Visual Tokyo2020 Basket Ball Mens


バスケは
楽しいです

東京五輪男子バスケットボール

「バスケはすっごい楽しいです!」。世界最高峰の米国のプロリーグNBAでプレーする日本代表の八村塁が高校時代に語った言葉だ。巧みな技術にスピード、コンビネーション……。男女合わせて世界で4億5千万人がプレーするバスケットボールは熱狂と興奮をもたらし、五輪競技の中でも高い人気を誇る。

NBAのスーパースターが数多く参戦する大舞台に、日本男子も44年ぶりに出場する。過去最高の実力者がそろったと言われる代表チームが強豪相手にどこまで爪痕を残せるか。会場となるさいたまスーパーアリーナは初戦から、世界中の熱い視線が注がれるに違いない。


Game

競技の特徴、見どころ

個人技戦略
そのプレーは
想像を超える


巧みなドリブルで相手守備を1人、2人とかわしたセルビア代表のミロス・テオドシッチがゴールに向かって跳び上がる。そのままシュートを放つか、近くにいる味方にパスを出すか。だが近くには守備選手もいる……。数ある選択肢から繰り出したのはノーマークで待つシューターへの意表をつくパス。相手の目を欺き、観客の度肝を抜く。想像を超えていくプレーの連続がバスケットの大きな魅力だ。


抜群の身体能力と
超人的な個人技

トマホークダンク

バスケットの華、ダンクシュート。高い跳躍力と体の強さを持つアスリートにとっては、コートで己を表現する手段でもある。斧を振りかざすように上半身を反り、ボールを頭の後ろから力強くたたき込むトマホークダンクもその一つ。高さ305㎝のリングが大きく揺れるたび、アリーナの熱狂は高まっていく。


クロスオーバー

右、左、右、左……。交互にボールをつきながら、一瞬の隙を見逃さない。相手にわずかな体重移動があれば、その逆方向へドリブルでズバッと切り込む。小柄だがスピード自慢の選手がビッグマンを抜き去るさまは痛快。シュートかパスか。視界が開けた後の状況判断も見ものだ。


ターンアラウンド
ジャンパー

相手守備を軽く押し込みながら反転し、後ろに跳び上がってボールを放つ。高い身体能力とボディーバランスが求められるが、身につければブロックも届かない大きな武器になるシュートだ。日本のエース八村塁の得点源の一つでもある。


緻密な戦略が
生み出す
シュートへの道

ピックアンドロール

エースに最も高確率なシュートを打たせたい、相手の弱みのゴール下を攻めたい、3点シュートを狙いたい――。24秒以内にシュートを打たなくてはいけないバスケットの攻撃は毎回、5人が明確な狙いを共有して動く。

その前提が相手のマークをはがして「ズレ」を生み出すこと。コート上では、味方が壁のように立って、相手の動きを制限するスクリーンが繰り返し行われる。ボールを持った選手と壁役の選手が2対2から連動する「ピックアンドロール」は現代バスケットの必須要素だ。もともとのマークが入れ替わったこの場面。最初に壁役になった味方はうまく相手を振り切ってゴールへ向かい、パスが通れば一気に得点機が生まれる。


ピックアンドポップ

壁役の相手がどう動くかで、攻撃の選択肢も広がる。相手が2人がかりでマークについたこの場面。外側にポジションを取った(ポップした)味方にパスをさばき、ノーマークからシュート。守備の状況を見極め、瞬時に判断できるかどうか。バスケットはその攻防が40分間続く、頭脳戦でもある。

東京五輪
最大級
注目競技


五輪にプロ選手の出場が解禁されたのは1992年バルセロナ大会。米国のマイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンらNBA選手による「ドリームチーム」の華麗なプレーは世界を魅了し、バスケットは一気にグローバルなスポーツへと拡大した。NBAの全30チーム、計450人のメンバーには今や、38カ国・地域出身の108人もの選手が名を連ねる。五輪に出場する各国のNBA選手の数も右肩上がり。例年ならオフの夏を返上し、母国の名誉と誇りを胸に頂点を狙う。五輪3連覇中の米国といえども安泰ではない。



東京五輪に出場するのは、過酷な予選を勝ち抜いた強豪と開催国枠の日本の計12チーム。4チームずつ3つのグループに分かれて総当たりする1次リーグから、全世界の熱い視線が注がれる。数ある球技の中でもチケット価格は高い。


