THE
NOBEL
PRIZE

ノーベル賞 3年連続の受賞逃す
自然科学の日本人候補


自然科学分野で過去24人のノーベル賞受賞者を輩出してきた日本。2020年は18年生理学・医学賞の本庶佑京都大特別教授、19年化学賞の吉野彰旭化成名誉フェローに続く3年連続の受賞を逃した。ノーベル賞候補にリストアップされた日本の注目研究者を紹介する。

(写真は全て共同、年齢は2020年9月30日時点)

化学賞

物質を作る分子や化学合成などの発見、応用に道を開いた業績を賞する

10月7日に発表済み。日本人の受賞者はいなかった。受賞したのは米カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ氏、独マックスプランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ氏の2氏。

藤田ふじた まこと

年齢
63
東京大学卓越教授

研究概要

勝手に集まる分子の現象から新技術を開発、食品科学などの発展に貢献

沢本さわもと 光男みつお

年齢
68
中部大学教授

研究概要

分子をつなげる新技術開発で物質の未知の力引き出す

山本やまもと ひさし

年齢
77
中部大学教授

研究概要

狙ったとおりに化合物を合成、新素材開発を後押し

国武くにたけ 豊喜とよき

年齢
84
九州大学特別主幹教授

研究概要

生物の機能そっくりの人工物合成に成功、もの作りの省エネ化に道

藤嶋ふじしま あきら

年齢
78
東京理科大学栄誉教授

研究概要

光で汚れをきれいにする光触媒技術を開発、浄化に新風

しん 建仁けんじん

年齢
58
岡山大学教授

研究概要

200年にわたる植物の光合成の謎を解き明かす


物理学賞

宇宙の成り立ちや物性など自然法則の解明に迫る成果を賞する

10月6日に発表済み。日本人の受賞者はいなかった。受賞したのは英オックスフォード大学のロジャー・ペンローズ教授、独マックス・プランク宇宙空間物理学研究所のラインハルト・ゲンゼル所長、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンドレア・ゲズ教授の3氏。

細野ほその 秀雄ひでお

年齢
67
東京工業大学栄誉教授

研究概要

ありふれた素材使い高精細で消費電力少ないディスプレーなどを実現

大野おおの 英男ひでお

年齢
65
東北大学長

研究概要

磁石の性質を持つ省電力半導体の基礎研究に尽力

十倉とくら 好紀よしのり

年齢
66
理化学研究所創発物性科学研究センター長

研究概要

電気と磁気両方の特性持った新物質を発見、次世代メモリー開発に道

佐川さがわ 真人まさと

年齢
77
大同特殊鋼顧問

研究概要

モーターの力を驚異的に高める磁石を発明、ハイブリッド車からハードディスクまで採用広がる


生理学・医学賞

人体の仕組みや病気の治療法などの開発で貢献した人をたたえる

10月5日に発表済み。日本人の受賞者はいなかった。米国立衛生研究所のハービー・アルター名誉研究員、カナダ・アルバータ大学のマイケル・ホートン教授、米ロックフェラー大学のチャールズ・ライス教授の3氏が受賞した。

