Visual Tokyo2020 Basket Ball Mens


バスケは
楽しいです

東京五輪男子バスケットボール

「バスケはすっごい楽しいです!」。世界最高峰の米国のプロリーグNBAでプレーする日本代表の八村塁が高校時代に語った言葉だ。巧みな技術にスピード、コンビネーション……。男女合わせて世界で4億5千万人がプレーするバスケットボールは熱狂と興奮をもたらし、五輪競技の中でも高い人気を誇る。

NBAのスーパースターが数多く参戦する大舞台。日本男子は1976年モントリオール五輪以来の出場となる。過去最高の実力者がそろったといわれる代表チームが強豪相手にどこまで爪痕を残せるか。会場は初戦から、世界中の熱い視線が注がれるに違いない。


Game

競技の特徴、見どころ

個人技戦略
そのプレーは
想像を超える


巧みなドリブルで相手守備を1人、2人とかわしたセルビア代表のミロシュ・テオドシッチがゴールに向かって跳び上がる。そのままシュートを放つか、近くにいる味方にパスを出すか。だが近くには守備選手もいる……。数ある選択肢から繰り出したのはノーマークで待つシューターへの意表をつくパス。相手の目を欺き、観客の度肝を抜く。想像を超えていくプレーの連続がバスケットの大きな魅力だ。


抜群の身体能力と
超人的な個人技

トマホークダンク

バスケットの華、ダンクシュート。高い跳躍力と体の強さを持つアスリートにとっては、コートで己を表現する手段でもある。斧を振りかざすように上半身を反り、ボールを頭の後ろから力強くたたき込むトマホークダンクもその一つ。高さ305㎝のリングが大きく揺れるたび、アリーナの熱狂は高まっていく。


クロスオーバー

右、左、右、左……。交互にボールをつきながら、一瞬の隙を見逃さない。相手にわずかな体重移動があれば、その逆方向へドリブルでズバッと切り込む。小柄だがスピード自慢の選手がビッグマンを抜き去るさまは痛快。シュートかパスか。視界が開けた後の状況判断も見ものだ。


ターンアラウンド
ジャンパー

相手守備を軽く押し込みながら反転し、後ろに跳び上がってボールを放つ。高い身体能力とボディーバランスが求められるが、身につければブロックも届かない大きな武器になるシュートだ。日本のエース八村塁の得点源の一つでもある。


緻密な戦略が
生み出す
シュートへの道

ピックアンドロール

エースに最も高確率なシュートを打たせたい、相手の弱みのゴール下を攻めたい、3点シュートを狙いたい――。24秒以内にシュートを打たなくてはいけないバスケットの攻撃は毎回、5人が明確な狙いを共有して動く。

その前提が相手のマークをはがして「ズレ」を生み出すこと。コート上では、味方が壁のように立って、相手の動きを制限するスクリーンが繰り返し行われる。ボールを持った選手と壁役の選手が2対2で連動する「ピックアンドロール」は現代バスケットの必須要素だ。もともとのマークが入れ替わったこの場面。最初に壁役になった味方はうまく相手を振り切ってゴールへ向かい、パスが通れば一気に得点機が生まれる。


ピックアンドポップ

壁役の相手がどう動くかで、攻撃の選択肢も広がる。相手が2人がかりでマークについたこの場面。外側にポジションを取った(ポップした)味方にパスをさばき、ノーマークからシュート。守備の状況を見極め、瞬時に判断できるかどうか。バスケットはその攻防が40分間続く、頭脳戦でもある。

東京五輪
最大級
注目競技


五輪にプロ選手の出場が解禁されたのは1992年バルセロナ大会。米国のマイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンらNBA選手による「ドリームチーム」の華麗なプレーは世界を魅了し、バスケットは一気にグローバルなスポーツへと拡大した。NBAの全30チーム、計450人のメンバーには今や、38カ国・地域出身の108人もの選手が名を連ねる。五輪に出場する各国のNBA選手の数も右肩上がり。例年ならオフの夏を返上し、母国の名誉と誇りを胸に頂点を狙う。五輪3連覇中の米国といえども安泰ではない。



東京五輪に出場するのは、過酷な予選を勝ち抜いた強豪と開催国枠の日本の計12チーム。4チームずつ3つのグループに分かれて総当たりする1次リーグから、全世界の熱い視線が注がれる。残念ながら新型コロナウイルス禍で無観客となったが、数ある球技の中でもチケット価格は高かった。


