デジタルの世紀の資本主義が新たな独占に直面している。「GAFA」だけではない。多くの産業で競争が緩み、モノづくりでもデータや知的財産が集まる一握りの企業が高い壁を築く。斬新なイノベーションを生み出し、成長を取り戻す原動力は競争にこそ宿る。
弱まる競争
「34社に分割せよ」。1911年、米最高裁が解体命令を下したのは大富豪ロックフェラー氏らが興したスタンダード・オイル社だ。9割のシェアで石油価格を支配していた同社は、独占禁止法の洗礼を最初に浴びた巨大企業だった。
富を生む新たな資源は大きな利益をあげて急成長する産業を生む。その支配者が値上げで消費者に不利益を与えぬように市場の番人が目を光らせる。競争を促す資本主義のしくみは今、デジタル化で再来した「新独占」の試練に直面する。
スマホ向けOSシェア
グーグル86%
検索エンジン
グーグル92%
SNSシェア
フェイスブック72%
クラウドサービスシェア
米国のECシェア
アマゾン37%
牛耳るGAFA
検索エンジンといったネットサービスを牛耳るグーグルやアップルなどの巨大IT(情報技術)4社「GAFA」。マイクロソフトを加えた5社の純利益は直近で約1600億ドル(約17兆円)と、10年で6倍に膨らんだ。米国に本社がある上場企業の12%を占める収益力で、将来の脅威になる新興企業も買収でのみ込んでいる。
米5社の純利益シェアは上昇傾向
単位:%
巨大テック企業による大型買収相次ぐ
強まる大企業支配
新たな独占はGAFAに限らない。様々な産業で寡占化が進み、競争が弱まっている。市場の寡占度合いを示し、当局が企業合併の審査に使う「ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)」が世界ベースで上昇中だ。1990年代はほぼ一貫して低下したが、2008年を底に反転した。
世界の市場集中度は上昇の兆し
単位:市場集中度、1で完全独占
日米欧の大企業の売上高の伸びは名目GDPの伸びを大きく上回る
(30年前を100として指数化)
日米欧の大企業の売上高の伸びは名目GDPの伸びを大きく上回る
(30年前を100として指数化)
日米欧の大企業の売上高の伸びは名目GDPの伸びを大きく上回る
(30年前を100として指数化)
QUICK・ファクトセットのデータを集計すると、日米欧では3分の2の業種で売上高上位5社のシェアが10年前より高まった。低成長を乗り切るための再編などで同期間の世界のM&A(合併・買収)は累計50万件を超えた。この30年の間に大企業の売上高は米国で7倍、欧州で5倍に膨らんだ。いずれも名目ベースの国内(域内)総生産(GDP)の伸びを大きく上回る。
富の源泉は
データ・知財へ
その背後には何があるのか。自由主義経済圏の広がりとITの進化がグローバルな事業展開を後押しした。富を生む源泉はデータや知財にシフト。モノづくりでもハードよりソフトウエアが性能の決め手となり、一握りの「持てる者」がより強くなる世界が訪れた。
例えば商用ドローン(小型無人機)世界最大手のDJI。成長分野の農業用は、種や農薬を効率よく散布するように飛ぶためのソフトの進化が強みだ。改良の糧は中国内で圧倒的多数を占める4万台超の飛行データ。ライバルが手に入れたくても入手できない情報の厚みで、さらに優位な地位を築く。
データはどんどん生み出されていく
単位:億人
単位:ゼタバイト
データはまだまだ増える。米IDCの予測では25年に175ゼタ(ゼタはテラの10億倍)バイトと19年の4倍以上になる。インターネットに接続する人口は世界で25年に60億人と5億人増える。あらゆるモノがネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)の普及も進む。
目詰まり起こす循環
近代経済学の父、アダム・スミスは、「国富論」のなかで「生産者は競争が激しくなると新たな技術を取り入れる」と指摘した。斬新なテクノロジーやアイデアは新たな市場を創る。資本主義の理想的な循環だが、刺激役の競争の緩みで目詰まりを起こしかねない。
問題は、新たな独占には消費者の利益をモノサシにした従来の対処策が当てはまらないことだ。ネットサービスの多くは無料。モノの肝になるソフトは瞬時に複製できるため、製造コストを抑えて販売価格を下げられる可能性も秘める。
消費者にはむしろメリットが大きいようにさえ映るが、一橋大の岡田羊祐教授は「データや知財が特定企業に集中し過ぎると、多様なイノベーションが生まれず挑戦者の登場を阻む」と警鐘を鳴らす。
発展の原動力再起動を
競争が緩いほど成長率は低い傾向
世界122カ国・地域の1人あたりGDP(18年)伸び率は、寡占度合いが高いほど低い傾向が鮮明だ。デジタル時代の資本主義をどう再構築するか。成長の原動力となる競争を促すことが、その一歩となる。