林業会社スコーミッシュ・フォレストリーが管理する森(カナダのブリティッシュ・コロンビア州)

ZOOM:TPP 8億人経済圏の素顔

進化する木材
 森の国から

 木を貼り合わせた建材「集成材」の進化が、木造建築の高層化をもたらした。耐火・耐震性に優れた直交集成板(CLT)という新しい製品は日本でも生産が進み、国土交通省は今春、CLTについての建築基準法を整備した。大型施設に国産材を利用できれば、資材の量産でコストを下げ、輸入木材との競争力がつく循環を期待できる。環太平洋経済連携協定(TPP)が発効すれば、林産物の関税は16年目までに撤廃される。市場拡大を目指す林業大国カナダと、迎え撃つ国内林業の現場を追った。

スクロール

摩天楼の新顔

 全米一の木造ビルが建設中と聞き、ミネソタ州ミネアポリスの7階建てオフィスビル「T3」を5月上旬に訪れた。1階とエレベーター部分は鉄筋コンクリート造りだが、柱やはりは「グルーラム」、天井は「NLT」などすべて板を張り合わせて強度を高めた集成材で作られる。計画当初は今注目の直交集成板(CLT)も候補に挙がったが、米国での調達コストがまだ高く、断念したという。今年1月から本格的な工事を始め、10月には内装工事も終わって開業する予定だ。同規模のビルを鉄筋コンクリートで造るより材料費はかさむが、現場で設計図通りに組み立てるだけなので、工期は短く作業にかかる人も少なくてすむ。施主の米不動産大手ハインズのロバート・フェッフェル氏は「内装は木の質感を生かした造りにする。鉄筋造りより二酸化炭素(CO2)排出を大幅に抑制するので、環境保護への意識が高い客を呼び込める」と期待する。

 摩天楼の風景は変わっていくのかもしれない。ミネアポリスT3を設計したカナダの建築家、マイケル・グリーン氏は「持続可能な社会実現に向けて、人口集中が加速し続ける都市部へもっと木造建築を広めるためにも、木造ビルの高層化が必要」と話す。カナダのバンクーバーにある同氏の事務所には、パリのコンペで競った35階建てビルの模型(左)と、進化を続ける集成材の見本があった。「パリのコンペではそもそも高層が求められていなかったようだ」と敗因を振り返りつつも、米ニューヨークにある102階建てのエンパイア・ステート・ビル(381メートル)ですら「鉄筋コンクリートより軽くて丈夫な集成材を使えば木造で建て直すことは理論上可能」と高層化への意欲は衰えない。各国で建築基準法が異なる上、これまで木造の高層ビルがなかったため、建築許可を取るのも難しい時期が続いていたが、潮目は変わりつつある。

 最近ではノルウェー、英国、オーストリアなどでも木造高層ビルの建設が相次いでいる。「かつて10階建ての鉄筋コンクリートビルがシカゴにできたとき人々は恐れて近づかなかったというが、それが今はどうだろう。100年単位で考えれば、木造の高層化競争はすでに始まっている。木造建築を広めていきたい」と同氏はさらなる高みを目指す。

米ミネソタ州ミネアポリスで建設中の7階建て木造オフィスビル「ミネアポリスT3」

「T3」を設計した建築家のマイケル・グリーン氏(カナダ・バンクーバー)

上:米ミネソタ州ミネアポリスで建設中の7階建て木造オフィスビル「ミネアポリスT3」

下:「T3」を設計した建築家のマイケル・グリーン氏(カナダ・バンクーバー)

高層化ささえる集成材

 カナダのブリティッシュ・コロンビア州ペンティクトンにある集成材メーカー、ストラクチュラム・プロダクツは、CLTの生産で忙しい。バンクーバーのブリティッシュ・コロンビア大学で建設が始まった木造の18階建て学生寮「ブロック・コモンズ」で使われる資材だ。「5年前に導入して、今も最先端の機械」と同社のスティーブン・トルナイ副社長が胸を張るCLT製造機は、残念ながら撮影できなかった。

 板状の木材をオートメーションで機械の枠内に並べ、接着剤を塗布し、板が直交する向きにさらに木材を重ねることを繰り返し、5層のCLTを作り上げる。1時間ほどプレスをかけ、しっかり定着させる。「木材は集成材にすることで無垢(むく)の木よりも強度が増す。また集成材は、強度を数値化し品質を保証できる製品。高層建築での耐震・耐火性能なども数値化できる。TPPを追い風に輸出を増やしたい」と話す。

