キーワードで読む
米大統領演説
雇用・コロナ… 重点は?
バイデン米大統領は就任後初めての議会演説に臨みました。新型コロナウイルス対策や雇用確保に重点を置く方針を示しました。大統領演説では、どんな単語が多く使われるのでしょうか。1934年のフランクリン・ルーズベルト氏から2021年のバイデン⽒までの88回の演説を調べてみます。
バイデン大統領の
キーワードは?
2021年4月28日、バイデン大統領は初めての議会演説に臨みました。浮かんだキーワードはjob(雇用)やCOVID(コロナ)。29日で就任100日となる節目に、米国の再始動を宣言しました。
job
(雇用)
The American Jobs Plan is a blue-collar blueprint to build America. − 米国雇用計画は米国建設のためのブルーカラーの青写真になります。
job(雇用)に触れた回数は51回に上ります。ホワイトハウスが事前公表した草稿は46回で、実際にはさらに多く使いました。ルーズベルト氏以降の大統領演説で最多となりました。雇用を重視する姿勢を鮮明にしました。
COVID
(コロナ)
After I promised 100 million COVID-19 vaccine shots in 100 days – we will have provided over 220 million COVID shots in 100 days. − 就任後100日で1億回分のコロナワクチン接種を約束しましたが、100日間での接種は2億2000万回以上にのぼるでしょう。
新型コロナウイルス対策は優先課題です。COVID(コロナ)に6回、pandemic(パンデミック)に11回触れ、ワクチン普及の成果を誇りました。
China
(中国)
We’re in a competition with China and other countries to win the 21st Century. − 21世紀を勝ち抜くため中国やその他の国と競争しています。
China(中国)には4回言及しました。習近平国家主席の名前も出しました。中国への対抗姿勢を示し、民主主義勢力の連携を訴えました。
democracy
(民主主義)
We have to prove democracy still works. − 私たちは民主主義がまだ機能することを証明しなくてはなりません。
democracy(民主主義)は17回登場しました。トランプ前政権で揺らいだ民主主義の復元に取り組む決意がうかがえます。
America
(米国)
Now, after just 100 days, I can report to the nation: America is on the move again. − 今、(就任から)100日がたち、私は報告します。米国は再び動き出しました。
America(米国)やAmericans(米国民)には140回言及し、米国の再始動を宣言しました。ルーズベルト氏以降の演説で最多の回数です。
climate
(気候)
The climate crisis is not our fight alone. It’s a global fight. − 気候の危機は私たちだけの闘いではありません。世界規模の闘いです。
climateは6回で、ルーズベルト氏以降で最も多い水準です。気候変動は米国だけの問題ではないとして、世界各国に協力を呼びかけました。
歴代大統領の
頻出ワードは?
頻出ワードの発言回数と比率
青は民主党、赤は共和党を表す
一般教書演説
(施政方針演説)とは?
⽶⼤統領が議会の上下両院合同会議で表明する施政⽅針。⽶⼤統領は合衆国憲法に基づき、内政・外交の状況を分析して議会に報告するとともに、⾃⾝の政策を議会に提案し、必要な⽴法措置を講じるよう要請する義務を負います。⼀般教書演説で今後1年間の⽶国の内政や外交、経済など政策全般についての⽅針を明らかにします。予算教書、⼤統領経済報告と並ぶ「三⼤教書」の⼀つです。一般教書演説は大統領が連邦の現状を議会に報告するという位置づけのため、就任直後の議会演説は「一般教書演説」ではなく「施政方針演説」と呼びます。
キーワードから
浮かぶ米国の姿は?
経済
job
(雇用)
青は民主党、赤は共和党を表す
失業率と連動
雇用の確保は大統領にとって重要な課題です。jobに特に多く触れたのはバイデン氏のほかクリントン氏とオバマ氏で、いずれも民主党の大統領。政府による積極的な雇用創出を掲げました。
語数は失業率とやや連動しています。失業率が高くなると、やや遅れてjobが多く登場するようになる傾向が見えます。リーマン・ショック後に失業率が高まったこともあり、オバマ氏は2010年に「雇用が2010年の最優先課題でなければならない」と語りました。
economy
(経済)
青は民主党、赤は共和党を表す
景気が悪いと増加
景気が悪いほどeconomyを重視する傾向があります。第二次世界大戦終結後の1946年にトルーマン氏が33回、リーマン・ショック後の2009年にオバマ氏が22回言及しました。
invest
(投資)
青は民主党、赤は共和党を表す
民主党大統領が多用
公共投資を主に意味しています。共和党よりも民主党の大統領の方が多く使っています。クリントン氏は1993年に29回触れ、新しい投資計画を唱えました。2010年にはオバマ氏が18回言及し、クリーンエネルギーや教育への投資を訴えました。
energy
(エネルギー)
青は民主党、赤は共和党を表す
石油危機や環境問題で照準
1973年に起きた第一次石油危機の影響でエネルギーの供給が不足し、翌年の1974年にニクソン氏が18回、1975年にフォード氏が25回と多く言及しました。
2012年にはオバマ氏が23回触れ「私はクリーンエネルギーの約束から逃げない」と言及。環境政策を重視する方針を示しました。
政治
America
(米国)
青は民主党、赤は共和党を表す
自国優先のナショナリズムも
