「誰もが起業家」になれる宿 日米で泊まってみた

 モノ、サービス、スペースなどを不特定多数が共有する「シェアリングエコノミー(経済圏)」が広がる。インターネットを通じ個人どうしが結びつき、新たなビジネスチャンスを呼び込む。空き部屋を仲介する米Airbnb(エアビーアンドビー)はその象徴的な存在で、非上場でありながら企業価値が10億ドルを超える「ユニコーン」と呼ばれる企業群の一角をなす。2008年に創業し、190カ国以上、150万件以上にサービスが広がり、13年にスタートした日本でも浸透する。

シェアリングエコノミー(sharing economy)

  所有者が持つモノやサービスを利用者間で共有する経済の仕組みを指す。共有するのは自宅や会議室といった場所や自動車などのモノ、子育てノウハウや時間など幅広い。スマートフォン(スマホ)の普及で急速に新たな消費スタイルとして広がった。携帯電話業界の世界団体GSMアソシエーションによると、2014年のスマホの回線数は世界で20億超。20年までに60億回線を突破すると推計されている。

 CTO兼創設者のネイサン・ブレチャージクは「誰もが『マイクロ・アントレプレナー』になれるチャンスをもたらす」と説明する。

 「投資をかけず15分あれば始められ、世界を相手にサービスを提供できる」(ブレチャージク)。シェアリングエコノミーは、参加者にとっても起業のハードルを限りなく引き下げる。14年にブラジルで開かれたサッカーのワールドカップ(W杯)では、外国人旅行客の約2割にあたる約12万人の受け皿を用意した。

 各ホストは送迎を引き受けたり、チケット購入を代行したりサービスに一工夫を加える。それが「あなたのサービスが最高だった」というコメントにつながり宿泊客を呼び寄せる。国によって「おもてなし」のセールスポイント、ホストのスタンスに特徴がある。日米で宿泊体験した。

おもてなし人気 「76歳で稼げるなんて」

 日本で人気トップの宿泊先に足を運んだ。「いらっしゃい」。東京急行電鉄の自由が丘駅(東京・目黒)から徒歩10分ほどの住宅街の一軒家に向かうと、三木春子(76)がにこやかに迎えてくれた。娘家族と二世帯住宅で、リビングに大きなテーブルやソファーがあって一般的な日本の住宅だ。

 亡くなった夫の部屋を使って、2013年にAirbnbのホストになった。「部屋の片付けに2カ月かかったのに、娘に教えられ登録したらすぐ予約が入った」。これまで150人が利用し、ほとんどが中国、韓国や欧米など海外からの宿泊客。連泊が多い。この8月はほぼ埋まり、2カ月先まで予約がいっぱいだ。

 一泊8535円だが、決済はネットで完結している。赤色のネックストラップを手渡されてチェックインだ。「つい洗濯を引き受けてしまうし、頼まれれば朝食も出す」。海外旅行に頻繁に出かけた経験があるが、語学は堪能でない。それでも宿泊客の観光につきそうこともあり、温かい人柄の彼女とのスキンシップが好感を持たれる。

 お手製の梅ジュースでもてなされ、実家に帰省している気分になる。個室は5畳の和室で、布団で懐かしい気分になりながら眠りについた。「76歳になってこんなに収入を得られるなんて想像しなかった。東京五輪まで続けるのがとりあえずの目標」とあふれる笑顔にエネルギーをもらえた。

シリコンバレー IT出張者の便利宿

 一方、米シリコンバレー。グーグルも本拠を置くカリフォルニア州マウンテンビュー市のマンションの一室に滞在してみた。ホストはインド出身の男性で、米アップルのハードウエアデザイナーだという。新たに住宅を購入したため、9カ月前にAirbnbを始めた。賃貸にするか迷ったが「わざわざ家具を出すのがわずらわしかった」。

 稼働率は90%で、IT企業の出張者が便利に使いこなしている。宿泊料は1泊200ドル程度で、単純計算すると月に5000ドル以上の収入になる。「Airbnbは浸透しており、近所からも苦情はない」とすっかり生活に溶け込む。

 鍵の受け渡しにはコインロッカーを使い、ホストと顔を合わせることなく自由に1室ですごせる仕組みだ。日本のホストとはだいぶ異なりドライだ。シリコンバレーの土地柄も感じる。

