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WAKASHIO
航跡と環境汚染を追う

モーリシャス沖重油流出

モーリシャス沖で座礁した大型貨物船の衛星写真(Maxar Technologies提供・AP)

商船三井がチャーターした大型貨物船「WAKASHIO」(わかしお)がインド洋の島国モーリシャス沖で座礁した。大量の重油が海に流出し、サンゴ礁や沿岸のマングローブ林が大きな被害を受けている。WAKASHIOはどこからどこへ向かっていたのか、なぜ事故は起きたのか、環境への影響はどれほど広がるのか。航跡データや衛星写真をもとに事故を追う。

TOPIC 1

どこからどこへ
向かっていたのか

WAKASHIOの航跡データはIHIジェットサービスの船舶位置情報サービスから取得

モーリシャス沖は
海上輸送の大動脈

通常往路は金融情報会社リフィニティブの船舶データをもとに、8月15日時点で航行中のWAKASHIOと同じケープサイズのばら積み船の位置情報を取得した

WAKASHIOが座礁したのはモーリシャス島の南東0.9マイル(約1.4キロ)沖。モーリシャス付近は1カ月に2000隻以上が通過する海上輸送の大動脈だ。モーリシャス島周辺は浅瀬で、当初は島から20マイル以上離れて運航する予定だったが、計画航路は波が高く徐々に北にずれたとみられる。モーリシャスの湾岸警備隊が警告を発していたとの情報や、船内で乗組員の誕生日会が開かれていて、Wi-Fiに接続するため陸地に近づいたという報道もある。だが、詳細がわかる通信記録装置は現地警察が回収して調べている。船員を手配した長鋪汽船(岡山県笠岡市)や船をチャーターした商船三井による船員への聞き取りもできていない。

TOPIC 2

どんな構造の
貨物船なのか

WAKASHIO基本情報
船名WAKASHIO
船種ばら積み貨物船(主に鉄鉱石を運搬)
全長300メートル
積載量20万3130トン
所有長鋪汽船(岡山県笠岡市)
運航商船三井(チャーター)
船籍パナマ
乗組員20人

WAKASHIOは全長300メートルのばら積み貨物船。ばら積み船は、主に鉄鉱石や石炭、穀物などの資源や食糧を、梱包せずにそのまま輸送する船のことをいう。WAKASHIOの船体後部に燃料タンクがあり、進行方向左手に1つ、右手に4つある。座礁当時、計約4000トンの燃料が入っていた。貨物は船体の中央のスペースに積み込むが、座礁時に積み荷はなく、鉄鉱石の輸送依頼があった場合に備えブラジルを目指していた。運航会社の商船三井と船主の長鋪汽船の説明によると、座礁した7月25日以降、機関室に徐々に浸水が始まった。海難救助を担うサルベージ会社に要請し、燃料の抜き取りを試みたが、現地は冬で波が高く、気象条件に阻まれて作業は難航した。波に押され、座礁地点から時計の1~2時の方向を指した状態で北東に押し流され、その間に船体が損傷したという。燃料の重油の流出が確認されたのは8月6日。複数のタンクのうち、重油1180トンが入った右の最前部のタンクに穴が空き、重油が海へ流れ出した。WAKASHIOは15日、船体が2つに分断された。機器の不調や故障は現在までに確認されていない。

WAKASHIO構造図

モーリシャス沖で座礁し、完全に分裂した日本の貨物船WAKASHIO(lexpress.mu提供・共同)
TOPIC 3

環境への影響は
広がるのか

Source: Esri, DigitalGlobe, GeoEye, Earthstar Geographics, CNES/Airbus DS, USDA, USGS, AeroGRID, IGN, the GIS User Community and UNITAR

モーリシャスのサンゴ礁には地球上のイシサンゴ類の40%の種が生息するとされる。この希少な場所で起きた重油の流出事故は、環境にどれほどの影響を与えるのか。専門家によると、重油がサンゴに付着すると呼吸ができなくなって死滅するといい、回復に数十年かかる場合もあるという。さらに、座礁地点から西に約1.5カイリ(約2.8キロ)の場所には、水鳥などの生態系を保存するためのラムサール条約に登録された湿地やマングローブ林があり、被害が及んでいる。マングローブの根は海水中で複雑に絡み合っていて、ここに流れてきた油は手作業で除去するしかなく、非常に時間がかかるという。美しい自然環境を観光資源としてきたモーリシャスにとって、経済への影響も懸念される。

貨物船から流出した油を回収するボランティア(10日)=ロイター

2010年のメキシコ湾の海底油田での原油流出事故では490万バレル(66万トン超)が流出した。今回、WAKASHIOから流れ出た重油は船舶の燃料用で、これまでに約1180トンとみられ、メキシコ湾の事故と比べると流出の規模は小さい。しかし、世界遺産にも登録されたオーストラリアのサンゴ礁、グレートバリアリーフで2010年に起きた中国船による燃料油の流出事故では、船舶保有会社が豪政府に約30億円を賠償した経緯もある。環境への影響は流出した油の量だけでは測れない部分がある。

現在、流出した油は長鋪汽船やモーリシャス政府が手配した専門業者やボランティアが、ポンプや吸着シートで回収にあたっている。油を分解する薬剤はモーリシャス当局の許可が出ておらず使用できていない。日本の国際緊急援助隊・専門家チームによると、油を吸着するシートが不足しているという。