デジタル化が生む新独占
逆境の資本主義
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資本主義の常識がほころびてきた。資本を集め、人を雇い、経済が拡大すれば社会全体が豊かになる――。そんな「成長の公式」が経済のデジタル化やグローバル化で変質し、格差拡大や環境破壊などの問題が吹き出す。この逆境の向こうに、どんな未来を描けばいいのだろう。

連載:逆境の資本主義
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デジタル化が
生む「新独占」

革新呼ぶ刺激、競争でこそ

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デジタル機器がつながりデータの独占が進む(2019年1月、米ラスベガス)

デジタルの世紀の資本主義が新たな独占に直面している。「GAFA」だけではない。多くの産業で競争が緩み、モノづくりでもデータや知的財産が集まる一握りの企業が高い壁を築く。斬新なイノベーションを生み出し、成長を取り戻す原動力は競争にこそ宿る。

弱まる競争

34社に分割せよ」。1911年、米最高裁が解体命令を下したのは大富豪ロックフェラー氏らが興したスタンダード・オイル社だ。9割のシェアで石油価格を支配していた同社は、独占禁止法の洗礼を最初に浴びた巨大企業だった。

富を生む新たな資源は大きな利益をあげて急成長する産業を生む。その支配者が値上げで消費者に不利益を与えぬように市場の番人が目を光らせる。競争を促す資本主義のしくみは今、デジタル化で再来した「新独占」の試練に直面する。

スマホ向けOSシェア
グーグル86%

出所)米IDC、2019年予測

検索エンジン
グーグル92%

出所)StatCounter、2019年11月時点

SNSシェア
フェイスブック72%

出所)StatCounter、2019年11月時点、フェイスブックは傘下のインスタグラム含む

クラウドサービスシェア

出所)IHSマークイット、2018年

米国のECシェア
アマゾン37%

出所)eMarketer、2019年

牛耳るGAFA

検索エンジンといったネットサービスを牛耳るグーグルやアップルなどの巨大IT(情報技術)4社「GAFA」。マイクロソフトを加えた5社の純利益は直近で約1600億ドル(約17兆円)と、10年で6倍に膨らんだ。米国に本社がある上場企業の12%を占める収益力で、将来の脅威になる新興企業も買収でのみ込んでいる。

米5社の純利益シェアは上昇傾向

単位:%

出所)QUICK・ファクトセットのデータ


巨大テック企業による大型買収相次ぐ

出所)CBインサイツ、10億ドル以上の案件

強まる大企業支配

新たな独占はGAFAに限らない。様々な産業で寡占化が進み、競争が弱まっている。市場の寡占度合いを示し、当局が企業合併の審査に使う「ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)」が世界ベースで上昇中だ。1990年代はほぼ一貫して低下したが、2008年を底に反転した。

世界の市場集中度は上昇の兆し

単位:市場集中度、1で完全独占

出所)ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス。世界銀行のデータ

日米欧の大企業の売上高の伸びは名目GDPの伸びを大きく上回る

(30年前を100として指数化)

日米欧の大企業の売上高の伸びは名目GDPの伸びを大きく上回る

(30年前を100として指数化)

日米欧の大企業の売上高の伸びは名目GDPの伸びを大きく上回る

(30年前を100として指数化)

出所)QUICK・ファクトセット、世界銀行。TOPIX500、S&P500、STOXX600への採用銘柄について継続してデータが手に入る企業が対象。欧州のGDPは上位16カ国分

QUICK・ファクトセットのデータを集計すると、日米欧では3分の2の業種で売上高上位5社のシェアが10年前より高まった。低成長を乗り切るための再編などで同期間の世界のM&A(合併・買収)は累計50万件を超えた。この30年の間に大企業の売上高は米国で7倍、欧州で5倍に膨らんだ。いずれも名目ベースの国内(域内)総生産(GDP)の伸びを大きく上回る。

フェイスブックなど「巨人」への世界の警戒は強まる(2018年4月、米上院の公聴会に出席したマーク・ザッカーバーグCEO)

富の源泉は
データ・知財へ

その背後には何があるのか。自由主義経済圏の広がりとITの進化がグローバルな事業展開を後押しした。富を生む源泉はデータや知財にシフト。モノづくりでもハードよりソフトウエアが性能の決め手となり、一握りの「持てる者」がより強くなる世界が訪れた。

例えば商用ドローン(小型無人機)世界最大手のDJI。成長分野の農業用は、種や農薬を効率よく散布するように飛ぶためのソフトの進化が強みだ。改良の糧は中国内で圧倒的多数を占める4万台超の飛行データ。ライバルが手に入れたくても入手できない情報の厚みで、さらに優位な地位を築く。

データはどんどん生み出されていく

単位:億人


単位:ゼタバイト

出所)IDC

データはまだまだ増える。米IDCの予測では25年に175ゼタ(ゼタはテラの10億倍)バイトと19年の4倍以上になる。インターネットに接続する人口は世界で25年に60億人と5億人増える。あらゆるモノがネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)の普及も進む。

目詰まり起こす循環

近代経済学の父、アダム・スミスは、「国富論」のなかで「生産者は競争が激しくなると新たな技術を取り入れる」と指摘した。斬新なテクノロジーやアイデアは新たな市場を創る。資本主義の理想的な循環だが、刺激役の競争の緩みで目詰まりを起こしかねない。

東京大学の大橋弘教授は「外部からプレッシャーがないと、独占はおかしな方向へ向かう」と話す

問題は、新たな独占には消費者の利益をモノサシにした従来の対処策が当てはまらないことだ。ネットサービスの多くは無料。モノの肝になるソフトは瞬時に複製できるため、製造コストを抑えて販売価格を下げられる可能性も秘める。

消費者にはむしろメリットが大きいようにさえ映るが、一橋大の岡田羊祐教授は「データや知財が特定企業に集中し過ぎると、多様なイノベーションが生まれず挑戦者の登場を阻む」と警鐘を鳴らす。

発展の原動力再起動を

競争が緩いほど成長率は低い傾向

出所)世界銀行。データがある122カ国・地域が対象

世界122カ国・地域の1人あたりGDP(18年)伸び率は、寡占度合いが高いほど低い傾向が鮮明だ。デジタル時代の資本主義をどう再構築するか。成長の原動力となる競争を促すことが、その一歩となる。


取材・編集・制作
山下茂行、渡辺康仁、菊地毅、島谷英明、川崎健、藤田和明、井上孝之、京塚環、今井拓也、清水孝輔、野口和弘、竹内弘文、竹内悠介、増田咲紀、川手伊織、渡邉淳、岡村麻由、寺岡篤志、杉浦恵里、井土聡子、真鍋和也、藤本秀文、張勇祥、宮本岳則、佐藤浩実、高橋そら、河内真帆、野毛洋子、伴百江、稲井創一、板津直快、清水慶正、中尾悠希、榎本敦、湯澤華織、福島朗子、久保庭華子、佐藤綾香、大須賀亮、森田英幸、宮下啓之、安田翔平、斎藤健二、加藤皓也、藤岡真央、深野尚孝

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