オフィス吸い込む巨大ビル
乱立の構図
つくり過ぎではないか――。そう思わせるほど、東京では今、オフィスビルの建設が一気に進む。原動力は東京五輪を開く2020年に向けた再開発。だが、少子化で働き手が減ることを考えれば、オフィス需要の大きな伸びは見込めない。続々と建つ巨大ビルが周りのテナントを引き抜き、吸い込んでいく。
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この10年は新築ラッシュ
地図上に示した青いビルは、この10年ほどの間に東京都心に建つオフィスビル。新築ラッシュの様子がよくわかる。特に東京駅周辺にはにょきにょきと建ち、街の風景が一変する。
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東京駅周辺にドーム30個分
2025年までの10年間で、東京駅周辺(大手町、丸の内、有楽町、京橋、八重洲、日本橋)に供給されるオフィスの貸室面積は約154万平方メートル。これは東京ドーム約30個分の広さにあたり、2015年末の貸室面積の4割相当分が10年で増える計算だ。
東京五輪・パラリンピックが開催される2020年に向けて、都心では再開発プロジェクトが続々と進む。建設を促したのは、地域を限定して規制を緩和する国家戦略特区の特例制度だ。五輪開催を視野に入れ、国際都市にふさわしいビジネス拠点の整備を国が後押ししている。都心の指定エリアでは容積率の規制が緩まり、建設手続きが簡素化された。2012年度から続く法人減税も追い風になった。
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中小に危機感、早めに変身
最新のIT(情報技術)設備や耐震機能を備えた新築のオフィスビルは、周辺のビルからテナントを呼び込める。一方で「あおりを受けるのは中小のビル」と指摘するのは、ビル仲介を手がけるオフィスR&M(東京・中央)社長の宮本正好氏。実際に、オフィスビルの建設が進むエリアの周辺では空室率が上がる傾向があるといい「生き残りをかけて、オフィスビルのままにしておくより需要が見込める用途に変えるビルが増えてきた」(宮本氏)。その事例を見てみよう。
事例1
保育園に変身
東京都中央区のオフィス街に認可保育所「にんぎょうちょう さくらさくほいくえん」が17年4月にオープンした。築28年の4階建てオフィスビルをサンフロンティア不動産が購入し、保育所に改修した。このエリアはマンション開発で子育て世帯が増え、保育所不足が問題となっていた。地域のニーズを受け、オフィスビルが保育所に生まれ変わったケースだ。
事例2
トランクルームに変身
オフィスビルをトランクルームに変更するケースも増えている。トランクルーム大手のキュラーズ(東京・品川)は東京都中野区で築29年の7階建てビルを購入し、16年4月に「キュラーズ中野店」をオープンさせた。都心では自宅に入りきらない荷物を預かる需要が高い。20年までに都内80店体制を目指す同社は、その多くをオフィスビルの改修でオープンさせる計画だ。
事例3
カプセルホテルに変身
2017年2月、東京都中央区の日本橋にカプセルホテル「ファーストキャビン日本橋よこやま町」が開業した。もとは8階建てのオフィスビル。築26年と古く、周囲の大規模オフィスとのテナント獲得競争に巻き込まれて入居企業が減っていた。日本橋は訪日外国人客の需要が見込める好立地。ビルオーナーはホテルとして再活用することを決め、ファーストキャビン(東京・千代田)が運営を受託した。
ビルの用途変更、
東京では高水準
東京都内のビル、用途変更件数
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需要は頭打ち、
それでもビルは建つ
中小のビルが危機感を募らせるのは、巨大な新築ビルにテナントを奪われるからだけではない。東京のオフィス需要そのものが先細りする懸念があるからだ。3つのデータで探る。
増え続ける貸室、
減り続ける働き手
東京都の生産年齢人口は減少傾向
都心は「満室」状態、
それでも賃料は上がらない
東京都心部の大規模ビルの賃料上昇は鈍い
TOKYOは魅力薄?
外資は素通り
海外からの投資比率が低い東京
2020年の東京五輪開幕まで3年を切った。国際都市として一段の飛躍を目指す街の姿を「Tokyo Story」で描いていく。
- 取材・制作
- 板津直快、斎藤公也、古山和弘、清水正行、久能弘嗣