁弾、八回に2ランを放ち計6打点をあげた。7月31日の阪神戦から8月2日の中日戦にかけてはプロ野球史上初となる5打席連続本塁打を達成。満塁本塁打は自己最多の4本、得点圏打率もリーグ1位の3割5分と好機で無類の勝負強さを発揮した。

03 打率3割1分8厘 大島とわずか4厘差

2022年シーズンの打率

首位打者争いでは大島洋平(中日)、佐野恵太(DeNA)を抑えて逃げ切った。序盤戦の打率は2割台半ばだったが、転機となったのが5月下旬から6月上旬にかけての交流戦期間。18試合で打率3割5分1厘と浮上のきっかけをつかむと、6月は4割1分の高打率をマークした。9月13日に日本選手のシーズン最多記録に並ぶ55号を放った後の14試合は打率1割台に低迷。それでも首位を譲らず、記録的なシーズンを走り切った。打率は3割1分8厘と昨季の2割7分8厘から大幅に改善した。今季はグリップの位置を昨季に比べて低くし、よりコンパクトな打撃フォームに変更。シーズン途中に操作性の高い先端をくりぬいた形状のバットに変えたことも、確実性の向上につながったといえるだろう。

村上 宗隆 むらかみ・むねたか

2000年2月2日生まれ。九州学院高(熊本)で通算52本塁打を放ち、ドラフト1位で18年ヤクルト入団。19年セ・リーグ新人王。21年東京五輪金メダル。39本塁打で初の本塁打王、セ・リーグMVP獲得。22年プロ野球史上初の5打席連続本塁打、日本選手年間最多の56本塁打、史上最年少の22歳で三冠王達成。


  • 2019年 打率.231 36本塁打 96打点
  • 2020年 打率.307 28本塁打 86打点
  • 2021年 打率.278 39本塁打 112打点

今季の村上、死角なし 内角も克服、本塁打は倍以上に

「打率」ボタンを押すとコース別の打率が、「ホームラン」ボタンを押すとコース別の本塁打数が表示されます。「2021」と「2022」のボタンでシーズンを切り替えられます。写真に重ねたストライクゾーンの位置はイメージです。

今季の村上はまさに死角が無い。ストライクゾーンを9分割した際に、昨季1割5分と苦手にしていた内角低めコースの打率が今季3割3厘に上昇。昨季1割5分だった真ん中高めのコースも、今季は3割6分4厘に上昇した。弱点といえるコースが無くなり、相手投手にとっては攻め手がほとんど無くなった。投球コース別の本塁打数を見ても、ストライクゾーンのあらゆるコースに対応していたことがわかる。特に際立つのが内角の球への対応力だ。昨季内角の球を捉えて放った本塁打は7本だったが、今季は17本と2倍以上に増えた。ボール球を捉えて本塁打にした例も多く、内角の球への対応力が上がったことが打率や本塁打数の伸びにつながったといえる。

他にもすごい村上の数字

村上1人で2.2人分

「一騎当千」という言葉がある。そこまではいかなくても、今年は村上で勝った試合が何度もあったことは確かだ。各打者の相対的な攻撃力を測る指標が「wRC+」。出塁能力や長打力に基づいて打者ごとの得点獲得能力を数値化し、リーグ平均を100として指数化する。DELTAの算出では村上は12球団トップの223で、並の打者の2人分を優に超える働きをしている。ちなみに昨年のトップは広島の鈴木誠也(現カブス)で199、本塁打と打点の2冠に輝いた16年のDeNA・筒香嘉智は194だった。打率3割6分3厘、34本塁打だった15年のソフトバンク柳田悠岐でも218。近年の強打者たちの中でも最高レベルの猛打だったといえる。

村上1人で10.4勝分

走攻守すべてにおいての貢献度を数値化し、控えレベルの選手が出た場合に比べてどれだけ勝利数を上積みしたかを示した指標が「WAR(Wins Above Replacement)」だ。DELTAの算出によると村上は12球団断トツの10.4勝分。チームの貯金は21だから、およそ半分をひとりでもたらしたことになる。走塁と守備はマイナスだったが、それを補って余りある打棒だった。参考までに比較すると、投打二刀流でチームを日本一に導いた2016年の日本ハム・大谷翔平(現エンゼルス)は10勝を挙げた投手で6.3、22本塁打を放った野手で4.4と計10.7のWARをマークした。今年の村上はバット一本で同等の貢献をしたことになる。

村上だけで打線を組むと10.2

1~9番まで村上を並べたら何点取れるのか。夢のようなシミュレーションで打者の価値を測ったのが「RC27」と呼ばれる指標だ。出塁能力、長打力を兼ね備えた打者ほど高くなる。終盤の失速でやや数字を落としたのが悔やまれるが、DELTAの算出では今年の村上は10.2点。もちろん12球団トップだが、過去の強打者と比べるとどうなるか。歴代最高は三冠王を獲得した74年の王貞治(巨人)で14.8。その他の三冠王イヤーでは86年のランディ・バース(阪神)が13.3、85年の落合博満(ロッテ)が12.6など高い数字を残している。三冠王以外だと50本塁打を放った2002年の松井秀喜(巨人)が11.4、日本記録の60本塁打を量産した13年のバレンティン(ヤクルト)が12、210安打を放った94年のイチロー(オリックス)が9.3など。球史に残るシーズンを送った打者たちと比べても、今年の村上は遜色ないことが分かる。