近年の大統領ほど多く使う傾向にあります。トランプ氏は米国第一主義を掲げ、2017年と2018年に「make America great again」(米国を再び偉大に)のフレーズを用いました。アメリカ・ファーストは自国優先のナショナリズムの反映でもありました。
people
(国民)
青は民主党、赤は共和党を表す
民主主義重んじる
民主主義の価値を重んじる米国で、歴代大統領がよく使うキーワードです。1971年にニクソン氏、1977年にフォード氏が「government of the people, by the people, for the people」(人民の人民による人民のための政治)というリンカーンの有名なフレーズを引用しました。
freedom
(自由)
青は民主党、赤は共和党を表す
米国の価値観を象徴
米国の価値観を象徴する言葉です。第二次世界大戦中の1941年にルーズベルト氏は「4つの自由」を唱え、ファシズムに対抗するアメリカの理念を示しました。その後も多くの大統領がこの言葉を使い、特に新自由主義を志向したレーガン氏が多用しました。
democracy
(民主主義)
青は民主党、赤は共和党を表す
第二次大戦や冷戦の後に増加
ファシズムや社会主義とのイデオロギー論争が熱を帯びているときに使われやすい傾向があります。第二次世界大戦と冷戦終結の前後に語数が増えました。1937年にルーズベルト氏は19回触れ「民主主義が平和を維持するのに最も適している」と指摘。1994年にはクリントン氏が10回言及し「民主主義的な刷新と人権を支援するためにより多くのことをしなければなりません」と述べました。
hope
(希望)
青は民主党、赤は共和党を表す
米国の指導理念を示す
米国は将来や平和への希望をもたらす国――。こうした米国の指導理念を表すときに使いやすい言葉です。1984年にレーガン氏は「将来への最大の希望は私たち、特に子供たちの思考と感情だ」と語りました。1996年にはクリントン氏が「世界における私たちのリーダーシップは強力であり、新たな平和への希望をもたらす」と述べました。
dream
(夢)
青は民主党、赤は共和党を表す
夢をつかめる価値観印象付け
アメリカンドリームを信じるオバマ氏が好んだ言葉で、2011年の演説では12回使いました。「この国は何事も可能な地であるという夢を信じている」と指摘。「その夢があるからこそ私は今夜みなさんの前に立てるのです」と語りました。「努力すれば誰でも夢をつかめる」という米国の自由・平等の価値観を印象づけているといえます。
cooperate
(協力)
青は民主党、赤は共和党を表す
国内・国際の分断乗り越え
国際的な協調も、国内の協調も、分断を克服しようとする時に使われやすい表現です。1946年にトルーマン氏が10回触れ「平和が続くためには最も強力な国家の間で真に理解し積極的に協調し合わなければならない」と述べました。
unity
(結束)
青は民主党、赤は共和党を表す
党派超えた協力呼びかけ
議会に対して党派を超えた協力を呼びかける際に使われてきました。1951年にトルーマン氏は「私が結束を求めるとき、本当に求めているのはこの議会のすべての議員の責任感だ」と述べました。2002年にはブッシュ氏(第43代)が米同時テロを受け「米国民と一緒に議会の団結と決意に拍手を送る」と語りました。
外交・安保
war
(戦争)
青は民主党、赤は共和党を表す
第二次大戦直後に突出
第二次世界大戦終結後の1946年にトルーマン氏が202回と最も多く触れ、突出しています。ベトナム戦争中の1967年にはジョンソン氏が20回、1970年にはニクソン氏が16回言及しました。
近年はテロに対しても使われており、米同時テロの翌年の2002年にはブッシュ氏が12回触れ「war on terror」(テロとの戦い)を提唱しました。2016年に8回言及したオバマ氏はイスラム国(IS)の掃討作戦を「war」と表現し、軍事力の行使を主張しました。
terrorism
(テロ)
青は民主党、赤は共和党を表す
9・11で急増
2001年の米同時テロ後にブッシュ氏が多く言及し、2002年から2008年までの間に「war on terror」(テロとの戦い)というフレーズを15回使いました。トランプ氏は2017年に「テロの上陸拠点が米国内に形成されてはならない」と語り、テロを移民制限の理由の一つに挙げました。
Japan
(日本)
青は民主党、赤は共和党を表す
戦中・戦後直後に多く言及
太平洋戦争が始まった翌年の1942年から終戦翌年の1946年まで多く言及されました。1942年にルーズベルト氏は6回触れ「真珠湾での日本の行為は我々に衝撃を与えることを意図したものであった」と日本を非難しました。
1951年、トルーマン氏が「私たちは日本の人々を自由主義国のコミュニティーの一員に戻したい」と発言。1963年にはケネディ氏が「1950年代のめざましい経済的・政治的発展により現在では建設的な役割を世界的に果たしている」と言及しました。近年はトランプ氏、バイデン氏ともに日本に触れていません。
China
(中国)
青は民主党、赤は共和党を表す
協調から対立に
1972年に中国を訪れたニクソン氏は74年に「平和的な交流と貿易の拡大の時代が始まった」と米中和解の成果を述べました。2000年に9回触れたクリントン氏は経済のグローバル化推進を訴え、中国の世界貿易機関(WTO)への加盟を提唱。関与政策で協調を狙いました。
2017年に就任したトランプ氏は「中国がWTOに加盟して以来、6万の工場がなくなった」と中国をけん制し、経済的な対立が鮮明になりました。
上智大の前嶋和弘教授
(米国政治外交)の解説
freedomや経済に関する単語の多くは党派性を超えて、どの大統領にも重要なキーワードとして共通する。ブッシュ氏(第43代)がterrorismに多く触れるなど、それぞれの大統領が重視している政策が分かる。同じ単語でも大統領によって意味が異なる場合もある。Chinaはクリントン氏が肯定的に使ったのに対し、トランプ氏の時は「敵」になった。Japanはトルーマン氏にとっては「敵」だったので多かった。その後ほとんど触れなくなったが、軽視ではなく、安心した同盟パートナーの姿を映す。