人口と世界変わる多数派
常識が揺らぐ

世界の人口は早ければ今世紀半ばにも減少に転じる。少子高齢化やグローバル化で人口の減り方はまだら模様になり、これまでの常識のものさしでは測れない変化をもたらす。国・地域、移民、都市と地方、世帯、そして世代――。5つのポイントから「多数派」が変わり、秩序が揺らぐさまをデータでひも解く。日本経済新聞では人類の課題に迫るシリーズ「人口と世界」の第2部「新常識の足音」の連載をスタートした。
連載企画「人口と世界」の
特集ページはこちら

01

移りゆく
人口の「重心」
主役不在の時代へ

第2次世界大戦後、人口爆発は欧米からアジアへと広がり、経済成長の源泉になった。これから待ち受けるのは世界人口減時代。いわば、アフリカだけで人口が増える時代へと変わる。その際、経済のけん引役になれるのか。不透明さが漂う。

第2次世界大戦の終結から間もないころ、「人口」で見た存在感は欧州がまだ大きく、欧米の主要国の出生率は3前後と高かった。その後20年ほどをかけ、世界は人口爆発と経済成長のピークへと歩んでいく。

20世紀末、欧米の人口が伸び悩み始めた。一方で、爆発的な増加を見せたのが中国・インドを中心とするアジア。人口増と経済成長は連動し、世界をけん引する主役に躍り出た。

ところが21世紀半ば、アジアの人口増にブレーキがかかる。これまで「最多数派」であったアジアのペースダウンの影響は大きい。国連推計(低位モデル)によれば2055年、米ワシントン大の推計では2065年、世界は人口減少時代へと突入する。

もっともアフリカでの人口増加は当面続く。2100年、アジアとアフリカの人口の差は国連の中位推計でも9%ほどに縮まる。「アフリカ最多数」が視野に入るが、影響力の大きさまでは見通せない。

出所:国連中位推計

そのとき、
アフリカ経済の成長は
1人あたりGDP
1人あたりGDP

出所:日本経済研究センターの2019年の予測

人口増は成長をどれだけ支えるのか。2060年時点のアフリカ6カ国(ナイジェリアや南アフリカなど)の1人あたりGDP(国内総生産)は、推計で約4300ドル。20年時点でのほかの地域の平均よりも低い。貧困や政治腐敗、投資不足など難題を抱えるアフリカだが、数少ないフロンティアとして期待を背負う。成長へのエンジンに脱皮できるよう先進国の支援が欠かせない。

02

深まる
「移民頼み」
いずれ限界も

経済は豊かでも人口が減る先進国、貧しくても人口が増えるアジアやアフリカの国々。両者をつなぐのが移民だ。もはや少数派とはいえない水準まで先進国の移民依存は深まっており、社会を分断する火種となっている。ただ将来にわたって移民が来てくれる確証はなく、文化的な衝突をする余裕すらなくなるかもしれない。

「移民先進国」では、
国全体の2〜3割
主な先進国の人口に占める移民の割合
主な先進国の人口に占める移民の割合

出所:国連

先進国では過去30年で移民の数が急増し、すでにオーストラリアやカナダでは全人口の2〜3割に達した。受け入れに寛容とされるカナダの場合、2050年までの30年間に総人口が21%増えるが、移民を除くと逆に4.4%減るほど存在感は大きい。米国の場合、18歳未満の人口で現在5割を占める非ヒスパニック系の白人の比率は2060年に36%まで下がり、有色人種の方が多くなる。

台頭する権威主義、
衝突よりも再構築が不可欠
欧州各国の国政選挙におけるイデオロギーごとの得票率
欧州各国の国政選挙におけるイデオロギーごとの得票率

出所:Timbro

米ピュー・リサーチ・センターの予測では2060年ごろに世界でイスラム教徒の人口がキリスト教徒を抜く。イスラム系移民の多い欧州では対立をあおる極右など権威主義政党が台頭し、すでに国政選挙で伝統的な中道系政党の得票に肉薄する勢いだ。しかし移民を送り出す新興・途上国も早晩少子高齢化に直面し、移民の波がいつまで続くかはわからない。文明の衝突を繰り返すよりも、移民のこない未来を見越した社会の再構築が先決だ。

03

「3分の2が
都会暮らし」
の虚実

国境を越える移民を上回るペースで人々は農村から都市へ移動する。2010年に都市人口は総人口の51.7%と農村を超え、2050年には世界人口の3分の2以上が都市に住むとされる。夢を求める人で膨張する都市。いまやその弊害もあらわになり始めており、成長の舞台であり続ける保証はない。

