車谷氏が辞任し、綱川氏が社長に復帰した東芝。パソコンや家電事業などを売却し、インフラ事業に注力するなど再建を進める
注)背景写真は東芝と東芝未来科学館提供

東芝、波乱の歩み

買収提案・異例のトップ交代まで

英投資ファンドから買収提案を受けた東芝で異例のトップ交代が起きた。2015年発覚の不正会計問題を機に経営危機に陥り、事業売却やガバナンス強化を進めてきた。車谷暢昭前社長から経営のバトンを受け取った綱川智社長は、東芝を成長路線にどう戻すのか。かつての名門は波乱の中を歩んでいる。

車谷氏が辞任し、綱川氏が社長に復帰した東芝。パソコンや家電事業などを売却し、インフラ事業に注力するなど再建を進める

注)背景写真は東芝と東芝未来科学館提供

単品型から
サービス型へ

東芝の売上高の変化

東芝の19年度の売上高は3兆3899億円。14年度比で49%減り、事業構造も大きく変わった。12年に携帯電話、16年に医療機器、白物家電、18年にテレビ、パソコンと、消費者向けを中心に事業譲渡を重ね、半導体事業も過半の株式を売却。残ったのは、上下水道や交通機関、発電設備、ビル管理といったインフラ事業だ。ハード製品の売り切りから、安定的な売り上げにつながる保守運営サービスに、ビジネスモデルを切り替えていた。

シーメンスと日立を
東芝が追う

時価総額の推移

(注)独シーメンスの時価総額はQUICK・ファクトセットの円換算値、東芝と日立は日経NEEDS

売り切りビジネスからの脱却は、競合メーカーが先行する。独シーメンスや日立製作所は産業機器のデータ分析などのIoT基盤を強化し、顧客囲い込みや課金ビジネスを広げてきた。買収提案発覚前の東芝の時価総額は約1兆7000億円と、シーメンスの1190億ユーロ(約15兆5000億円)、日立の4兆8000億円を大きく下回る。東芝はPOS(販売時点情報管理)システムなどから得られるデータ事業を成長の柱に掲げて挽回に出たが、シーメンスと日立の背中は遠い。

不正会計を期に 
経営困難、波乱

東芝の株価

(注)株価は株式併合考慮後の値。日経NEEDS

選択と集中の成長戦略

主な出来事 社長(敬称略)
2005

2005

西田厚聡氏が社長就任、半導体や原子力に注力へ
西田 厚聡
NECエレクトロニクスと45ナノLSI共同開発
6

2006

米原発会社を約6400億円で買収
世界初のHD―DVD規格プレーヤーを発売
7

2007

HDDの累計生産台数が2億台を達成
シャープと液晶・LSI事業で提携
8

2008

HD―DVDから撤退
野村不動産HDに不動産資産を売却
9

2009

28年ぶりに公募増資による資金調達を実施
佐々木則夫氏が社長就任
佐々木 則夫
10

2010

富士通と携帯電話事業を統合
住宅用太陽光発電事業への参入を発表
11

2011

スイスのスマートメーター大手を買収
半導体生産の国内3拠点閉鎖を発表
12

2012

携帯電話事業から撤退
日立・ソニーと液晶パネル事業を統合
13

2013

米GEと火力発電事業で提携
田中久雄氏が社長に就任
田中 久雄
14

2014

GEへの送配電事業の買収提案を断念
韓国SKハイニックスとの訴訟が和解、提携拡大へ

不正会計発覚、
経営危機に

15

2015

不正会計を公表、2200億円の利益水増し
田中 久雄
西田・佐々木・田中の歴代3社長が辞任
室町 正志
16

2016

白物家電事業を中国・美的集団に売却
綱川 智
米原発子会社での巨額損失が発覚
17

2017

米原発子会社が経営破綻
メモリー事業を東芝メモリに分社化、米WDと和解
18

2018

車谷暢昭氏を会長兼CEOとして招く
シャープにパソコン事業譲渡

ガバナンス改革も
子会社で再び不正

19

2019

社外取締役8割など統治改革発表
綱川 智
5年ぶりの中間配当を実施
20

2020

子会社の不正取引を公表
車谷氏が社長兼CEOに
車谷 暢昭
21

2021

3年半ぶりに東証2部から東証1部へ
英投資ファンドから2兆円の買収提案
車谷氏が辞任し、綱川智会長が社長兼CEOに就任
綱川 智

15年に発覚した不正会計問題では、過去7年にわたる2200億円強の利益水増しが明らかになり、当時の歴代3トップが引責辞任した。米原発子会社の巨額損失も加わり、経営危機に陥った東芝は、17年に東証2部に降格。債務超過を回避するため6000億円の増資も行った。経営再建とガバナンス強化へ、18年には外部から車谷暢昭会長兼最高経営責任者(CEO)を迎えたが、20年にも子会社での循環取引が発覚した。

アクティビストと
対立、
難局に直面

20年には企業統治や成長戦略を巡り、アクティビストとの対立が先鋭化した。アクティビストの影響力を小さくし、経営の意思決定のスピードを速めるため、英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズは4月6日、買収による株式非公開化を提案した。原子力事業を持つ東芝は20年施行の改正外為法で重点審査の対象となっている。東芝の経営を巡る混乱は、国や金融市場を巻き込んだ新たな段階に入った。東芝が4月14日に開いたトップ交代についての記者会見で綱川智社長は「ステークホルダーと信頼構築に取り組みたい」と抱負を述べた。だが、複雑に絡んだ利害関係をときほぐすのは簡単ではない。