参院選は10日に投開票を迎える。与野党の党首は選挙戦で最後の日曜日(ラストサンデー)となった7月3日、全国各地で演説して支持を訴えた。集まった人の滞在時間を携帯電話の位置情報データで分析すると、各党の勢いや支持層への浸透度が見えてきた。多用した言葉などに基づいて演説の特徴を可視化し、選挙戦が始まった6月22日の第一声と比較すると、有権者への訴え方をどう変えたかの戦略も垣間見えた。(地図中など敬称略)
参議院選挙2022
聴衆データで見る
「ラストサンデー」
日本経済新聞はスマートフォンの位置情報データを分析するソフトバンク子会社のアグープ(東京・渋谷)の協力を得て、7月3日の各党首の演説地点周辺での聴衆の滞在時間を50メートル四方単位で調べた。7月3日の演説時間帯の人流を滞在時間別に分類したところ、6月の土日平均と比べて滞在時間が長くなる傾向がみられた。ヒートマップで30分以上滞在した人口の位置を図示すると、前週の日曜日の6月26日に比べて聴衆が長くとどまる地点が多かったことが分かる。
各党の党首が第一声を上げた6月22日については、演説場所の周辺の人出が平時からどれくらい増えたかを分析した。条件がそろえば増加分を党首演説の聴衆人数とみなせる。ドコモ・インサイトマーケティング(東京・豊島)がNTTドコモの携帯電話の位置情報から推計する滞在人口データを用いて、演説地点を含む500メートル四方(JR桜木町駅前は500メートル四方2つ分)を対象とした。
7/3
北海道札幌市
大通公園西
「ちょい聞き」と「じっくり聞き」の両方
岸田文雄首相の会場周辺の人出は平時より6割増えた。滞在時間別の人流を調べると平時に比べて「5~10分」と「30分以上」の割合が高い。通りがかりに足を止めた「ちょい聞き」と支持団体関係者らの「じっくり聞き」の両方がいたとみられる。首相の話を聞いてみようと思わせる力や支持層への浸透度と連動している可能性がある。
6/22
福島県福島市JAふくしま未来農産物直売所ここら矢野目店
- 6/22
- 平時
60代以上のシニア層目立つ
岸田文雄首相(自民党総裁)がマイクを握ったJAふくしま未来農産物直売所ここら矢野目店(福島市)周辺の推計滞在人口は、演説のあった午前10時台に平時より150人ほど多かった。世代別にみると平時からの増加率が高かったのは60代以上のシニア層だった。聴衆とみられる増加分の7割超は男性だった。
7/3
北海道札幌市
紀伊国屋書店札幌本店前
支持層の「じっくり聞き」中心か
泉健太代表の演説地周辺は平時より16%ほど人出が多かった。滞在時間別にみると平時よりも割合が大きいのは30分以上の層のみ。開始前から集まる「じっくり聞き」が多かったもようだ。北海道選挙区はかつて「民主王国」と呼ばれた。支持組織である労働組合の関係者が一定割合いたとみられる。現地にはそろいのTシャツを来た人たちがいた。「ちょい聞き」とみられる通りがかりに足を止めた人の割合は平時と比べて増えていない。
6/22
青森県青森市
青森駅周辺
- 6/22
- 平時
聴衆の女性比率高め
立憲民主党の泉健太代表が訪れた青森駅前周辺の推計滞在人口は、演説のあった午前9時台に平時より7%増えた。世代別では20代が14%増、70代が10%増だった。増加分の女性比率は岸田首相の第一声に比べて高かった。女性の人出は演説終了後も平時より多く、近隣で人流に影響を与えるイベントなどがあった可能性はある。
7/3
神奈川県横浜市
長津田駅北口
「じっくり聞き」系が中心
公明党の山口那津男代表の演説は直前に自民党の茂木敏充幹事長が応援演説したこともあり、およそ8分と短かった。滞在時間別の割合は10分未満と30分以上は平時より小さかったが、「じっくり聞き」に近い10~30分は増えた。自民、公明両党の支持者が集まったとみられる。
6/22
