「天皇陛下、生前退位の意向」背景から皇室典範まで
天皇陛下が皇太子さまに天皇位を譲る「生前退位」の意向を示されていることが明らかになった。意向の背景、最近の公務、天皇家の系図や皇室典範について日経新聞の記事をもとにまとめた。
皇室典範に規定なし 実現には法改正が必要
天皇陛下が皇太子さまに天皇位を譲る「生前退位」の意向を示されていることが13日、宮内庁関係者の話で明らかになった。同庁は近く天皇陛下の意向を公表することを検討中だが、現行の皇室典範は天皇の譲位を認めておらず、法律の改正が必要となる。関係者によると、陛下は数年前から生前退位を要望され、同庁で内々に検討を進めていたという。
天皇陛下は現在82歳。69歳だった2003年に前立腺がん、12年には78歳で心臓冠動脈のバイパス手術を受けられている。リハビリやテニスなどふだんの運動で健康を維持されているが、年齢を重ねるに従って耳が遠くなるなど、公務に不安を覚えられていたという。
昨年は8月15日の全国戦没者追悼式で黙とうとお言葉読み上げの順番を間違えられたことが話題になった。ただ、宮内庁関係者によると、生前退位の意向は最近のことではなく、5年以上前から漏らされていたという。
近世以前は天皇の生前退位が頻繁に行われていたが、明治時代に制定された旧皇室典範で不可能になった。戦後に制定された現皇室典範も同様に天皇の譲位を認めていない。
天皇が未成年の場合や重大な病気などで国事行為ができなくなったときは、皇室典範第16条で「皇室会議の議により、摂政を置く」とされている。摂政は天皇に代わって国事行為を行う。就任の順序は皇位継承順位とほぼ同じ。近代以降は1921年に病気の大正天皇に代わって皇太子の裕仁親王(昭和天皇)が摂政に就任している。
現行法では天皇位を「譲る」場合、まず摂政を置くことが手順だが、生前に皇太子さまへの譲位をするためには国会で皇室典範を改正しなければならない。
生前退位は近代以降の天皇制の仕組みを変える重大な変更になるため、国民的な議論が必要となる。本来は国民の側からの発議で検討するのが筋だが、宮内庁が生前退位について発表を検討しているということは、天皇陛下の意向がかなり強いとみられる。
宮内庁の山本信一郎次長は13日夜、同庁内で記者団に対し「陛下が『生前退位』について宮内庁関係者に伝えられたという事実は一切ない。公的な立場にある陛下が皇室制度について(周囲に)発言されるということはない」と否定した。
(2016年7月14日付日本経済新聞より)
陛下の最近の公務 1月 フィリピン訪問
フィリピンを公式訪問した天皇、皇后両陛下。1月28日、宿舎のホテルで父が日本人移民、母がフィリピン人の日系2世86人と懇談された。天皇陛下は「戦争中は皆さんずいぶん苦労も多かったと思いますが、それぞれの社会において良い市民として活躍して今日に至っていることを大変うれしく、誇らしく思っています」と語りかけられた。(2016年1月29日付日本経済新聞より)
陛下の最近の公務 4月 春の園遊会
天皇、皇后両陛下主催の春の園遊会。昨年、ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章・東京大宇宙線研究所長ら各界の功労者約1800人が出席した。両陛下は皇太子ご夫妻、皇族方と共に和やかに懇談された。(2016年4月28日付日本経済新聞より)
陛下の最近の公務 5月 熊本の被災地訪問
天皇、皇后両陛下は、5月19日に熊本地震の被害が大きかった熊本県南阿蘇村と益城町の避難所を日帰りで訪問し、「大変でしたね」「どうぞお大事に」と、被災者に励ましの言葉を掛けられた。皇后さまは高齢者や幼児を抱いた母親らに「暑くなるので水分補給してくださいね」と気遣われた。(2016年5月20日付日本経済新聞より)
皇室典範に規定なし 実現には法改正が必要
天皇陛下が皇太子さまに天皇位を譲る「生前退位」の意向を示されていることが13日、宮内庁関係者の話で明らかになった。同庁は近く天皇陛下の意向を公表することを検討中だが、現行の皇室典範は天皇の譲位を認めておらず、法律の改正が必要となる。関係者によると、陛下は数年前から生前退位を要望され、同庁で内々に検討を進めていたという。
陛下の最近の公務 1月 フィリピン訪問
