日銀がマイナス金利
その仕組みと揺れた判断

 日銀は1月29日、マイナス金利政策の導入を決めた。2013年に導入した量的・質的金融緩和(異次元緩和)は大きな転換点を迎える。世界経済の減速感が強まる中、政策決定の判断は揺れた。日本では初めてとなるマイナス金利政策は切り札になるのか。その仕組みや日銀政策委員のスタンス、金利の動きなどから効果を探った。

日銀のマイナス金利政策

マイナス金利政策

(注)0.1%の金利を受け取るのは法定準備預金額を超える分

日銀のマイナス金利政策

現在

マイナス金利政策

2月16日から

マイナス金利政策

(注)0.1%の金利を受け取るのは法定準備預金額を超える分

5対4の賛成多数、薄氷の決定

 マイナス金利政策の導入は賛成多数で決まったが、決定会合では賛成5人、反対4人と意見が割れた。正副総裁に加え原田泰、布野幸利の両審議委員が賛成した。黒田総裁は「今後は量・質・金利の3つの次元で緩和を進めていく」として、マイナス金利の導入は「金利全般を押し下げ、消費や投資を喚起する」と説明した。

 一方、反対した審議委員は「実体経済に大きな効果をもたらすとは判断されない」(石田浩二委員)と指摘。14年10月の追加緩和に賛成した白井さゆり委員も「資産買い入れの限界と誤解されるおそれがあり、混乱を招く」として今回は反対に回った。

2016年1月29日マイナス金利政策の導入
2015年12月18日金融緩和の「補填措置」導入
2014年10月31日追加緩和
日経平均株価
物価上昇率
総裁
黒田東彦黒田東彦
副総裁
岩田規久男岩田規久男
中曽宏中曽宏
審議委員
原田泰原田泰
白井さゆり白井さゆり
布野幸利布野幸利
石田浩二石田浩二
佐藤健裕佐藤健裕
木内登英木内登英
2016年
1月29日

マイナス金利政策の導入

1万7518円
↑0.1%
賛成
賛成
賛成
賛成
反対
賛成
反対
反対
反対
2015年
12月18日

金融緩和の「補完措置」導入

1万8986円
↓0.1%
賛成
賛成
賛成
賛成
賛成
賛成
反対(注)
反対(注)
反対(注)
2014年
10月31日

追加緩和
(年間80兆円ペースに緩和を拡大)

1万6413円
↑1.0%
賛成
賛成
賛成
賛成
賛成
反対
反対
反対
反対

(注)ETF購入枠の追加、長期国債の購入年限の長期化、J-REITの購入限度額の引き上げに反対。成長基盤強化支援融資の拡充、貸出支援基金の延長、適格担保の拡充には賛成。

※日経平均株価と物価上昇率(生鮮食品と消費増税の影響を除く総合指数)は会合時の直近の値

長期金利、初の0.1%割れ 一時0.090%

 日銀によるマイナス金利導入を受け、債券市場には急激な金利低下圧力が高まった。長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは一時0.09%に急低下(債券価格は上昇)し、初めて0.1%の節目を下回った。少しでも利回りが確保できる債券に資金が向かったためだ。これまでも日銀による大規模な国債買い入れによって短期の国債の利回りはマイナスをつけていたが、今回の発表を受け残存8年程度の国債の利回りにまでマイナスが広がった。

日銀総裁、「導入すべきと考えず」発言一転

日銀の政策を巡る
日銀総裁と委員のこれまでの発言

2015年2月18日
黒田東彦
総裁
「準備預金の超過部分の金利(付利)の引き下げは検討したか」との質問に、「付利を引き下げるという議論は全くない」(金融政策決定会合後の記者会見)
5月12日
黒田東彦
総裁
日銀当座預金の超過準備に付く金利(付利)について「引き下げるとか撤廃するということは考えていない」(参院財政金融委員会)
6月10日
佐藤健裕
審議委員
日銀当座預金の超過準備に付与している0.1%の金利(付利)について「現時点では念頭に置いていない」(甲府市内の金融経済懇談会後の記者会見)
9月8日
白井さゆり
審議委員
付利のマイナスへの引き下げについて、「(金融機関の)収益の低下を招いて金融仲介機能を損なうリスクがある」(ベルギーの経済シンクタンクであるブリューゲルで講演)
9月10日
黒田東彦
総裁
「付利の引き下げや撤廃は検討していない」(参議院の財政金融委員会)
10月7日
黒田東彦
総裁
付利の引き下げについて「検討もしていないし、近い将来に考えが変わる可能性もない」(金融政策決定会合後の記者会見)
12月7日
黒田東彦
総裁
金融機関が中央銀行の当座預金に預けるお金にマイナスの金利を付ける政策について「導入すべきだとは考えていない」(都内で講演)
2016年1月18日
白井さゆり
審議委員
「マイナスの付利金利を設定しても、金融機関が預金金利を引き下げることが困難な場合、収益の低下を招いて金融仲介機能を損なうリスクがある」
1月18日
黒田東彦
総裁
日銀が当座預金の超過準備に付けている0.1%の金利(付利)について、「マネタリーベース(資金供給量)を円滑に供給することに資するものだ」と指摘。そのうえで、付利引き下げについて「検討していない」(参院予算委員会)
1月21日
黒田東彦
総裁
「現時点でマイナス金利を具体的に考えているということはない」(参院決算委員会)
1月29日
黒田東彦
総裁
マイナス金利については今後「必要であれば引き下げる」と語った。導入の理由については「世界市場混乱が国内に波及するリスクを防ぐため」(金融政策決定会合の終了後に記者会見)
制作
編集局メディア開発部

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