神奈川県横浜市
JR桜木町駅前広場
- 6/22
- 平時
(聴衆とみなせるデータなし)
公明党の山口那津男代表が出向いたJR桜木町駅前広場(横浜市)周辺の推計滞在人口は、演説のあった午前10時台に平時と比べ1%減だった。普段から人流が多い場所のため、聴衆とみなせるデータは得られなかった。70代の人口だけを見ると10%増えていた。男女別では平時よりも女性の滞在人口が多かった。
7/3
東京都足立区
北千住駅西口
「ちょい聞き」系の可能性
日本維新の会の松井一郎代表は地盤でない都内で演説した。聴衆の滞在時間別割合で平時よりも明確に上昇したのは「5分未満」。演説を聞いてほんの少しだけ立ち寄って去る「ちょい聞き」系の人がいた可能性がある。
6/22
大阪府大阪市の百貨店前
- 6/22
- 平時
(聴衆とみなせるデータなし)
日本維新の会の松井一郎代表が出向いた大阪市内の百貨店周辺の推計滞在人口は、演説のあった午前10時台に平時と比べ3%増だった。普段から人流が多い場所のため、聴衆とみなせるデータは得られなかった。男女別では男性の滞在人口が平時よりもやや多かった。40代の人口だけを見ると8%増えていた。
7/3
京都府京都市
京都タワーホテル前
「じっくり型」に比重、組織力反映か
共産党の志位和夫委員長の演説会場周辺で、滞在時間別で人流の増えた割合が一番大きかったのは30分以上の「じっくり聞き」。党の組織力を反映しているとみられる。一部の人流は周辺の商業施設の影響が出ている可能性がある。
6/22
東京都新宿区
新宿駅西口ロータリー
- 6/22
- 平時
(聴衆とみなせるデータなし)
共産党の志位和夫委員長が訪れた新宿駅西口ロータリー(東京・新宿)周辺の推計滞在人口は、演説のあった午前10時台に平時と比べ1%減だった。普段から人流が多い場所のため、聴衆とみなせるデータは得られなかった。70代の人口だけを見ると16%増えていた。
7/3
愛知県名古屋市
大須商店街
ラストサンデーの演説地で降雨があったため比較可能なデータなし
6/22
愛知県犬山市
針綱神社鳥居付近
- 6/22
- 平時
聴衆は男女半々
国民民主党の玉木雄一郎代表が出向いた針綱神社前(愛知県犬山市)周辺の推計滞在人口は、演説のあった午前10時台に平時より24%増えた。増加幅は150人程度で男女比は5:5だった。前後の時間も平時と比べて増減がみられ、他の要因で周辺の人流が動いた可能性もある。
参議院選挙2022党首は何を訴えたか
政治の原点は演説で人を動かすこと。党首は選挙の応援演説で、いかに投票してもらうかに知恵を絞る。政権運営の実績や党が掲げる看板政策はもちろん、候補者の人柄やご当地ネタも織り交ぜて訴えかける。ビッグデータ分析のユーザーローカルのテキスト分析ツールを用いて、演説内容の特徴をキーワードの登場回数などに基づいて文字の大きさで表す「ワードクラウド」で可視化した。6月22日の公示第一声とラストサンデーの7月3日でテーマ別の時間配分がどう変わったかも比較した。ここには各党の選挙戦略が反映される。
7/3
北海道札幌市
大通公園西
地方の物価対策へ1兆円予算
「国民の皆さんが物価高騰を前に生活で苦しんでいる。政府が最大限の責任を担って対応しなければならない。エネルギーと食料品の価格高騰にピンポイントで対応する。国として1兆円の予算を用意して地方がそれぞれの工夫をもとに物価対策する体制も用意する」
物価高対策を中心とする経済政策の割合が第一声時より20ポイントほど高まった。演説地である北海道に絡めた話題も農産品輸出など成長戦略につながる形で取り上げた。
6/22
福島県福島市JAふくしま未来農産物直売所ここら矢野目店
物価高に万全の態勢用意