 木造学生寮は、6月上旬に組み立て工事を始め、2017年8月の完成を目指す。1階部分とエレベーターは鉄筋コンクリート造りだが、高さは約53メートルとなり、世界一の高さを誇る現代木造建築となる見込み。しかし記録はすぐに塗り替えられることになりそうだ。

ブリティッシュ・コロンビア大学が建設中の木造18階建て学生寮。エレベーター部分が空高く延びる(カナダ・バンクーバー)

柱やはりなどの構造用集成材「グルーラム」を作るストラクチュラム・プロダクツの工場。万力を使う昔ながらの工法も健在(カナダのブリティッシュ・コロンビア州ペンティクトン)

上:ブリティッシュ・コロンビア大学が建設中の木造18階建て学生寮。エレベーター部分が空高く延びる(カナダ・バンクーバー)

下:柱やはりなどの構造用集成材「グルーラム」を作るストラクチュラム・プロダクツの工場。万力を使う昔ながらの工法も健在(カナダのブリティッシュ・コロンビア州ペンティクトン)

日本ツーバイフォー建築協会の実証実験棟の床に使われるCLT(茨城県つくば市)日本ツーバイフォー建築協会の実証実験棟の床に使われるCLT(茨城県つくば市)

 中高層の木造建築は日本でも進む。CLTは日本にとって新しい建材で、これまで建築許可は物件ひとつひとつに対し国交相が認定していた。今春にCLTについて建築基準法が整備され、大臣認定が不要になり普及も加速するとみられる。現在、関連企業は200社を超え、全国で約40の物件が既に完成した。さらに数十件が建設予定だという。これまで戸建て向けであった木材が大型施設へ用いられることになれば、国産材の需要拡大を見込める。

揺らがぬ安心追求

 ツーバイフォー工法(枠組み壁工法)でも高層化の取り組みを進めている。日本ツーバイフォー建築協会は3月、建築研究所(茨城県つくば市)に性能試験を行う木造6階建てを完成させた。内部に多くのセンサー類を取り付け、地震による揺れや沈み込みなどを計測している。高層建築に厳しく定められた耐火性能の試験を終えた後、来年度に集合住宅への普及を目指す。カナダ産がほとんどだったツーバイフォー工法向け建材も、昨年から国産杉が利用できるようになった。少しずつではあるが広がりをみせる。

木造6階建てになると、地震による揺れが2階建てとは大きく異なる(茨城県つくば市の建築研究所)

木造6階建てになると、地震による揺れが2階建てとは大きく異なる(茨城県つくば市の建築研究所)

採りごろ ひと目で判別

 面積の83%が森林である京都府京丹波町。ベニヤに使う杉などを産出する同町は3月、伐採や植林の長期計画を立てるため住友林業から新たな山林管理システムを導入した。これまで人手を使って森に入らなければ現状を正確に把握できなかったが、航空機からの撮影写真やレーザー照射により木の種類や高さを判別し、パソコン上で取れる木材の量を高い精度で算出できるようになった。3Dメガネで立体的に分析もできる。日本の林業は所有者の土地が複雑に入り組んでいるため非効率で高コスト体質だった。京丹波森林組合の竹内俊行森林整備課長は「データで伐採計画を地権者にスムーズに納得してもらい、安定供給につなげたい」と期待する。 

 国は2020年までに木材自給率をいまの約30%から50%へ引き上げるよう施策を進めている。一方で、TPP発効で想定されるのは、輸入木材による価格下落だ。既に原木には関税がないが、合板などはセーフガードを堅持しつつも16年目までに撤廃される。京丹波町の寺尾豊爾町長は「危機感は持っている。製材所への供給体制を整え、地域経済を成り立たせていく」と話す。国内では木材の輸出を行う地域もある。競争は既に始まっている。

3Dメガネをかけ、住友林業の山林管理システムで樹木の分布を確認する京丹波森林組合の職員(京都府京丹波町)

谷や尾根、林道も判別できるように表示を切り替えられる(京都府京丹波町)

上:3Dメガネをかけ、住友林業の山林管理システムで樹木の分布を確認する京丹波森林組合の職員(京都府京丹波町)

下:谷や尾根、林道も判別できるように表示を切り替えられる(京都府京丹波町)

写真・文
浅原敬一郎、寺澤将幸
制作
鎌田健一郎、安田翔平

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