森和俊

もり 和俊かずとし

年齢
62
京都大学教授

研究概要

細胞の器官「小胞体」の知られざる働きを解明、様々な疾病の治療に貢献

満屋裕明

満屋みつや 裕明ひろあき

年齢
70
国立国際医療研究センター研究所長

研究概要

エイズウイルスの増殖を妨げる物質を次々に発見、エイズ治療のパイオニアに

坂口志文

坂口さかぐち 志文しもん

年齢
69
大阪大学特任教授

研究概要

細菌やウイルス退治に欠かせない免疫機能で新たな細胞を発見

遠藤章

遠藤えんどう あきら

年齢
86
東京農工大学特別栄誉教授

研究概要

コレステロールを低下させる物質を発見、心臓病などの死亡から患者を救う

長田ながた 重一しげかず

年齢
71
大阪大学特任教授

研究概要

プログラムされたかのように細胞が自殺する仕組みを解明し、新しい治療法に道

前田まえだ ひろし

年齢
81
熊本大学名誉教授

松村まつむら 保広やすひろ

年齢
65
国立がん研究センター 研究所 客員研究員

研究概要

がん分子の機構を解明、狙い通りに投薬する技術に道

小川おがわ 誠二せいじ

年齢
86
東北福祉大学特任教授

研究概要

脳と心の関係調べる研究に光

岸本きしもと 忠三ただみつ

年齢
81
大阪大学元学長

平野ひらの 俊夫としお

年齢
73
量子科学技術研究開発機構理事長

研究概要

関節リウマチなどの炎症を起こすタンパク質を発見

藤田ふじた まこと

年齢
63
東京大学卓越教授
研究内容

分子が自然と集まって新しい機能や構造を持った化合物を作り出す「自己組織化」技術を開発

応用例

数年かかっても特定できなかった分子の構造を数週間で特定することが可能となり、創薬や新素材の開発に貢献

横顔

千葉大学の助手を務めていたころの「きれいな正方形の分子を作ってみたい」という遊び心が研究の原点に

沢本さわもと 光男みつお

年齢
68
中部大学教授
研究内容

ゴムや樹脂をつくる鎖状の「高分子」は副反応を起こすことで鎖の長さがバラバラになり機能が落ちやすくなるが、分子をつなぐ重合で副反応を起こしにくい「精密重合」を開発

応用例

インクジェットプリンターできれいに発色するインクや形を変えやすい高性能ゴムなど産業応用が進む

横顔

京大教授時代、大阪大学や名古屋大学などの研究室と「オリオン会」という研究会を主催。研究内容について他大学と激しく議論を戦わせることに重きを置いていた

山本やまもと ひさし

年齢
77
中部大学教授
研究内容

化学反応を促す触媒を精密に設計し、医薬品開発に欠かせない化合物を狙った通り合成する技術を開発

応用例

医薬品や農薬、電子材料などへの応用研究が進む

横顔

「定石は好きではない。壁があることが一番の喜び」をモットーとする

国武くにたけ 豊喜とよき

年齢
84
九州大学特別主幹教授
研究内容

細胞膜に似た膜を人工的に合成することに成功

応用例

生物の機能をまねて製造技術の省エネルギーにつなげる「バイオミメティクス」のさきがけとなる

横顔

子どものころ、数学と物理は苦手で好きだったのは国文学と経済学。九州大学工学部に進んでも弟の学費を稼ごうと卒業後すぐの就職を考えていた

藤嶋ふじしま あきら

年齢
78
東京理科大学栄誉教授
研究内容

二酸化チタンが水を酸素と水素に分解し、光触媒の機能を持つことを発見

応用例

光触媒抗菌タイルを使ったトイレや浴室の実用化、病院内の院内感染防止など関連市場は少なくとも1千億円規模に

横顔

光触媒を初めて使ったのは築40年の自宅の壁。玄関脇には「外壁に光触媒塗っています」というパネルも置いた

しん 建仁けんじん

年齢
58
岡山大学教授
研究内容

神谷信夫大阪市立大学特別招へい教授と植物が光合成に使う巨大なたんぱく質の構造を解明

応用例

太陽光によって水から水素などを生産、新エネルギーとして利用する実証研究進む

横顔

光合成の実験では大学近くのスーパーで週に1度30束ほどのホウレンソウを買い込み、スーパーの店員に顔を覚えられたことも。実験で残った茎の部分は家でおひたしにして食べていたがいつしかホウレンソウ嫌いに

細野ほその 秀雄ひでお

年齢
67
東京工業大学栄誉教授
研究内容

ガラスなどの透明な材料は電気を通しにくいという常識を覆し、透明酸化物半導体を開発。電気抵抗がなくなる超電導でも成果

応用例

高精細で消費電力の少ないディスプレーを実現。スマートフォンなどに相次ぎ採用される

横顔

「ありふれた元素で優れた素材を作る」ことを研究のポリシーに据える

大野おおの 英男ひでお

年齢
65
東北大学長
研究内容

磁石の性質を持つ半導体「強磁性半導体」を作ることに成功

応用例

電子の磁石の性質を利用して省電力の半導体を実現する研究が進む

横顔

ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈氏の研究室に研究員として1988年に赴任。江崎氏から「誰もなし遂げていない成果を」と激励され続けた