フィリピンを公式訪問した天皇、皇后両陛下。1月28日、宿舎のホテルで父が日本人移民、母がフィリピン人の日系2世86人と懇談された。天皇陛下は「戦争中は皆さんずいぶん苦労も多かったと思いますが、それぞれの社会において良い市民として活躍して今日に至っていることを大変うれしく、誇らしく思っています」と語りかけられた。(2016年1月29日付日本経済新聞より)
天皇陛下は現在82歳。69歳だった2003年に前立腺がん、12年には78歳で心臓冠動脈のバイパス手術を受けられている。リハビリやテニスなどふだんの運動で健康を維持されているが、年齢を重ねるに従って耳が遠くなるなど、公務に不安を覚えられていたという。
昨年は8月15日の全国戦没者追悼式で黙とうとお言葉読み上げの順番を間違えられたことが話題になった。ただ、宮内庁関係者によると、生前退位の意向は最近のことではなく、5年以上前から漏らされていたという。
陛下の最近の公務 4月 春の園遊会
天皇、皇后両陛下主催の春の園遊会。昨年、ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章・東京大宇宙線研究所長ら各界の功労者約1800人が出席した。両陛下は皇太子ご夫妻、皇族方と共に和やかに懇談された。(2016年4月28日付日本経済新聞より)
近世以前は天皇の生前退位が頻繁に行われていたが、明治時代に制定された旧皇室典範で不可能になった。戦後に制定された現皇室典範も同様に天皇の譲位を認めていない。
天皇が未成年の場合や重大な病気などで国事行為ができなくなったときは、皇室典範第16条で「皇室会議の議により、摂政を置く」とされている。摂政は天皇に代わって国事行為を行う。就任の順序は皇位継承順位とほぼ同じ。近代以降は1921年に病気の大正天皇に代わって皇太子の裕仁親王(昭和天皇)が摂政に就任している。
現行法では天皇位を「譲る」場合、まず摂政を置くことが手順だが、生前に皇太子さまへの譲位をするためには国会で皇室典範を改正しなければならない。
陛下の最近の公務 5月 熊本の被災地訪問
天皇、皇后両陛下は、5月19日に熊本地震の被害が大きかった熊本県南阿蘇村と益城町の避難所を日帰りで訪問し、「大変でしたね」「どうぞお大事に」と、被災者に励ましの言葉を掛けられた。皇后さまは高齢者や幼児を抱いた母親らに「暑くなるので水分補給してくださいね」と気遣われた。(2016年5月20日付日本経済新聞より)
生前退位は近代以降の天皇制の仕組みを変える重大な変更になるため、国民的な議論が必要となる。本来は国民の側からの発議で検討するのが筋だが、宮内庁が生前退位について発表を検討しているということは、天皇陛下の意向がかなり強いとみられる。
宮内庁の山本信一郎次長は13日夜、同庁内で記者団に対し「陛下が『生前退位』について宮内庁関係者に伝えられたという事実は一切ない。公的な立場にある陛下が皇室制度について(周囲に)発言されるということはない」と否定した。
(2016年7月14日付日本経済新聞より)
皇位継承
皇室典範は第4条で「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」として、天皇の逝去に伴って皇位の継承が行われると規定している。皇嗣は天皇の世継ぎのことで、皇位継承第1位は皇太子さま。天皇の生前退位に関する規定はない。国民の象徴として位置付けられる天皇は、生前退位が想定されていなかったとみられる。
このため、生前退位の実現には法改正が必要。皇室典範を改正する公算が大きいが、別に新法を定める手続きが検討される可能性もある。
(2016年7月14日付日本経済新聞より)
専門家の見方
天皇陛下が生前退位の意向を示されたことについて、専門家に聞いた。
作家 半藤 一利氏
「役割を果たしきった思いがあるのでは」
天皇陛下は戦後70年間、憲法の平和主義を守るために尽力されてきた。自分のやるべきことは全てやった、役割を果たしきったという思いがあるのではないかと思う。お元気だと思っていたので、生前退位の意向を示されたことは意外だ。個人的には続けてほしいが、ご体調は外からは分からず、無理を言うわけにもいかないだろう。
譲位となると近代天皇制では初めてとなる。元号が変わるなど、政治的な影響は大きい。ただ皇室典範の中に「健康上の問題で生前退位ができる」との規定を付け加えるだけで、難しく考える必要はない。憲法など余計な問題と結びつけず、素直な議論をすればいいのではないか。改正は国民全体で議論していくべき問題だ。