1976年
以来の出場
日本代表


中高生を中心に多くの競技者を抱えながら、これまでアジアの壁を突破することさえ困難だった日本代表。2016年のBリーグ誕生やアルゼンチンを強豪に育てた名将フリオ・ラマス監督の招聘(しょうへい)などで強化が進み、19年には21年ぶりに自力でワールドカップ(W杯)出場を果たした。ただ、終わってみればW杯は5戦全敗。世界ランキング42位(21年3月時点、以下同じ)の日本が、W杯以上に強敵がそろう五輪で存在感を示せるのか。世界との距離を縮める施策はじわり進んでいる。



ゴールが高い位置にあり、体のぶつかり合いが避けられないバスケットにおいて体格差は勝敗に直結する。大型化が進み、2m超の選手も3点シュートを決める世界に追いつこうと、日本の平均身長も少しずつ上がっている。


得点シーンからみる
日本代表

バスケットボールアナリスト
佐々木クリスさんに聞く

元プロバスケット選手でBリーグ公認アナリストも務める佐々木クリスさんは、五輪で日本が勝機を見いだすためのキーワードに「機動力」と「攻撃権の回数」を挙げる。世界最高峰NBAで1年目から安定したプレーを見せる八村、高い守備力を誇る渡辺雄太、NBAの下部リーグで奮闘する馬場雄大……。長身で走力もある選手の個性を徹底的に生かせるかどうかがポイントだという。


八村生かしたスクリーンプレー

高さと機動力を兼ね備えた八村を生かしてシュートを決めたこの場面。もともとゴール下にいたビッグマンが3点シュートラインまで出てくることでスペースをつくり、ガードが八村をマークする相手の壁になるスクリーンでフリーにするというサインプレーです。

ただ、このようなプレーは当然相手も織り込み済み。簡単にスクリーンにかからない、マークを入れ替わってフリーにさせないといった対応の早さは五輪に出てくるチームなら難なくやってくるでしょう。19年W杯で日本は多くのサインプレーを試みましたが、止められた時に次のプレーへと切り替えられずに苦戦しました。エースが止められても、他の選手が相手の脅威となり、得点をしに行けるアドリブ力が日本の課題です。


スペース生む速攻、守備そろう前にゴールへ

鮮やかな速攻で得点を決めた場面。八村や渡辺の特徴は大柄でシュートがうまいだけでなく、自らボールを運べる技術も持ち合わせていることです。リバウンドでボールを確保したら、ガードにボールを託すことなく、自ら一気に敵陣へ。相手は急いで戻っていますが、全員が追いついてはいません。

バスケットで最も重要な要素の一つがスペース。限られたコート上で5対5でゆっくり攻める場面と比べ、2対2や3対3の方が攻撃側に広いスペースがあり、有利に展開できるのです。この場面のようにそのままレイアップシュートを決めてもよし、ゴール下に侵入して守備の意識を集中させ、外で待つ味方の3点シュートにつなげるなど、攻撃の幅は広がります。何度も繰り返す体力と外角シュートの精度が欠かせません。




Player

注目の選手

世界の猛者
日本に集結

日本代表

八村塁

19年に日本選手として初めてNBAからドラフト1巡目で指名された至宝。ワシントン・ウィザーズの主力として1季目から活躍を続け、2季目の20~21年シーズンは日本選手で初めてプレーオフのコートにも立った。ベナン人の父と日本人の母を持ち、長身ながら俊敏性を兼ね備えるエースは日本に歴史的な勝利をもたらせるか。「ずっと夢見ていた舞台」という東京五輪の旗手にも抜てきされ、「この機会に日本中の子供たちをはじめ、多くの方々にバスケットボールそしてスポーツにもっと興味を持っていただけたらうれしい」と胸を高鳴らせている。身長203センチ、富山県出身。


渡辺雄太

米ジョージワシントン大を経て18年に日本人2人目のNBA選手となったサウスポー。20~21年シーズンに所属したトロント・ラプターズで攻守ともに大きく成長し、NBA3季目にして初めて本契約を勝ち取った。高いバスケットIQや抜群の守備力を生かし、エースキラーとしても活躍が期待される。16年リオデジャネイロ五輪予選で完敗した経験があり、日本代表への思いは人一倍強い。東京五輪では12人のメンバーの中で共同キャプテンの1人にも選ばれ、「攻撃にも守備にも絡んでオールラウンダーの活躍をしたい」とチームを引っ張る決意だ。身長206センチ、香川県出身。


馬場雄大

身体能力が高く、抜群のスピードで速攻の先頭を駆ける。Bリーグ出身で初のNBA入りを目指し、19~20年シーズンはNBA下部リーグ、20~21年シーズンはオーストラリアとニュージーランドのチームで構成する強豪NBLでプレー。NBLでは1季目からチームの優勝に大きく貢献した。代名詞のダンクに加え、最近は3点シュートも向上。同じ中学の2年後輩に当たる八村については「刺激はもらっているけど、僕は僕という気持ちを常に持っている」と話している。身長198センチ、富山県出身。


