よみがえる保護主義の亡霊
逆境の資本主義
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資本主義の常識がほころびてきた。資本を集め、人を雇い、経済が拡大すれば社会全体が豊かになる――。そんな「成長の公式」が経済のデジタル化やグローバル化で変質し、格差拡大や環境破壊などの問題が吹き出す。この逆境の向こうに、どんな未来を描けばいいのだろう。

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よみがえる
保護主義の亡霊

成長は自由貿易の先に

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関税を引き上げて状況はむしろ悪化した(米ペンシルベニア州のUSスチールの工場)

グローバル化がもたらす痛みが、「保護主義の亡霊」をよみがえらせようとしている。成長の源となる自由貿易の基盤を固め直せるのか。資本主義が力を取り戻せるかどうかがかかった重い課題だ。

廃れる鉄鋼の街

2016年6月の熱狂をこの街のひとたちは時々思い出す。「政治家が過度のグローバル化を進め、富や雇用が海外に行ってしまった」。大統領選をにらんだトランプ氏が訪れて演説集会でこう述べ、鋼材への関税引き上げを約束した。ここは「ラストベルト(さびた工業地帯)」の一部、米北東部ペンシルベニア州モネッセン。1970年代までは鉄鋼で栄えていた。

空き店舗が並ぶラストベルトの街(2019年12月、米ペンシルベニア州)

18年に関税は引き上げられたのに、「状況は変わらないどころか、悪くなるばかり。店は閉まり、若者は街を出ていく」。地元の図書館員、デニス・フォードさんはあきらめ顔で話す。街に残るのはコークス工場1つだけ。街道沿いには誰も住まなくなった荒れ果てた家が並ぶ。

高関税で米国内の鉄鋼価格は一時的に大きく上昇した。だが、米中摩擦が重荷となり、19年の世界の貿易量は前年比1.2%増と10年ぶりの低い伸びになったと世界貿易機関(WTO)はみる。これが響いて世界の景気は低迷し、鉄鋼需要は急速に冷え込んだ。鉄鋼価格は足元で関税引き上げ前さえ下回り、モネッセンの苦境は深刻になった。

貿易、経済を効率化

経済のグローバル化が進み、敵視されることも増えた自由貿易。だが、国境をまたいだ競争を促し、成長を後押しする資本主義の大きな柱だ。冷戦が終結した90年以降、毎年の世界の貿易量と国内総生産(GDP)の伸びの方向性が一致する割合は約9割に達する。

世界の貿易量と成長率は連動性が高い

単位:%

注)5年移動平均、貿易数量は各国の輸出側から計算。世界銀行、WTOのデータ

世界全体でみれば輸出入は相殺し合い、GDPの計算には影響しない。それでも貿易の伸びと成長に強い関係があるのは、「それぞれの国が得意な産業に特化し、足りないものは輸入すれば経済は効率的になる」からだ。約200年前、英経済学者リカードが説いた「比較優位」論。その重みはいまも変わらない。

とはいえ、自由貿易の恩恵はまんべんなく行き渡るわけではない。追われる側の先進国は痛みを感じ、保護主義に傾斜してしまう。

劇薬のドル管理

支持者の前で話す民主党のウォーレン上院議員(2019年11月、米ニューハンプシャー州)=ロイター

より積極的にドル相場を管理していく」。米大統領選で民主党の候補を狙うエリザベス・ウォーレン上院議員は、「経済的愛国主義のためのプラン」と題した自身の政策を説明する文書でこう宣言した。狙いは輸出と国内製造業の後押し。「管理」とはドル売り介入を意味する。基軸通貨の押し下げは世界を揺るがしかねない劇薬だ。中国との貿易交渉を進める姿勢を見せているトランプ氏も、大統領選で有利になるとみれば「新たな貿易戦争カード」を切る恐れがある。

米ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン氏は「米中貿易戦争に対する不安はこれからも続く」と話す

開かれたシステム、糧に

保護主義の先には不幸な結末しかないと歴史が証明している。1929年の世界恐慌の後、自国産業の保護を狙った関税引き上げが横行。世界的な貿易の減少で恐慌が深刻になり、ついには世界大戦が起こった。

開かれた貿易システムを成長の糧とする動きもとぎれてはいない。米国が離脱しても環太平洋経済連携協定(TPP)は11カ国でスタートし、日欧の経済連携協定(EPA)も発効した。

米国を引き戻し、自由貿易の基盤を固め直せるだろうか。資本主義が力を取り戻すためには、この難しい課題を避けては通れない。


取材・編集・制作
山下茂行、渡辺康仁、菊地毅、島谷英明、川崎健、藤田和明、井上孝之、京塚環、今井拓也、清水孝輔、野口和弘、竹内弘文、竹内悠介、増田咲紀、川手伊織、渡邉淳、岡村麻由、寺岡篤志、杉浦恵里、井土聡子、真鍋和也、藤本秀文、張勇祥、宮本岳則、佐藤浩実、高橋そら、河内真帆、野毛洋子、伴百江、稲井創一、板津直快、清水慶正、中尾悠希、榎本敦、湯澤華織、福島朗子、久保庭華子、佐藤綾香、大須賀亮、森田英幸、宮下啓之、安田翔平、斎藤健二、加藤皓也、藤岡真央、深野尚孝

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