放送大教授 原 武史氏
「皇室典範の改正、百も承知だと思う」
相当思い切った決断だと受け止めている。天皇陛下は皇室典範の改正などの課題があることは百も承知で言われていると思う。自分が高齢となり公務ができないとか、そういうことが理由ではないと思われる。自分が生きている間に、天皇制のあり方をきちんと見届けたいと考えられたのではないか。
皇室典範の改正は10年ぐらい前に国の有識者会議で検討された。当時は女性・女系天皇の議論で反対意見もあった。今回は陛下自身が希望されている。社会が「陛下の思いを尊重する」という雰囲気になると思うが、法律学者からは異論が出るかもしれない。陛下のご意向で政治が法律の改正をするとなれば、「天皇の政治介入」という問題が生じるからだ。
京都産業大名誉教授 所 功氏
「しっかり議論して進めるべき」
生前退位については以前から宮内庁の検討事項として上がっていたと思うが、陛下ご自身が強い意思を示されたとしたら驚きだ。退位後の身分も決まっていないため、皇室典範や皇室経済法の改正など準備に数年はかかるだろう。退位という仕組みは歴史的にプラス面もマイナス面もあるので、しっかり議論して進めるべきだ。
政府や国会は、十数年前から女性・女系天皇の容認など皇室典範改正について議論をしながら、先送りしてきた。陛下が高齢になれば公務がご負担になるのはわかりきっていたこと。もっと問題を直視すべきだった。陛下自身もこのままでは皇位継承が行き詰まるという危機感を持ち、公務を続けられる中で、問題提起に至ったのではないか。
(2016年7月14日付日本経済新聞より。写真は共同)
生前退位、海外では例が多い
海外の王室では国王らが自らの意思で地位を譲る例が珍しくない。主に高齢や健康上の配慮といった理由で古くから退位してきた。特に欧州ではここ数年、高齢な国王らの退位が相次いでいる。
日本の皇室と親交の深いオランダ王室は、2013年1月、当時74歳だった在位33年のベアトリックス女王が「新しい世代に委ねる時だ」とし、退位を表明した。約3カ月後に長男のウィレム・アレクサンダー国王に譲った。憲法で退位時の継承方法を定めており、ベアトリックス女王まで3代続けて自ら退位した。
スペインはフアン・カルロス1世が14年6月に国王を退位し、長男のフェリペ6世が即位した。当時76歳と高齢で健康不安を抱えていたうえ、次女の公金横領疑惑など王室に不祥事が相次いでいたことが理由とみられた。退位の意向を受けて政府が必要な法改正を速やかに進めた。
ベルギーも13年7月、当時79歳で在位20年だったアルベール2世が国王を退位した。高齢などが理由で、長男のフィリップ国王が即位した。
英国では90歳のエリザベス女王が在位64年と歴代最長だが、これまで退位が検討されたことはない。英王室に生前退位の規定はなく、本人の意思によるとされる。英国はエリザベス女王の伯父にあたるエドワード8世が1936年、米国人女性と結婚するために在位1年弱で国王を退位した。
アジアでは04年にカンボジアのシアヌーク国王が退位を表明した。「国王は終身」という憲法を改正して息子のシハモニ殿下に譲った。ブータンは06年にジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王が父親から生前譲位を受けた。
(2016年7月14日付日本経済新聞より)
オランダ
13年に退位したベアトリックス女王(写真)まで、3代続けて自ら退位した
スペイン
フアン・カルロス1世(写真)の退位の意向を受け、政府が法改正を進めた
ベルギー
在位20年のアルベール2世が退位し、長男のフィリップ国王(写真)が即位
英国
エリザベス女王(写真)が在位64年と歴代最長。生前退位の規定はない
カンボジア
04年にシアヌーク国王(写真)が退位を表明。「国王は終身」の憲法改正
陛下「象徴として望ましい天皇の在り方を望みつつ…」
天皇陛下は2009年11月の即位20年に際しての記者会見で、「私は、この20年、長い天皇の歴史に思いを致し、国民の上を思い、象徴として望ましい天皇の在り方を求めつつ、今日まで過ごしてきました」と述べられた。日本国憲法のもとで即位した初めての象徴天皇として、象徴とはいかにあるべきかを常に考え、形作ってこられた。
かつて宮内庁長官を務めた羽毛田信吾氏は「天皇陛下以上に憲法の国民統合の象徴とはいかにあるべきかを深く考えている人はいない」と言った。そして、陛下が見いだされた天皇像が「国民と苦楽を共にし、国民に尽くす」というものだった。
