カギは郵便投票選挙人」

アメリカ大統領選の
しくみ

米大統領選は3日、全米の各地で投票され、開票が進みました。郵便投票を含めて期日前投票を済ませた有権者は1億人を超えました。トランプ大統領の陣営は集計作業で不正があったとして法廷闘争に持ち込みました。選挙人制度という独特の仕組みも混乱を招きかねない要因になります。大統領選の仕組みを見てみましょう。

米大統領選2020の
ながれ

11月

大統領選は4年に1度、実施されます。投票日は連邦法で11月の第1月曜日の翌日の火曜日と定められています。今回は11月3日でした。 通常であれば投票日の夜から翌日未明に勝者が確定しますが、今回は新型コロナウイルスの感染拡大で郵便投票が増え、一部の州で集計作業が遅れました。トランプ氏の陣営は3州で票の集計の停止などを求めて法廷闘争に入り、ウィスコンシンでは再集計を申し立てました。

12月

合衆国憲法や連邦法の規定によると、結果確定がずれ込んだ場合の次の節目は12月14日です。この日は各州の選挙人が大統領候補に票を投じる日で、2021年1月6日に上下両院合同会議で各州の結果を集計します。

1月

混乱が続いて選挙人による投票で確定できない場合、2021年1月3日に招集される新たな議会で下院が新大統領を選びます。全米50州に1票ずつ割り当てられ、26票を得た候補が当選する仕組みです。大統領就任は21年1月20日です。

郵便投票が
波乱を呼ぶ?

投票箱に投票用紙を入れる有権者(10月20日)=AP
主な激戦州の
郵便投票用紙の申請件数

今回は新型コロナウイルス感染防止のため「郵便投票」を選ぶ有権者が大幅に増えました。米メディアなどによると、10月28日時点で約9193万人が郵便投票の用紙を申請しました。例えば東部ペンシルベニア州では2016年と比べて28倍に増えました。最終的に全米で郵便投票を含む期日前投票は1億票を超えました。

米国では開票作業をいつ始めるのかなど制度が州ごとに違っています。激戦州のミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアを含む10州は郵便投票を含めた期日前投票の集計を11月3日まで始めることができませんでした。

投票日以降に届いた郵便投票を有効と認める州もあります。投票日を過ぎてから届いた票数が増えるほど、結果の確定は遅れます。

トランプ氏は郵便投票の急増で不正が起きる可能性を指摘してきました。郵便と投票所で「二重投票」が起きるとの主張です。陣営は法廷闘争に持ち込みました。郵便投票が波乱を呼ぶシナリオが想定されます。

トランプ氏一方的に「勝った」

トランプ氏は4日未明のホワイトハウスでの演説で「我々はこの選挙に勝とうとしており、率直に言えば勝った」と「勝利宣言」をしました。しかし勝敗は未定の段階です。選挙前から民主党はトランプ氏の「勝利宣言」を懸念していました。

バイデン票が多いとされる期日前投票の集計が遅れる一方、トランプ支持者が多い投票所での開票が先に進み、序盤でトランプ氏がリードする州がありました。

開票作業の早い段階で一時的に共和党が優勢になる現象は同党のシンボルカラーの赤色にちなんで「赤い蜃気楼(しんきろう)」と呼ばれます。最終的にバイデン氏が勝利した州では「トランプ氏勝利」は後に蜃気楼だと分かるというわけです。

大統領選のしくみ 1

選挙人は人口に応じて
割り当て

有権者は各党の正副大統領候補に投票しますが、各州に割り当てられた「選挙人」を選び、選挙人が大統領を選ぶ「間接選挙」の体裁を取ります。全米50州と首都ワシントンの各州・地域ごとに人口に応じて選挙人が割り振られています。

大統領選のしくみ 2

選挙人の過半数を
獲得すれば勝利

各州の選挙人が投票します。合計538人の票のうち過半数の270票を得た候補が当選します。

大統領選のしくみ 3

各州で投票
大半の州は選挙人を総取り

例えば...

全米で多くの選挙人を
獲得した候補が勝利

ネブラスカ州とメーン州を除く48州は1票でも多く得票した候補がその州の選挙人をすべて獲得する「勝者総取り」方式を採用しています。選挙人数が多い「大票田」州で勝つことが重要になります。多くの州は民主、共和両党の色分けがはっきりしているので、両党の勢力が拮抗している「激戦州」がカギを握ります。

大統領選のしくみ 4

選挙人が投票ここで波乱?

トランプ米大統領の陣営が大統領選の投票結果を無視する「奇策」を検討しているとの見方が出ています。合衆国憲法は「選挙人」が大統領を選ぶと規定しますが、有権者の投票で選んでいる選挙人の選定方法には規定がないという抜け穴を突くものです。

共和党が激戦州で敗れた場合、自らが多数を占める州議会で選挙人を直接選ぶ方式を協議していると米メディアが報じました。州議会の選んだ選挙人と選挙結果のどちらを認めるか訴訟になれば、結果確定は大幅に遅れそうです。

党の指名候補に投票しない「不誠実な選挙人」の問題も波乱要素です。2016年の大統領選では、民主党の選挙人が候補のクリントン氏ではなくサンダース上院議員や先住民の活動家に投票し、共和党の選挙人がケーシック元オハイオ州知事らに投票するなど、史上最多となる計7人が造反しました。