「新型コロナウイルス、ウクライナ、物価高といった大きな課題に誰が結果を残すことができるのか、どの政党に託すかが問われている。物価高はロシアのウクライナ侵略により世界規模で起きた価格高騰だ。世界中が耐えながら努力している。日本においても国民の協力を得ながら万全の態勢を用意していきたい」
岸田首相の演説3点セットは物価高対策、ウクライナ情勢対応、新型コロナウイルス対策といわれる。この日は福島の復興に重点を置きつつ、3点セットの中核である物価高対策の説明にも時間を割いた。
7/3
北海道札幌市
紀伊国屋書店札幌本店前
円安と安保の2本柱で政権批判
「この円安・物価高で自民党の姿勢は庶民を向いていないと明らかになった。生活は厳しくなっているんじゃないですか。自民党は物価対策や教育に予算を回すのではなく何の予算を上げようと言っているか。防衛費だ。必要な防衛力は我々も整備する。しかし自民党の一部や維新が言っているのは中身も分からないのに倍増だ。とんでもない」
円安との関連を強調する形で引き続き政府の物価高対策を批判。防衛費の大幅増額への考え方の違いを強調するなど安保の比重も高めた。
6/22
青森県青森市
青森駅周辺
「岸田インフレ」訴える
「物価が上がり、年金が下がった。『岸田インフレ』。それぐらい強い言葉で訴えていかないと政府が変わらない。繰り返し訴え、参院選の争点が物価になってきた。野党が声を上げれば変わる。もっと声を上げていこうじゃないか」
争点に据えた物価高と現職候補への支援の呼びかけに時間をかけた。参院選候補者の半分以上を女性にしたとも強調した。
7/3
神奈川県横浜市
長津田駅北口
消費税率下げは無責任
「物価高対策は即効性のあることを次々と繰り出さなければならない。先進国でエネルギーの値段を抑え込んでいるのは日本だけ。野党は消費税率を下げて物価対策をやると言っている。社会保障財源をどうするのか。責任感が貫かれていない」
直前に自民党の茂木敏充幹事長が応援演説したこともあり第一声よりも短時間に。物価高に的を絞ったため9割近くに達した。
6/22
神奈川県横浜市
JR桜木町駅前広場
予備費で物価対策
「予備費を使って物価対策をやる。こういう政策で値上がりを抑えているのは先進国で日本だけだ。日本の防衛力は大丈夫かしっかり点検する。日米同盟の抑止力と対処力もしっかり強化する」
強調したのはガソリンや小麦、農産物の価格抑制策。その財源となる予備費を確保したことを実績として強調する戦略が浮かび上がる。
7/3
東京都足立区
北千住駅西口
安全な原発の再稼働提案
「2月の時点で我々は安全な原発は再稼働すべきだと提案していた。いま電力は足らず電気代は上がる。岸田首相は決断しないと感じ取った。規制緩和で民間に仕事を回すことで雇用が増え給料が上がる。大阪で改革できたことは全国でやれる」
電力需給や規制改革を巡る政府の対応を批判する形で経済政策の主張が増えた。大阪での行政改革の実績も強調
6/22
大阪府大阪市の百貨店前
国会議員の経費問題を提起
「国会議員の経費問題は自民党がやると言ったらすぐできる。経費と称してお小遣いのようになっているのは大問題だ。野党第1党にしてもらいたい。国会で自民党に圧力をかけられる」
地元・大阪の話題以外で時間を割いて訴えたのは国会議員の経費問題。国会議員に月100万円支給される「調査研究広報滞在費」の改革が争点になっていないと問題提起した。
7/3
京都府京都市
京都タワーホテル前
憲法9条と物価が大争点
「選挙戦で大争点が浮上してきた。早い段階で憲法9条を変えるという。9条を守り平和な東アジアをつくろう。物価高騰から暮らしをどう守るかも大争点だ。5つ提案する。消費税減税。賃金引き上げ。社会保障と教育への予算。気候危機打開への本気の取り組み。ジェンダー平等」
第一声から引き続き物価高に重点を置きつつ、気候変動対策やジェンダーなどに話題を広げた。
6/22
東京都新宿区
新宿駅西口ロータリー