44年ぶり出場
日本代表


中高生を中心に多くの競技者を抱えながら、これまでアジアの壁を突破することさえ困難だった日本代表。2016年のBリーグ誕生やアルゼンチンを強豪に育てた名将フリオ・ラマス監督の招聘(しょうへい)などで強化が進み、19年には21年ぶりに自力でワールドカップ(W杯)出場を果たした。ただ、終わってみればW杯は5戦全敗。世界ランキング38位(20年2月27日時点、以下同じ)の日本が、W杯以上に強敵がそろう五輪で存在感を示せるのか。世界との距離を縮める施策はじわり進んでいる。



ゴールが高い位置にあり、体のぶつかり合いが避けられないバスケットにおいて体格差は勝敗に直結する。大型化が進み、2m超の選手も3点シュートを決める世界に追いつこうと、日本の平均身長も少しずつ上がっている。


得点シーンからみる
日本代表

バスケットボールアナリスト
佐々木クリスさんに聞く

元プロバスケット選手でBリーグ公認アナリストも務める佐々木クリスさんは、五輪で日本が勝機を見いだすためのキーワードに「機動力」と「攻撃権の回数」を挙げる。世界最高峰NBAで1年目から安定したプレーを見せる八村、高い守備力を誇る渡辺雄太、NBAの下部リーグで奮闘する馬場雄大……。長身で走力もある選手の個性を徹底的に生かせるかどうかがポイントだという。


八村生かしたスクリーンプレー

高さと機動力を兼ね備えた八村を生かしてシュートを決めたこの場面。もともとゴール下にいたビッグマンが3点シュートラインまで出てくることでスペースを作り、ガードが八村をマークする相手の壁になるスクリーンでフリーにするというサインプレーです。

ただ、このようなプレーは当然相手も織り込み済み。簡単にスクリーンにかからない、マークを入れ替わってフリーにさせないといった対応の早さは五輪に出てくるチームなら難なくやってくるでしょう。19年W杯で日本は多くのサインプレーを試みましたが、止められた時に次のプレーへと切り替えられずに苦戦しました。エースが止められても、他の選手が相手の脅威となり、得点をしに行けるアドリブ力が日本の課題です。


スペース生む速攻、守備そろう前にゴールへ

鮮やかな速攻で得点を決めた場面。八村や渡辺の特徴は大柄でシュートがうまいだけでなく、自らボールを運べる技術も持ち合わせていることです。リバウンドでボールを確保したら、ガードにボールを託すことなく、自ら一気に敵陣へ。相手は急いで戻っていますが、全員が追いついてはいません。

バスケットで最も重要な要素の一つがスペース。限られたコート上で5対5でゆっくり攻める場面と比べ、2対2や3対3の方が攻撃側に広いスペースがあり、有利に展開できるのです。この場面のようにそのままレイアップシュートを決めてもよし、ゴール下に侵入して守備の意識を集中させ、外で待つ味方の3点シュートにつなげるなど、攻撃の幅は広がります。何度も繰り返す体力と外角シュートの精度が欠かせません。




Player

注目の選手

世界の猛者
日本に集結

日本代表

八村塁

19年に日本選手として初めてNBAからドラフト1巡目指名された日本の至宝。ワシントン・ウィザーズの主力として1年目から活躍を続け、20年2月の若手オールスターにも出場した。ベナン人の父と日本人の母を持ち、長身ながら俊敏性を兼ね備えるオールラウンダーは、エースとして日本に歴史的な勝利をもたらせるか。身長203㎝、富山県出身。


渡辺雄太

米ジョージワシントン大を経て18年に日本人2人目のNBA選手となり、メンフィス・グリズリーズで奮闘するサウスポー。抜群の守備力に加えて機動力もあり、W杯予選ではエースキラーとして活躍。16年リオデジャネイロ五輪出場をかけた予選に出場して完敗した経験があり、日本代表への思いは人一倍強い。身長203㎝、香川県出身。


馬場雄大

Bリーグ出身で初のNBA入りを目指す24歳。今季はNBA下部リーグのチームに所属する。身体能力が高く、常に速攻の先頭を駆ける。大敗した昨年のW杯米国戦では積極的な攻撃で18得点をマーク。代名詞のダンクに加え、最近はやや苦手だった3点シュートの技術にも磨きがかかる。中学の2年後輩に当たる八村については「刺激はもらっているけど、僕は僕という気持ちを常に持っている」と話している。身長198㎝、富山県出身。


