カフェ経営と二足のわらじ 家電スピード開発

 東京・秋葉原のオフィスビルで8月6日、家電ベンチャー「UPQ(アップ・キュー)」の新製品発表会が開かれた。鮮やかな青色が際立つデザインが目を引く。スマートフォン(スマホ)、アクションカメラ、50インチの4Kディスプレーに加えて、給電機能があるスーツケースなどひねりがある17種類の製品をそろえた。「等身大のものづくりにチャレンジした」。代表の中沢優子(30)は胸を張った。

 中沢は、個人によるものづくり「メーカーズ」の一人だ。斬新なのは秋葉原でのカフェ経営と二足のわらじを履くのと、そのスピード感。UPQを法人化したのが7月で、プロジェクトは6月上旬にスタートした。

 「工場を探さなくちゃ」とアイデアひとつで中国・深圳に向かい、人づてに協力工場をまず探した。現地企業の拠点に案内され、中沢は洗練された生産ラインや設備に驚かされた。「今はラインがひとつ止まってるから、仕事があると助かる」と水を向けられた。「少ない量でもいい?」「安くないなら、他メーカーと交渉してみるから」。主力となる14の工場をとんとん拍子に決めた。世界の工場を舞台にたった1人で腕を振るえるダイナミズムにゾクゾクした。もっとも、「こうして日本メーカーは負かされていったんだ」と身につまされた。

カシオ時代の挫折と「ハッカソン」原動力に

 カシオ計算機に2007年に入社し、携帯電話の商品企画を12年に退職するまで担当した。ガラケー(従来型携帯電話)からスマホに需要が一気にシフトし、「iPhone」の登場をきっかけに海外勢に押されっぱなしになる苦境を目のあたりにした。例えば、通信キャリアへの提案での場。海外メーカーは3D(3次元)プリンターを使った試作品の数で圧倒し、さらに安い価格で勝負してきた。「だからスマホはどうしてもやりたかった」。当時の挫折感もバネにする。

 事業アイデア創出を競う「ハッカソン」のイベントに昨秋から参加し始めたのが、ものづくり復帰への原動力になった。自らのアイデアが選ばれて協力者や資金が集まっていった。デザインや設計、ひらめきまでも簡単にかたちにしてくれるサービスがそろい、その気にさえなれば量産のための工場を見つけられる時代だ。

 予算は数千万円ほどと吹けば飛ぶような存在。「そもそもコストは私だけ、1人だから判断できるのが強み。大企業のような決裁のスタンプラリーはない」。2カ月と短期間で準備できたのはその真骨頂に違いないが、「流行やトレンドを考えれば数カ月サイクルは当たり前」と在庫リスクを減らす手立てでもある。すべての商品は現在、ネット通販で扱い、スマホなど一部製品は完売して追加生産を予定する。大手量販店、海外での販売計画も進めており、年末に向けて第2弾となる商品づくりに着手した。「女の子でもやる気があればできる。言い訳できない時代になった。大手メーカーにも火がつくといいな」。イノベーションを起こす現場に個人と企業の隔たりはもはやない。

「大企業ジレンマ」脱却へ ソニー異例の新製品

 8月31日。ソニーが運営するサイトで新製品の発売が告げられた。見た目は単なるアナログ腕時計だが、バンド部分に通信やセンサーなどデジタル機能を内蔵した新しいスマートウオッチ「wena(ウェナ)」だ。実はこのウェナ、ソニーの輝かしい新製品の歴史では全く異色の存在だ。理由はその生い立ちにある。

 業績不振の中、昨年4月に異例ずくめのプロジェクトがスタートした。既存事業の延長線上は×、社外のパートナーと組むのは○――。「シード・アクセレーション・プログラム(SAP)」という新規事業創出の決まりだ。3カ月に一度、オーディション形式で社内から新規事業のアイデアを募り、外部の専門家を交えた厳正な審査を経て、事業化の是非を判断。認められれば、ソニー本社が「ヒト・モノ・カネ」を支援する。SAPはこれまでに4回開催し、1200人が参加し、450件の新規事業のアイデアが集まった。

 ウェナもSAPから生まれた。開発リーダーは第2回目のオーディションを入社1年目で見事突破した若手社員、対馬哲平だ。その対馬はウェナプロジェクト統括課長として、製品化に向け社外に活路を求めた。パートナーとして選んだのはシチズン時計だ。シチズン時計の時計製造のノウハウとソニーのテクノロジーを組み合わせて初めてウェナが生まれた。