賃金の上がる国つくる
「ロシアの蛮行に乗じて自公政権などは敵基地攻撃、軍事費2倍、憲法9条を変えろと大合唱している。東アジアに平和をつくる外交戦略を推進する。物価高騰から国民の暮らしをどう守るかも大きな争点だ。政治の責任で賃金の上がる国をつくる」
国防費増や敵基地攻撃能力の保有検討といった岸田政権の安保政策に反対姿勢を強調。大企業への課税強化や賃上げ促進も訴えた。
7/3
愛知県名古屋市
大須商店街
人材を大切にする国に
「ヤングケアラーの問題を政治課題にあげて法律まで道筋をつけた。法律をつくる仕事をやらせてもらいたい。私たちは『人づくりこそ国づくり』と掲げている。今日は大学生の皆さんがすごく多い。人を大切にしない国は滅びる。人材を大切にする国に変えていきたい」
候補者の紹介に半分以上を割くスタイルを継続。大学生の聴衆が多いとみて教育や奨学金の話題も取り上げた。
6/22
愛知県犬山市
針綱神社鳥居付近
給料上げ、国を守る
「給料を上げる、国を守る。このシンプルな2つの公約方針を掲げて戦う。目指す社会は極めてシンプルだ。頑張って就職して真面目に働けば給料が上がる。そんな希望さえあれば若い人は不安じゃない」
支援を受ける民間労組が強い愛知県で演説の半分を候補者支援に使った。賃上げや野党のあり方についての変革も唱えた。
7/3
東京都千代田区
1丁目1番地の政策は消費税廃止
「消費税は廃止にした方がいい。消費税収の一部しか社会保障に使われていない。この国を根本的に立て直していくためには消費税廃止が一番話が早い。景気を良くするための最大の呼び水。これがれいわ新選組の1丁目1番地の政策だ」
6/22
東京都新宿区
消費税廃止で景気回復を
「消費者や中小企業の首を絞めるのは消費税だ。世界一のポテンシャルがある国だったのに悔しい。どうか消費税廃止をやらせてほしい。廃止すれば景気は爆上がりだ。日本の力を取り戻すため、あなたの経済力を高くする」
7/3
東京都新宿区
がんこに平和
「がんこに平和、暮らしが一番、戦争はさせない、と訴えている。苦しみや生きづらさを作っている新自由主義よ、さようなら。貴重な税金は防衛予算ではなく、給食の無償化、高校大学の授業料、入学金の無償化にこそ使われるべきだ」
6/22
東京都新宿区
憲法改正を止める
「3年間消費税ゼロ、大企業の内部留保への課税を実現する。改憲勢力が3分の2を占めたら改憲の発議に踏み込むだろう。それを止めたい。9条改悪反対。国会に社民党はいなければならない」
7/3
東京都新宿区
受信料無料が1丁目1番地の公約
「生活保護貰っている方、学生の方、障害をお持ちの方、年金だけで生活されている方。この人たちから(NHK)受信料を取るのはやりすぎ。ここを無料にしていく、せめて半額にしていく。それが1丁目1番地の公約だ」
6/22
東京都渋谷区
NHK受信料、学生らは無料に
「NHKに受信料を支払わない方を全力で守る。裁判を起こされた場合は、我々が裁判費用を支払う。年金生活者の受信料は無料にしていく。少なくとも半額にしていく。生活保護受給者、学生の方の受信料も無料だ。参院選に勝ってNHKをぶっ壊す」
参議院選挙2022党首が第一声を
上げた場所は?
参議院選挙公示日の6月22日、岸田文雄首相(自民党総裁)は福島市にある農産物直売所で演説した。歴代の自民党総裁は東日本大震災が起きた2011年以降、国政選挙はすべて福島県で第一声をあげてきた。立憲民主党の泉健太代表は青森市の駅前でマイクを握った。公明党の山口那津男代表は横浜市、日本維新の会の松井一郎代表は大阪市、共産党の志位和夫委員長は都内の新宿駅前、国民民主党の玉木雄一郎代表は愛知県犬山市をそれぞれ第一声の地に選んだ。れいわ新選組の山本太郎代表と社民党の福島瑞穂党首は東京・新宿で、NHK党の立花孝志党首は東京・渋谷で演説した。