格差・ブランド力… アジア、成長で見えた現実
ロイター
経済発展を続けるアジアは、企業とそれに関わる従業員や消費者にも大きなチャンスをもたらす。ただ人々が豊かになるほど、消費者の購買力は増すものの、同時にそれは人件費増と生産コストの上昇につながる二律背反も生む。一方でコスト競争力に頼った成長では、アジア企業のブランド力底上げにつながりにくく、世界市場で戦ううえでハンディとなる。アジアの企業活動を取り巻く環境をビジュアルデータで確認してみよう。
進む貧困克服、広がる「所得・資産の不平等」
- 貧困率(低下は生活水準の改善を示す)
- ジニ係数(上昇は格差の拡大を示す)
アジアは1980年代の経済成長で急速に豊かになった。世界銀行によると1日当たり1.9ドル(約215円)未満で暮らす貧困層が人口に占める割合は、中国の都市部では81年時点で59%だったが、約30年後の2012年には0.4%にまで減った。92年には国民の2人に1人が貧困層だったベトナムも足元は3%まで減少。人々の暮らし向きは大きく改善した。
都市と地方では開きがある。中国の地方部は81年の96%からは大きく改善したものの、なお13%が貧困層に数えられる。インドは都市部の貧困層が13%なのに対し地方部は25%、インドネシアも都市部の12%に対し、地方は20%だ。
全体としては貧困率が下がる半面、所得や資産の不平等を示す「ジニ係数」は大半の国で悪化傾向にある。中国はここ30年で都市部、地方部のいずれも格差が大きく開いた。インドやベトナムなども長期的には格差が広がる傾向にある。
アジアの社会問題のポイントは今後、これまでの貧困克服から、いかに富を再分配するかに移っていきそうだ。
アジア企業のブランド力、厚い世界の壁
世界的なブランド力をみると、アジア企業はまだまだ欧米や日本の企業に見劣りする。ブランドが将来生む収益を米調査会社インターブランドが推計したところ、2015年のトップ5はアップル、グーグル、コカ・コーラなどの米国勢が独占した。アジア勢のトップは6位のトヨタで、50位以内に入ったのはサムスン、ホンダなど計6社のみ。2000年時点の調査と比べても、たったの2社増えただけだ。
00年と15年を比べると、サムスン(43位→7位)や現代(圏外→39位)といった韓国勢が大きく躍進した。一方で、ソニーが18位→58位に後退したほか、01年に29位にいた任天堂も今回は圏外に転落し、日本勢の凋落(ちょうらく)が目立った。
業種ごとのランキングに目を転じると、IT(情報技術)企業がひしめく「テクノロジー」は入れ替わりが激しい。米フェイスブックはランキング入りからわずか3年で23位まで上昇。フィンランドのノキアは10年までトップテンを維持していたが、スマートフォン(スマホ)の開発で大幅に出遅れたことが響き、15年はランク外だった。
中国・タイ… 上昇めだつ製造業人件費
「世界の工場」として成長してきたアジアは人件費の上昇が著しい。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、中国の2015年の製造業作業員の月給は424ドル(約4万8000円)。いち早く先進国・地域入りした韓国、香港、シンガポール、台湾を除けば、アジアでは最も高い。「一人っ子政策」もあって人口増に急ブレーキがかかり、農村から都市部への労働力供給が細って人手不足が顕著になったためだ。09年時点では217ドルとマレーシアやタイ、フィリピンを下回っていたが、「リーマン・ショック」後も続いた力強い成長の陰で人件費は一気に上がったことが分かる。
中国に次ぐ生産拠点として有力な受け皿となってきたタイも09年に比べて1.5倍の348ドルとなった。インラック前政権がポピュリズム(人気取り)政策の一環として、12~13年にかけて法定最低賃金を最大9割引き上げたことも影響した。賃上げを求めて労働争議が頻発するインドネシアやベトナムも、09年から15年にかけてそれぞれ7割、8割上昇した。
一方、「メーク・イン・インディア」を掲げて製造業を誘致するインドの人件費は12年にピークを迎えた後は低下傾向にあり、コスト面では依然優位に立つ。フィリピンも伸びは緩やかで200ドル台にとどまっている。「タイ+1(タイプラスワン)」の有力候補地であるカンボジアは上昇傾向にあるものの、15年は162ドルとまだタイの半分以下の水準だ。
取材・制作鳳山太成、山﨑純、鎌田健一郎、清水明、清水正行