揺らぐ企業のROE神話
逆境の資本主義
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資本主義の常識がほころびてきた。資本を集め、人を雇い、経済が拡大すれば社会全体が豊かになる――。そんな「成長の公式」が経済のデジタル化やグローバル化で変質し、格差拡大や環境破壊などの問題が吹き出す。この逆境の向こうに、どんな未来を描けばいいのだろう。

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揺らぐ
ROE神話

その利益に大義はあるか

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気候変動対策を訴える人たち(2019年11月、東京都新宿区)

資本主義を生きる多くの企業が信じてきた「ROE(株主資本利益率)神話」が揺らいでいる。地球温暖化や格差拡大などの問題が深刻になり、利益だけを追い求める経営が立ち行かなくなってきたためだ。環境、従業員、地域社会、そして株主――。さまざまな課題・責任のはざまで最適解を探り当てる経営が求められている。

「株主至上」暴走

目標としていた3億ドル(約330億円)を上回るコスト削減を達成しました」。設備の老朽化から大規模な山火事と大停電を繰り返した米カリフォルニア州の電力・ガス大手、PG&E。それなのに、2017年の年次報告書には誇らしげにこう書いてあった。

コスト削減の効果でROE(株主資本利益率)は17年に一時10%を超えた。だが、地球温暖化で森林地帯の乾燥が進むなか、電線の更新など安全維持に必要な投資を怠ったツケは巨額の損失となって跳ね返った。同社は損害賠償などで300億ドル超の債務を抱える可能性があるとして経営破綻し、再建途上にある。

設備の老朽化からPG&Eは大規模な山火事を繰り返してきた(2017年、カリフォルニア)=ロイター

ROE神話」の暴走が根底にある。「株主のための利益追求」が資本主義における企業の責務だと米経済学者ミルトン・フリードマンは1962年の著書「資本主義と自由」で主張した。この考えが米国などで広がり、株主のためにいかに稼いだかを示すROEが重視されるようになった。

「公益重視」3000社超

ROEを高めるには研究開発や設備投資によって利益を増やしていくのが王道。だが、経営者はROEが下がれば株主からの退任圧力にさらされかねない。資金を自社株買いに回し、資本を減らしてROEを力ずくで押し上げるという危うい選択に走りがちだ。そうなれば、将来の成長や安全、環境保護への投資は後回しになり、従業員への還元もおろそかになる。

ひずんだ株主至上主義」の修正はすでに始まっている。米経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは株主第一経営を修正すると宣言した。環境や従業員、地域社会など公益の重視を打ち出す「Bコープ」という新しい企業も台頭している。「株主最優先の経営ではない」とまで示すことを条件に、米非営利団体のBラボが認定する。ブランド力などで有利になるといい、アウトドア用品の米パタゴニアや仏食品大手ダノンの北米法人など3000社を超えた。

「消費者は価値観が商品の価値と合っているかを知りたがっている」と話すダノン・ノースアメリカのディアナ・ブラッター氏

気候変動
コスト1兆ドル

国連の気候行動サミットでスピーチする環境活動家のグレタ・トゥンベリさん(2019年9月)

ただ、環境などを含めた新たな社会的責任は重く、個々の企業にまかせきりにするのはこころもとない。競争上不利になるほど大胆な策は打てないし、将来のリスクをどう判定すればいいかも定まらない。ひとつの解は会計基準を進化させることかもしれない。

経済成長とともにCO2の排出増が止まらない

単位:兆ドル

出所)購買力平価ベース。IMFのデータ​

単位:億トン

出所)IEAのデータ

環境評価NPO、CDPの調査によると、世界の大手企業が気候変動に絡んで想定するコストは約1兆ドルにのぼる。こうした会計上は「見えない負担」が膨らんでいることに対応し、独化学大手BASFなど10社は環境や社会に与える影響を示す新たな会計基準を3年かけて作り出す方針だ。

会計ルールから進化

これが成功すれば経営者は将来に向けて必要な投資を判断でき、投資家の納得も得やすくなる。会計という企業のルールが変わるなら、競争の土俵も社会責任を織り込んだ新しい形に進化していくだろう。

利益を稼ぐのが企業の使命だ。そこが揺らげば環境保護への投資や従業員への還元といった社会的責任も果たせなくなる。問われるのは利益がそうした「大義」にかなっているかどうか。ROEを超え、新たな公式を探す時がきている。


取材・編集・制作
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