ニック・ファジーカス
VS
ライアン・ロシター

各チームで12人がベンチ入りする五輪では、このうち1人しか認められていない「帰化枠」を巡る争いにも注目だ。207㎝で抜群のシュートタッチを誇るニック・ファジーカス(川崎、写真左)は18年春に帰化すると、圧倒的な得点力で日本を崖っぷちからW杯出場に導いた救世主。昨年12月に帰化が認められたばかりのライアン・ロシター(宇都宮)は206㎝で献身的なプレーが持ち味だ。どの選手を選ぶかは、日本が五輪で志向するバスケットスタイルにも直結する。


各国の代表候補

レブロン・ジェームズ 米国

「キング」「The chosen1」(選ばれし者)との異名を持つ現役最大のスター。抜群の身体能力でどこからでも得点を奪う。試合終盤、勝負どころでチームに勝利をもたらすシュートを何度も決めてきた。世界ランキング1位の米国代表として五輪には3大会連続して出場。2月10日に発表された東京五輪の代表候補44人の中にも名を連ねており、来日すれば全競技を含めてトップクラスの注目選手となる。


ステフィン・カリー 米国

NBA史に残るシューター。3点シュートラインのはるか後方から一瞬のモーションで放つ「超長距離砲」はNBAの守備戦術をも変えたとされる。ジェームズらとともに米国の代表候補に選出。過去に五輪への出場経験はないが、昨年夏に来日した際には「日本の人たち、街、日本食が大好き。可能なら五輪のために東京にまた来たい」と出場に意欲を見せていた。


ヤニス・アデトクンボ ギリシャ

211㎝の長身を感じさせないスピードやステップ、跳躍力で得点やリバウンドを量産する昨季のNBAの最優秀選手。長い手足を生かし、1試合平均27.7得点、12.5リバウンドとコート上で圧倒的なパフォーマンスを見せた。ギリシャは世界ランキング7位ながら2月時点で東京五輪の出場権を獲得できておらず、6月の最終予選ではエースとして活躍が期待される。


リッキー・ルビオ スペイン

昨夏のW杯を制し、最優秀選手に選ばれた世界ランキング2位、スペインの司令塔。スピードこそないが、視野の広さと読みの鋭さで意外性のあるパスを供給するほか、相手ボールを奪うスティールも得意。異才がそろうNBAでも、そのセンスは見る者を魅了する。過去の五輪で銀メダルと銅メダルは獲得済み。自身にとっても、スペイン代表にとっても悲願の「金」を東京で目指す。


ルディ・ゴベア フランス

ゴール周辺で圧倒的な存在感を見せるセンター。身長216㎝で両手を横に広げた長さは実に236㎝もある。恵まれた体格は味方とのピックアンドロール攻撃でもいかんなく発揮され、昨季のNBAでは1シーズンのダンク数を更新した。フランスは世界ランキング5位で東京五輪出場権を獲得済み。「金メダル獲得はずっと目標だった」と話しており、28歳で迎える東京大会は最大のチャンスになる。


ニコラ・ヨキッチ セルビア

シュート力の高いビッグマンを多く輩出するセルビアが誇るオールラウンダー。身長213㎝で昨季のNBAでは1試合平均20得点、10リバウンド以上をマークした。得点・リバウンド・アシストなどの3分野で2桁を記録する「トリプルダブル」も12回達成するなど、従来のセンターの枠にとどまらない活躍を見せる。16年リオデジャネイロ五輪の決勝では米国に30点差の大敗を喫しており、東京での雪辱を誓っている。




男子バスケットが世界に挑む。ほんの数年前まで、その言葉が現実感を持って受け止められることはなかった。五輪は1976年を最後に出場しておらず、世界選手権(現W杯)も遠い舞台だったから当然だ。

だが、今は違う。八村や渡辺らの登場や日本協会の地道な強化が実り、自国開催での挑戦権は得た。相対するのは、常識を超えるプレーを連発する世界の猛者たち。目の色を変えて頂点だけを狙う各チームに、どこまで対抗できるのか。結果はもちろん、見る者を熱くする姿勢が日本のバスケットの未来へとつながるに違いない。

負けられない
闘いがはじまる

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取材・記事
鱸 正人、伊藤岳
ディレクション
清水明
企画
伊藤岳
WEBデザイン
安田翔平
マークアップ
東條晃博
映像、CG
伊藤岳
写真
柏原敬樹、山本博文、野岡香里那

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