シャープ支援に7000億円 鴻海の実力

写真提供:ロイター

 経営再建を巡って揺れたシャープが、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ることを決めた。シャープは自力再建ができず、2015年夏から鴻海、官民ファンドの産業革新機構と交渉を進めてきた。革新機構案は筆頭株主であるジャパンディスプレイと、分社したシャープの液晶事業を統合する構想だった。国主導による電機業界再編か、初の外資の手による国内電機大手の買収になるのかの綱引きでもあった。最終的には鴻海が支援額を上積みし、革新機構の規模を大きく上回ったことが決め手となった。鴻海グループは第三者割当増資を引き受け、約66%の株式を取得する。

鴻海、支援額で革新機構を上回る

鴻海の再建案に決定

産業革新機構の案もあったが…

連結の売上高、鴻海はシャープの5倍

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 シャープと鴻海は2012年3月に資本・業務提携し、シャープ本体への出資でいったん合意した。しかし、その後の株価下落を受けて鴻海の出資が見送られ、シャープ経営陣には苦い経験になった。シャープ買収をグループ成長の生命線と位置づけるのが、鴻海グループを率いる郭台銘董事長。革新機構案に傾きかけたシャープ経営陣を振り返らせたのが、支援額だけでなく、破格ともいえる肩入れ案。雇用面などのリストラを小幅にとどめ懐の深さをみせた。

 シャープの2016年3月期の連結売上高見通しは、前期と比べて3.1%減の2兆7000億円。鴻海は15年12月期が約15兆円(約4兆5000億台湾ドル)で、シャープの5倍の規模になる。連結の従業員数は100万人を超えるといわれ、米アップルなど大口顧客を抱える。自社ブランドを持たない一方で、シャープの技術力や総合電機メーカーとしての知名度を高く評価してきた。

 シャープにとって、巨額赤字の温床となってきた液晶事業が復活できるかは大きなカギ。現在の倍の規模となる10兆台湾ドルの一大帝国を目指す鴻海グループにとっても、シャープ再生が重要なカードになる。

「液晶王国」の落日、日台連合で競争力磨く

2001年
  • 液晶テレビ「アクオス」を発売。
2004年
  • 亀山工場が稼働。液晶テレビを「亀山モデル」として量産。
2006年
  • 亀山第2工場が稼働。
2007年
  • 片山幹雄氏(現日本電産副会長)が社長就任。
2008年
  • 2008年3月期の最終損益は1019億円の黒字で過去最高に
2009年
  • 大型液晶パネルを生産する堺工場(堺市)が稼働
2012年
  • 台湾の鴻海精密工業と提携を3月発表
  • 奥田隆司氏が社長就任
  • 主力取引銀行と総額3600億円の協調融資契約を9月締結
  • 3000人規模の希望退職を実施
  • 米クアルコムと資本業務提携で12月合意。約100億円出資受け入れ
2013年
  • 韓国サムスン電子と資本業務提携を3月発表。約100億円出資受け入れ。
  • 高橋興三社長が就任。
  • 公募増資で約1200億円調達。
  • デンソー、マキタ、LIXILグループへの第三者割当増資で約170億円調達。
2014年
  • 欧州の家電事業からの撤退決定
2015年
  • シャープ単体、15年3月期に59億円の債務超過
  • 資本金を5億円に減資
  • みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行などに優先株を発行。2250億円を調達。
  • 官民ファンドの産業革新機構と提携交渉を開始
  • 台湾の鴻海精密工業とも提携交渉を開始
2016年
  • 鴻海精密工業による買収が決定

 世界の液晶テレビ販売の半分を独占し、「液晶王国」を築いたシャープが外資企業の傘下に入る。液晶パネルを核にして、自社製品と組み合わせて一時代を築いたが、技術力やブランドを過信し、変革のタイミングを失った。亀山工場(三重県亀山市)、堺工場(堺市)への投資も結果として重荷となり、資産効率の改善が後手にまわった。価格競争が激しい業界のスピードを見誤り在庫を膨らませて、運転資金を確保するため財務を悪化させた。2012年以降、資本増強や金融支援を何度も重ねてきたが、独力で健全化の道を開けなかった。

 世界最大のEMS(電子機器の製造受託サービス)を誇る鴻海のもとで、シャープがかつての輝きを取り戻せれば新たなイノベーションを起こせる可能性もある。サムスン電子に代表される韓国勢、中国勢との競争が激しくなるなか、日台連合として競争力に新たに磨きをかけ、生き残りを図る。

制作メディア開発部

出所各社決算資料を基に作成

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