西日本豪雨1年

自然の恵み 再生へ歩み

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平成最悪の水害をもたらした西日本豪雨から1年。農水省によると一連の豪雨による全国的な農林水産分野の被害額は約3409億円(6月24日現在)に上る。被害が大きかった岡山、広島、愛媛各県の農家や漁師の今を追った。

岡山県倉敷市真備町地区の
ブドウ農家「希望の苗木」

2019年

ブドウの苗木に手を伸ばし成長具合を確認する農家の武本昌子さん(86)。昨年の豪雨で出荷直前だったブドウは全て泥水につかりハウスは全壊した。1月には長年共に畑で汗を流してきた夫、忠夫さんが病気で亡くなった。「年も年だし、今まで通りにはできない」と一時はハウスでのブドウ作りを諦めたが、畑を手伝う息子の堅さん(60)が「もう一度やろう」と背中を押し、再建を決断。4月に43本の苗木を植えた。今は高さ70センチほどでブドウが実るのは約4年後。昌子さんは「夫との思い出の畑。家族と支え合い、体の続く限り頑張りたい」と話し、慈しむように葉に触れた。

2018年

増水した川から流れ込んだ水につかり腐敗したブドウ。農家の武本さんは「良いのができたと喜んでいたのに。もう年だから片付けられん」と肩を落とした(2018年7月30日)

広島県呉市の
カキ養殖業者「期待の稚貝」

2019年

カキの養殖棚が並ぶ黒瀬川河口から沖合の養殖いかだに稚貝を移し、本格的な育成作業にあたる漁師の平本清士さん(64)。豪雨時、河口に押し寄せた漂流物などで壊れた棚の大部分は修復したが、約2割は使えないままだ。生産量が減らないように、稚貝が付いたホタテの貝殻をつるす間隔を狭めることで対応している。これまでとは違うやり方が成長にどう影響するか収穫まで不安もあるが、豪雨後に採苗したカキは元気が良く期待も大きい。「おいしくなりそうだ。しっかり育てていきたい」と作業に力が入る。

2018年

カキの養殖が盛んな広島県呉市の黒瀬川河口では、養殖棚にたまった土砂や漂流物の除去作業が続く。漁師の平本さんは「家を失った人に比べたらこれぐらい何でもない。またお客さんにおいしいカキを届ける」と汗を拭った(2018年8月2日)

愛媛県宇和島市の
ミカン農家「復興の実り」

2019年

昨年は豪雨でミカン畑が一部崩れ、収穫したミカンを運び出すレールやスプリンクラーなどの設備が大きな被害を受けた。ひとまずは設備の応急処置をし、昨シーズンはなんとか出荷にこぎ着けた。農家の河野雄哉さん(34)は「復旧作業は大変だったが、農家同士そしてボランティアの人たちと力を合わせることで乗り越えられた」とこの1年を振り返る。しかし、いまだ手つかずの場所があり、散水設備の配管も本来地中にあるものがむき出しのままだ。今年は畑と設備の復旧をさらに進めたいと河野さんは前を向く。

2018年

豪雨で斜面が崩壊したミカン畑。農家の河野さんは「流された果樹の被害だけでなく、散水の設備などが壊れ、残った木の手入れができない。被害は広がる」と悔しそうな表情を浮かべた(2018年7月30日)

広島県呉市安浦町の
棚田「古里の再生」

2019年

広島県呉市安浦町の市原集落では約13ヘクタールあった水田の約6割が土砂に襲われ、水路もふさがれた。住民やボランティアらが懸命に土砂を除去したものの、高齢や費用などを理由に耕作していない田んぼは雑草に覆われていた。今年、田植えにこぎ着けたのは約2.4ヘクタール。今なお残る土砂を運び出すトラックが行き交う中、水をたたえた田が初夏の日差しにきらめいた。自治会長の中村正美さん(69)は「全ての田んぼを復旧して被災前の状況に戻したい。どうにかせないけん」と自ら重機を操り、生まれ育った古里の風景を取り戻す。

変わる被災地の景色

2018年

2019年

小田川と高梁川の合流点

岡山県倉敷市を流れる支流の小田川(左)と本流の高梁川の合流地点。本流の水位上昇に伴い支流の流れがせき止められ水位が上がる「バックウオーター現象」が発生。小田川の堤防が決壊し、真備町地区の約1200ヘクタールが浸水した。洪水を防ぐため合流地点を約4.6キロ下流へ付け替える工事が今夏着工する。

2018年

2019年

災害廃棄物仮置き場

岡山県倉敷市真備町地区の道路脇に山積みにされた災害廃棄物は姿を消した。地区内に残る仮置き場は1カ所だ。4月末時点で岡山県は災害廃棄物の総量を県全体で約30万トンと推計し、約7割の処理が完了したという。

2018年

2019年

重機の姿なくなる口田南地区

山地を切り開いて住宅地が造成された広島市安佐北区の口田南地区では山の斜面が大きく崩れ、土砂や流木が民家に押し寄せていた。重機で土砂などが取り除かれると、もともとあった資材置き場が姿を現した。

2018年

2019年

再開した鉄道、道路

山から崩れ出た土砂がJR呉線水尻駅を襲い、線路や駅前を走る国道31号を埋め尽くした。道路では10台近くの乗用車が土砂に埋もれ、鉄道とともに一時不通になっていたが、現在はそれぞれ完全復旧している(広島県坂町)

2018年

2019年

土砂が取り除かれた住宅地

押し寄せた土砂とがれき、流された家屋で埋め尽くされた集落は整地されていた。しかし、あったはずの数軒の建物が再建される様子はない。近所に住む男性は空き地をさみしそうに見つめていた(愛媛県宇和島市)

2018年

2019年

ミカン山の復旧

小さな川を覆い尽くした土砂は一部取り除かれ、畑からミカンを運び出すレールも新設された。だが、本来地中にあるスプリンクラーの配管が仮設でむき出しだったりと設備はまだ整わない。「復旧中であってまだ復興はしていない。諦めずに進んでいきたい」とミカン農家の宮本和也さん(36)は意気込んだ(愛媛県宇和島市)

写真,取材
小川望、淡嶋健人、目良友樹、小幡真帆
デザイン・マークアップ
伊藤岳

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