途上国で膨張、
先進国でしぼむ
都市圏ごとの人口の推移
都市ごとの人口の推移

出所:国連

ヒト・モノ・カネの集まる都市は農村から人を吸い上げる。膨張が著しいのが南アジアやアフリカの都市だ。インド・デリーの人口は2035年時点で4335万人と世界最大になる見通しだが、1950年時点では30分の1以下の137万人だった。一方、東京をはじめ先進国の都市は次第に縮小へと向かう。

インフラ劣化、
投資不足は15兆ドル
世界のインフラ投資額と実際の必要額の予測
  • 実際の必要額
  • 現状の投資見通し
世界のインフラ投資額と実際の実用額の予測

出所:グローバル・インフラストラクチャー・ハブ

「乱雑な都市化で、集積による生産性向上のメリットが見込めない」。世界銀行は2016年発表のリポートでインドなど南アジアの急な都市化に懸念を示した。都市の膨張で世界のスラム人口は過去30年に3億人増えた。逆に人口減で都市機能を維持しにくくなる先進国にはインフラの老朽化が待ち受ける。グローバル・インフラストラクチャー・ハブは「2015〜40年に世界で累計15兆ドルのインフラ投資の不足が発生する」と予測する。成長よりも負の遺産が膨らむ事態になりかねない。

04

普通の家族は
ひとりぼっち?

農村の大家族、都市での核家族、そして高齢化や未婚・晩婚化の先にある一人暮らし。人口動態は家族の形に密接に関係してきた。いま、世界では単身世帯が増え日本や欧州では全世帯の3分の1を占める当たり前の存在だ。流れが止まりそうな気配はなく消費のあり方も変えていく可能性がある。

同時に進む高齢化と単身化
各国の高齢化率と単身世帯の割合
各国の高齢化率と単身世帯の割合

注:出所は国連、2000年以降の各国の最新のデータから作成

一人暮らしは現在の人口動態の縮図だ。都市化や女性の社会進出で未婚・晩婚・少子化が加速して独身者や独居の高齢者が増える。結果として高齢化と単身世帯の割合には強い相関関係が生まれる。本格的な高齢化を迎えるアジアなどの新興・途上国でも大都市や周辺で一人暮らし世帯が増えそうだ。

変わる消費、
国民食に見える孤独
スーパーにおけるカレールーとレトルトカレーの購入額
    • カレールー(全国)
    • カレールー(首都圏)
    • レトルト(全国)
    • レトルト(首都圏)
スーパーにおけるカレールーとレトルトカレーの購入額

注:日経POS情報から作成。購入額はスーパー来店客100人あたりの購入金額

高齢化・単身化ともに世界トップ級の日本では、2040年には全世帯の39.3%を一人暮らしが占める。「国民食」とも呼べる食卓の主役・カレーに変調が起きている。スーパーの店頭での売れ行きを見ると、2017年に「レトルトタイプ」が「カレールー」を上回った。近年のレトルトブームの影響に加え、単身世帯が増え「孤食」が広がったことが背景にある。人口動態が家族の形を変え、消費も変える状況が読み取れる。

05

しぼむ現役世代、
社会保障に綻び

人口や世帯が縮小へと向かう。縮む様子は極めていびつだ。少子高齢化の社会では若者ほど急ピッチに減り、高齢者が多数派になる。2050年時点で全人口に占める65歳以上の比率は15.9%。主要7カ国では26.9%、日本は37.7%に達する。労働や消費の担い手が細って社会保障の費用が膨張、経済もしぼむ足音が迫る。

人口構造、
高齢者が膨らむ「つぼ」型へ

国ごとに見た年齢別の人口構成の推移

  • 女性
  • 男性

注:出所は国連。性別ごとに計算した年齢別の構成比

アフリカのような一部の成長エリアを除けば、人口のピラミッドは三角形から上が膨らむ「つぼ」型へと移る。世代別の多数派はおおむね60〜70代になる。年金や医療費など社会保障はより多い高齢者をより少ない現役世代が支える構図になる。すでに先進国では1980年代にGDPの1〜2割程度だった社会保障費が直近で2〜3割まで膨らんだ。

不可避の年金制度見直し、
新興国でも
国別で見た法定の年金支給開始年齢(男性)
国別で見た法定の年金支給開始年齢

注:米社会保障局の資料から作成

社会保障費が重荷となれば財政上の余力が失われ、成長分野への投資にお金が回りにくくなる。年金財政も厳しくなるなかで、打開策のひとつは年金の支給(受給)開始年齢を延ばす選択だ。先進国は段階的に65歳以上に引き上げてきており、高齢化の入り口に立つ新興国も例外ではない。