十倉とくら 好紀よしのり

年齢
66
理化学研究所創発物性科学研究センター長
研究内容

物質内で起こる電気や磁気の相互作用を解明。次世代メモリーに役立ちそうな「マルチフェロイック物質」を発見

応用例

コンピューターに使われるメモリーの高速・大容量化の応用研究が進む

横顔

兄は住友化学の十倉雅和会長。「物性は1つの概念では分からない。多くの相互作用を解明することで見えてくる」をむねとする

佐川さがわ 真人まさと

年齢
77
大同特殊鋼顧問
研究内容

ネオジムと鉄、ホウ素などからなる「ネオジム磁石」を開発。1センチ角の磁石で数キログラムの鉄の塊を持ち上げる世界最高性能の磁力を実現

応用例

省エネ性能の高い小型モーターの開発につながり、ハイブリッド車からハードディスクまで幅広く利用が進展

横顔

富士通に在籍していた77年に研究を思いついたが、同社が研究を打ち切ったため住友特殊金属(当時)に移籍。その後、自らスタートアップ企業も設立した

もり 和俊かずとし

年齢
62
京都大学教授
研究内容

細胞内の小器官「小胞体」が体内で作られた不良品のたんぱく質を見つけて壊したり、修復したりする仕組みを解明

応用例

たんぱく質の不良品がかかわる糖尿病やパーキンソン病など様々な疾病の治療法開発に道をひらく

横顔

剣道五段。ここと思ったときにためらわず行動する「放心」と相手に勝ったと思っても気を抜かない「残心」を極意とする

満屋みつや 裕明ひろあき

年齢
70
国立国際医療研究センター研究所長
研究内容

エイズの原因ウイルス(HIV)の増殖を強力に抑制する物質を発見、エイズの最初の治療薬を開発

応用例

発症すると2年以内に9割近くが死亡するHIVの治療薬開発競争のさきがけとなる。治療薬「ダルナビル」を国際機関に無償提供し、後発薬の普及に貢献した

横顔

米国で研究を始めた当初は同僚や技術スタッフがHIV感染を恐れ協力してくれなかったことも

坂口さかぐち 志文しもん

年齢
69
大阪大学特任教授
研究内容

免疫細胞が細菌など外敵を攻撃する際、働きが強まると暴走して自分自身の細胞を傷つけてしまうが、この免疫の暴走を抑える制御性T細胞を発見

応用例

抗がん剤を効きやすくする新薬や、免疫の暴走によって引き起こされる難病の治療薬実現に道を開く

横顔

母方の家系は医師ばかり、父親は哲学科の卒業。大学院では双方からの影響を受け哲学の面白さとサイエンスが両立する病理学を学んだ

遠藤えんどう あきら

年齢
86
東京農工大学特別栄誉教授
研究内容

高脂血症などの治療に使うコレステロール低下剤「スタチン」のもとになる物質を発見

応用例

スタチン系の薬は今でも毎日世界で4千万人以上が服用し、心臓病や脳卒中の予防に役立っている

横顔

小学生の時、野口英世にあこがれ科学者を志望。大学生のころは抗生物質のペニシリンをアオカビから発見した英国の微生物学者を目標にしていた

長田ながた 重一しげかず

年齢
71
大阪大学特任教授
研究内容

プログラムされたかのように細胞が自殺する「アポトーシス」という仕組みを解明

応用例

心筋梗塞や自己免疫疾患、がんなどの新しい治療法の開発につながる可能性

横顔

所属機関へのこだわりは少ないようで、東京大学→チューリヒ大学→大阪バイオサイエンス研究所と渡り鳥のように転籍してきた

前田まえだ ひろし

年齢
81
熊本大学名誉教授

松村まつむら 保広やすひろ

年齢
65
国立がん研究センター 研究所 客員研究員
研究内容

がんの血管の隙間から漏れ出す分子が集積し長時間とどまる機構を解き明かし、がん血管に薬剤を集中させることができるEPR効果を発見

応用例

がんを狙って薬を届けられるドラッグ・デリバリー・システムの実現に道筋をつける

横顔

松村氏は国立がん研究センター発の認定ベンチャーで唯一、抗体医薬を開発するバイオベンチャーを2016年に創設。今も取締役に就く

小川おがわ 誠二せいじ

年齢
86
東北福祉大学特任教授
研究内容

脳の活動の様子を血流から調べる機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)の原理を発見

応用例

脳活動と心の関係を調べる研究が盛んになり、トラウマの解消など臨床応用が進展

横顔

「(身の回りには)実はIgnore(無視)していることがたくさんあるかもしれない」と説く

岸本 きしもと 忠三ただみつ

年齢
81
大阪大学元学長

平野ひらの 俊夫としお

年齢
73
量子科学技術研究開発機構理事長
研究内容

炎症などを引き起こすたんぱく質「インターロイキン6」を発見。関節リウマチの治療薬「アクテムラ」の開発につなげた

応用例

関節リウマチ治療薬は世界で2000億円を超す売上高の「ブロックバスター」に成長した。炎症を抑える効果は新型コロナウイルス感染症でも重症化を抑える治療効果が期待されている

横顔

岸本氏は厳しい指導で優れた研究者を数多く育てた。iPS細胞の山中伸弥・京都大学教授を発掘した「目利き」としてもしられる。平野氏は自身を「行動の人」と語り、考えるばかりでなく行動することが大事と若い研究者らに教えた

デザイン・マークアップ
安田翔平、伊藤岳、久能弘嗣

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