平成の時代はバブル経済崩壊後の景気低迷、高齢化の進展など、日本の繁栄に陰りが見え始めた時期だ。また、死者・行方不明者1万8000人余りの東日本大震災をはじめ、地震や火山活動などの自然災害も相次ぐ。陛下は皇后さまとともに災害被災地のほか多くの福祉施設を訪れ、苦難に直面している人々と心をともにしようと努められた。
2011年3月11日の東日本大震災では、首都圏に避難している被災者の慰問を皮切りに、千葉・茨城・宮城・岩手・福島の被災各県を7週連続で見舞われた。津波で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町へは幹線道路が被災していたためヘリコプターで訪問。被災者に「お体は大丈夫ですか」と声をかけ、亡くなった人の遺影を手に取り「本当にお気の毒に」と慰められた。
1995年1月17日の阪神大震災では、両陛下は災害から2週間後に神戸市や淡路島などを訪れ、被災者を励まして回られた。両陛下は避難所の体育館でひざをつき、被災者一人ひとりの手を取って励まされた。
両陛下は91年の長崎県・雲仙普賢岳の火砕流災害の被災地や、93年の北海道南西沖地震で津波被害の大きかった奥尻島、04年の新潟県中越地震、今年4月の熊本地震などの被災地でも、失意の人々を慰問された。
一方、陛下は戦争の教訓も説き続けられてきた。戦後50年の95年には「慰霊の旅」として、沖縄、長崎、広島、大空襲で多数の犠牲者が出た東京の下町を巡り、平和を祈念された。戦後60年の05年には多くの民間人が犠牲になったサイパン島、70年の15年はパラオの激戦地ペリリュー島で海外の戦没者を慰霊された。
今年1月には国交正常化60周年の公式行事で、太平洋戦争の激戦地だったフィリピンを訪問。日比両国の戦没者を慰霊された。
「戦争の惨禍を忘れず語り継ぎ、過去の教訓をいかして平和のために力を尽くす」(99年11月)。ご自身の行動で示された平和への願いは、多くの国民の胸に刻み込まれている。
(2016年7月14日付日本経済新聞より)
天皇陛下のあゆみ
1989 | 1月 | 昭和天皇、逝去。天皇に即位 |
1990 | 11月 | 即位の礼 |
大嘗祭・大嘗宮の儀 | ||
1991 | 7月 | 長崎県の雲仙・普賢岳噴火被災地を慰問 |
1993 | 4月 | 歴代天皇で初めて沖縄訪問 |
7月 | 奥尻島など北海道南西沖地震の被災地慰問 | |
1995 | 1月 | 阪神大震災の被災地慰問 |
7〜8月 | 「戦後50年慰霊の旅」で長崎、広島、沖縄、東京を訪問 | |
2003 | 1月 | 東大病院で前立腺の全摘出手術 |
2004 | 7月 | 前立腺のがん細胞活性化の疑いで、ホルモン療法開始 |
11月 | 新潟県中越地震の被災地慰問 | |
2005 | 6月 | 「戦後60年海外慰霊の旅」でサイパン島を訪問 |
2006 | 3月 | 三宅島の噴火被災地を慰問 |
2007 | 8月 | 新潟県中越沖地震の被災地を慰問 |
10月 | 福岡県西方沖地震の被災地を慰問 | |
2009 | 1月 | 公務・宮中祭祀(さいし)の負担軽減策を宮内庁が発表 |
2011 | 2月 | 心臓の冠動脈の狭窄(きょうさく)のため、薬物療法を行うと宮内庁が発表 |
3月 | 東日本大震災で避難所となった東京武道館を訪問。以降、7週連続で被災者をお見舞い | |
2012 | 2月 | 東大病院で心臓の冠動脈バイパス手術 |
2013 | 11月 | 「今後の陵と葬儀のあり方」を宮内庁が発表。亡くなられた場合は火葬に |
2014 | 6月 | 国立沖縄戦没者墓苑で供花 |
10月 | 長崎市の平和公園で供花 | |
12月 | 広島市の平和記念公園で供花 | |
2015 | 1月 | 阪神大震災20周年追悼式典に出席 |
4月 | 戦後70年にあたりパラオ訪問 | |
2016 | 1月 | 国交正常化60周年でフィリピン訪問 |
5月 | 熊本地震の被災地を慰問 |
国民に驚きと気遣い「激務が心配」「実感わかない」
天皇陛下が「生前退位」の意向を示されていることが13日夜、明らかになった。今年5月、熊本地震の被災地を訪れたほか、昨年4月には戦没者を慰霊するためパラオを訪問された。80歳を超えてなお精力的に公務をこなされる姿を見つめてきた国民は、驚きをもって陛下の意向を受け止めた。