 しかし発売までに、大きなハードルが課せられた。消費者の審判だ。ウェナはソニーが運営するクラウドファンディング「ファーストフライト」で消費者から1000万円以上の資金支援が得られた場合のみ発売されることになった。

 ウェナはこのハードルをわずか1日で達成。早々に発売を決めた。開発、そして販売決定という2つの重要な行程を外部に委ねるというかつてない決断にでたソニー。そんな試みを突破した新製品がウェナなのだ。新規事業創出部担当部長の小田島伸至は「とにかく大企業のジレンマから脱したい」と必死だ。

社外に活路 ソニーらしさ取り戻せるか

 「組織が大きく、縦割りになった企業からはイノベーションが生まれにくい」。オープンイノベーションの推進を掲げる米投資育成ファンド、WiL(カリフォルニア州)の最高経営責任者(CEO)、伊佐山元はこう指摘する。ソニーに限らず日本企業は組織化された重厚なエンジニア集団を抱えるがゆえに、自前主義に固執しがちで新しく、自由な発想を失いがちだ。大組織になればなるほど常に目先の売上高を優先しがちになり、イノベーションが阻害される。

オープンイノベーション(open innovation)

オープンイノベーション(open innovation)

 外部の技術やアイデアを組み合わせて革新的なビジネスモデルや製品を生み出すこと。支えるのはインターネット。世界中で様々な情報が高速にやり取りできるようになったことで、イノベーションも生み出しやすくなった。総務省の情報通信白書によると、2020年の国際的なデジタルデータの量は10年比約40倍の44ゼタバイトになると予想される。

 社長の平井一夫は「自前でこだわるのではなく、社外の差異化技術や知見を組み合わせてイノベーションを生み出すのは時代の流れだ」と言い切る。技術者が欲しいモノ、顧客が真に望むモノを素早く世に問い、必要であれば、自前技術に固執せずに外部の力を積極的に取り込む。それが今、必要になっていると。

 毎年5000億円近い研究開発費を投じるものの、かつての「ウオークマン」に代表されるような世の中を一変させる革新的な商品を生み出せてはいない現状。その活路をソニーは外部に目を向けることで探し当てようとしている。ソニーの復活への歩みは始まったばかりだ。

主要国ROEの推移

米調査会社、ファクトセットのデータをもとに算出。各国に本社を置く上場企業。米国は時価総額1億5000万ドル以上、日本、英国、ドイツは時価総額7500万ドル以上を対象。

低ROEが映す「内向き」日本企業

 企業の稼ぐ力を計る代表的な指標に自己資本利益率(ROE)がある。ROEは1株当たり利益を、1株当たりの自己資本で割って算出する。つまり資本金をはじめとした自己資本(=元手)を使っていかに効率よく利益を稼げるかを示しており、言い換えれば経営者の力量を計る物差しにもなる。

 日本をはじめとした各国企業のROEを見てみよう。すると景気変動によって上下はするものの、一貫して日本企業のROEが低いことが分かる。なぜ日本企業のROEがこれだけ低いのか。実はこの低さには米、英、独の企業に比べて外部との連携、外部の経営資源の活用に弱いことが一因になっているのだ。

 日本では比較的に、銀行からの借り入れに頼る傾向が強く、主要取引銀行の意向が経営に大きな影響を与えてきた。企業はプレッシャーを避けるため、利益が出ても投資や配当に資金を回さず、そのままため込む例が多かった。キャッシュリッチ企業はその典型だ。借り入れや社債など外部からの資金を思い切って活用できず、さらなる成長のチャンスをつかむ「攻め」の財務戦略をためらいがちだ。

 もう一つが利益率だ。例えば研究開発でも自社ですべてやるのなら施設やヒトも含めて研究開発費は膨大だ。生産に関しても、自社工場にこだわるなら減価償却負担も重く、いったん稼働率が下がれば、経費を吸収できないケースも出てくる。自前主義のこだわりが利益率を悪化させているともいえる。

 今、株式市場を中心にROEに注目が集まっている。効率的に利益を稼ぐにはどうしたらいいか。そこにも自前主義のこだわりを捨てることが求められてくる。オープンイノベーションに代表されるようにいかに外部の経営資源を活用できるかが、企業の収益力、経営力を左右する重要な役割を果たす時代がきているといえる。

取材・制作森園泰寛、河本浩、清水明、星正道、中藤玲、押切智義

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