みんなで造って売る クラウドプロダクティング

 8月、島根県雲南市の小さな酒蔵を2人の外国人が訪れた。ラジャン・パテル(28)とジェシー・マイヤーズ(26)は、米スタンフォード大学の経営学修士(MBA)課程の学生。今夏のインターンシップ(就業体験)でやってきた。呼び寄せたのは日本酒応援団(東京・品川)を7月に法人として立ち上げた古原忠直(38)だ。古原は普段、東京でアプリ開発企業を経営する。

 無名の日本酒応援団だが、このインターンシップはスタンフォードの海外プログラムで最も人気を集めた。古原が「クラウドプロダクティング」と名づけた手法が注目された。小口で資金だけを集める一般的なクラウドファンディングから踏み込む。今回のプロジェクトは出資にとどまらず、伝統産業である酒造りの現場では作り手にもなってもらい、そして宣伝や売るところまでを支援してくれる協力者を募った。さらに、海外販売をゼロから立ち上げるまっただ中で、国内の零細酒蔵を束ねるというネットワーク構想もテーマとして将来のエリートらの目を引いた。

 そもそも古原が島根の蔵元を実家に持つ友人とのやりとりで、その場の勢いで「自分たちでやってみよう」と盛り上がったのがきっかけ。初めて島根を訪れたのは14年の暮れ。蔵元が対応してくれる最低量は3000本だが、趣味にしては多すぎる。だったら「みんなでつくって、みんなで売ればいい」と思い立った。

 「みんなで新しい日本酒を創ってみませんか」。フェイスブックなどで告知したところ、3週間で約120人が集まった。大半は首都圏の20〜30代の若い世代。彼らは泊まり込みを含めて代わる代わる酒蔵を訪れ、蔵人(くらびと)と呼ばれる専門家集団の指導を受け、麹(こうじ)の発酵や酒の仕込みなどに汗を流した。蔵元は今ある設備やノウハウを活用しただけだ。こうして完成したのが独自ブランドの酒「KAKEYA2015」だ。

SNSを味方に中小の酒蔵活性化狙う

 参加した東京の会社員の古川愛(24)は「一般人が日本酒を造れるとは思っていなかった」と満足する。彼らが真価を発揮したのがマーケティング力だ。その体験や自慢のブランド酒をSNSで愛情たっぷりに発信した。口コミで評判を呼び、3000本を3カ月で完売した。

 設備を提供し、販売・製造元となった「竹下本店」社長の竹下三郎(67)は「蔵が喜んでいる声が聞こえる」と顔をほころばす。ピーク時に1千石(18万リットル)を生産していたこの蔵も、14年は1200本(720ミリリットル瓶換算)まで落ち込んでいたのが実情だ。16年分については前回分の20倍となる6万本を製造し、その一部を米国に出荷する。竹下本店は洗米機や貯蔵用の冷蔵庫など約50年ぶりの設備投資にも踏み切る。

 日本酒応援団は、竹下本店のように余剰な生産能力を持つ全国の酒蔵に声をかけて、プロジェクトの規模を拡大させる考え。3年後には約30の蔵元を結びつけ、年間100万本規模の生産を見込む。手をこまねいていては衰退するばかりの中小の酒蔵。こうした生産者も巻き込んで、クラウドプロダクトの輪を広げる。「SNSの普及で情報をシェアするコストが劇的に下がった。あとはやりきるかどうかだ」と古原は腕まくりする。

PwCにみる 
シェアリング経済急拡大

シェアリング業界、2025年に22倍の3350億ドル

 プライスウォーターハウスクーパース(PwC)はシェアリング業界の代表として、小口資金を集めるクラウドファンディング、仕事をネット仲介するクラウドソーシング、個人どうしでの宿泊スペースの貸し借り、カーシェアリング、音楽・動画配信の5つを主要サービスとして挙げる。この主要サービスは世界全体で2013年に約150億ドルになっており、25年に22倍の約3350億ドルに膨らむと予想する。

 一方、従来型のレンタルサービスとして、事務機器・機材、宿泊・ホテル、レンタカー、本、DVDの5つを取り上げる。レンタル業界は現在、約2400億ドル。シェアリング業界は1割にも届かないのが現状だが、25年になると両業界はほぼ肩を並べる規模になると予想する。(敬称略)

2025年までの年間平均成長率

取材・制作森園泰寛、河本 浩、清水明、安田翔平、白尾和幸、田中暁人、深尾幸生、中藤玲

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