ひとめでわかる
韓国大統領選
共に民主党
文在寅
ムン・ジェイン
国民の党
安哲秀
アン・チョルス
2017.5.9
朴槿恵(パク・クネ)前大統領の罷免を受けた韓国大統領選は、北朝鮮に融和的な姿勢をとる文在寅(ムン・ジェイン)氏の勝利で幕を閉じた。朝鮮半島の緊張が高まるなか、韓国の選択は日本にどのような影響を及ぼすだろうか。ポイントを振り返る。
キーワードが示す素顔
得票率41% 前回は48% |
社会貢献へ 1900億ウォン* 寄付 |
*約180億円 |
最大野党「共に民主党」の文在寅氏は朴槿恵大統領を罷免に追い込んだ立役者。「国家の大掃除」を掲げて戦い、世論調査では安定して高支持率を維持した。基礎票となったのが朴氏と接戦を演じた2012年大統領選での得票率48%だった。今回、他候補を引き離し勝利をおさめたとはいえ、得票率は41%にとどまっている。
野党第2党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)氏とは12年大統領選でも争った。企業家出身の安氏は、政界進出に先立ち保有株式1899億ウォン(約180億円)分を社会貢献に寄付。一時、文氏をしのぐ勢いもみせたがテレビ討論などでの慎重な物言いが評価を下げ失速。最後は保守系「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏に競り負けた。
故・盧武鉉 大統領の 最側近 |
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韓国の |
AP |
文在寅氏は朝鮮戦争で北朝鮮から避難した両親を持つ。盟友は故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領。二人三脚で人権派弁護士の道を歩み、同氏に請われて政権入り。「最側近」として北朝鮮政策を切り盛りしていた。コンピューターのウイルス対策ソフトを開発し起業したITベンチャーで成功、「韓国のビル・ゲイツ」と呼ばれた安哲秀氏との違いが際立った。
ポジションは
北朝鮮による核・ミサイル開発への対応が選挙戦の焦点だった。文在寅氏は厳格な対応を強調しながら対話の必要性に力点を置く融和的な姿勢が目立った。
文氏は地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備に消極的で、中国との関係改善による外交立て直しを志向している。
対日政策では世論を意識し、慰安婦問題を巡る日韓合意の再交渉が必要との立場だ。文氏は「親日勢力の清算」を力説し、未来志向の関係構築を目指す1998年の日韓共同宣言を重視する安哲秀氏との違いをみせていた。
投票行動
4つのポイント
北風
選挙に合わせた
北朝鮮の挑発は
過去の韓国の選挙で様々な影響を及ぼしてきたのが、北朝鮮の挑発だ。脅威が高まると保守に有利とされるが、今回は朴槿恵大統領の罷免を巡り「有力な保守候補がいない」という状態から選挙戦がスタートした。核実験や弾道ミサイル発射への懸念が続いたものの、文氏にとって大きな逆風にならなかった。
老風
急増する
シニア世代は
今回の投票率は77.2%(暫定値)。12年の75.8%をわずかに上回った。有権者のうち50代以上が全体の4割を超えるなか、若者層に強い文氏には不利に働くとの見方も出ていた。12年大統領選では保守的な高齢者層が文在寅氏の北朝鮮に融和的な言動に危機感を強め「朴槿恵当選」を後押ししたためだが下馬評を覆した格好だ。
どんでん返し
過去には土壇場にドラマ
選挙戦後半に支持率を急速に伸ばした洪準杓氏ら保守系候補と、安哲秀氏との一本化シナリオも取り沙汰された。支持率トップを独走していた文在寅氏に対抗する思惑からだったが不発に終わった。
過去の韓国大統領選では「どんでん返し」のドラマもあった。たとえば02年。支持率でトップを独走する候補と戦うため財閥オーナーの鄭夢準(チョン・モンジュン)氏が盧武鉉氏の応援に回る。ところが投票前夜に鄭氏が翻意。盧氏は窮地に陥るが、インターネットの呼びかけで若者たちが大挙し投票所に駆けつけ逆転勝利した。
地域対立
保守・革新の固い地盤が
「草刈り場」に
保守は南東部の慶尚道地域、革新は南西部の全羅道地域という堅固な地盤を持つ。「地域対立の解消」は長く懸案となってきた。過去の大統領選では自身の地盤で9割を超す得票率も珍しくなく、ソウル・首都圏や中西部の忠清道地域などの票が勝敗を分けた。
今回は文在寅氏と安哲秀氏いずれも支持基盤の中心が「革新」だ。両者の地盤である全羅道と、保守地盤の慶尚道が草刈り場。特に、慶尚道の「保守票」の動きがポイントとなった。
- 取材・制作
- 山口真典、伊藤学、久能弘嗣