「国民が判断するレベルの話ではない。ご本人がおやめになりたいというなら、おやめになればいい」と語るのは皇居の大手門近くで働く東京都新宿区の男性会社員(35)。心臓冠動脈のバイパス手術を受けられてからも多忙な公務が続いており、「お疲れになっていたのだと思う。おやめになったら素直に『お疲れさまでした』と言いたい」と話した。
東京・銀座で会社の歓送迎会の帰りという千葉市美浜区の会社員、塩塚禎久さん(49)は「80歳を超えているのに、パラオやフィリピンまで行かれて素晴らしいと思ったが、公務のハードさが心配だった」と驚いた様子。「陛下のご意志で退位を決められてもよいのではないか」と理解を示した。
京都御所があるなど皇室とのゆかりが深い京都でも驚きの声が上がった。京都市上京区の主婦、臼田幹恵さん(64)は生前退位について「そんなことが可能なのか」と驚きつつ「皇太子さまに皇位を譲られるには、いい時期なのではないか」と話す。
高齢になっても式典出席や外国賓客の接遇などを忙しくこなされる陛下の姿をテレビで見て「体調が心配だった」と語り、「心も体も休めていただきたい」と話した。
京都市東山区の会社員、籾山俊彦さん(51)は「陛下の存命中に、(生前退位で)年号が変わっても実感がわかない」と困惑気味だ。ただ、「一生涯、公務を続けなければならないのは大変な負担。致し方のないことかもしれない」と気遣った。
熊本市中央区の医師、金光徹二さん(59)は熊本地震の発生から約1カ月後、被災地を見舞われた際の映像が忘れられない。体育館の床に膝をつき、住民に声を掛けられる姿をみて「本当にありがたいと思った」と振り返る。
日帰りという強行日程にも触れ「大変だったと思うが、自分たちに思いを向けているのが伝わり、元気がもらえた」という。さらに「陛下の意志や体調を優先して生前退位が認められればよい」と話していた。
(2016年7月14日付日本経済新聞より)
海外メディアはどう伝えたか
天皇陛下が「生前退位」の意向を示されているというニュースを、海外メディアも相次いで報じた。
英BBC
英BBCは生前退位の意向を「近代日本で前例のないことだ」と天皇陛下の写真付きで報じた。理由について「公務を減らすことになるよりも、退位を望んでいるようだ」などと分析した。天皇陛下が1989年に即位されたことなど皇室の歴史にも触れた。東日本大震災直後の2011年3月、天皇陛下がビデオ映像で国民に語りかけられたことが「極めて異例の対応だった」とも分析した。
英フィナンシャル・タイムズ
英フィナンシャル・タイムズは速報で、天皇陛下が「第2次世界大戦後にできた日本国憲法では、日本の『象徴』であり、政治的な力を持たない」など現代の天皇制について説明した。
ロイター通信
ロイター通信は日本メディアの記事を引用する形で速報した。天皇陛下を「大戦の傷を癒やそうと、多くの時間を費やした人物」と紹介。一例として「海外を回り、世界と日本の関係を深めようとした」などと論じた。天皇陛下が過去に前立腺がんや心臓冠動脈の手術を受けられたこともニュースの背景として報じた。
仏AFP通信
仏AFP通信は「皇室典範に生前退位は想定されておらず、意思を尊重するには改正が必要になるだろう」と説明した。皇太子さまが天皇位を引き継ぐことも紹介した。
スペイン国営通信EFE
「日本の天皇陛下が数年後に譲位へ」と東京発で報じたのはスペイン国営通信EFE。健康の衰えで公務に不安が出てきたことから陛下自身が判断されたとし、譲位の意向をすでに皇后さまや皇太子さまにも示したと伝えた。現行憲法下で即位されたのは天皇陛下が最初であり、譲位されれば1817年の光格天皇以来と解説した。
米ウォール・ストリート・ジャーナル
米ウォール・ストリート・ジャーナルは天皇陛下が最近も公の場で健康そうだったとしたうえで、「代理の人間が公務を執る事態を望んでいない」と報じた。
イタリアの経済紙ソレ24オレ
イタリアの経済紙ソレ24オレは前ローマ法王のベネディクト16世が約600年ぶりに存命中に退位したことを念頭に、「法王の次は天皇だ」と報じた。
中国国営通信、新華社
中国国営通信、新華社は短く「退位の意向」などと伝えた。
(2016年7月14日付日本経済新聞より)
- 制作
- 板津直快、今村大介、牛込俊介、鎌田健一郎、清水明、安田翔平、佐藤健