エドワーズ・ギャビン

206センチ、110キロの頼れるビッグマンだ。米国出身で13年から日本でプレーし、20年1月に日本国籍を取得。各チーム1人しか認められていない「帰化枠」として、主にゴール下でチームを支える。「できる限り、取れる分は取りに行く」と力を込めるリバウンド争いはもちろん、速攻になれば一直線にコートをかける走力も大きな武器だ。


各国の代表

リッキー・ルビオ スペイン

19年夏のW杯を制し、大会最優秀選手に選ばれた世界ランキング2位、スペインの司令塔。チームの悲願である五輪金メダルを目指す。スピードこそないが、視野の広さと読みの鋭さで意外性のあるパスを供給するほか、相手ボールを奪うスティールも得意。異才がそろうNBAでも、そのセンスは見る者を魅了する。日本はスペインと7月26日の1次リーグ初戦でぶつかる。


ルカ・ドンチッチ スロベニア

身長2メートル超とは思えない緩急自在なドリブルに巧みなシュートとパス。あらゆるプレーを高いレベルでこなす世界屈指のオールラウンダーだ。22歳ながらNBAでは得点、リバウンド、アシストの3分野でいずれも2桁の数字を残す「トリプル・ダブル」をいとも簡単にやってのける。強豪ぞろいだった7月初旬の世界最終予選で母国に初の五輪切符をもたらし、「僕たちは素晴らしいチームで、素晴らしいケミストリーがある」と自信を深めて東京に乗り込む。日本は7月29日に1次リーグ2戦目で対戦する。


ファクンド・カンパッソ アルゼンチン

あさっての方向を向いて放つ「ノールックパス」に守備でのハッスルプレー。身長178センチと小柄なガードは圧倒的な個人技と気持ちを全面に出したプレーでファンの心をわしづかみにする。長くヨーロッパでプレーし、30歳を前にした昨秋にNBAデビューを果たした。母国代表としては19年W杯決勝でスペインに屈して準優勝。東京では04年アテネ大会以来となる金メダルが目標だ。日本は8月1日の1次リーグ最終戦でアルゼンチンと相まみえる。



ケビン・デュラント 米国

五輪4連覇を目指す「ドリームチーム」米国のエースだ。NBA屈指の点取り屋として10年以上活躍し、右足アキレス腱(けん)断裂の大けがから復帰した20~21年シーズンも1試合平均26.9得点とスコアラーぶりは健在。身長208センチで長い手足を生かした多彩なシュートは、分かっていても止められない。12年ロンドン五輪から2大会連続で出場し、いずれも金メダルを獲得している豊富な経験も一発勝負のトーナメントで大いに生きるはずだ。


ルディ・ゴベア フランス

ゴール周辺で圧倒的な存在感を見せるセンター。身長216センチで両手を横に広げた長さは実に236センチもあり、20~21年シーズンには自身3度目のNBA最優秀守備選手に選ばれた。恵まれた体格は味方とのピックアンドロール攻撃でもいかんなく発揮される。フランスは世界ランキング7位で東京五輪出場権を獲得済み。「金メダル獲得はずっと目標だった」と話しており、東京大会は最大のチャンスになる。


スケジュール

7月25日から8月1日まで予選リーグを各チーム3戦ずつ行う。各グループの上位2チームと成績上位の3位2チーム、合計8チームが決勝トーナメントに進み、メダルを懸けた一発勝負の戦いが繰り広げられる。



男子バスケットが世界に挑む。ほんの数年前まで、その言葉が現実感を持って受け止められることはなかった。五輪には1976年を最後に出場しておらず、世界選手権(現W杯)も遠い舞台だったから当然だ。

だが、今は違う。八村や渡辺らの登場や日本バスケットボール協会の地道な選手の強化が実り、自国開催での挑戦権は得た。相対するのは、常識を超えるプレーを連発する世界の猛者たち。目の色を変えて頂点だけを狙う各チームに、どこまで対抗できるのか。結果はもちろん、見る者を熱くする姿勢が日本のバスケットの未来へとつながるに違いない。

負けられない
闘いがはじまる

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取材・記事
鱸 正人、伊藤岳
ディレクション
清水明
企画
伊藤岳
WEBデザイン
安田翔平
マークアップ
東條晃博
映像、CG
伊藤岳
写真
柏原敬樹、山本博文、野岡香里那

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